Chilli Beans. 1stアルバムインタビュー|遊びながら作り出す、聴き手が自由でいられる居場所 (2/2)

メッセージではなく自戒

──さっきも少し言ったように、「This Way」もそうですし、「School」なんかもすごく力強いメッセージソングとして響くなと思うんです。今Chilli Beans.として、世の中や聴き手に訴えたいメッセージが明確化してきているという実感はありますか?

Maika 私としては、「メッセージを伝えていきたい」というより、曲に書くことは自戒に近いんですよね。聴いた人がここにある曲から何かを感じ取ってくれることはもちろんうれしいし、そうなることが最終的なゴールかもしれないけど、作っている時点では、もっと「自分はこう思うんだ!」という感覚なんです。

──作り手のベクトルとしては、「訴えかける」という感覚とも違うんですね。

Moto 私もそれと近いかもしれないです。私は、自分で自分をどうしようもできないときに曲が浮かんだりするので。誰かと価値観の違いを感じたりしたときに、その違いからバーッと歌詞が浮かんだり。

Lily 私も、社会や身の周りに起こることに対して自分が感じていることを曲にしている感覚ですね。それは誰かに伝えたいことでもあるけど、それ以上に「こういうことを感じている人間が存在しますよ」と言いたいというか。それを見てどうこう思ってほしいというのがメインではなくて、「ここにいますよ」ということを示したい感覚かな。

Lily(G, Vo)

Lily(G, Vo)

──今作の中では、例えば「L.I.B」のような曲は、すごく不思議なトーンを持っていると思うんです。ポップで、浮遊感があって、繰り返される「Life is Business」というフレーズには、すごくシニカルな毒も感じる。この曲はどのようなモチーフから生まれたんですか?

Lily 学生のときは「働かなきゃいけない」なんて意識していなかったけど、学生時代が終わると、ポーンと社会に放り出されちゃうじゃないですか。そうなったときに自分は「え、全員働かないとダメなんだ」と感じて(笑)。

MaikaMoto (笑)。

Lily でも結局生きるにはお金が必要だし、それが社会人になってからのテーマというか(笑)。お金と自分、みたいな。結局そうなっちゃう。もしライオンとかだったら、お金なんて気にせずに食べることにすべてを懸けることができるけど、人間はそうもいかない。そう考えると「人間って大変な生物だな」って(笑)。これをかわいいサウンドで歌ったらスッキリするかなと思って「L.I.B」を作りました。

Maika 生きるために稼ぐか、稼ぐために生きるか、みたいな。人間は考えることが多すぎるからね。

Lily そうそう。「自分は今、何をしているんだっけ?」ってなっちゃうときがあって。そうなると「本当は、自分はライオンに生まれたかったのかな?」と思ったり(笑)。狩りをして、陽を浴びて、走って……みたいな、そういうシンプルな生活をしたかったなって。

Maika 人間は化粧したりしないといけないからね。

Lily それも好きだし楽しいんだけどね。矛盾した感情があるなって。

Moto わかる。

Chilli Beans.

Chilli Beans.

「バンド最高!」

──あと、個人的に気になったのは11曲目の「blue berry」で。この曲は、ほかの何にもすくい上げられなかった声がすくい上げられているような、とても切実なものを感じたんです。

Moto 自分の意見を言ったときに、立場が上の人や自分と意見が違う人から、「あの子、変なことを言ってる」という圧がかかるときがあるなと思うんです。本当はその子が正しいかもしれないけど、周りの圧で消されちゃった子。そういう存在がこの曲の主人公です。

──ある意味では、「School」と通じるものを描いているようにも思えるけど、描き方はまったく違いますよね。この曲を書きたいと思ったきっかけはあったんですか?

Moto 全然なくて、「こういう歌詞にしよう」と思って書いたわけでもないんですけど、仮メロで歌っているときから歌詞はほとんどできていました。

──この「blue berry」にも顕著なのですが、今回のアルバムはこれまでのEPに比べても、Chilli Beans.のバンド感を堪能できるサウンドの曲が多いですよね。

Lily 「blue berry」はまさに、仮タイトルが「バンド」だったんです。この曲はドラムがめっちゃカッコよくて。ライブでドラムを叩いてくれているサポートのYuumiさんが音源にも参加してくれているんですけど、Yuumiさんのドラムの力強さを感じながら録音できたのが幸せでした。

Moto 「blue berry」はレッチリ(Red Hot Chili Peppers)みたいな「これぞバンド!」という曲を作りたくて。この曲のリファレンスはレッチリの「Factory of Faith」だったんですけど、サウンドと歌で違うことをやっている感じを出したかったんです。楽器はゴリゴリだけど、歌はささやいていたりするような。

Moto(Vo)

Moto(Vo)

──改めて、バンドサウンドの魅力はどんな部分にあると思いますか?

Lily メンバー全体で出すパワーって、何にも代えられないくらい強いもののような気がします。ライブをしていても、それがめちゃくちゃ楽しいし。「バンド最高!」という感じ(笑)。

Moto それぞれの個性やよさを、息を合わせてサウンドとして出している感じがいいなと思うと思う。強さを感じるし、自由な感じもするし。

Maika あと、同じことを毎回できないということ。そのときの自分たちが詰まっているところが魅力だと思う。どんなに繰り返し弾いても、そのときの自分の気持ちやニュアンスって、二度と同じものは出てこない。それが残るところにバンドのエモーショナルさがあると思いますね。

目標を数で決めたことはない

──アルバムの最後を締めくくる「call my name」は、アコギと歌から始まる、非常に精緻に作られた静かな1曲ですね。この曲は皆さんにとってどのような曲ですか?

Maika この歌詞は私が書いたんですけど、高校生の頃によくしてくれていた友達で、ある日急にいなくなってしまった子がいて。いつか、その子に曲を書きたいなと思っていたんです。その子は、本当にいい子だったんですよね。私はもともと自尊心の欠片もないような、自己犠牲が正しいと思っている人間だったんです。地球人全員に優しくしなきゃいけない、自分を削って世の中の役に立ってこそ人間は価値がある、みたいな(笑)。あるとき、その子が「その考え方は違うぞ。お前はこれを読め」と言って、本をプレゼントしてくれて。その本には「自分を大切にすることが、一番大事なことなんだ」ということが書いてあったんです。最初に読んだときはそこまでピンとこなかったんですけど、チリビを組んで活動し始めたくらいの頃にもう一度その本を読んだら、すごく沁みて。ちょうどその頃に書いた曲なんです。

Maika(B, Vo)

Maika(B, Vo)

──今のMaikaさんのお話のように、曲を書くときに、誰か明確な他者に向けて曲を書くことは、LilyさんとMotoさんはありますか?

Lily 私は誰かに向けて書いたことはないですね。

Moto 私はあります。あるんですけど、自己満みたいな感じになってますね(笑)。チリビで出すまでいかないくらいで、しまっちゃうんですけど、誰かに向けて曲を書くことはあります。

──Chilli Beans.として、「この先どのくらいのキャパシティまで大きくなりたい」など、見据えているビジョンはありますか?

Maika 目標を数で決めたことはないよね。

Moto ない。

Lily 私がバンドを始めたいと思ったのは、近所のライブハウスで観たアコースティックライブがきっかけだったんですけど、そのときに「こんなに届くんだ!」と感動して。音楽をそこにいる全員に伝えることができるのって、こんなに素敵なんだと思ったんです。「こうやって生活できたらな」とも思ったし。それが原点だから、サイズが変われど、やり続けることは変わらないと思います。

Maika そうだよね。その原点に対して貪欲でいればいるほど、届く人の数も大きくなるんじゃないかと思うしね。

Chilli Beans.

Chilli Beans.

ライブ情報

1st Oneman Live Chilli Beans. Room

2022年9月9日(金)東京都 LIQUIDROOM

プロフィール

Chilli Beans.(チリビーンズ)

2019年に結成されたMoto(Vo)、Maika(B, Vo)、Lily(G, Vo)からなる3ピースバンド。メンバーそれぞれがボーカルを担い、作詞作曲を手がける。2021年8月に発表した4曲入りデジタル音源集「d a n c i n g a l o n e」でデビュー。同年11月にかねてから親交の深いVaundyをアレンジャーに迎えた1stデジタルシングル「アンドロン」を配信リリースした。2022年3月に2nd EP「Daydream」を配信リリースし、同年7月に1stフルアルバム「Chilli Beans.」を発表した。

スタイリスト:TAKASHI
ヘアメイク:Kazuma Kimura(skavati)

衣装協力
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