Chilli Beans.の2ndアルバム「Welcome to My Castle」がリリースされた。
若年層を中心に支持を集め、来年2月の武道館公演のチケットを即完させるなど今勢いに乗るChilli Beans.。約1年半ぶりのオリジナルアルバムとなる本作は、「お城に招待する」というテーマで作られた、彼女たちにとって初めてのコンセプトアルバムだ。なぜこのタイミングで“お城”をテーマにしたアルバムを制作することになったのか? 作品の裏側に迫るべく、音楽ナタリーは3人にインタビューを行った。
取材・文 / 蜂須賀ちなみ撮影 / 望月宏樹ヘアメイク / 佐竹静香
お城にしまったいろいろな感情
──今年のChilli Beans.の活動はとても充実していました。2月に3rd EP「mixtape」をリリースし、3月に自主企画ツーマンライブ「Dancing Room 003」を開催。8月には4th EP「for you」をリリースし、8月から9月にかけては2度目のワンマンツアー「Chilli Beans. TOUR 2023『for you TOUR』」を回りつつ、全国の夏フェスに出演しました。台湾での初の海外ライブもありましたね。
Maika(B, Vo) 「mixtape」のリリースや「Dancing Room 003」が今年っていうのが衝撃的ですよね。
Moto(Vo) 確かに。もっと昔のことのような気がする。
Maika すごかったもんね、今年。忙しかったなあ。
──どんな1年だったと思いますか?
Lily(G, Vo) ライブのセトリや演出もそうですけど、みんなで話し合って「こうしていきたい」と決めることが多かった1年でした。
Moto でも、大変だったというよりも楽しかったよね? 「こういうことを表現したい」「こういうものを作りたい」というイメージが明確にあったし。
Lily うんうん。イメージをみんなで共有して、「この曲の景色を楽器でどう表現しようか」と考えるのがすごく楽しかったです。やっぱり音楽が好きだし、好きなことをやるのは楽しいなと思いました。
──そして、2ndフルアルバム「Welcome to My Castle」が完成しました。13曲中9曲は初収録の新曲。全曲のマスタリングを終えたのはつい最近だったそうですね(※取材は11月中旬に実施)。
Maika はい。5日くらい前に終わりました。
──完成直後の今、どんな気持ちでいますか?
Maika 最高の気分です! 移動中にめっちゃ聴いてるし、めっちゃ好きな作品です。
Lily 1stアルバムを作っていたときから「次はダークな部分を出していきたい」「こういうビートを試してみたい」と、やりたいことが浮かんできていたんですよ。そういうものを全部表現できたからすごくうれしいし、達成感もあります。
Moto 自分たちのいろいろな感情1つひとつを大事に取り出して、このアルバムにしまえたと思っていて。お城の扉を開けたり、中に入ってみたり、ちょっと覗いてみたりするような感じで、みんなにもこのアルバムを楽しんでほしいです。
Lily アルバムを完成させたことで、今は「じゃあライブでは、この曲をこう表現したいよね」というアイデアが自然と出てきていて、その状態がすごく楽しいです。
──「お城のようなアルバムにしたい」というイメージは、作り始めた段階からあったんですか?
Moto 1stアルバムを作り終わって「次はさ」という話をしていたときに、なんとなくポンと出てきた覚えがあります。お城には、いろいろな場所があるじゃないですか。庭とか、屋上とか、地下とか、カジとか。
──カジ?
Moto (炎のジェスチャーをしながら)ブオッ!って(笑)。
──あ、“火事”ですか。庭や屋上と並列で出てきたから、ちょっとびっくりしました(笑)。
Maika (笑)。このお城にはいろいろな人が住んでるんだよね。
Moto そう。いろいろな人がいて、いろいろな場所があるけど、全部1つの世界としてつながっているようなイメージです。
Lily 3人ともいろいろなジャンルの音楽が好きで、憧れているから、「1つに絞らずに表現できるのがいいよね」ということで、お城がテーマのアルバムにしようと決めました。
イメージしたのはダークなお城
──それぞれの曲に対して「こんな場所が舞台の曲」「こんなキャラクターが登場する曲」といったイメージがあるのでしょうか?
Lily そうですね。「こういう情景の曲を作ろう」というところから始まった曲も多かったです。EPに入っている曲や昔からあった曲に関しては、「この曲ってバスルームっぽいよね」というふうに、あとから決めていって。
Maika 「この曲はこういう情景だから」という部分が、制作中の共通言語みたいになっていました。音作りをするときは、どういう情景を表現したいかを考えながらいろいろ試したし、曲順を決めるときは「この情景から、この情景に移ったら素敵だよね」という感じで考えていったし。
Moto 例えば「105☻」はいつもキャッキャと笑っているクラウンの曲なんですよ。そういうふうに曲ごとにキャラクターがいるので、歌詞は「この子だったらこういうことを言うかな」と考えつつ、今の自分から見えている景色を重ねながら書きました。自分とキャラクターがひとつになっているような。
──アルバムの1曲目は「Intro」というインストトラックです。おどろおどろしい雰囲気の曲で、皆さんのイメージするお城像がどのようなものか、音からイメージすることができました。
Maika 最初に「お城っぽくしたいね」という話が出たときから、キラキラしたお城ではなく、ダークで、おばけが出てきそうなお城をイメージしていたんですよ。
Moto 「アダムス・ファミリー」とか「ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち」みたいな。未完成な、周りにあんまり受け入れられていないような子たちが住んでいるお城。
Maika 「Intro」でお城に迷い込んで、そのあといろいろな部屋に連れて行かれるようなイメージです。1曲目から順にストーリーが流れていくような。曲順も最高だなって思ってます。
Moto あと、「Intro」にはChilli Beans.が今までの曲で使ってきた音をちりばめているので、「なんか聴いたことある」と思う人もいるんじゃないかなと思います。
怒りは任せて
──そうしてアルバムが始まっていくわけですが、お城にやってきた人を歓迎するパーティチューン「Welcome」よりも先に、悪い男をこらしめる曲「Hello bad boy」が収録されているのが面白いなと思いました。悪い男はお城に入れてもらえないんだなと(笑)。
一同 (笑)。
Moto 「Hello bad boy」は、悪い男の子と、その男の子にひどいことをされた女の子の曲です。私たちが悪い男の子に対して「今度その子を傷付けたら、私たちが黙ってないよ」と言っているようなイメージ。
Lily 悪い男の子がお城に入ろうとすると、石の兵隊がいっぱい出てくるんですよ。で、囲まれて、閉じ込められる。
Moto 閉じ込めて、私たちがわからせます(笑)。
──そう考えると、「貴方の為のこれはlove song」という歌詞はちょっと怖いですね。
Moto 「ただじゃおかないよ。絶対許さない」って感じです。
Maika 最高。傷付けられた本人じゃなくて、私たちが「許さないよ」って怒っているのがいい。
Moto そう。あなたは十分傷付いたから、怒りは任せてっていう。
──「Welcome」はどのような情景をイメージして作った曲ですか?
Moto とにかくパーティって感じ。ノれる曲が欲しいと思いながら作りました。
Lily アルバムで唯一明るい曲だけど、明るいのが逆に怖いですよね。「最初あんなに怖がらせたくせに、めっちゃ歓迎してくるし、みんな妙にニコニコしてる。怖っ!」みたいな。
Moto 相手の意思は関係なく、無理矢理ウェルカムしているようなイメージです。
──こういうファンクテイストの曲って、Chilli Beans.に今までなかったですよね。冒頭のベースラインがとにかくカッコいいし、ギターのカッティングも肝になっています。
Moto ベースがぐんぐん引っ張ってくれますよね。
Lily 「Welcome」の土台は、マイピン(Maika)が持ってきてくれたんですよ。
Maika はい。頭のベースのフレーズから作っていって。ファンクで、マイケル・ジャクソンっぽい要素を入れたら、踊れる曲になりそうだなと思いました。あとは、ただノレるだけじゃなくて、ちょっとカオスな感じも欲しいなと思ったので、2人にそう伝えて。みんなでぶん回しているうちに、こういうアレンジになりました。
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開き直らなきゃ、やってられない