テレビアニメ「ポケットモンスター」のオープニングテーマとして書き下ろされたゆずの最新曲「GET BACK」が話題を呼んでいる。
「GET BACK」は北川悠仁と岩沢厚治が歌詞を共作し、北川とTeddyLoidが作曲した、“取り戻す”をテーマにした壮大なポップチューン。約2分半という短い尺ながらもめくるめくサウンド展開があり、ポケモンのモチーフはもちろん、古今東西のアニメソングのエッセンスや未来へのポジティブなメッセージがちりばめられている。
音楽ナタリーでは、約8年ぶりにゆずの2人にインタビュー。「図鑑」ツアーの開催時期と重なった「GET BACK」の制作期間、本作でこだわったポイント、「GET BACK」に付随して10月23、25、26日に東京・有明アリーナで行われる3rdアルバム「トビラ」のリバイバルライブについて話を聞いた。
取材・文 / 森朋之
ゆずもポケモンも1997年組
──最新曲「GET BACK」はテレビアニメ「ポケットモンスター」のオープニングテーマです。制作が始まったのはいつ頃ですか?
北川悠仁 去年の11月ですね。10月から半年にわたって「図鑑」ツアーを回っていたんですけど(参照:ゆず、ひさびさの冬ツアー閉幕 横浜アリーナ最多公演数を記録)、移動の車の中で、スタッフの方から「ポケモンのタイアップが決まりました」と言われて。すごくうれしかったし、光栄だなと思いつつ、「12月の終わりまでにフルコーラスを作ってほしい」という依頼だったので、これは大変だなと(笑)。ゼロベースから最速で最高のクオリティの楽曲を作るために、まず思いついたのが岩沢(厚治)くんと歌詞を共作することだったんです。岩沢くんは昔からポケモンのファンだし、一緒に歌詞を書くのが一番いいだろうなって。もう1人のキーパーソンは、ここ数年よく一緒に仕事しているTeddyLoidくん。彼もポケモンのことをよく知っているし、ゆずとのリレーションシップも成熟してきているので、短期間でいいものができるだろうなと思って依頼しました。
──そこで制作の座組ができた。
北川 はい。次に考えたのは、3人が1つのゴールを目指すべきだということと、このプロジェクトを完遂させるために、何かフラッグになる言葉が必要だなと。そこで出てきたのが「GET BACK」だったんですよね。何かを取り戻すというテーマで。やり残した夢やあきらめていたこと、散り散りになった仲間、そういうものを未来に取り戻しに行くイメージ。「GET BACK」というフラッグを立てたことで、プロジェクトが動き始めましたね。
岩沢厚治 最初のデモの段階でサビの形はすでにあったので、僕は1番の歌詞を中心に進めていきました。アニメ「ポケットモンスター」の主人公2人(リコ、ロイ)を北川と僕に見立てたり、「ポケモンの曲だ」とわかるようなワードを入れたり。ポケモン図鑑をひさびさに開いて、技の名前を調べたんですよ。技の中に“フレアソング”というのがあって、「すごい、歌じゃん!」とか、「“マジカルリーフ”って最高の言葉だな」とか、改めて調べるとすごく楽しくて。歌詞の中に“ほのおのうたごえ”とか“げきりゅう”というフレーズがありますけど、平仮名にしているのもポケモンの雰囲気をそのまま残したかったからなんです。
北川 そうやって2人同時進行で少しずつ制作を進めて。「日本のアニメの歴史を盛り込みたい」というのも1つのテーマでした。手塚治虫の作品に始まり、僕らがこれまで関わらせてもらったアニメのタイアップを含めて、アニメソングの歴史を紐解いていったんです。昭和のアニメソングにはAメロに哀愁がある曲が多かったり、調べてみるといろいろと発見がありました。そういうイメージをメロディに取り込みながら曲を作って、ディスカッションしながら、また歌詞を書いていく。もちろんポケモンの曲ではあるんだけど、ゆずとしてこの先20年、30年と歌っていくことになるので、「僕らの作品としてどう落とし込んでいくのか」みたいなハンドリングをしつつ進めていきました。
──その時点ですでにすごい情報量ですね!
北川 そうですね(笑)。ポケモンのアニメって、ゆずと同い年というか、1997年組なんですよ。ポケモンのアニメの放送がスタートした年と、僕らがCDデビューした年が1997年。偶然にも同じ時代を歩んできた仲間でもあるし、「ゆずがなぜ、ポケモンの曲をやるのか?」という土台をしっかり作っておきたかったんです。
ゆずとTeddyが作るポップソングの完成型
──サウンドメイクに関してはTeddyLoidさんのセンスがかなり反映されてますよね。
北川 TeddyLoidくんはジャパンカルチャー全般に明るいし、ポケモンにも詳しいので、制作はすごくスムーズでしたね。ほとんどがツアー先でのやりとりで、Teddyくんから送られてきたトラックにギターや仮歌を乗せて戻して。「図鑑」ツアー自体もなかなかにハードだったんですけど、楽曲の制作とライブを行き来することで、熱くなりすぎず、ちゃんとワクワクしながら、いいテンションでやれた気がしますね。
──Teddyさんとゆずのコラボレーションも作品を重ねるたびに進化してますね。
北川 すごくいい感じだと思います。「恋、弾けました。」が最初で、「ビューティフル」「flowers」とかいろんな曲を一緒に作ってきて。Teddyくんはレスポンスがめちゃくちゃ早いんですよ。“鉄は熱いうちに打て”というか、僕らの情熱をすぐに汲み取ってくれるおかげで、モチベーションが高い状態で制作できるし、本当にいいパートナーですね。
岩沢 Teddyは全然拒まないんですよね。こちらがお願いしたものに対して「ゆず、こう来たか。だったらこうしよう」みたいな感じで、やりとりを重ねるたびに曲が進化して。「GET BACK」に関しても、まっさらな状態で始まって、仮歌や歌詞に呼応していろんな音や仕掛けをふんだんに入れてくれたんですよ。そういう制作が楽しかったし、すごいサウンドを作ってくれました。あと、「リリック、いいっすね!」って親指を立てて(笑)、こちらのモチベーションを上げてくれたり。
──今ではゆずのクリエイティブに欠かせないクリエイターですよね。
北川 当初はここまでガッツリ組むことになるとは思ってなかったんですけどね。「ゆずにはないスパイスが欲しい」というのが初めてTeddyにお願いしたときの理由だったんですけど、何曲も一緒に作ってきた中で……やっぱり「ビューティフル」が大きかったんじゃないかな。あの曲ができたときに、ゆずとTeddyが作るポップソングの1つの完成型だなという手応えがあったので。
──「GET BACK」のサウンド、展開もすさまじいことになっていて。
北川 そうなんですよ。展開が増えた大きな理由は、アニメで放送されるオープニング映像の90秒の中に2番まで入れたからなんです。通常、アニメソングではあまりないことなんですけど、2コーラス分を詰め込むことにこだわって。その後、フルコーラスを作るときに「どうやって展開していく?」と話し合う中で、Dメロのパートができたり、さらに目まぐるしい展開になりました。
岩沢 素晴らしい完成度だし、こういう曲が作れたことを誇らしく思います。Teddyにもいろいろアイデアを出してもらったし、僕らもがんばって歌詞を書いて。ポケモンのファンとしてもめちゃくちゃ気に入ってますね。
北川 よかった(笑)。ゆずの制作のクオリティもチームワークもすごく上がってますからね。時代性を取り入れながら、唯一無二のものを作っていこうとうモチベーションも高まっていて。
岩沢 「GET BACK」で言えば、アニメのオープニング映像の素晴らしさにも度肝を抜かれました。アニメーションと歌が融合したときのパワーがすごくて、僕らも感動しましたね。
短いけど情報量がすごい
──ゆずもこれまでのキャリアの中で数々のアニメソングを手がけてきました。アニメとのコラボレーションによって得られるものも多いのでは?
北川 もちろん、すごくありますね。いい意味でガラパゴス的というか、特異な進化を続けているジャンルだと思ってるんですよ。僕らはそのど真ん中にいるわけではないですけど、これまでにやらせてもらったアニメとのタイアップによって、楽曲自体も独自の発展をしてきて。その影響で新たな道が開けたことも多かったんですよね。「GET BACK」でもそれを感じたし、ゆずとして変化するチャンスをもらえたなと思ってます。知らなかった領域に入ることで、新しい化学反応が生まれて、それがグループに還ってくる。その影響は計り知れないですね。
岩沢 新しいリスナーと出会えるのも大きいですよね。アニメやゲームの楽曲を通してゆずを知ってくれた少年少女はすごく多いし、海外にも広がるので。
──ポケモンの海外人気もすごいですよね。
岩沢 そうですよね。僕も海外のプレイヤーの方と何度かポケモンを交換しました(笑)。
──ライブで「GET BACK」が聴けるのも楽しみです。
北川 間違いなくライブ映えすると思います。“ポケモンの曲”から“ゆずの曲”に変わる瞬間がまさにライブだと思うし、ゆずとしてもこの曲でさらに一歩進みたいので。
岩沢 もともとはアニメサイズで作った曲だし、フル尺もかなり短いので、たぶんライブ用のアレンジをすることになるんじゃないかな。どうなるかはわからないですけど、ライブならではの聴かせ方の工夫があってもいいのかなと。
──フルサイズが約2分半ですからね。
北川 短くすることに抵抗がなくなってきたのかも。ゆずも昔はけっこう長めの曲を作ってたけど、「GET BACK」は一瞬で終わるような感じで、でも情報量はすごく多くて。ポケモンを観ている世代のリスナーのタイム感も、ちょっと意識してますね。
──やはり時代性と普遍性のバランスが大事。
北川 そうですね。理にかなっていれば、時代性に乗っていいと思っていて。時代性のために理を変えちゃいけないというか、そこを履き違えるのは危ないんですけどね。我々はいつもそういう瀬戸際にいたような気がして。デビューしてから27年経ちますけど、音楽を聴くツールやサービスもどんどん変わったじゃないですか。8cmシングル、マキシシングル、MD、着うた、着メロ、配信、サブスク、ショート動画と全部経験してきて。いろんなツールと接してきて、そのたびに使い方を模索して。それは今も続いてますね。
次のページ »
置いてきてしまった夢はなかったかな?