音楽ナタリー PowerPush - BiSH

BiSの呪いとBiSHの希望

BiSHが5月27日にデビューアルバム「Brand-new idol SHiT」をリリースした。BiSマネージャーの渡辺淳之介が「BiSをもう一度始める」と発言してから早5カ月、BiSHは鮮烈なビジュアルとともに瞬く間にその名を轟かせた。デビュー前にメンバーが脱退、衝撃的なMVの公開、アルバム収録曲のすべてをリリース前にフリーダウンロードなど、話題に事欠かない彼女たちはデビュー前に何を思うのか。

音楽ナタリーではアイナ・ジ・エンド、モモコグミカンパニー、ハグ・ミィ、セントチヒロチッチに加えて渡辺にも参加してもらいインタビューを実施。BiSH結成の発端から彼女たちのファーストインプレッションまでを渡辺に語ってもらいつつ、彼女たち自身の今の心境を聞いた。

取材・文 / 古川朋久 撮影 / 塚原孝顕

過去の栄光にはすがらなきゃいけないんだなって

──渡辺さんが「BiSをもう一度始める」と言い出したことからすべてが始まったと思うんですけど、そもそもBiSが解散してからまだ1年も経っていないのに、なんでまたアイドルグループを始めたくなったのでしょう?

渡辺淳之介 僕が以前勤めていたつばさレコーズを辞めて、自分の会社(株式会社WACK)を立ち上げてからもう9カ月経つんですけど、それなりにうまくやってたんですよ。所属アーティストもプラニメがいますし、NIGO®さんと一緒にBILLIE IDLE®を手がけたり、松隈ケンタ(SCRAMBLES)のマネジメントをやったりと仕事はあって、普通の会社員並には食えてる。平々凡々と楽しんでやってたんですけどね……なんか違うよな、と。あれ? 俺……なんか違うなあ、みたいな感覚に急に陥りまして。

──それはいつくらいのことですか?

渡辺 去年の冬、年末くらいですね。

──会社を立ち上げて半年くらい経ったときですか。

渡辺淳之介

渡辺 そうですね。会社を立ち上げた当初はBiSっていう僕らが食えていた案件がなくなったから、松隈とも「もしかしたら皿洗いとか別のバイトもしないといけないかもね」なんて話をしてたくらいで。でも現実は会社設立のご祝儀もあったと思うんですけど楽曲の依頼もたくさんあったし、プラニメもいろんなイベントに呼ばれたりと最初から順調だったんですよ。ああ、これはそれなりにうまくいくなと思ったし、半年くらい経ってお金の流れも大体見えてきちゃって。

──はたから見てもとても順調だなと思ってました。

渡辺 実際そうだったんですけど、なんか違うなって思っちゃって。物足りなかったっていうか、何かピースが1個足りない感覚ですね。そんな気持ちになったときに、ふとBiSをやってた頃を思い出して「ああ、楽しかったな」と。やってたときは本当に今すぐにでも辞めたいって思ってたんですけどやっぱり楽しかった。それで寝る前にBiSやってたときと今を比較してみたんですよ。そうしたら1つ明確に足りないものがあることに気付いて。

──それはなんでしょう?

渡辺 自分の好き勝手にやるものがないってことに気付いてしまって。まあ、プラニメもやってますけどすべて僕がプロデュースするっていうのとは違った。BILLIE IDLE®もNIGO®さんと共同でやってることだし、そうなると僕が自分だけの意思で自由に動かせるものって実はないんですよ。でも会社を立ち上げるときに僕はもうぼちぼちBiSみたいな自分勝手にできるものから卒業して、違う方向でやっていかなきゃって考えて。そうしていかないと僕は今後、大きく成功することはないだろうなって思ってたんですよ。だけどね……やっぱりちょっと物足りなくなっちゃった(笑)。

──あれだけ刺激の強いものをやってたから、そう思っちゃうのも仕方ないことなのかもしれないですね。

渡辺 そうそう、刺激が欲しかったんですよ。そんなことを去年の冬に感じて、松隈とも「刺激が足りないね」って話をしてたときに、急に「ふあっ」って浮かんだのが「BiSをもう一度始める」っていうアイデアで。やっぱりね、過去の栄光にはすがらなきゃいけないんだなって気持ちになりましたね(笑)。

──渡辺さんがずっと運命共同体としてきたBiSの代わりは、プラニメやBILLIE IDLE®といった違うものでは補填できなかったと。

渡辺 BiSの補填という意味ではできませんでしたね。で、BiSをもう1回やるっていうのを考えたんですけど、さてどうしようかって悩んで。同じメンバーでやっても仕方ないし、どうしたらBiSをもう一度できるんだろうって考えたんですよ。そこで思ったのが、単純な発想ですけど僕と松隈さんと一緒にやってたチームがいれば、それはもうBiSだし、もう1回作れるんじゃないかってことで。でも一度解散したものを1年も経たずしてもう1回始めるっていうのはほかに聞いたことなかったし、前代未聞ですよね。まあ普通、ダサくてやらないと思うし。

──でも渡辺さんはそれをダサいとは思わなかったってことですよね?

渡辺 はい。僕がやることなら許してもらえるかなって思っちゃった(笑)。でもダサいのは承知の上で、そのダサいってところから浮かんだのが“SHIT”。“クソアイドル”っていうコンセプトだったんです。

──普通アイドルやるって言ってるのに“クソ”なんてワードは出てこないですけどね(笑)。

渡辺 でもこれがビビビッて浮かんだ瞬間に松隈さんに「すみません! もう一度BiSやりたいんですけど、松隈さん、協力してもらえませんか?」って言ったら、彼も「待ってたよ!」だって。あはははは(笑)。

得体のしれないものが始まるワクワク感

──もう一度BiSを始めることにした理由は、渡辺さんの禁断症状が限界に達したから、と。

渡辺 我慢できなくてすみません。やっぱりBiSをやってるときが一番気持ちよかったんですよ。それにBiSが解散してからも過去の亡霊が目の前をチラつくんですよね。「劇場版 BiSキャノンボール 2014」とかもそうですし、テンテンコとか(ファーストサマー)ウイカとか。

──亡霊って(笑)。

渡辺 あいつらは過去の亡霊みたいなものですから(笑)。まあ、元BiSメンバーもがんばってるのを見てるし、やるならアイツらががんばってる今かなと。でも、またアイドルグループをイチから作りたくなったのは僕の気持ちの問題っていうのもありますけど、早くやらなきゃって思ったのは今のアイドル業界が疲弊しちゃってるなって感じたからなんです。

──業界全体の低迷ってことですか?

渡辺 BiSが出てきたときは、本当に有象無象というかたくさんアイドルグループが出てきたタイミングで。それにローカルアイドルもどんどん出てきて、業界自体が活性化してるなって感じられた。だけど今、面白いグループがいっぱい出てきたなっていう感覚がない。ああ、これはやばい状況だなって感じてしまったわけです。

──そんなタイミングだからこそBiSHをやって、また業界全体を活性化しようと?

渡辺 はい。面白かったのは先日イベントに乱入してちゃっかり初ライブやっちゃったんですけど(参照:BiSHが渋谷でこっそり初ライブ、クソアイドルの3箇条を発表)、それが終わったあとにBELLRING少女ハートのディレクター・田中紘二さんから「勢いありますね。ちょっとひさしぶりにアイドルやってて楽しいって思えてきたんで、これからよろしくお願いします!」ってメールが来て。ゆるめるモ!のプロデューサーの田家大知さんとかもそうなんですけど、感度のいい人たちからは早速チェックされていてうれしかった。

──今年に入ってからアイドル業界は全体的に明るい話題があまりなくて、ちょっと停滞しちゃってる感じはあったと思うんですけど、そんなときにBiSHが結成されるっていうニュースが多くの人から注目を集めて。そういう現象を目の当たりにすると、改めてBiSってすごいグループだったんだなって思いました。

BiSH

渡辺 僕としては「なんかまた得体のしれないものが始まるワクワク感」みたいなものを演出できたかなって思ってます。

──実際オーディションもすごい数の応募があったんですよね?

渡辺 びっくりしました。824人も応募があったので。BiSのときだって最高で200人くらいだったから、意味わかんなかったですよ(笑)。

──BiSがあれだけムチャやったのに800人以上も履歴書を送ってくるっていうのは、確かに訳がわからないですね。まあ、ここにいる皆さんがその中から選ばれたエリートかもしれませんが。

渡辺 バカ。バカ4人ですよ(笑)。

1stアルバム「Brand-new idol SHiT」 / 2015年5月27日発売 / 2500円 / SUB TRAX / DDCZ-2029
1stアルバム「Brand-new idol SHiT」
収録曲
  1. スパーク
    [作詞:JxSxK / 作曲:松隈ケンタ]
  2. BiSH-星が瞬く夜に-
    [作詞:BiSH×JxSxK×松隈ケンタ / 作曲:松隈ケンタ]
  3. MONSTERS
    [作詞:ユカコラブデラックス / 作曲:松隈ケンタ]
  4. Is this call??
    [作詞:アイナ・ジ・エンド / 作曲:松隈ケンタ]
  5. サラバかな
    [作詞:竜宮寺育 / 作曲:慎乃介(蟲ふるう夜に)]
  6. SCHOOL GIRLS, BANG BANG
    [作詞:セントチヒロ・チッチ / 作曲:Mad sounds]
  7. DA DANCE!!
    [作詞:モモコグミカンパニー / 作曲:松隈ケンタ]
  8. TOUMIN SHOJO
    [作詞:ユカコラブデラックス / 作曲:松隈ケンタ]
  9. ぴらぴろ
    [作詞:モモコグミカンパニー / 作曲:松隈ケンタ]
  10. Lonely girl
    [作詞:ユカコラブデラックス / 作曲:真田巧]
  11. HUG ME
    [作詞:ハグ・ミィ / 作曲:コジマミノリ]
  12. カラダ・イデオロギー
    [作詞:YUKARI / 作曲:Limited express(has gone?)]
  13. Story Brighter
    [作詞:セントチヒロ・チッチ / 作曲:松隈ケンタ]
BiSH(ビッシュ)

BiSH

アイナ・ジ・エンド、モモコグミカンパニー、ハグ・ミィ、セントチヒロ・チッチの4人からなるアイドルグループ。BiSを作り上げた渡辺淳之介と松隈ケンタが再びタッグを組み、彼女たちのプロデュースを担当する。自らを“新生クソアイドル”と称し、「ファンの総称は“清掃員”」「ライブの写真撮影は可能。なお録画、録音は禁止」「自由。ただしほかのお客さんの迷惑になる行為は禁止」という“クソアイドルの3箇条”を4月30日に東京・TSUTAYA O-nestで行ったライブで発表した。2015年5月27日に1stアルバム「Brand-new idol SHiT」をリリース。同年5月31日には東京・中野heavy sick ZEROにて初のワンマンライブ「THiS IS FOR BiS」を開催する。