昨年に結成5周年を迎えた「ラブライブ!サンシャイン!!」のスクールアイドルグループAqours。5月に行われる予定だった静岡県・つま恋リゾート彩の郷での大型ライブは新型コロナウイルス感染症拡大の影響で残念ながら中止になってしまったが、CYaRon!、AZALEA、Guilty Kissのアルバムの発売やユニットライブの開催、ベストアルバム「Aqours CHRONICLE(2018~2020)」の発売など、彼女たちは歩みを止めることなく活動を行ってきた。中でもAqoursにとって、そして「ラブライブ!」シリーズにとって新たなチャレンジだったのは、5月に公開された初の実写PVだ。PVが制作されたのは、CDボックス「ラブライブ!サンシャイン!! Aqours CLUB CD SET 2021」の収録曲「DREAMY COLOR」。Aqoursの拠点である静岡・沼津にて、“羽”をキーアイテムに希望に満ちた9人の表情やダンスシーンが撮影された。
音楽ナタリーでは2021年のAqoursの大きな挑戦をクリエイター陣の座談会で振り返る。座談会には「DREAMY COLOR」のPV監督の東市篤憲氏、同曲の作曲および編曲を手がけた岡嶋かな多氏とMEG氏、これまでAqoursの振り付けを担ってきたコレオグラファーの石川ゆみ氏、「DREAMY COLOR」の衣装を手がけたTAKUTY氏の5名が参加している。
また特集の最後には、Aqoursの9人からのコメントも掲載している。
取材・文 / 音楽ナタリー編集部
400枚のスクショ
──今回のPVはAqoursにとって初の試みとなりましたが、どういう経緯で東市さんに監督のお話が?
岡嶋かな多 数年前、もともとお仕事で交流のあった「ラブライブ!サンシャイン!!」の音楽プロデューサーさんに「すごい映像クリエイターがいる」と、東市さんが手がけたPVを見せたことがあって。以来、音楽プロデューサーさんがいつか東市さんと仕事がしたいとずっと思っていたそうで、Aqours初の実写PVの企画が上がったタイミングで「とにかくお話したい」というので東市さんに連絡したら、皆さんで話しましょうということになったんです。
東市篤憲 すぐに打ち合わせをしたんですけど、なかなか終わらなくて(笑)。
一同 (笑)。
東市 打ち合わせでは皆さんの「ラブライブ!」シリーズへの愛をシャワーのように浴び続けていました。そこで僕も、会社の子に勧められたのをきっかけに2020年の1月に「ラブライブ!」シリーズ9周年の「ラブライブ!フェス」をいちファンとして、自分でチケットを取って観に行っていたことをお話ししたんです。一般席は取れなくて、ステージ真裏の完全見切れ席だったんですけど、それでもAqoursの皆さんの歌声とお客さんの熱気に圧倒されて、Tシャツも買ったりして。そのときはこんなオファーを受けるとは思ってもいませんでしたね。ただ、事務所でお話しした時点ではまだ曲も何もない状態で。
岡嶋 あくまでもコンペティションで決まるものなので「私の曲になるかどうかはわからないんですけど……」みたいな。
東市 それから3、4カ月して、結果的にかな多さんとMEGさんが共作した楽曲が選ばれたというストーリーがあるんですけど、そこからがけっこう大変で。やっぱりコロナ禍なのでみんなで沼津に行くのも難しくて、タイミングを見計らって最小人数の主要スタッフだけでシナリオハンティングをしたり。スタッフさんから「東市さんに沼津を知ってもらいたいので、まずは来るところから始めてください」と言われて、それまでに「ラブライブ!サンシャイン!!」のテレビアニメシリーズから映画まで3回観直しました。その中で心に残ったシーンをスクショしていたら400枚ぐらいになっちゃって(笑)。いろんなシーンを体に染み込ませて曲を聴いた感じです。
新しいことをやりたいんだろうな
岡嶋 さっき言ったようにコンペに通らなきゃいけなかったんですけど、こんなに素敵な座組で、しかも初の実写PVなので、MEGさんに「絶対獲りたくないですか? 獲りましょう!」と熱をぶつけまして。「DREAMY COLOR」はサーフをテーマに、海をイメージさせるサウンドとダンスミュージックの融合を目指しつつ、やっぱり実写なので、よりキャストの皆さんが活きるにはどうすればいいかを考えながら作っていきました。
MEG コンペの概要を見たとき、きっとAqoursとして新しいことをやりたいんだろうなと思ったんです。とはいえ、僕も「ラブライブ!」シリーズのファンで、初代からずっと観ているんですけど、例えばオープニングテーマとか、代表曲には疾走感がある曲が多いんですよね。なのでそうした従来の雰囲気を残しつつ、同時にそれを更新するような楽曲をイメージしました。個人的に楽しかったのが、サーフということで、かな多さんが「ウクレレを入れるのはどう?」とアイデアを出してくれて。知り合いのミュージシャンから借りてきたんですけど……。
岡嶋 ロックギタリストのMEGさんがウクレレを(笑)。
MEG コードも何もわからなかったので難しかったですね。本番はウクレレシンガーのKAIKIさんに弾いてもらったんですけど、デモは自分でコードブックを見ながら弾きました。ちなみに、KAIKIさんも音楽プロデューサーさんがご一緒したかったミュージシャンだったそうで、二つ返事で参加OKがでました(笑)。
東市 「DREAMY COLOR」を初めて聴いたとき、海面に光がキラキラ反射しているような情景が浮かんだんですよ。沼津で撮影するということもあり、海は絶対に絡めるつもりだったんですけど、例えばアニメで(黒澤)ダイヤちゃんが砂浜に「Aqours」と書いていたシーンを、ダイヤちゃんを演じる小宮(有紗)さんになぞってもらうとか、そういうイメージがパッと湧いて。コンテもさらさらっと描けました。
MEG 正直、曲を作っているときは実写PVというのをイメージできなかったんですよ。もちろんライブやイベントでご本人たちが映っている映像は拝見していたんですけど、「沼津で撮るから、海辺かな」ぐらいにしか思っていなくて。でも、完成したPVを観ると、とてもアーティスティックで、特に個々のメンバーのイメージカットは、日本のアイドルグループというよりはK-POPとか海外のアーティストっぽい映像の質感になっていて、すごく感動したのを覚えています。
「まだまだ行ける」って思ってます
──東市さんと同じく、スタイリストのTAKUTYさんも今回が初のAqours仕事になるんですよね。
TAKUTY 僕はもともと東市さんとはよく仕事をしていて、普段は東市さんからオファーしてもらうことが多いんです。でも、今回は音楽プロデューサーさんからご連絡をいただいて。数年前に別のアーティストのスタイリングを担当していたのですが、その際に音楽プロデューサーさんとご一緒していたんです。それで「監督は誰ですか?」と聞いたら「東市さんです」と。
石川ゆみ 音楽プロデューサーさんの夢も詰まってますね。
TAKUTY 正直に言うと、僕は「ラブライブ!」シリーズもAqoursもよくわかっていなかったんですけど、「ラブライブ!サンシャイン!!」のBlu-rayや過去の衣装などを拝見して、比較的わかりやすいアイドル像をイメージしまして。今回は“羽”というテーマをいただいたので、最後のダンスシーンの衣装はまさに羽をデフォルメしたようなアイドルっぽい衣装と、リアルな羽を胸元にあしらったグラデーションカラーの衣装の2パターンのデザイン画を提出したんです。そしたら、今回はアニメではなく実写という新しい試みということで、後者が採用されました。その後の話し合いの中でダンスのことも伺ったので、より大きな動きができるような素材感とデザインに仕上げたつもりです。
──一方で石川さんは「ラブライブ!」シリーズ立ち上げ当初から振り付けを担当されていますね。
石川 今までの「ラブライブ!」シリーズの振り付けは、やっぱりアニメの世界観と劇中メンバーを大事にしつつ、どちらかというと元気にかわいく動いていたり、「届かないところに届きたい」という気持ちが体に表れるようなものが多かったんです。でも、今回は初の実写で、音楽プロデューサーさんからも「TAKUTYさんの衣装がすごく素敵だから、コンテンポラリーダンスっぽい要素を入れてほしい」と言われまして。なおかつ楽曲も壮大なので、“きれい”とか“かわいい”というラインを崩す方向で、よりアーティスティックに、本人たちがこれからさらに成長していくための第一歩をどうやって引き出すかを考えて作りました。
──Aqoursの皆さんの反応は?
石川 戸惑ったと思います。普段のようにキメを作るというよりは、それこそ“海”のような、イメージはしやすいけれど抽象的なものを表現する必要があったので。音の取り方にしても、いつもだったらファンの人たちにもわかりやすいようにするんですけど、今回はちょっとトレンドを意識しつつ、一筋縄ではいかない感じになっているんですよ。「難しくなりすぎちゃったかもしれない」とお伝えしたのですが、キャストのみんなは「難しいいい!」「こんなの踊れるの?」とか騒ぎながら、楽しそうに練習していました。でも私はキャストのスキル的に「全然。まだまだ行ける」くらいに思っているんですよ。上限なんて決めていないので。大事なのは柔軟性を持って新しいことにチャレンジしていく姿勢ですし、中には無言で練習に打ち込んでくれるメンバーもいて、それが相乗効果となって9人全員でパフォーマンスを底上げできるようになればいいなと。そしてTAKUTYさんのお衣装は本当に素敵なので、可能なら実物をご覧になっていただきたいですね。
TAKUTY ありがとうございます。パッと見は学年ごとにブルー系の3色に分かれているように思うかもしれないんですけど、実は1人ずつ色が微妙に違っていて、9人全員でグラデーションになるように染めているんです。なので、ゆみ先生にダンスの立ち位置をちょっと変えていただいたりして。
石川 そうそう。グラデーション順に位置を変えましたね(笑)。
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このPVはグローバルスタンダードになってほしい