ano「愛晩餐」インタビュー|自らの過去と向き合い、ドラマ「惡の華」主題歌で解放したアバンギャルドな衝動 (2/2)

仲村さんを演じて気付いたその「優しさ」

──主題歌の情報が解禁された際、anoさんは「仲村として群馬で過ごした日々があったからこそ完成した曲です」とコメントされていました。実際に桐生市で役を演じた経験は、具体的にどう楽曲に反映されているのでしょうか?

マンガを読むだけじゃあんまり感じきれていなかった、仲村さんの春日に対しての欲望だったり、春日が仲村さんに向ける眼差しとかだったりを、演じることでより感じられたなって思って。あくまで自分の中の想像だけど、「仲村さんはこんなことを考えてたのかな」というのが、演じることで僕自身からいろいろ湧いてきたんです。Cメロ部分のめちゃくちゃな感じは、仲村さんの自分でもよくわからなくなってる感情に、僕の魂も重なっていて、かなりお気に入りです。

──演じてみて、仲村さんというキャラクターへの捉え方は変わりましたか?

マンガを読んでるときはそんなこと思わなかったんだけど、演じながら「あっ、仲村さんって優しいんだ」って気付いたのが、一番変わったところです。2人は純粋な恋愛の関係ではまったくないけど、奴隷扱いみたいなのとも違っていて。仲村さんは春日に対する支配欲がすごく強いし、その欲を向けられた春日は仲村さんを特別な存在だと思ってて。そういう関係性も曲に出てると思います。

──例えばどういうシーンで仲村さんの優しさを感じましたか?

具体的なシーンじゃないんですけど、僕だったら春日みたいな人に対して構ってらんないというか、構いたくないなって思っちゃう。僕自身、他人からすごく依存されやすくて「自分にとっての特別な人」って思われがちなんですけど、そういうのが面倒くさいなって感じるときもあって。でも仲村さんは、なんだかんだ春日のことも特別な人間として評価してるじゃないですか。「本物の変態だ」って。それってすごく優しいことだなと、自分との対比で思ったんです。

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──逆に、仲村さんとanoさんの共通する部分は何か感じましたか? こういうところは理解できる、みたいな。

ただただ素直に生きているところ。自分の感情に嘘をつかずに生きているからこそ、周りのほうが異常なことをしているように見えてる、というのはすごく共感しちゃいますね。僕自身もずっとそういう渦の中で生きてきた感覚があるので、「まさに」って感じ。「惡の華」を知ったのは、周りに勧められてマンガを読んだからなんですけど、仲村さんを見ていると「自分は間違ってないんだ」って思わせてくれる、すごく自分に寄り添ってくれてるというか。同時に、すごく孤独を抱えてるだろうなとも思いました。

──そういう話を聞いていても、anoさんが仲村さんを演じることに説得力があるというか、役とご自身の感覚が地続きになっていることがわかります。キャスティングの話でいうと、鈴木福さんが春日役というのも絶妙だと思っていて。20代になった今も“福くん”と呼ばれて、日本中の多くの人から“お利口さんな子”のようなイメージを持たれている彼に対して、anoさんが「自分の中の変態を全部さらけ出せ」と詰め寄るというのは、想像するだけで面白そうです。

福くん、そういうこと言われてるときの顔がうまかったです。

──実際にお二人で演じてみて、フィットする感覚はありましたか?

ありましたね。演技じゃなく本当にムカついたし。いや、単純なムカつきじゃなくて、いろんな感情でイライラしてきて。脚本が用意されているからそうしたんじゃなくて、本当に春日に対して、ぶわーっと内から出る衝動がありました。

──中学生を演じるにあたって、当時のご自身のことを振り返るようなことはありましたか?

「惡の華」と向き合うと、やっぱり自分の中学生の頃を思い出しちゃいますよね。あのときは本当に浮いてたし、1人だけ別の教室に移動させられたりもして。教室を荒らしたこともあるし(笑)、仲村さんと重なる部分が多いんですよ。でもだからこそ、あんまり重ねすぎずに演じることを意識しました。仲村さんは僕じゃないし、僕も仲村さんじゃない。自分の感情のままでやらずに、仲村さんの心の中にある気持ちをちゃんと考えながらやろう、って。何回も何回もマンガを読み返しながら撮影してました。

真部さんってこんなこともできるんだ!

──その演技に対する距離感が、「仲村さんの歌でもあるし、anoさんの歌でもある」という「愛晩餐」の絶妙なバランスにつながったのかもしれないですね。曲の話に戻りますが、anoさんは作詞作曲しているときに、サウンド面についてどういうものをイメージしていたんですか?

僕から真部さんに「イントロのベースはこうしたい」とか「ここにストリングスを入れたい」とか、今まで以上に細かいことを言って作ってもらったんですよ。真部さんはそれに応えてギリギリまでがんばってくれたし、僕の脳みその中にあったものを本当に忠実に再現してくれて、めちゃくちゃ感謝してます。僕は真部さんに対して、相対性理論の曲とか、これまでに作ってもらった僕の曲とかのイメージがあったんですけど、こういう雰囲気の曲は聴いたことがなかったから、こんなこともできるんだ!って思いました。「真部さんらしさ」みたいな部分がちゃんとありつつ、こういう感じになったのは、僕との掛け合わせがうまくいったんだろうなと思う。

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──僕は「愛晩餐」を聴いて、「Sonic Youthみたいな音だな」と思ったんですよ。

あ、うれしいです。そう言ってもらえるの。確かに最初に取りかかったときは、ゴリゴリに渋いバンドみたいなことをしたいと思って始めたので。

──絡み合って不協和音になる左右のギターとか、突っ走るように連打されるヘビーなタム、サビに入る瞬間のanoさんのシャウト、崩壊してほぼノイズと化したCメロとか、いろいろなところにSonic Youthっぽさを感じましたし、そういうアンダーグラウンドなアプローチをポップミュージックに落とし込んでいる曲はあまり聴いたことがないので驚きでした。

Cメロのアレンジについても、オーダーに忠実にやっていただきました。けっこういろいろお願いしたんですよ。最初もっとノイズだけだったんだけど、ちょっと違うなと思って、パーカッションとか太鼓も足してもらったり。Cメロは最後に作っていて、ここだけほかのパートとは違う空間をイメージしてたので、別の空気感を持たせたかったんです。だから歌い方も変えてるし。ここがあるのとないのとでは、全部を通して聴いたときの印象がけっこう変わるので、入れてよかったです。

──そうそう。このノイズパートで、何かに追われているような焦燥感みたいなものが立ち現れる分、ラスサビに入ったときの開放感がグッと増すんですよね。

あとサビの後半の「価値無い愛いらない」からの部分も、前半でポップに弾けてるところから急に落ち着いた感じになるんですけど、もともとはここも前半と地続きでけっこううるさめだったんですよ。それも僕のこだわりで音を減らしてもらって。そのへんも気に入ってます。

──すでにホールツアーで演奏してはいますが、この取材をしている時点で世に出ている音源は、ドラマのティザーで流れているサビだけなので、みんながフルサイズで聴けるようになるのが楽しみですよね。

うん、ミュージックビデオが公開されるのが楽しみ。サビだけだと伝わらないと思うし、フルで聴いてほしい。イントロを聴くだけでグっとくるので、この曲は。

──今までいろんなタイプの曲を作ってきた真部さんにとっても、たぶんあまりやったことのない挑戦をしているんだろうなと感じました。

「Cメロはこういう感じで」みたいに口で伝えてたんですけど、けっこう苦笑いされました(笑)。「できるかな……?」みたいな不安な顔に見えて、僕もちょっと不安だったんですけど、何回かやりとりを重ねたらバッチリのものになったので、さすがだなと思いました。

──真部さんがライブのサポートメンバーでもあるから意思疎通しやすかった、というのもありそうですね。

確かにありました。やりやすかったですね。リハに入ってるときは直接会えるし。

──anoさんから見て、真部さんはどんなアーティストですか?

真部さんにかかわらずですけど、ライブのバンドメンバーはTAKU(INOUE)さんも西浦(謙助)さんも、永山(ひろなお)さんも、みんなめっちゃ柔らかくて優しくて、本当にトゲひとつないような性格の人たちで。だけどなんか心の奥底に、ぶっといトゲがあるのがパフォーマンスに出てるんです。そこがめっちゃカッコいいし魅力的ですね。なんでこんな人ばっかりそろってるんだろうって不思議。

──確かに(笑)。

その中でも真部さんは、一番パフォーマンスが激しいので存在感があるなと思う。パンクな人だなってイメージです。

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僕1人だけでやるライブってどんな感じなんだろう?

──7月10日に東京・東京キネマ倶楽部、7月12日に大阪・大阪市中央公会堂で、ファンクラブ会員限定公演として弾き語りライブ「天国未遂 Vol.1」が開催されることが発表されましたね。「弾き語りライブをやってみたい」ということは、ソロ活動開始時からanoさんは何度かインタビューでお話ししていて、僕自身とても期待していたので「ついに!」と思いました。

別にまだ何をやるかとか決めてないんですけど、ただ弾いて歌うだけで、凝ったことはしないつもりです。シンプルイズベストで。けど、僕の曲はあんまり弾き語りに向いてないものも多いので、何を歌うかはちょっと厳選されちゃうとは思うんですよね。そのへんがどうなるかなってことで、試行錯誤しています。

──じゃあ、ここで手応えを感じたら、もしかしたら……。

続くかも。

──1人きりの弾き語りライブという初めてのことに、今このタイミングで挑戦してみようと思ったのは、何か理由があるんですか?

なんだかんだやってなかったけど、ずっとやりたかったことだから、っていうのが一番にあって。でも、タイミングはここしかなかったんですよ。去年はそういうことができるようなスケジュールじゃなかった。もうどんどんいろんなことが決まっていくし、早めに会場を押さえなきゃいけないから、ようやくできるようになった、って感じです。

──アーティストとしてキャリアを積んだことで、完全に1人だけでステージに立てると思えるようになったとか、そういう心境の変化もあったのかな?と思ったんですが。

「1人で立てる!」みたいな確信ではなくて、「立ってみたいな」と思えるようにはなったというか、そっちに近いかな。やっぱり、バンドと一緒にやるライブってめっちゃ楽しいから、どっちのほうがいいみたいな話ではもちろんなくて、単純に「僕1人だけでやるライブってどんな感じなんだろう?」ってことに興味津々みたいな感じです。

──ファンにとってもその興味はあると思いますよ。

そうですよね。日本武道館で「SWEETSIDE SUICIDE」をアコギ1本で歌ったりもしたけど、それまでバンドセットの曲が多いから弾き語りもする人だとは意外と思われてないかもしれない。どうなるか楽しみにしててください。

公演情報

「ano Hall Tour 2026 DUAL DINER」

  • 2026年3月7日(土)神奈川県 厚木市文化会館
  • 2026年3月14日(土)愛知県 Niterra日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
  • 2026年3月28日(土)宮城県 東京エレクトロンホール宮城
  • 2026年4月4日(土)香川県 サンポートホール高松
  • 2026年4月19日(日)福岡県 福岡市民ホール
  • 2026年5月9日(土)広島県 JMSアステールプラザ 大ホール
  • 2026年5月16日(土)新潟県 新潟テルサ
  • 2026年5月22日(金)北海道 札幌市教育文化会館
  • 2026年5月31日(日)大阪府 グランキューブ大阪(大阪府立国際会議場)
  • 2026年9月4日(金)東京都 東京ガーデンシアター(※追加公演)

「天国未遂 Vol.1」

  • 2026年7月10日(金)東京都 東京キネマ倶楽部
    [第1部]OPEN 16:00 / START 17:00
    [第2部]OPEN 19:00 / START 20:00
  • 2026年7月12日(日)大阪府 大阪市中央公会堂
    OPEN 16:00 / START 17:00

プロフィール

ano(アノ)

2020年9月に「ano」名義で配信シングル「デリート」をリリースし、ソロアーティストとしての音楽活動を開始。2022年4月にアニメ「TIGER & BUNNY 2」のエンディングテーマ「AIDA」でTOY'S FACTORYよりメジャーデビュー。2022年11月にはアニメ「チェンソーマン」第7話のエンディングテーマ「ちゅ、多様性。」が大きな話題になった。アーティスト活動の傍ら、映画やドラマ、バラエティ番組などさまざまなフィールドでマルチに活躍。2024年公開のアニメ映画「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション」で声優に初挑戦し、ano feat. 幾田りらとして制作した主題歌「絶絶絶絶対聖域」もヒットを記録した。2025年9月に初の東京・日本武道館公演を開催した。2026年4月、自身が鈴木福とW主演するドラマ「惡の華」に書き下ろした主題歌「愛晩餐」をリリース。