ナタリー PowerPush - Base Ball Bear”
普通ってなんだ?「二十九歳」完成までの苦悩
「二十九歳」のテーマは“普通とは?”
──歌詞のテーマについては、事前に“普通”というキーワードが出てきていましたね(参照:ベボベ「二十九歳」特設サイトオープン&“普通”のジャケ公開)。
湯浅 ひと口に“普通”といっても人それぞれいろいろありますよねっていう。
小出 ざっくりしてるなあ(笑)。
──小出さんはシングル「PERFECT BLUE」のインタビュー時に「両極のものが同居しているというのは、次のアルバムのテーマになる」(参照:Base Ball Bear「バンドBのベスト」&「PERFECT BLUE」インタビュー)と話してました。
小出 その段階では「両極端でいながら表裏一体のものを描く」みたいなことをしゃべってたと思うんですよ。去年(2013年)の頭くらいですよね。
──そうですね。
小出 前作「新呼吸」には明確なアンサーがありましたし、僕自身そういうふうに作っていました。答えに向けた導線をどうやって引くか? 伏線をどのように張るか?みたいな。でも今回のアルバムにはアンサーがないんです。もうそのままでいいというか。僕の漠然とした考え方や曖昧な世界への捉え方をそのまま描こう、それが僕の“普通”だって。
──どういうことですか?
小出 僕の中には常に両極端なものがあったんですよ。すごくアッパーなものと、クッソ暗いものみたいな。で、僕は常にその両極端の真ん中にいて、そこから物事を見ていたし、感じていたんです。
──ええ。
小出 でも世の中のエンタテインメント作品と言われる多くのものは、その両極端のどちらかに答えが用意されてて、そこに向けて導線が敷かれているものが多いような気がするんですね。それもわかるんです。そっちのほうがわかりやすいし、エンタテインメントになりやすいから。でも僕はそういったものと触れるたびに、違和感を感じていて。僕はその違和感をなかなか明確に言語化できなかった。それで今回のアルバムのテーマについて深く考えていくうちに、その違和感を感じている状態こそが僕にとっては普通なんだというふうに思えるようになったんです。
──まさに“そのまま”ということですね。
小出 うん。で、さっき湯浅が言ったように、普通とは言っても人それぞれあるわけじゃないですか。例えばテレビでサッカー日本代表の試合をやってるとき、Twitterで「小出さんは今やってるサッカーを観ないんですか?」みたいに言われたりするんですよ。「応援するのが普通ですよ」みたいな。別に僕も「日本負けろ!」とかは思ってないけど、応援するかしないかは僕の勝手でしょ(笑)。応援しないと普通じゃないって、そんな暴論あるかよって思うわけです。“普通”っていうのは人それぞれあって、すごく曖昧なものなのに、それを多くの人が無理やり一般的な概念にしちゃってることに対して違和感を感じてたんです。
──本来多様であいまいな概念のはずなのに、“普通”という言葉で何かを共有した気になってるみたいな。
小出 そう。違うのに。なのに、今言ったサッカーの応援の話みたいに、振り切ったところではみんなつながろうとする。そのほうがわかりやすいから。それなんかちょっとよくわかんないんですけど、っていう。
──つまり「二十九歳」のテーマである“普通って何?”とは、いわゆる無意識下の同調圧力に対するアンチテーゼであると。そしてそれは同時に思考停止に対するアンチテーゼでもある、ということですね。では、その考えに至るきっかけみたいなものはあったんですか?
小出 きっかけというより、結局以前からあった自分の哲学に帰ってきたという感覚ですね。それが“決めつけない”ということなんです。
メンバーの関係性
──歌詞のテーマは非常に感覚的なものですが、小出さん以外の皆さんはこのニュアンスをすんなり受け入れることはできましたか?
関根 私はできましたよ。
小出 このテーマってすごい僕的だなって思わない?
関根 思う思う(笑)。それはまあずっと一緒にいるからやっぱりわかる感覚というのもあるし、私自身もそういう感覚を持っているから。でもこんなことをあえて歌おうとしたってところはやっぱりすごいと思いましたね。ロックバンドは歌いたいことを歌わなくてはいけないというのが持論なんですが、そういう面でも今回の「二十九歳」というアルバムはロックバンドのアルバムだなと感じています。
堀之内 こういうインタビューとか、ほかのバンドの子たちとかと話したりとかしてると、よくこういう話題になるんですよ。作詞作曲をボーカルがしてますってときに「みんなで話し合ったの?」って。でもうちはそういうの昔からまったくないんですよ。
──へー。
堀之内 まあでも、今後はあるかもしれないけど。
小出 ないよ、たぶん。
──はははは(笑)。
堀之内 だからそれがもう当たり前になっちゃってるんですよ。それにメンバーはもう家族よりも一緒にいる時間が長くて。取材タイミング以外でも、日常会話の中でそういう話が出たりするんですよね。そこでなんとなくわかっちゃう。こいちゃんが日頃どんなことを考えているか、とかさ。だから話し合いなんていらないんです。そもそも話し合いすると変な感じになっちゃうし(笑)。
関根 だよね。
堀之内 ほかのバンドさんからは「珍しいね」とか言われるんですけど、「いや僕ら的にはそれが当たり前なんです」という。だから事前にテーマなんて知らなくても、僕らの演奏がこいちゃんの考えてきたテーマと違っていたら、スタジオに入った時点で「なんかおかしい」って4人とも感じ合える。もうそういうレベルなんですよね。
湯浅 共感っていうほどじゃないけど、みんなこいちゃんが言わんとしてることを理解できるんですよね。
- ニューアルバム「二十九歳」/ 2014年6月4日発売 / EMI Records
- 「二十九歳」
- 初回限定盤 [CD+DVD] 3780円 / UPCH-29167
- 通常盤[CD] 3165円 / UPCH-20353
CD収録曲
- 何才
- アンビバレントダンサー
- ファンファーレがきこえる(Album Mix)
- Ghost Town
- yellow
- そんなに好きじゃなかった
- The Cut feat. RHYMESTER(Album Mix)
- 方舟
- The End
- ERAい人
- スクランブル
- UNDER THE STAR LIGHT
- PERFECT BLUE(Album Mix)
- 光蘚(Album Mix)
- 魔王
- カナリア
初回限定盤DVD収録内容
- メンバーによる初の公式インタビュー
- 2014年4月4日、TOUR「光蘚」ファイナル 名古屋ボトムラインでの最新ライブ映像 (全6曲収録)
Base Ball Bear(ベースボールベアー)
小出祐介(Vo, G)、関根史織(B, Cho)、湯浅将平(G)、堀之内大介(Dr, Cho)からなるロックバンド。2001年、同じ高校に通っていたメンバーによって、学園祭に出演するために結成された。2006年4月にミニアルバム「GIRL FRIEND」でメジャーデビューを果たした。2010年1月には初の日本武道館単独公演を実施。さらに全国のさまざまなライブやイベント、フェス出演も精力的に行なう。近年は他アーティストとのコラボレーションも盛んになり、2012年に7月に発表したミニアルバム「初恋」でヒャダインや岡村靖幸と、2013年6月リリースのミニアルバム「THE CUT」では、RHYMESTERや花澤香菜と、それぞれ共演している。2014年6月に約2年7カ月ぶりとなるフルアルバム「二十九歳」を発表。同年9月からは全国のライブハウスを回るツアーも実施する。