音楽ナタリー Power Push - ARAKI
異端の歌い手 初作品で体現した自身のスタイル
ARAKIが1stアルバム「THE SKY'S THE LIMIT」をリリースした。
ニコニコ動画に投稿した「ECHO」の“歌ってみた”動画が300万回以上再生され、「XYZ TOUR」や「EXIT TUNES ACADEMY」といったライブツアーに出演し、その知名度を上げている歌い手・ARAKI(あらき)。音楽ナタリー初登場となる今回の特集では、バンドマンだった彼が歌い手として活動することになった経緯のほか、「ECHO」の制作者である海外在住のボカロP・Crusher-Pへの新曲発注のやり取りなど、1stアルバム制作の裏話をたっぷりと聞いた。
取材・文 / 倉嶌孝彦 撮影 / 入江達也
この流れには乗っていかないと
──ARAKIさんが初めて“歌ってみた”動画を投稿したのは2013年8月ですが、何をきっかけに動画を投稿したんですか?
もともと僕はバンドをやっていて、そのバンドが一旦解散することになっちゃったんです。ライブハウスでライブもできないからどうしようかなーと思っていたら、ニコニコ動画っていうところに自分で歌った動画を投稿してる人がいるってことを初めて知りまして。それなら僕も武者修行をするつもりでやってみようと思ったのが最初ですね。
──ニコニコ動画に投稿されている音楽についてどう思いましたか?
初めてボカロ曲というものを知ったときは衝撃でしたね。こんな高くて早口で、息継ぎの暇もない曲があったのかって。そもそも人間が歌うものじゃないですし、男性が歌うものじゃないなって思ったんですけど、すでに僕がニコニコ動画に触れたときにはけっこうな数の男性の歌い手がいたんですよね。「なんだこの世界は」と驚きながらも「この流れには乗っていかないとな」と思って。
──そして歌い手として活動を始めるわけですね。
最初は歌い手の方々の研究から始めたんです。みんなTwitterをやってるんだなとか、動画の投稿文はどうやって書いているんだろうとか。その後、僕が唯一知っているボカロ曲だった「脳漿炸裂ガール」を必死で録音して動画を投稿してみて。それももう3年も前になるんですね。
──ARAKIさんにとって未知の世界に足を踏み入れたわけですが、視聴者の反応はどうでしたか?
最初はなんのリアクションもなかったです(笑)。「Twitter始めました」「動画上げました」ってただ1人でつぶやいてるだけでしたから。5作目、10作目くらいになってフォロワーが増えていくまでがなかなかしんどかったですね。何をやっても動きがないわけですから。
──ARAKIさんが歌い手としての活動に手応えを感じた瞬間はいつ頃ですか?
おそらく「僕は空気が嫁ない」の歌唱動画がきっかけですかね。それまで上げていた動画より、ちょっと数字が伸びたんです。「お、これは当たったかもしれないぞ」と思ったんですけど、次の動画では下がったりして、まあそれの繰り返しですよね(笑)。ただ、繰り返していくうちにだんだんと聴いてくれる人が増えていきました。
なんで男性で歌ってる人がいないんだろう
──歌い手として活動を始めたばかりのARAKIさんは「花色日和 」「二息歩行」などちょっと特殊な選曲でしたよね。
あまり知名度が高くない曲を歌うことがけっこう多かったですね。「もっと評価されるべき」みたいなタグでヒットする動画を観るのが好きで。僕、好きな歌い手さんが島爺さんなんですよ。島爺さんってあまり知られていないような曲を歌うんですよね。その攻め方というかスタンスって、誰もが憧れていると思うんです。
──ARAKIさんはどういう基準で自分の歌唱曲を決めるんですか?
最近は四つ打ちの曲をチョイスしがちですね。ライブでやるのを見据えて選んでる節がありますね。
──ARAKIさんの投稿動画の中で一番再生数を稼いでいるのは「ECHO」の“歌ってみた”動画です。この曲は海外のボカロPが作ったもので、歌詞はすべて英語。ほかのボカロ曲とはちょっと毛色が違うものですよね。
「ECHO」の“歌ってみた”動画をいろいろ観ていたんですけど、僕が聴いたのが全部女性ボーカルの動画だったんですよね。あれ、なんで男性で歌ってる人がいないんだろう、誰もいないんだったらやってみようかなと思いまして。もともと洋楽が好きだったから、英語詞を歌うことにもそんなに抵抗もなかったんですよね。
──洋楽好きにとっては待ち望んだ1曲だったのかもしれませんね。
「こういう曲がボカロ界隈でも出てきたか」って思いました。男性が誰も投稿してないってことだけじゃなくて、この曲はやっぱり僕が歌わなきゃなって思いましたから。自分のやりたいことをやったうえで、再生数もすごく伸びたので思い入れが深い1曲ですね。
リスナーさんはホントに優しい
──今年に入ってから「XYZ TOUR」や「EXIT TUNES ACADEMY」といったライブツアーに出演するようになったのもARAKIさんにとって大きな変化だったのかなと思います。
いやあ、すごくいい経験をさせてもらっています。もともとバンドを組んでいましたから、ライブハウスでは何度もライブをしてきたんですけど、今年のツアーで回ったような1000人とか2000人クラスの箱のステージに立ったことはなかったですから。まあ僕が皆さんの前でやることは、規模が小さくても大きくても変わらないんですけど、そういう心構えというか、度胸みたいなものは身に付いた気がします。
──バンドで活動していた頃とは全然違う経験をしているわけですからね。
バンドのときはファンとかいなかったですからね。誰も知らないようなライブハウスに行って演奏して帰ってくるみたいな毎日だったんです。別に固定のファンがいるわけでもなく、昔はずっと道場破りみたいなことばっかりしてましたから(笑)。だからリスナーさんとかはホントに優しいなって思いますね。
──今夏に行われた「XYZ TOUR 2016 -SUMMER-」はつい先日、ファイナルを迎えたばかりです(参照:luz、そらまふ、赤飯ら豪華共演「XYZ TOUR」札幌にて大団円)。ARAKIさんは今回ツアーの全公演に出演したわけですが、振り返ってみてどうでしたか?
冬にやった「XYZ TOUR 2016 -DJ Style-」とはまた違う感じだったんですよね。空気感も違うし、僕自身もメンバーとちょっと打ち解けてきたこともあって。各公演1つずつに思い入れがありますし、こうして無事大成功に終わらせることができて最高に楽しいツアーでした。
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- 1stアルバム「THE SKY'S THE LIMIT」 / 2016年9月28日発売 / Subcul-rise Record
- 初回限定盤 [CD+DVD] 2700円 / SCGA-00051~2
- 通常盤 [CD] 2300円 / SCGA-00046
CD収録曲
- ECHO
[作詞・作曲:Crusher-P] - サイレーション
[作詞・作曲:DECO*27] - ゴーストルール
[作詞・作曲:DECO*27] - 一騎当千
[作詞・作曲:梅とら] - アンチビート
[作詞・作曲:DECO*27] - TIME
[作曲:柴崎浩 / 作詞:ARAKI] - Again
[作詞・作曲:Crusher-P] - ひとりぼっちのユーエフオー
[作詞・作曲:ピノキオピー] - サイドワインダー
[作詞・作曲:MARETU] - only one
[作詞・作曲:tilt-six] - WAVE
[作詞・作曲:niki] - ヒカレルサテライト
[作詞・作曲:tilt-six] - Strangers
[作詞・作曲:Heavenz] - You've Made Yourself Clear
[作詞・作曲:Crusher-P]
初回限定盤DVD収録内容
- Again [Music Video]
- About me [Acoustic Session](Lyrics & Music_蝶々P)
- About me ~Behind The Scenes~
Amazon.co.jp限定ボーナスCD収録曲
未公開歌ってみたボーナスCD
- マインドブランド
[作詞・作曲:MARETU] - CITRUS
[作詞・作曲:Orangestar]
ARAKI(アラキ)
2013年8月にニコニコ動画に初めて“歌ってみた”動画を投稿し、歌い手としての活動をスタートさせる。2014年12月に投稿した「ECHO」の歌唱動画が300万再生を記録。そのほか数多くの投稿動画がニコニコ動画にて“殿堂入り”を果たし知名度を高めていった。2016年1月より開催されたライブツアー「XYZ TOUR 2016 -DJ Style-」に参加したほか、同年8月から9月にかけて行われたツアー「XYZ TOUR 2016 -SUMMER-」では、国内で実施されたすべての公演に出演。同年9月に自身の1stアルバム「THE SKY'S THE LIMIT」をリリースした。