音楽ナタリー PowerPush - BiSH
BiSの呪いとBiSHの希望
ユカコより残ってがんばってる4人のほうが大事
──渡辺さんのお話を総合して、ようやく4人のことが見えてきた感じなんですけど、面白いメンバーがそろいましたね。まあ、本当は5人いたんですけど。
渡辺 そうなんですよね……。
──ユカコラブデラックスさんがデビューを待たずして4月に脱退されました。デビュー前に脱退っていうのも聞いたことがなかったので驚いたんですけど、事の発端はなんだったんでしょうか?
渡辺 えーと、なんだったんだろうね?
グミ 発端っていう発端はなかったと思います。
渡辺 たぶん、彼女が一番BiSのことを好きだったんですよ。今だから言えますけど、彼女はBILLIE IDLE®も受けていて。なので以前から僕も知っていたし、ずっと気になっていた子だったんです。だからってこともあって採用したんですけど、彼女もグミみたいなやつで、これまであまり認められたことがなかったぽくて。
──それで渡辺さんが認めてあげたかったと。
渡辺 はい。そうしてあげたかったんですけど、BiSを好き過ぎるがゆえに自分には同じことはできないって思ってしまったようで。そこにすごく恐怖心を感じてしまっていたみたいです。普通はデビューが決まっていたら楽しいことばかりじゃないですか。CDも出るし話題にもなったし。アイドルになって有名になりたいって感覚で言えば、この上ない状況だったと思うんですよ。でも彼女はそれが重圧になってしまった。
──BiSという存在があってのBiSHですし。好きな存在に近付くことが怖くなっちゃったんですね。好き過ぎるがゆえに。
渡辺 僕も怖い気持ちはよくわかります。足を踏み入れてみたけど、みんなの期待に応えられないんじゃないかって思ったんじゃないかな。
──パフォーマンス面でも悩ましかったんでしょうか?
渡辺 たぶん悩んでたと思います。僕らももっとうまく引き出してあげられればよかったなって思いますけどね。本人がレコーディングでも一番納得してなかった。
グミ 私ももっと仲よくなれたらよかったなって。自分と同じ匂いがするなってユカコから言われたこともあって、メンバーの中では一番仲がよかったと思う。すごいカッコよくて好きでした。
──でも顔合わせしてから1カ月半くらいでメンバーが1人抜けちゃうっていうのは、皆さんにとっても衝撃的な出来事だったと思うんですけど。
チッチ 早えだろ、って思いました(笑)。まだ何も始まってないのに。
──彼女から相談とかはなかったんですか?
チッチ 練習のあとにみんなで話をしてたら「辞めたい」って言い出して。それでその場で泣き出して。私たちも「がんばろう」って言ってたんですけどね。
渡辺 僕はグミにすごい怒られましたよ。「なんで止めなかったんですか!」って。でも僕の中では1回辞めるって言った人間は信用できないんです。
──BiSのときもいろいろありましたからね。
渡辺 そういうの許しちゃうとグループの和が乱れちゃうんですよ。だからユカコとは一緒にやりたいし認めてあげたいけど、残ってがんばってる4人のほうが大事だなって思いました。辞めるときも彼女に対して怒ることがあってひさしぶりに怒鳴っちゃったんですけど、説得することは結局難しかっただろうなって思います。
──辞めたいっていう気持ちが芽生えたら、その根っこを取り除くのは難しいですよね。
渡辺 それはほぼ不可能に近い。でも辞めたいっていう気持ちは今だってもしかしたら全員が抱えているかもしれないですけど。僕だってBiSをやってるときに何度も辞めたいって思いましたもん。でも“辞めたい”って“死にたい”って意味と一緒というか、生きたいから死にたいしやりたいから辞めたいっていう反対の意味を持ってたりするのかなって。だから思ってはいるけど続けるし。そんな中でも絶対に辞めるフェーズってあるんですよ。仕事でもミスを連発し出したり、傾向があるんですよね。だからそういう過去の例を踏まえて、ユカコももう続けられないんだろうなって。
過激なことはやらないとも言えない
──期せずしてBiSの初期と同じ4人編成になってしまいましたが、渡辺さんとしてはこの4人だけはなんとか続けさせたいと願ってますよね?
渡辺 願ってるんですけどね。せっかく出会った4人だし。僕はBiSと一緒に横浜アリーナの光景も見たし、あそこまで行くとどんな気持ちが芽生えるのか、どんな感動が待っているのかを4人に伝えたいんです。それは恐らく何物にも代えがたくて「俺、ここにいてもいいんだな」って気持ちになると思う。それをこの4人で感じてほしいです。あと、アイドルってやっぱり承認欲求の塊だと思うんですよ。きっと活動しててつらいことはいっぱいあると思うんですけど、誰かが認めてくれるから生きていられるというか。突き詰めるとそういうことなのかなって思うんです。普通に考えたらアイドルなんてやりたくないですから。だって彼氏と遊んでるほうが絶対に楽しいですし(笑)。
──「そこを我慢した先に見える光景を一緒に観に行こう」ってことですか。
渡辺 そうです。だからそのためにオタクとわいわいやんなきゃいけない。握手もしなきゃいけないし、ハグもしなきゃいけないんです。
一同 あはははは(笑)。
──BiSのときには過激なこともやってきたと思うんですけど、BiSHでもやはりその路線は続けていくのでしょうか。
渡辺 まあ親御さんからもそれについてはいろいろ聞かれました。で、僕としては「やらないつもりです」と言いました。だけど「とはいえやらないとも言えないです」とも言いました。だってわかんないじゃないですか、人生何が起こるかなんて。
──ずるいですね(笑)。
渡辺 結局どうなるかなんてわからないですけど、僕の中で1つあるのは、BiSとして日本武道館でライブができなかったことはすごく大きくて。だからBiSHとしてもそれに引っかかるようなことはしたくないという思いはあります。
──今となってはですけど、BiSのそれまでの活動が悪い方向に働いてしまって、目指すべき武道館を断念せざるを得なかったと。
渡辺 頭が真っ白になりましたから、あのとき。悔しかったですよ。でも自分たちで首を絞めてしまっていたので……悔しいというか人生の無常を感じました。
──因果応報ですね。
渡辺 BiSらしかったといえばそうだったのかもしれない。物語としては間違ってなかったのかもしれないですけど、今度はそうならないようにしたいんです。
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- 1stアルバム「Brand-new idol SHiT」 / 2015年5月27日発売 / 2500円 / SUB TRAX / DDCZ-2029
- 1stアルバム「Brand-new idol SHiT」
収録曲
- スパーク
[作詞:JxSxK / 作曲:松隈ケンタ] - BiSH-星が瞬く夜に-
[作詞:BiSH×JxSxK×松隈ケンタ / 作曲:松隈ケンタ] - MONSTERS
[作詞:ユカコラブデラックス / 作曲:松隈ケンタ] - Is this call??
[作詞:アイナ・ジ・エンド / 作曲:松隈ケンタ] - サラバかな
[作詞:竜宮寺育 / 作曲:慎乃介(蟲ふるう夜に)] - SCHOOL GIRLS, BANG BANG
[作詞:セントチヒロ・チッチ / 作曲:Mad sounds] - DA DANCE!!
[作詞:モモコグミカンパニー / 作曲:松隈ケンタ] - TOUMIN SHOJO
[作詞:ユカコラブデラックス / 作曲:松隈ケンタ] - ぴらぴろ
[作詞:モモコグミカンパニー / 作曲:松隈ケンタ] - Lonely girl
[作詞:ユカコラブデラックス / 作曲:真田巧] - HUG ME
[作詞:ハグ・ミィ / 作曲:コジマミノリ] - カラダ・イデオロギー
[作詞:YUKARI / 作曲:Limited express(has gone?)] - Story Brighter
[作詞:セントチヒロ・チッチ / 作曲:松隈ケンタ]
BiSH(ビッシュ)
アイナ・ジ・エンド、モモコグミカンパニー、ハグ・ミィ、セントチヒロ・チッチの4人からなるアイドルグループ。BiSを作り上げた渡辺淳之介と松隈ケンタが再びタッグを組み、彼女たちのプロデュースを担当する。自らを“新生クソアイドル”と称し、「ファンの総称は“清掃員”」「ライブの写真撮影は可能。なお録画、録音は禁止」「自由。ただしほかのお客さんの迷惑になる行為は禁止」という“クソアイドルの3箇条”を4月30日に東京・TSUTAYA O-nestで行ったライブで発表した。2015年5月27日に1stアルバム「Brand-new idol SHiT」をリリース。同年5月31日には東京・中野heavy sick ZEROにて初のワンマンライブ「THiS IS FOR BiS」を開催する。