BUMP OF CHICKENの5年ぶりアルバム「Iris」藤原基央1万字インタビュー (3/3)

やっぱり僕はこの曲を誰かに届けに行きたい

──ライブの影響が歌詞に多く表れているということでしたが、アレンジやサウンドメイキングの部分で、ライブと楽曲制作が重なり合っていたことの影響はありますか?

さっき言った、表現におけるリミッターが外れてきているというのはまず影響の1つだと思います。あと、さっき饒舌な曲が多いとおっしゃっていただいて。展開としてはそうかもしれないですけれど、アンサンブル自体はすごくシンプルになってきていると思うんです。複雑なことをやろうとしてるわけじゃなくて、必要な音を入れた結果、適材適所になった。だからシンプルに聞こえてるんですよね。「strawberry」もそうだし「SOUVENIR」もそうだし、アンサンブルでよりシンプルなアプローチをすることが増えてますね。

──4人のメンバーが鳴らす音の呼吸感みたいなものと、より近いところで結び付いてる。

そうですね。それはやっぱりライブをやっていたというのが大きいと思います。日頃から4人の音を聴き合ってアンサンブルを組み立てていて、そうすると「もっとこうしよう、ああしよう」と反省することばっかりで。反省会をすごくやるんです。あと、これまではあんまりレコーディング音源にライブ性みたいなものを重視してこなかったんですよ。でも今回はライブでやることを想定して曲を作ることが多かったですね。例えば「strawberry」はライブのグルーヴ感をそのまま出したいという欲求が音になっている感じがします。「木漏れ日と一緒に」なんかは逆に、しばらくリスナーの人に会えなかったことでああいうサウンドアプローチになっているような気もします。

──「木漏れ日と一緒に」は「BUMP OF CHICKEN LIVE 2022 Silver Jubilee at Makuhari Messe 02/10-11」で最初に披露された曲でしたが(参照:BUMP OF CHICKEN、2年8カ月ぶり有観客ライブで明かした感謝「君たちが見せてくれる未来がある」)、いつぐらいの時期に作ったんでしょうか?

これは2021年5月から8月までに作っていた曲です。その前に「なないろ」と「Flare」を作っていたのでずっと制作に入っていて、コロナ禍で感じること、考えることがいろいろあって。で、1回立ち止まった時期があったんです。ちょっとでっかいため息を1回つかないと動けない、みたいなときがあった。そのでっかいため息がこれですね。けっこうギリギリまで自分を追い込んでいて「ヤバい、立てない」となって。もう1回立つまでに考えていたことが言葉になっていった。そういうときの音は、シューゲイザーみたいな音になりますね。うつむいてギターを弾いているから。

──これも赤裸々なドキュメントであると。

まさしくそうなんです。このときも、やっぱり僕はこの曲を誰かに届けに行きたいと思ったわけで。聴いてくれる人の存在があってようやく完成するということを改めて思った。こういうため息みたいなこともどうやら音楽になって、歌になる。だとしたら、僕にはこれを聴いてもらいたい人がいる。これを持ってステージに立たなきゃ、会いに行かなきゃと、そういう気持ちがあって、もう1回立ち上がることができた。リスナーの方の存在にすごく救われた、そういう思い出の曲です。

BUMP OF CHICKEN

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大切に聴いてくれる人がいるから自分の、曲の今がある

──新録曲の「青の朔日」は、いつ頃、どういうところから出てきた曲なんでしょうか?

これは「be there」というツアー(2023年2月から5月に開催)をやっている最中に、同時進行で書いていった曲ですね。「朔日」というのは新月のことで。真っ暗な世界の中で見つけてもらった感覚というか、あるいは真っ暗な中で会いたい人を探すような感覚というか。僕が音楽活動を通じて、唯一音楽を接点にしてリスナーとつながっていると感じている、その感じ方の1つとしてそういうイメージがあるんです。そこにある明かりは小さいとも表現できるし、唯一だからこそ大きいとも表現できるし、同じように弱いとも強いとも表現できる。それを追いかけているみたいな感覚もあるし、それを松明のように灯してあたりを照らしているような気持ちになるときもある。ライブにおいてはその明かりを真ん中に、それを目印に待ち合わせて集合するような感じもある。そういう世界観、そういう情景のイメージが漠然と脳内にありました。

──今、藤原さんがおっしゃったライブの感覚は、アルバムのいろんな曲に共通しているように思います。収録曲は曲調もバラエティ豊かだし、メッセージもいろいろだけど、そのモチーフが軸にあることで、どこか統一感がある。

あると思います。

──ただ集まって楽しむのではなく、暗い中で明かりを目指して集まる、それぞれの心の中に窓があって向き合う。そういうものを踏まえたうえで出会うという。この感触がちゃんと言語化されることによって、聴いている人にも共有できる感覚だな、というふうに思いました。

ありがとうございます。そういう感覚のようなものを見つけて「おっ」と思ってポッケに入れてくれるような人だから、君じゃなきゃダメなんだという気持ちがあって。そうやってポッケに入れてもらえる場合もあれば、興味のないビラのように捨てられてしまう場合だってある。だから、僕たちの曲を見つけてくれる、そこに反応してくれる人は、やっぱり特別な存在で。ちゃんと大切に聴いてくれる人がいるからこそ自分の今があるなと、そして曲たちの今があるなと思います。

──アルバムを引っさげて行われるツアー「Sphery Rendezvous」についても聞かせてください。これはどういう由来のツアータイトルなんでしょうか。

この「Sphery」は、実は「Iris」というアルバムのタイトルを付ける段階で出会った言葉なんです。「Iris」というのは虹彩のことですけど、さっき話したように、窓の中に目があるのであれば、虹彩そのものが星のようだなと思って。「窓の中から」にも「誰も知らない銀河に浮かぶ すごく小さな窓の中から」という歌詞があるんですけど、そっくりそのままそのことです。そういう気持ちから、最初は「銀河のような」とか「星空のような」とか、そういう気持ちで言葉を探していたんですよ。そんな中で出会ったのが「Sphery」という言葉だった。「天体の」とか「球状の」とかそういうことを指す言葉で、最初に探していた意味合いも自分の中のイメージも内包されていて。だから、最初はアルバムタイトルを「Sphery Iris」って付けたんです。スタッフとメンバーに報告したら「すげえ、カッコいい」って喜んでくれて、みんな「最高じゃん」って共感してくれたんですけれど、そのあとになんだかちょっとモヤモヤして。ツアーを回っているうちに「Sphery」は余計なんだと気付きました。「Sphery Iris」にしたのは、唯一無二の組み合わせの熟語を作りたいという思いだったけど、それはよこしまな気持ちだったということに気付いた。「Iris」っていう単語にたどり着いた時点で、この13曲がまとまったことの総括はできていたんだ、だから「Sphery」はいらないんだって。

──なるほど。

じゃあ、これをツアータイトルにしようと思ったんです。「Sphery」という「天体の」とか「球状の」という単語の意味合いは、今感じているライブの空間を表すイメージにすごく近い。そこで出会ったのが「Rendezvous」という言葉だった。宇宙船がドッキングすることや、並行して飛ぶこと、もしくは待ち合わせという意味がある言葉で。「ライブは待ち合わせだ」って昔から言ってたじゃないか、と思って、それでアルバムのタイトルを「Sphery Iris」から「Iris」にして、そしてツアータイトルを「Sphery Rendevous」にしたことを同時にメンバーに発表しました。そしたら、みんなも「全然そっちのほうがいいんじゃないか」と。そういう感じでツアータイトルが決まりました。僕にとってライブの空間を表現するとこういう感じ、というのが言い方としては一番正しいのかなと思います。でも、またツアーをやっていって、ああ、こういうことだったんだなって気付くこともあるだろうし、きっとツアーで展開していく物語もあるだろうなと思っています。

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ライブ情報

BUMP OF CHICKEN TOUR 2024 Sphery Rendezvous

  • 2024年9月7日(土)埼玉県 ベルーナドーム
  • 2024年9月8日(日)埼玉県 ベルーナドーム
  • 2024年9月15日(日)愛知県 バンテリンドーム ナゴヤ
  • 2024年9月16日(月・祝)愛知県 バンテリンドーム ナゴヤ
  • 2024年9月28日(土)大阪府 京セラドーム大阪
  • 2024年9月29日(日)大阪府 京セラドーム大阪
  • 2024年10月8日(火)宮城県 仙台サンプラザホール
  • 2024年10月9日(水)宮城県 仙台サンプラザホール
  • 2024年10月15日(火)北海道 札幌文化芸術劇場 hitaru
  • 2024年10月16日(水)北海道 札幌文化芸術劇場 hitaru
  • 2024年10月27日(日)福岡県 みずほPayPayドーム福岡
  • 2024年11月5日(火)東京都 Zepp Haneda(TOKYO)
  • 2024年11月6日(水)東京都 Zepp Haneda(TOKYO)
  • 2024年11月18日(月)大阪府 Zepp Osaka Bayside
  • 2024年11月19日(火)大阪府 Zepp Osaka Bayside
  • 2024年11月25日(月)石川県 金沢歌劇座
  • 2024年11月26日(火)石川県 金沢歌劇座
  • 2024年12月7日(土)東京都 東京ドーム
  • 2024年12月8日(日)東京都 東京ドーム

プロフィール

BUMP OF CHICKEN(バンプオブチキン)

藤原基央(Vo, G)、増川弘明(G)、直井由文(B)、升秀夫(Dr)の幼馴染4人によって結成。地元・千葉や下北沢を中心に精力的なライブ活動を展開し、1999年に1stアルバム「FLAME VEIN」、2000年に2ndアルバム「THE LIVING DEAD」をリリースする。これが大きな話題を呼び、同年9月にシングル「ダイヤモンド」でメジャーデビュー。2001年にシングル「天体観測」が大ヒットを記録した。2014年には7枚目のオリジナルアルバム「RAY」の発表をはじめ、初音ミクとのコラボレーション、初の東京・東京ドーム公演などでも話題を集める。2015年末には初めて「NHK紅白歌合戦」に出場した。2024年9月に前作「aurora arc」から5年ぶり、10枚目のオリジナルアルバム「Iris」をリリース。同月よりドーム、ホール、ライブハウスを巡る全国ツアー「BUMP OF CHICKEN TOUR 2024 Sphery Rendezvous」を行う。