あらきがニューアルバム「IDEA」を8月10日にリリースした。
今作の発売を記念して、音楽ナタリーは長年あらきの楽曲の編曲やプロデュースを手がけているK.F.J(カンフージャンパー)とあらきへのインタビューを行った。近年のワンマンやツアーではK.F.Jがバンドマスターとしてステージに立つなど、音源制作のみならず、ライブの音作りにまで関わるようになったのはなぜなのか? Official髭男dismやi☆Ris、数々のアーティストのマニピュレーターとして全国を飛び回るK.F.Jが、あらきというボーカリストに力を貸し続ける理由に迫る。
取材・文 / 倉嶌孝彦撮影 / 斎藤大嗣
自分が好きな音楽と自分に似合う音楽は違う
──2人が出会ったのはいつ頃ですか?
あらき まだ「XYZ TOUR」が始まる前。2014年頃かな。
K.F.J 会場の規模は大きくなかったけど、「XYZ TOUR」と同じで僕がバックDJをしながらいろんなボーカリストが歌う、というイベントが当時たくさんあって。そのときが初対面でした。
あらき 今、僕らの界隈でサポートメンバーとして活躍しているKei Nakamura(B)さんや裕木レオン(Dr)さん、江畑コーヘー(G)さんと初めて会ったのもこういうイベントでした。
──イベントに出演していた多数のボーカリストの中でもK.F.Jさんとここまで近しい関係になったのは、あらきさんだけですよね。何がきっかけで2人は距離を縮めたんでしょうか?
あらき 僕がK.F.Jに興味を持ったのがきっかけですね。ライブではマニピュレーターとしてステージに立つことが多いんですが、彼はもともとギタリストで、掘り下げてみたらもっと奥に面白いものがあるんじゃないかなと思って。誰かが書いた曲を鳴らすこの人は、自分で曲を書いたりしないのかな?みたいな。
K.F.J 誰かの楽曲を編曲する機会はあっても、僕はライブのサポート中心に仕事を組んでいるから基本的には自分から能動的に曲を作るようなことをしてなかったんですよね。当時はトラックメインの曲を触ることが多かったから、ひさびさにバンドっぽい、ギターを弾きながら曲を作りたいな、という気持ちになりました。
──音源の制作をともにしたのは2019年にリリースされた「DRAMA & TRAUMA」が最初ですか?
あらき そうですね。このときはアルバム収録曲の8割くらいのプロデュースをK.F.Jにお願いしていました。
──K.F.Jさんは、それまで誰かのアルバムをプロデュースしたことはありましたか?
K.F.J なかったですね。単曲のプロデュースみたいなことはあっても、アルバム単位では「DRAMA & TRAUMA」が初めてでした。
あらき え、そうなの? てっきりできるもんかと思って頼んでたわ(笑)。
──K.F.Jにとって初プロデュースとなる「DRAMA & TRAUMA」は、どのように作り上げた作品だったんですか?
K.F.J 当時はあらきくんのバックボーンにある音楽をなるべくすくい上げながら、そこに多少の自分の色というか、ポップスっぽさを重ねていくようなイメージでした。でも、その方向性は作品を重ねるごとに少しずつ変わってきて。
あらき そうですね。これは自分でも気付いていたことなんですが、自分が好きな音楽と、自分が歌って似合う音楽というのは別なんですよ。僕はずっとパンクロックやヘヴィロックが好きでずっと聴いてきたけど、自分が歌ってもしっくりこないときがあって。もっとアルバムごと、楽曲ごとの方向性をちゃんと練り直していけないな、と考えているときに、K.F.Jに編曲してもらった「Trauma」という曲が完成したんです。この曲は、ロックじゃないしハイテンポでもないけどグッとくる歌に仕上がって、トップラインのメロディも気持ちよく歌えたんですよね。
──あらきさんと言えば「ヒバナ」や「スーサイドパレヱド」など激しいロックナンバーが似合うイメージがありますが、K.F.Jさんが編曲を手がけた「Trauma」や「Ark -strings arrange ver.-」「Relight」といった曲はスロウテンポで抒情的なものが多いですよね。
K.F.J 僕の影響はもちろんあるんだろうけど、とにかくあらきくんはいろんな音楽を聴いているんですよ。仲よくなって最近聴いた音楽の話をしていたら、意外とロック以外の音楽に触れていることがわかって。だったらいろんなサウンドアプローチであらきくんの新たな一面が見れるような曲はないかな、と思ってここ最近は一緒に曲作りをしています。それに、そもそも僕はあまりメタルっぽい曲は書けなくて(笑)。
あらき 言ってたね(笑)。「自分が持っているエフェクターだと歪まなくてメタルにならない!」って。
──あらきさんはK.F.Jさんが作る楽曲をどう感じていますか?
あらき リスナーとしてはいろんなジャンルを聴いて楽しんでいますけど、どうしても自分で作曲するには限界があるので、バンドサウンドもしっかり理解していて電子系のサウンドにも長けているK.F.Jの曲はすごくありがたいですね。おそらくフィーリングが合うんでしょうね。打ち込み系の曲を作ってもらったときのニュアンスが非常によくて、スネアとかすごくいい音がするんですよ。自分にできないことを、すごく自分に寄り添ってやってくれる。ここまでの作家はなかなかいないですね。
マニピュレーターだからこその生音へのこだわり
──作家的な側面だけではなく、ここ数年のあらきさんのライブでは必ずK.F.Jさんがサポートメンバーとして出演しています。
あらき 僕のライブにとっては欠かせない存在ですからね。ライブが始まる際のSEとかも全部K.F.Jに作ってもらってるし。
K.F.J 知り合って7年ぐらい経つし、アルバムも一緒に作ってるからライブの光景がすぐ思い浮かぶんですよ。だからSEを作るのとかは全然苦じゃなくて。
──K.F.Jさんはあらきさんのライブのバンドマスターも務めていますよね。そもそもライブはどのように作っているんでしょうか?
あらき 基本的には僕が最初にセットリストを考えて、リハーサルに入ります。で、2回目のリハでバンドメンバーの誰か、というかだいたいK.F.Jが「ここは違うんじゃないか」って言い始めて、そこから議論が始まる。
K.F.J うん。だいたい僕だね(笑)。何か言い出すのは。
あらき やっぱりバンドマスターでもあるので、ライブを作る責任を感じて、いろいろ提案してくれるんだと思います。セットリストって、最初は自分の先入観100%で組むから、けっこう気付いていないことがあって。K.F.Jから客観的な意見をもらえるのは非常に助かってますね。
──K.F.JさんはバックDJやマニピュレーターとしてステージに立つ機会が多いと思いますが、あらきさんのライブではギターやキーボードの演奏も兼任していますよね。
K.F.J マニピュレーターをやっているからこそ、リアルで届けたい音色というのが明確にあって、その部分は自分で音を鳴らすようにしています。音を流してもライブは成立するけど、この音を生にしたらもうちょっとグルーヴが出せるんじゃないか、みたいなことは常に感じていて。あらきくんのライブではある程度自由にやらせてもらえるので、曲によってはマニピュレーターとしての仕事をほとんど間引いてバンドサウンドメインにしたり、いろんな方向性で音作りを楽しんでいます。
あらき ギターを弾いてもらってるのはたまたま弾けたからだよね(笑)。もしベース弾きだったらベース弾いたままマニピュレーターをやっていたかもしれないし。そのうちサックスとか吹き始めるかも。
──要はマニピュレーターでありながら、ライブの音作りで必要なものになるマルチプレイヤーなんですね。
あらき 世にも珍しい“生マニピュレーター”だと思っています(笑)。
K.F.J この間のツアーはカバーが多かったから(参照:あらき、自身の真骨頂と新たな一面を見せつけたワンマン「撃壌之歌」)、今度はオリジナル中心のライブもやりたいよね。オリジナルのほうが曲が育つから。
あらき 自由な発想でセトリを組むと、これまではカバーの中にオリジナルが1、2曲みたいな割合だったけど、そろそろオリジナル曲が増えてきたのでオリジナルの割合を増やすライブをやってみたいですね。カバーとオリジナル、どちらも拮抗する力関係になってきたら、もっと面白いライブができるかなと思っています。
次のページ »
ロックもエレクトロも作れるK.F.Jへの発注