あらき|集大成であり新境地、作家に委ねられた“PARADOX”を高らかに歌う

2020年から21年にかけて、“歌ってみた”音源の配信リリースや2度にわたる配信ライブの開催で、アーティストとしての存在感を放ち続けてきたあらき。そんな彼が全曲オリジナル曲で構成されたアルバム「UNKNOWN PARADOX」を6月16日にリリースした。

「UNKNOWN PARADOX」にはDECO*27、かいりきベア、すりぃ、堀江晶太(PENGUIN RESEARCH)、ユリイ・カノンといったボカロPたちによる書き下ろし曲を収録。さらにあらきの新境地を感じさせるサウンドの「Ark -strings arrange ver.-」など、彼自身が作詞を手がけた楽曲も収められている。新型コロナウイルスの感染拡大の影響でツアーが中止になったほか、自身がボーカルを務めるバンド・AXIZの解体が発表されるなど、激動の1年だったあらきはどのように「UNKNOWN PARADOX」を作り上げたのか? 苦境に立たされても決して攻めの姿勢を崩さなかった彼の思いを聞いた。

取材・文 / 倉嶌孝彦 撮影 / 後藤倫人

昔のボーカルは「やんちゃしてた」

──去年から今年にかけては新型コロナウイルスの感染拡大の影響でいろんなアーティストの活動が頓挫してしまったり、慎重になったりする中で、あらきさんは音源のリリースや配信ライブなどを活発にやっている印象があって。

そうかもしれないですね。僕も予定していたツアーが中止になったり、感染拡大の影響はもちろんあったんですけど、新たに生まれた時間で何をしようか考えたときに、意外とやれることはたくさんあるなと思って。レーベルの方やライブのスタッフさんたちにも協力してもらって、僕は僕なりの活動ができた1年半だったと思います。

──まずこれまで歌ってきた“歌ってみた”音源の配信リリースが3回にわたって行われました(参照:あらき「KING」「ベノム」など“歌ってみた”をサブスク配信)。なぜこのタイミングでこれまでのカバー音源をリリースすることに?

あらき

単純にいつか音源としてリリースはしたかったんです。ニコニコ動画にアップロードした動画に関しては「NicoBox」というツールがあるんですが、YouTubeでは有料登録しないとオフライン再生ができない、みたいに音楽の楽しみ方として動画しかないのはちょっと不便だなとずっと思っていて。通学中とか通勤中とか、もっと身近なところに寄り添えるように音楽を楽しんでもらいたくて、年代別に“歌ってみた”の音源リリースをすることにしたんです。あまり過去は振り返らないタイプなんですが、今回ひさびさに当時の音源を聴き返して、自分でもビックリすることが多かったですね(笑)。

──自分のボーカルを振り返ってどんなことを思いましたか?

「やんちゃしてたな」って感じですね(笑)。当時は「いかに目を引くか」ということを考えすぎていた気がして、例えばキーを変更して転調させたり、フェイクの類をここぞとばかりに入れたりしたものが多くて、やりたい放題やってたなと(笑)。よく作曲者たちに怒られなかったなと思うくらいでした。だんだん年数が進んで2020年あたりのカバーになると、けっこうシンプルに勝負している曲が多いんですよね。

──それは単純にあらきさん自身のボーカルが成長したからでもありますよね。

それもあるかもしれませんけど、最近のボカロ曲は曲に個性があるんですよね。シンプルなロックを歌うときはボーカルに個性があったほうがいいけど、そもそも曲が個性の塊みたいな曲ばかりなので、僕の個性を入れる余地がないというか。年代別に振り返ることで、自分のボーカルだけじゃなくて、界隈の曲の変化も追うことができるので、“歌ってみた”の配信は面白い試みだったと思います。

今回は平仮名の“あらき”寄りの作品

──さらにあらきさんはコロナ禍の中で配信ライブを2回にわたって行っています。ネット出身のアーティストの中でもあらきさんは早い時期から配信ライブに挑戦していました。

あらき

ネット界隈のボーカリストたちの中には「ライブを配信でやるべきかどうか」みたいな迷いがあったみたいなんですよね。要は僕らはこれまでライブの現場という限られた空間でしか顔を出してこなかったから、配信を使って不特定多数に向けて顔を出すのはどうなのか、みたいな話なんですが、僕は正直どっちでもよくて。特に顔を出すことに抵抗はなかったんです。僕の場合はライブをやっている時点で自分の顔を隠しているわけではなかったので、みんなが迷ってるなら僕は率先してチャレンジしていこうと思って。

──あらきさんには「ネット出身のボーカリスト」だけではなく、バンドマンとしての側面もありますよね。バンドマンとしてのあらきさんは、ライブハウスで無観客ライブをすることに対してどう感じていたんでしょうか?

やる前はどんなライブになるかあまり想像できてなかったんですが、実際にステージに立ってみると、フロアにはカメラマンさんとかスタッフさんがいるんですよ。それこそ、手売りでチケットをさばいている時代の客数に見えるくらいには(笑)。そう考えると、無観客だから気持ちが切り替わらないとかそういうこともなくて、いつも通りにライブをやれたと思います。逆にライブハウスという空間に僕らとスタッフさんしかいないから、スタッフさんと一丸になって作っている感はあって。いつものライブとは違う、新鮮な経験ができました。

──それともう1つ、昨年4月にあらきさんが所属するバンド・AXIZが“解体”を発表したこともご自身にとって大きな出来事だったと思います(参照:AXIZについて - ARAKI official site)。

AXIZというバンドは解体になってしまいましたが、ソロプロジェクトとしてのAXIZは残っているので、独り身になったとはいえスタンスとしては変わっていないんです。別にケンカ別れでもないからすぐ連絡を取ろうと思えば取れるし、ライブをやるときは力を貸してくれるんで。

──あらきさんにとってAXIZは1つの居場所として機能していたと思うんです。それがなくなることで「あらき」としての活動にも少なからず影響はあるんじゃないですか?

あらき

実を言うと、僕自身もまだ自分の中でどう折り合いを付けていくのかわかってないんですよ(笑)。バンドを解体してソロに専念することになったものの、とりあえずはソロとして昔からやってみてかった全曲オリジナルのアルバムを作ってみたかったから「UNKNOWN PARADOX」をリリースすることにして。今回は平仮名の“あらき”寄りの作品が完成した、という認識なんです。

──ということはバンド寄りの作品も今後出てくるということですか?

そうですね。バンドでやってきたことの延長線にあるような作品も作ってみたいです。