太田さんは「皆さんはこう見せたほうがいい」とディレクションしてくれる
──太田さんとしては今回の「ホームシック衛星2024」ツアーをどう表現しようと考えましたか?
太田好治 これまでの10年間のこの軌跡の中でどういう写真、どういう距離感が今回の「ホームシック衛星2024」にふさわしいんだろう、というのを考えました。「BUMP OF CHICKEN TOUR 2022 Silver Jubilee」はコロナ禍だったから距離を取らなければいけなくて。「BUMP OF CHICKEN TOUR 2023 be there」のときはマスクはしてるけど声を出せるようになった。その映像作品の「BUMP OF CHICKEN TOUR 2023 be there at SAITAMA SUPER ARENA」ではアーティストを近くに感じられるようなものがいいなと思って大きな写真集を作ったんです。今回はすごくコンセプチュアルなツアーなので、コンセプトが楽しめる、俯瞰で見られるようなものを作りたいなと思いました。
──BUMP OF CHICKENのメンバーの皆さんと太田さんとは付き合いが長いですが、どういうところが相性がいいと思いますか?
直井 これは山田監督も8%もそうなんですけど、何も言わなくても理解してくれるんですよ。深いところで共有している。僕らは音楽ではちゃんとやりたいことを具現化するんですけど、それ以外のことはあまりビジョンがなかったりするんですよ。そういうところをクリエイティブチームが完璧に表現してくれる。特に太田さんは本当に信頼してるし、いろいろと相談することが多いです。「このビジュアルが素晴らしいと思ったんですけど、これってどういうことですか?」と聞いたら、理論的に説明してくれる。ツアー中もそんなことばっかり話してます。映画とか音楽の話もしたり。
──太田さんはいろんなアーティストを撮影されて、コミュニケーションをとってきてると思うんですけど、BUMP OF CHICKENとはどんなバンドだと感じていますか?
太田 え!? 照れくさくて言えないですよ。恥ずかしいです(笑)。
──では、バンドにとって太田さんはどんな存在でしょうか?
直井 ホントによくしてもらってるからね。僕らの写真は全部そうなんですけど、ポージングも決めてもらってるよね。
升 「こういうふうに見せたい」というのが俺たちの中にあんまりなくて。それを「皆さんはこう見せたほうがいい」としっかりディレクションしてくれるのが太田さんなんですね。
増川 写真を見ても自分のエゴみたいなものを出さないでいさせてくれる。そうすることによって自分がうれしく思えるものを作ってもらえていると思います。
直井 「aurora ark」のときは太田さんとデザイナーのVERDYくんでビジュアルを作ってくれて。今回の映像作品も太田さんと8%で作ってくれた。ぶつけないけれど、自分のエゴがちゃんとある。それがすごいんです。みんな「プロ」って呼んでるんですよ。呼び方が「太田さん」から「太田プロ」になって今は「プロ」になっている。ただ、たまにステージ上に写真を撮りに来てもらうんですけど、そのときは本当にダメだなって思いますね(笑)。お客さんと一緒に撮ってもらうから大きな声で「はいチーズ!」って言わなきゃいけないんだけど、太田さんは普段の声の大きさで「はいチーズ」って言うから(笑)。
太田 いや、それでもまあまあがんばってるんです(笑)。あれが精一杯ですよ。一番デカい声です。
──藤原さんはどうでしょう?
藤原 もちろん写真への信頼はベースにあるんですけど、もはや写真1枚の話ではないところまで信頼しています。この人とは以前一緒にカナダにオーロラを見に行って、下見から撮影から全部の段取りをしてもらって、感動の瞬間を一緒に共有したこともあるんです。ずっとそばにいてくれて、いろんなときの僕たちを撮ってくれた。だから「なぜ彼なのか」というのは、ひと言で表せないです。ひとつ言えるのは、僕たちは太田プロのことを好きすぎる、ってことですね。
直井 プロダクトも写真の枠を超えちゃってるから。
藤原 写真の枠を超えてるというのはすごくいい表現で。太田プロもそうだし、8%もそうなんだけど、写真とかデザインの枠を超えて一緒に「ホームシック衛星2024」とか「Sphery Rendezvous」を作ってる。映像作品とかグッズとかそういうことではなく、ツアーを一緒に作ってる。それぞれのやってくれたことが影響して、それによってステージに立つ4人も高められるし、音にこもるものも変わってくる。キービジュアルに使うデザインとか、撮ってくれた4人のアーティスト写真とか、そういうものを背負っていることが音にも関わってくるし、その伝わり方はお客さんにも影響するはずだし。このチームの中で起こっていることっていうのは、それはもう並大抵ではないことですね。僕は本当に誇りに思いますね。すごくうれしいです。改めてありがとうね。
めちゃくちゃ楽しかった2本のツアー
──映像作品はBlu-rayとライブCDに加えて、オリジナルのグッズ、歌詞付きのライブフォトブック(Live Photo Book)、演出ブック(Stage Videos Direction)、オフショットブック(Behind The Scenes)、新旧ツアーのグッズをまとめたフォトブック(Merchandise Archives)という4種のブックレットを封入したパッケージになっています。このアイデアはどういうとこから出てきたんですか?
8% 中のコンテンツを違う冊子に分けたのは、太田さんと話している中で決めたことで。それぞれのコンテンツごとにフォーカスして分けることで、パッケージングしたときに宝箱みたいでいいよね、とこの形になりました。冊子も、大きさや紙質や装丁の仕方が1冊ごとに違うんです。手触りも感じながら見てもらえたらより楽しめる仕様になったと思います。
──パッケージにも見どころがたくさんありますね。
直井 山田監督の映像演出は、僕らライブ中には背負ってるから見られないんですよ。映像になっても意外と演出だけを通しで見ることはできなくて。だから演出ブックはすごくうれしいです。
藤原 あと、今回のツアーのアーティスト写真って、16年前の当時のオリジナルが存在するんですよ。そのオリジナル写真もライブフォトブックに載っていますけど、「まったく同じようにアー写を撮りましょう」とトイズのスタッフが言ってくれて、それを太田プロが撮ってくれた。
増川 すごい精度のものが撮れたなと思いました。ぶっちゃけ、当時何を着てたかなんて覚えてなかったんで、シルエットが似た服を着て。後ろに光を浴びながら「ちょっと手を上げてください」とか指示を受けて。そうしたらちゃんと今にアップデートされた写真になったという。
──ちなみに、「ホームシック衛星2024」がその後の「Sphery Rendezvous」ツアーに与えた影響はありましたか?
藤原 ツアーの行程自体は4カ月空いてるけど、全然ステージから降りた気はしなくて。我々メンバーとしては「1年通してずっとライブやってたね」という感想ですが、2本ともまったく違うコンセプトだったんで、そういう意味での影響はあんまりなかったです。これまで1年間のうちに別のコンセプトのツアーを2本回るというのもたぶんなかったし、両方を回ってみて「ホームシック衛星2024」はやっぱりコンセプトが特殊だったと改めて思いますね。セットリストもほぼかぶってないですし、どちらもめちゃくちゃ楽しかったです。
すぐじゃないけど、そう遠くない未来にまた動き出す
──2024年はアルバム「Iris」のリリース、2つのツアーと非常に濃度の高い1年を過ごしてきたと思いますが、それを終えての実感はどんな感じでしょうか?
藤原 僕がほかの3人を見ていて客観的に感じるのは「こいつらの体と心が休みたがってるな」ということです。それはきっと僕もそうなんだろうなって。
直井 そりゃそうですよね。本当に幸せな1年だったんですよ。それは間違いなくて。ただ、やっぱり1本1本のライブが僕らにとってはとても大きいんです。そこにかける情熱が半端ないバンドなんで。ペース配分もうまくできないし。いつも今日が最初で最後のライブのつもりでステージに立っている。当たり前だけど、体力をつけたり、体調管理も全力でやってるし。そのおかげで去年は今まで一番でいい演奏ができた1年だったなと思います。それが終わって、今は一旦、もう少し休ませていただいて。とは言っても、4人で会ってるし、その中から生まれてくるやりたいこともあります。
升 思い返すと本当にいろんなたくさんの人に見てもらって。「あれ、本当に俺だったのかな」みたいな感じがするんですよ。「幸せだったな」って、今は遠い目をしながら思う感じですね。終わった瞬間とはまた別の寂しさみたいなのがあります。
増川 今年はお正月をゆっくり過ごせたんですよ。これはすごくひさしぶりで。「本当に東京ドームでライブをやってたんだろうか?」とふと思うくらい、夢のような時間を過ごせたと思います。
──藤原さんはどうでしょう? ツアーを終えて、この先に向けてどんな思いがありますか?
藤原 こうやって思い返してインタビューで話させてもらうと、「ホームシック衛星2024」も「Sphery Rendezvous」も、楽しかったな、いいツアーだったなと思うんですけど、今は寂しいというより、すっきりしてる感じですね。お正月は、大学生の甥っ子2人と僕の男3人で千葉のファミレスで朝4時までずっとドリンクバーでしゃべるという、ツアー中の体調管理としては決してありえなかったような過ごし方をひさびさにしたんです。「Iris」は5年かけて作ってたわけで、「Sphery Rendezvous」の最終日が終わったときには、5年分の何かが終わったような感覚もあった。そういうことも感じながら、ファミレスで8杯ぐらいドリンクをおかわりしてました(笑)。今は、なんだか疲れてはいますけど、制作意欲については漠然としつつもけっこう強めなやつがある。すぐじゃないだろうけど、そう遠くない未来にまた動き出すんだろうな、と思っています。音の欠片、アイデアの断片みたいなものが、自分の中から出てこようとしている感じがします。
プロフィール
BUMP OF CHICKEN(バンプオブチキン)
藤原基央(Vo, G)、増川弘明(G)、直井由文(B)、升秀夫(Dr)の幼なじみ4人によって結成。地元・千葉や下北沢を中心に精力的なライブ活動を展開し、1999年に1stアルバム「FLAME VEIN」、2000年に2ndアルバム「THE LIVING DEAD」をリリースする。これが大きな話題を呼び、同年9月にシングル「ダイヤモンド」でメジャーデビュー。2001年にシングル「天体観測」が大ヒットを記録した。2014年には7枚目のオリジナルアルバム「RAY」の発表をはじめ、初音ミクとのコラボレーション、初の東京・東京ドーム公演などでも話題を集める。2015年末には初めて「NHK紅白歌合戦」に出場した。2024年2月からは2008年開催のライブツアー「ホームシック衛星」をリバイバルしたアリーナツアー「ホームシック衛星2024」を開催。同年9月に10枚目のオリジナルアルバム「Iris」をリリースし、同月よりドーム、ホール、ライブハウスを巡る全国ツアー「BUMP OF CHICKEN TOUR 2024 Sphery Rendezvous」を行った。
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