小出祐介&成田ハネダ、material clubを語る|“いろんな偶然”引き連れビルボードライブのステージへ (2/3)

material clubはハプニングが本当に面白い

──制作やライブを通して、メンバーの個性がより引き出されてますよね。

小出 この間、新曲を制作するにあたって、メンバー内でコンペをやったんですよ。僕とナリハネ、あっこ、キダ(モティフォ[tricot])さんは作曲経験があるわけですけど、YUNAちゃんはリズムを考えたことはあってもメロを書いたことがない、そういう意味での作曲をしたことがないと。もしかすると、そこに何かハプニングが起きるかもしれないから、鼻歌でもいいから作ってみて、と何気なく言ったんです。そしたら打ち込んだリズムに鍵盤でメロディを入れたデモを送ってくれたんだけど、それが衝撃的なよさで。

成田 「普通はこういう展開をするよね」みたいなフォーマットも何もない、真っ白なキャンバスから生まれた、純粋無垢な形でしたよね。

小出 YUNAちゃんはプレイヤーとしての経験値はめちゃめちゃあるわけですよ。ただ曲を作ったことがないだけ。このねじれで面白いものができるんじゃないかと思って、「1回自分のやりたいようにやってみて」と言ったら、いろいろ作ってきてくれて。それがいちいちピュアで、本当に俺らは汚れちまったんだなって(笑)。

2025年6月にLIQUIDROOMで行われたワンマンライブ「物質的II」より、YUNA(Dr / ex. CHAI)。(Photo by AZUSA TAKADA)

2025年6月にLIQUIDROOMで行われたワンマンライブ「物質的II」より、YUNA(Dr / ex. CHAI)。(Photo by AZUSA TAKADA)

成田 あの曲はビルボードライブで披露する可能性はあるんですか?

小出 ……皆さんがどうにかしてくださるなら(笑)。

──やはり現在のmaterial clubは「小出祐介を中心としたプロジェクト」ではなくて、バンドとして、5人の個性が有機的に混ざり合う方向を目指しているわけですよね。

小出 そうですね。せっかく本体とは別のバンドをやってるわけだし、自分の願いとしては、クリエイティブに関しても、偶然性とかハプニングがあればいいなと思ってて。作詞作曲を根詰めてやってると、ちょっとパズルのように見えてきたりするんですよ。その感覚は毎回自分が疑っていることで、「これは創作なのか、パズルゲームなのか、どっちなんだろう?」って。特に作曲中は、ただ組み合わせを探してるだけみたいな感覚になっちゃうときがあって、そこからなるべく逃れたいと常に思っています。ところがmaterial clubだと、そこから大きく逸脱することができる。偶然生まれたもの、突拍子もないことで生まれた何かを膨らませて、リハーサルに入る前の想像とはまったく違う形になる。そのハプニングが本当に面白いんです。これまで偶然を許してこなかったほうだけど、ものづくりっていうのは偶然でいいんだなって、ちょっと思った。ナリハネは“偶然”ってどう思う?

成田 大好きです!

小出 すごい、食い気味だったね(笑)。

成田 むしろ決めたくないっていうのはすごくありますね。自分のパートをレコーディングするときも、なるべく偶発性の強いもの、面白いことになったものを選んだりします。

小出 ナリハネの場合はクラシックをやっていたから、決まり通りに演奏するとか、ある程度の型が見えてる中で弾くのは造作もないわけじゃないですか。普通のバンドマンより明らかにその難度が低いと思うのよ。だからたぶん俺なんかよりも、もともと偶然性に飢えていたところがあるんじゃない?

成田 そもそもクラシックは楽譜通りに弾くものだから、ないものねだりはあったかもしれないですね。

小出 それは昔からそうなの? 「これ譜面通りに弾かなきゃダメですか?」みたいな。

成田 そうですね。それこそバンドを始めようと思ったきっかけがロックフェスで「なんて自由な表現があるんだ」と思って衝撃を受けたことでしたから。まず「キーボードを立って弾くって何?」って感じだったし。

小出 ピアノをずっとやってきた人からしたら、「弾かない」っていうのが一番ヤバい表現かもね(笑)。

左から成田ハネダ(パスピエ)、小出祐介(Base Ball Bear)。

左から成田ハネダ(パスピエ)、小出祐介(Base Ball Bear)。

キダモティフォの歌とギターを存分に食らえ!

──6月のLIQUIDROOM公演では、キダさんが初めてメインボーカルを担当した新曲「Sleepover」が披露されました。

小出 あれはバンド内コンペで生まれた曲です。キダさんに歌ってもらうならディスコかなとなんとなく思って、「Aマイナーで、テンポはこのくらい」ということだけ決めて、皆さんに曲を出してもらいました。そうしたら僕とキダさんのテイストがわりと近くて、「この2つのアイデアを足してみたらいいかも」みたいなところから、キダさんが考えてたサビの形を膨らませつつ、自分が考えてたコードとかリズムの運び、あと平歌の部分をガッチャンコさせて、歌ものっぽい方向に持っていって。

──なぜキダさんが歌うことになったんですか?

小出 もともとキダさんが歌える人なのはわかってて、コーラスのレコーディングをしてるときも、「この人なんでメインで歌ってないんだろう?」と思うくらいうまかったんですよ。打ち上げのカラオケで歌ってたのはaikoだったかな。確かテトラポット登ってたよね?

成田 あとチャットモンチーを歌ってました。

小出 「バンドで歌いたい気持ちはないんですか?」って聞いたら、コーラスを含めて歌いたいようなことを言っていたんだけど「メインでも歌いたいんだ」と勝手に勘違いして(笑)。それでキダさんメインの曲を作ったら、案の定、抜群の歌唱力でした。

2025年6月にLIQUIDROOMで行われたワンマンライブ「物質的II」より、キダモティフォ(G / tricot)。(Photo by AZUSA TAKADA)

2025年6月にLIQUIDROOMで行われたワンマンライブ「物質的II」より、キダモティフォ(G / tricot)。(Photo by AZUSA TAKADA)

──僕もリキッドのライブを観てびっくりしました。歌がうまいし、なおかつギターソロもがっつり弾いてて、「Sleepover」はキダさんの有能ぶりをプレゼンする曲だなって(笑)。

小出 ボーカルだけじゃなく、セルフサービスでギターソロもやってもらうっていう(笑)。

成田 あの曲もタタキからだいぶ変わった印象があります。

小出 まさに偶然がいろいろ起きたよね。

成田 そうそう。もともとギターのカッティングが多めで、もっとガッツリバンド的な、若さあふれる感じになるかなと思ったら、しっとりとした要素もあって。面白いのが、ほとんどのメンバーにコンポーザー経験があるから、各々から勝手に「こういうのいいんじゃない?」ってアイデアが出てくるんですよね。なおかつチョイスもできるから、アレンジを詰めていくときに「ここは間引こう」と勝手にバランスが取れてくるんですよ。

左から小出祐介(Base Ball Bear)、成田ハネダ(パスピエ)。

左から小出祐介(Base Ball Bear)、成田ハネダ(パスピエ)。

小出 スタジオに入った段階では全体の構成は決まってなかったよね。最初はリフ始まりだったけど、もともと中盤にあった転調をど頭に持ってきて歌始まりになったんです。その後の転調とコード進行は僕が考えたんですけど、キダさんが後半でさらに転調させて。だから、最初はなかったパーツが、スタジオに入ることによって、偶然でバババッとできていった感じ。アウトロのギターソロが長くなることを誰も気にしてなかったよね。自分のバンドだと「ちょっと長いか」となりそうだけど、material clubは存分に長くしていく、みたいなところがある。

成田 今のご時世だと、1コーラスあって、間奏があって、2コーラスやって終わりみたいな構成のほうが届きやすいかなとか考えるけど、自分たちがやってきた曲のわび・さびってこういうところだよなと思ったりもして。

小出 そうだね。すごいわびてるし、すごいさびてる(笑)。ギターソロの量どうする?みたいな話がよくあるけど、うちはキダモティフォがいるからとにかく見せたいんですよ。「こんなにいいギター弾く人間がいるんだから、存分に食らえ!」という気持ちなので、長くできるんだったら長くしたい。キダさんは大変ですけど(笑)。