新生T-SQUAREインタビュー|世代を超えた継承と進化──現役大学生メンバーとともに開く、新たな1ページ

2021年に初代リーダーである安藤正容が退団したことはT-SQUAREにとって大きな出来事だったが、今年4月のメンバー加入はそれと同じくらいに大事件だったと言えるだろう。

新メンバーはオーディションを経て選ばれた亀山修哉(G)と長谷川雄一(Key)、そして長年サポートを務めてきた田中晋吾(B)の3人。亀山は同志社大学理工学部、長谷川は名古屋大学情報学部に在学中の現役大学生で、デビューメンバーである伊東たけし(Sax, NuRAD, Flute)とは50歳ほどの歳の差があるのだ。国内インストバンドのリビングレジェンドは今、若い世代のメンバーを加えて生まれ変わり、デビュー47年にして新たなステージへと突入している。

そんなT-SQUAREが新体制での初のアルバム「TURN THE PAGE!」を完成させた。音楽ナタリーでは今回、現在のT-SQUAREの状況を多角的に捉えるべく、メンバーを2組に分けてそれぞれへのリモートインタビューを実施。前半は伊東たけし、坂東慧(Dr)、田中晋吾に新生T-SQUAREの現状について聞き、後半は亀山修哉と長谷川雄一の大学生コンビにバンドに加入した思いなどを話してもらった。

取材・文 / 松永尚久

伊東たけし(Sax, NuRAD, Flute)、坂東慧(Dr)、田中晋吾(B)
インタビュー

このバンドをなくしてしまうのは、ダメだと思っていた

──バンドを黎明期から支えたギタリストの安藤正容さんが、2021年に活動の第一線から離れました。当時はどんな心境だったのでしょう?

伊東たけし(Sax, NuRAD, Flute) いつかその瞬間がやってくる覚悟はできていたというか、なんとなく様子がおかしいなっていうのを感じてて。実際辞めるって聞いたときには、ついに来たかという感じでしたね。彼とは長年ずっと連れ添った仲なんで、1回関係が途切れてしまうということが実感できませんでしたし、今でもまたどこかで一緒にやるんじゃないかぐらいの気持ちでいます。

──バンドの活動を停止させることも頭によぎりましたか?

伊東 僕が個人でそれを判断できないので、みんながどういう思いでいるのかを話し合っていくうちに、最終的に坂東と2人でバンドの看板を背負い続けようという話になりました。

坂東慧(Dr) 僕もついにこの時が来たかと思いました。以前は、自分がクビと宣告されるか、伊東さんや安藤さんがもういいやと思った時点でこのバンドは終わるものだと思っていたのですが、自分はここでもっともっとやりたいことがあるから、活動を止めるという選択肢を考えることができなくて。伊東さんもまだ追求したい音楽があると言っているので、T-SQUAREの音楽を続けるしかないって思いました。

田中晋吾(B) 当時はサポートメンバーだったので、僕はその話し合いには参加していないのですが、安藤さんがバンドを離れることはショックでした。でも、2人が続けてくれることがわかったときはホッとしたというか。このバンドをなくしてしまうのは、ダメだと思っていました。

──その後、2023年に新メンバーオーディションを開催されました。

伊東 2人体制になった結果、しばらくさまざまなプロフェッショナルかつT-SQUAREのことを理解してくださる方を、その都度サポートでお願いして活動をしていたのですが、同じ楽曲を演奏していても、音色がメンバーによって変わってしまう。その変化を楽しんでいただけるファンの方もいらっしゃる反面、違和感を覚える人もいらっしゃるのではないかと思いました。T-SQUAREのサウンドを固めるためには、新しい正式メンバーを迎え入れることが必要なのでは、という思いを心の片隅に抱えながら数年活動をしていた感じです。だから、スタッフさんからオーディションの話を提案されたときは、すごくワクワクしたのが本音ですね。メンバーを固定した状態で、これからどういう音楽を追求できるかを考えるのは、僕にとってはうれしいことだったので。

伊東たけし(Sax, NuRAD, Flute)

伊東たけし(Sax, NuRAD, Flute)

坂東 2人体制のときに、いろんなミュージシャンの方々と演奏をして「この人とバンドができたらいい」という話もあったのですが、皆さんすでに別でも活躍していますから、条件的なことを考えると、持続的にバンドに参加して活動をしていただくには難しい部分が多かった。また、僕もそうですし、伊東さんをはじめこれまで所属したメンバーの方々のほとんどがアマチュアからこのバンドに加入して、キャリアを重ねていった。だから、新メンバーも同じプロセスで迎え入れたほうがいいのでは?という話になり、オーディションを開催することになりました。T-SQUAREの音楽をリスペクトしてくれる人はたくさんいらっしゃると思ったので、どういう才能に出会えるのか、本当にワクワクしていましたね。

伊東 プロ・アマ問わずに募集をかけたので、応募者の中には見知った人もいましたし、海外からエントリーされる方もいらっしゃいました。とにかく、いろんなミュージシャンと出会って、バンドの今後にいいものをもたらしてくれそうな方を発掘したかったのです。最初からアマチュアの方を優先して選んだつもりはないのですがね。

田中 実は僕も20年前にオーディションを受けて、ツアーのサポートとしてご一緒させてもらっているので、当時のことを思い出しましたね。また、今まで演奏されてきた方がすごいプレイヤーばかりだったので、その役割を果たしてくれる方を簡単に見つけられるのかという不安もあったんですけど、実際に音を出してみたらとてもマッチする人が見つかったので、オーディションを開催してよかったなって。

継承したいという強い思いがオーディション時から伝わってきた

──結果、選ばれたのはどちらも現役大学生である、亀山修哉さんと長谷川雄一さん。どういう基準で選ばれたのでしょう?

伊東 2人に共通するのは、T-SQUAREのファンであるということ。だから、我々が望んでいる音から逸脱していない音を演奏できる部分が大きかったですね。2人とも技術的に素晴らしいものを持っているので、そこの心配はなかった。特に亀山のギターは、安藤を彷彿とさせる部分が多々ありまして。一緒に音を出した瞬間に、本当にしっくりくるのです。オーディションの段階から、初めて一緒にやるような気がしなかったくらい。T-SQUAREは、特に僕のサックスやシンセサイザーとのセッションが重要な要素になってくると思うのですが、彼の奏でる音色にはなんの違和感もなく、しっくり馴染んでいく感じで驚きました。これまでたくさんのギタリストと演奏をしましたが、ここまでバンドが求めているものを表現してくれるのは彼だけという感覚。エンジニアなどほかのスタッフに聞いても、安藤が乗り移っているような感じだと。それくらいT-SQUAREの音楽を好きで聴いて、しっかり分析してくれているんだなって。また、長谷川を含め、2人とも現役大学生で音楽的なキャリアがない。もともとこのバンドもアマチュアの色のついていない状況からスタートしているので、そういう人物が加入してくれたことによって、今まで表現できなかったマジカルな音も表現できるのではないかと思いました。

坂東 2人とも本当にT-SQUAREの音楽をよく聴いているんだなっていうのが伝わってきました。T-SQUAREは47年の歴史があるんですけど、すべてを網羅している印象。それを継承したいという強い思いがオーディションのときから伝わってきました。長谷川くんは、バラードを弾くときは温かみのある雰囲気を表現し、アグレッシブな楽曲では爆発力のあるプレイをする。これまでのバンドに敬意を示しながらも、新しいスタイルを取り入れようとする姿勢も感じられるし、これからさらに面白い音楽を作っていけそうな予感がしました。

坂東慧(Dr)

坂東慧(Dr)

田中 2人とも、これまでのスタイルを理解し、継承しようとする姿勢を感じたと同時に、若さゆえのセンスも持っているので、一緒に演奏するとワクワクしますね。

──ジェネレーションギャップみたいなものはありますか?

田中 笑いに関してはジェネレーションギャップをちょっと感じますけど(笑)。それ以外はまったくないですね。

伊東 僕は柔軟性がある性格なのか、音楽という共通項があるせいか、違和感みたいなものはまったくないですね。体力的な部分や、音楽以外の話題に関しては、さすがに違う部分があるのかなとは思いますが(笑)。

彼らにとってのT-SQUARE像、そして今後バンドをどう進化させたいのかという思い

──そして、田中さんも加えた新体制で通算51作目となるアルバム「TURN THE PAGE!」が完成しました。

伊東 新メンバーの亀山と長谷川のともどもが初めて制作した楽曲も収録されている作品。これまでソングライティングを手がけている坂東を含め、3人がアルバムのためにたくさんのアイデアを投入してくれて、デモをいくつか聴かせてもらううちに、これは絶対に素晴らしいアルバムになるという確信ができたというか。リスナーの皆さんが求める、喜んでいただけるT-SQUAREの音楽を表現できるアルバムになるなと思いました。亀山と長谷川の作る楽曲からは、彼らにとってのT-SQUARE像が見えてきたと同時に、今後このバンドをどう進化させていきたいのかという思いも伝わる。収録曲すべての完成度がすごく高いし、これからの指針も表現できたと思います。

坂東 新体制になって初のアルバムということで、気合いを入れて制作しました。特に、長谷川くんと亀山くんは初めての作業ということもあって、ギリギリまで納得のできる音を追求していましたね。だから制作の途中でも、いいアイデアが浮かんだら、それを取り入れて楽曲を進化させたりとか。みんなで練りに練って完成したアルバムになった結果、バンド感が伝わる仕上がりにもなったのかなと思います。

──曲作りにあたって、亀山さんと長谷川さんには何かアドバイスをされたのですか?

坂東 基本お任せでしたね。僕もこの新体制のT-SQUAREで試してみたい音があったので、それを表現しましたし。また彼らは「こういう曲調がないから作りましょう」とか、全体の雰囲気を俯瞰して楽曲を新たに追加してくれたり。

──だからですかね、お二人の楽曲からはT-SQUAREらしさの伝わるものが多い印象ですよね。

坂東 とても器用というか、バランス感覚に優れた完成度の高い楽曲ばかりを制作してくれたので、とてもうれしかったですね。

NuRADを全面的に使ってレコーディングした理由

──田中さんにとっても正式メンバーになっての初アルバム。どんな思いをこめて制作されましたか?

田中 個人的には、常にバージョンアップした音楽を追求しているのですが、今回は伊東さんが新しいマイクやサックスを取り入れたりして、さまざまな試行錯誤をされているのが印象的でした。それに触発されるように、自分も進化した演奏をしなければいけないという気持ちで臨んだ制作でしたね。

田中晋吾(B)

田中晋吾(B)

伊東 実はレコーディング時のサックスは新しくはないのですが、セッティングや、マウスピース、リードなど、これまでにはないアプローチを試行錯誤した部分はありますね。これから新体制で活動するにあたって、これまでとは異なる、進化した姿を届けたいと思いましたし。これからスタートするツアーでは新しいサックスを吹こうと思っています。また、シンセサイザーに関しても、今回はNuRADという新しいものに変えたのですが、当初は坂東や亀山がそれを演奏すると、あんまりいい表情をしなかったのですよ。彼らは、僕のオールドEWIが好きで、このバンドには不可欠だと考えているらしくて。だから、僕がオールドEWIを吹くと幸せそうな顔をしてくれるんです。ところがNuRADだと黙り込んでしまう(笑)。でも、僕としては新しいものを使いたい、なんとか使えるようにしたいという思いが強く、今回のレコーディングに入るちょっと前ぐらいになんとか合格をいただいたので、今回NuRADを全面的に使ってレコーディングしました。

──なるほど。

伊東 オールドEWIは、何十年も前に生まれた楽器なので、音の肉付き、ざらつきなど、独特のよさもあるのですが、新しいシンセサイザーを使うことで、モダンさというかおしゃれな感じになってるかなって思います。今回は英ロンドンにあるアビー・ロード・スタジオという、The Beatlesのアルバムなどが制作されたスタジオで使用されていたのと同じタイプのマイクを使用してレコーディングしていまして。これがいい音を出しているので、そこも注目いただきたいですね。

──そのせいか、アルバムはライブ感といいますか、メンバーの皆さんの表情や個性がダイレクトに伝わる音色になっていますね。

坂東 そうですね。今回加入するメンバーを紹介して、最後にアンサンブルを入れる構成だとか。結果、メンバーそれぞれの個性が伝わると同時に、そこで僕らが演奏しているようなライブ感のある音にもなったのかなって思います。

田中 予想以上にいいものができあがったので、このアルバムを携えたライブハウス公演などを含むツアーを通じて、メンバー間のつながりがさらに強くなりそうな気がします。今後さらに、いい作品、音楽が発表できそうです。

坂東 このアルバムの世界観を存分に表現したい部分がある反面、ライブならではのアレンジを加えたり、メンバーの見せ場をもっと増やしたり、濃密なステージにしたいと思います。

──バンドはまもなく結成50周年を迎えられます。それに向けて、この体制でさらにエキサイティングな楽曲を発表し続ける予感がします。

伊東 メンバーやスタッフ、そしてファンの皆さんのおかげで日々音楽的な発見がたくさんあります。また、何がこのバンドに求められているのか、そのために僕自身どうならないといけないのかなど、やるべきこと、やりたいことがたくさんありまして。50周年のときには、今考えているアイデアをこのメンバーで実現させたいですね。新体制になったことで、今までと異なる迫力を感じていますし、冒頭に収録している楽曲の「君と歩こう」というタイトルにもありますが、全員がともに歩み、進化しながら、これまで以上に素晴らしいサウンドを届けられたらと思います。