映画「キャッツ」蔦谷好位置|運命的な原体験を糧に 音楽プロデューサーとしての新たな挑戦

大竹しのぶさんは一番の衝撃

──そしてロバートの秋山竜次さんは、リッチで太めの猫・バストファージョーンズを演じています。

映画「キャッツ」より、バストファージョーンズ(日本語吹替:ロバート 秋山竜次)。

秋山さんは憑依芸人と言いますか、どんな人物を演じても面白いじゃないですか。体が大きくて声も立派なので、ミュージカルにも合ってるんですよね。オリジナル版のジェームズ・コーデンは意外とハイトーンで声が軽いので、秋山さんの声質とはちょっと違っていて。「どうしようか?」と話しているときに、市之瀬さんから「ちょっと女性っぽくやってみようか」というアイデアが出て、そこから糸口が見えてきたんです。秋山さんは歌のプロではないですが、理解力、対応力がすごくあるし、コミカルな表現もできる。ジェームズ・コーデンもそうなんですよね。コメディアンだけど歌がうまくて、グラミーの司会もやるし、自身のレギュラー番組では錚々たるアーティストたちと歌でやり取りして、それを笑いに変えることもできる。秋山さんもそういう存在になれる人だと思います。

映画「キャッツ」より、ラム・タム・タガー(日本語吹替:Official髭男dism 藤原聡)

──Official髭男dismの藤原聡さんがセクシーな猫、ラム・タム・タガーを演じることも話題を集めています(参照:Official髭男dismの藤原聡、日本語版「キャッツ」で美声なワイルド猫に)。

歌唱に関してはまったく問題なかったのですが、演技の部分ではかなり苦戦してましたね。最初のレコーディングでわりといいテイクが録れたんですが、僕はちょっと納得してない部分があって。聡くんと食事したとき、「もう1回トライしてみない?」と言ったら、彼もそのつもりだったんですよ。次のレコーディングでは、彼もアイデアを持ってきてくれて。聡くんはジェイソン・デルーロよりも2音くらいキーが高いから、それを生かしながら、マイケル・ジャクソン、プリンスみたいに息を多めに使って色気を出そうと。それがめちゃくちゃハマっていたし、本当にいい歌が録れました。

──新たな解釈を加えることで、“藤原聡のラム・タム・タガー”を作り上げたというか。

そうですね。聡くんとジェイソン・デルーロでは声も体格も違うし、オリジナル版とは違ったラム・タム・タガーになっていると思います。ヒゲダンとはひと味違う藤原聡の歌が聴けるのも、日本語吹替版「キャッツ」の見どころ、聴きどころですね。聡くんの気合いもすごかったです。オリジナル版のフェイクを楽譜にして完コピしたり、音楽家としての力量を感じました。

映画「キャッツ」より、オールドデュトロノミー(日本語吹替:大竹しのぶ)

──偉大な長老猫・オールドデュトロノミーを演じた大竹しのぶさんの歌も楽しみです。

大竹さんは一番の衝撃だったかもしれません。役に対する向き合い方がとにかくすごかった。オリジナル版を観るとジュディ・デンチが画面に出ていても、声が聴き取れないところがあって。それに対して大竹さんは「出ているところは全部しっかり歌いたい」と言ってくれたんです。かなり時間を取っていただいたんですが、大竹さんの歌があるとないとでは、仕上がりがまったく違うんですよ。いい作品にするという意味では当たり前のことかもしれませんが、こうあるべきだなと改めて感じましたね。

──大竹さんは以前からジュディ・デンチを尊敬していたそうですね。

大竹さんはジュディ・デンチと20歳以上年齢が離れているので「この雰囲気を出すのが難しい」とおっしゃっていましたが、本当にすごい歌を歌っていただきました。実はアンドリュー・ロイド=ウェバーの譜面を見ると、ジュディ・デンチはその通りに歌っていないんです。歌えなかったのかもしれないけど、演技のよさもあって、トム・フーパーがOKを出しているのかなと。日本語吹替版のデュトロノミーには大竹さんの演技も反映されているし、声を発した瞬間に空気が一変するような存在感を味わってもらえると思います。

まさにロイド=ウェバー節

──新曲「ビューティフル・ゴースト」についても聞かせてください。作曲家アンドリュー・ロイド=ウェバーとテイラー・スウィフトの共作ですが、この曲の魅力はどこにあると思いますか?

蔦谷好位置

音楽の知識や技術ではないところで、まず単純にいい曲だなと思いました。「キャッツ」の曲は3拍子が多いんですが、この曲も3拍子でまさに“ロイド=ウェバー節”だなと。曲ができた経緯としては、ロイド=ウェバーが昔の曲をピアノで弾いていたときに、テイラー・スウィフトがアドリブでメロディを作ったそうなんですね。歌詞もテイラーで、T・S・エリオットの詩集を読んでから書いたみたいですが、これも素晴らしくて。彼女はカントリー歌手から始まって、今はポップアイコンな存在でもありますが、作曲、作詞の技術も高いんだなと。アメリカのエンタテインメントの懐の深さを感じました。日本語吹替版では葵さんが歌っていますが、原曲を踏襲しつつ、すごくいいものになっています。

──「キャッツ」の楽曲と向き合うことで、蔦谷さん自身も改めて気付くこともあったのでは?

とにかく圧倒的ですよね。ポール・マッカートニーのライブを観たときなんかもそうですが、圧倒的な音楽を聴くと「ああ……」って落ち込んじゃうんですよ(笑)。今回もその連続でした。1回聴いただけで耳に残る強いメロディがあって、それを生かす技術もすごい。「キャッツ」には主要なメロディがいくつかあって、少しずつ形を変えながらサブリミナル効果のようにいろんなところに出てくるんです。クラシックやオペラなどでも使われる手法ですが、「キャッツ」の楽曲には音楽的な歴史が反映されているんですよ。譜面を見ることもできたので、どこで何をやってるかがよくわかって、楽しかったです。

蔦谷好位置

──アンドリュー・ロイド=ウェバーの音楽を紐解く作業でもあった?

そうですね。ネットなどで有名なマンガの伏線を解き明かしている人がいるじゃないですか。あれと同じで、「ここにもこんな伏線が」「こっちでもやってますやん!」みたいなことがたくさんあるんです(笑)。それに、そういうことは抜きにしても、誰でも楽しめるのが「キャッツ」の魅力ですね。実は日本語吹替版を編集しているときに、一度だけ僕の子供を連れていったんですよ。スキンブルシャンクスが歌う楽しいシーンだったんですが、1回聴いただけですぐに覚えていて。絶対に子供も楽しめるので、家族で観るのもいいと思います。

──蔦谷さんにとっても大きな意味がある仕事になりそうですね。

小5のときに観たミュージカルに携われること自体が運命的ですからね。「キャッツ」を観たことで、映画監督や作曲家、ミュージカル俳優を目指す子供が出てきたらいいなとも思うし。とにかく素晴らしいエンタテインメントなので、ぜひ映画館で楽しんでほしいです。