Chilli Beans.「アンドロン」特集|バラバラな3人が描く、何にも縛られない音楽。アレンジャーVaundyからのメッセージも

Moto(Vo)、Maika(B, Vo)、Lily(G, Vo)からなる3ピースバンド・Chilli Beans.の1stシングル「アンドロン」が11月24日に配信リリースされた。

音楽塾ヴォイスのシンガーソングライターコースで出会った3人により2019年に結成されたChilli Beans.。彼女たちにとって2作目となる「アンドロン」は、恋愛のやるせなさをユニークな言葉で表現した歌詞と、アンニュイかつ軽やかなバンドサウンドが印象的なナンバーで、アレンジは2021年8月発表の楽曲「lemonade」に続き、音楽塾のクラスメイトであるVaundyが担当している。

音楽ナタリーではMoto、Maika、Lilyの3人にインタビュー。それぞれの音楽的ルーツや共通点、「アンドロン」の制作についてじっくり語ってもらった。またインタビュー末尾にはVaundyからのメッセージも掲載している。

取材・文 / 天野史彬撮影 / 小財美香子

私たちにもいろんな顔がある

──Chilli Beans.は2019年に音楽塾ヴォイスで出会った3人で結成されたんですよね。そもそも皆さんはシンガーソングライターコースに入塾されていたそうですが、今、バンドとして3人で曲作りを行うことに対して、どんな面白さを感じていますか?

Lily(G, Vo) 3人それぞれ、好きな音楽は違うんです。なので、一緒に曲を作っていると自分が知らなかった音楽に出会えるし、「私、こういうのも好きなんだ」という発見があります。それぞれが持ち寄った異なる要素が反映されて1つの曲になっていくので、どんなふうになるか、いつも完成が近付くにつれてワクワクします。

Lily(G, Vo)

Lily(G, Vo)

Maika(B, Vo) 1人では作れない世界観を表現できるのが楽しくて。音の広がりを感じると、「自分は今バンドで音楽を作ってるんだな」と感じます。

Moto(Vo) 私も、3人でしか作れない作品が作れていると思います。曲ができるたびに、「Chilli Beans.の作品だな」という感覚もあるし。

──言葉にするのは難しいかもしれないですが、Chilli Beans.だからこそ生み出せる世界観とは、どのようなものだと思いますか?

Moto どこか憂鬱な感じで、女性ならではの視点が少し入っているというか。「アンドロン」もダークな雰囲気だけどポップなテイストも少し意識しました。これからバンドとしてその色はもっと強く表せていけるんじゃないかと思っています。

Maika そうだね。例えば、私はデュア・リパさんが好きなんですけど、彼女は自分の音楽を自らダークポップと言っているんですよね。実際、歌詞の内容を見ても、素直ではない、ちょっとひねくれているなと感じる部分もあって。私たち3人も、決して明るいだけの性格ではないし、そういうダークさみたいなものは、チリビ(Chilli Beans.)の作る音楽のキーワードになっていると思います。

Lily あと、私たちはクラシックなロックンロールもすごく好きだし、DTMメインで作られた最近のサウンドも、ダンスミュージックも好きだし……本当に、好きな音楽がたくさんあって。今はリスナーが自由にいろんな時代の音楽を好きに選んで聴ける時代だと思うし、私たち自身も、サブスクリプションサービスを通していろんな曲に出会っています。そういういろんな音楽のエッセンスを取り入れては吐き出すように曲を作っている感覚なんですけど、いろんな時代の音楽を自由に聴いていること自体が、自分たちの音を形作っているんじゃないかな。

Moto チリビはバンドだから、バンドのロック感も大事にしたいけど、バンドサウンドだけじゃなくて、エレクトロっぽい現代的なサウンドも楽しんで取り入れていきたいし。

Moto(Vo)

Moto(Vo)

Maika 特定の音楽には縛られない感じだよね。「Chilli Beans.とはこんな音楽である」と言うよりは、「Chilli Beans.とはChilli Beans.である」みたいな表現のほうが、私たちにはしっくりくるんじゃないかな。

Lily それに、自分1人の中にいろんな性格の自分が存在するように、チリビにもいろんな顔があると思うんです。それを気分によってポップに表現したり、パンクに表現したり、遊ぶようにいろんな感情を表現していけたらいいなと思います。

Maika うん、自由にね。

つじつまが合わなくてもいい

──Chilli Beans.の音楽は、3人の人間性や内面的な部分とつながっているものですか?

Lily そうですね。私たちの音楽はすごく内面的なことを歌っていると思うし、サウンド面も、言葉選びも、等身大であること、無理をしないことを大事にしていると思います。

──内面的で個人的な表現でありながら、同時に、多くの人にも共有され得る広がりを持っているところに、Chilli Beans.のポップスとしての強みがあると思うんです。例えば、“ダークポップ”という言葉の中にも“ポップ”という言葉が入っていますが、皆さんにとってポップスって、どのように定義付けられる音楽なんでしょうか?

Lily わかりやすさや、キャッチーさかなと思います。聴いていると自然に体が動き出すような感じとか。

Maika わかる。自分たちだけで消化して完結する音楽じゃなくて、聴いている人も一緒に楽しめて、その曲を媒介にしていろんな人とつながっていける音楽がポップスなんじゃないかと思う。1つのジャンルに特化して深めていくと、そのジャンルとしての美しさはあっても、わからない人にはまったくわからない音楽になっちゃうかもしれないし。ライブにフラッと入ってきてくれた人でも、一緒に楽しめるのがポップスとしての在り方だと思う。

──Chilli Beans.が自分たちの内面的なものを表現するバンドになっていったのは、自然なことでしたか?

Maika そうですね。「こういうことを歌っていこう」みたいなことを話し合ったことはなくて。自然と出てきた歌詞が、自分たちの内側の気持ちが表れているものだったんです。

Maika(B, Vo)

Maika(B, Vo)

──音楽を作る人にはいろんなタイプの人がいて、中には歌詞や曲の意味をそこまで重要視しない人たちもいると思うんです。でも、デビュー作「d a n c i n g a l o n e」や新曲「アンドロン」を聴いていて感じるのは、Chilli Beans.は歌詞をすごく大事にされていること。なぜそうなったんでしょうか?

Moto そのときの状況や環境の中で自分たちが思っていることを、そのまま歌詞に書いているから、かな。

Lily そうだね。あと、私たちは3人とも、しんどいときに音楽を聴いて助けられてきたという共通点があって。命綱じゃないけど、音楽があったからこそがんばれたんですよね。そういう経験をしてきたからだと思うんですけど、きれいなことや正しいことばかりが並べられた歌詞を聴いていると、息が詰まっちゃうこともあるんです。だから、自分たちで作る音楽は、整理される前の感情をそのまま歌詞にしたいなと思う。つじつまが合わなくても、それがそのときの感情なら、それを大事にしたいなと思います。

──自分の気持ちを言葉にしようと思うと、どうしても整理してしまう部分ってあると思うんです。そうすることで他人に伝えやすくもなるし、自分でも納得しやすくなるから。でも、皆さんが整理される前の言葉で自分の感情を表すことができるのは、やはり「音楽だから」という部分が大きいですよね、きっと。

Maika 大きいと思います。逆に音楽じゃないと、必ずつじつま合わせを求められてしまう。特に今は、そういう時代でもあると私は感じていて。だからこそ、音楽や表現の中では気持ちを整理しなくてもいいんじゃないかと思います。実際に私たち自身、ゴチャゴチャした感情がそのまま書いてある歌詞に救われてきたから。