映画「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション」前章の主題歌となった「絶絶絶絶対聖域(ano feat. 幾田りら)」、アニメ「らんま1/2」のオープニングテーマ「許婚っきゅん」、劇場版「僕とロボコ」の主題歌「ロりロっきゅんロぼ♡」、I'sのラストシングルとなったドラマ「【推しの子】」第4話の主題歌「Past die Future」──anoの2ndアルバム「BONE BORN BOMB」に収録されたこれらのタイアップソングは、どれも原作に寄り添った世界観で視聴者から支持されてきた。6月28日に配信スタートするアニメ「タコピーの原罪」のオープニングテーマ「ハッピーラッキーチャッピー」もまた、そんな1曲になることは間違いないだろう。
その一方で、先行シングルとなった「YOU&愛Heaven」「愛してる、なんてね。」「この世界に二人だけ」などの曲では、これまで以上に自身のパーソナルな部分に深く踏み込み、それをリスナーに対してさらけ出している。今やタイアップ曲の作家として実績と信頼を持つアーティストとなったanoと、生々しいほどに正直に自分自身を歌にするシンガーソングライターano。そのどちらの面においても飛躍的な成長を果たしたのが今回のアルバムなのだ。
本稿では「BONE BORN BOMB」収録曲の制作エピソードを中心に、音楽制作と向き合う考え方の変化や、サポートメンバーが増えたここ最近のライブ、そして9月の日本武道館単独公演を前にした心境などについてインタビュー。1万字を超えるテキストで、彼女が今アーティストとして抱えている本心に迫った。
取材・文 / 橋本尚平撮影 / 星野耕作
この数年で使命感みたいなものをめちゃくちゃ感じてる
──これだけ忙しいのに、こんなにたくさん曲を作ってるの、シンプルにすごいなと思いました。たぶん、いろんなことの合間を縫って制作してたんだろうなって。
はい。大変ではありました。でも音楽はやりたいので、寝る時間を削ったりしながら作ってました。
──達成感はありますか?
ありますね、やっぱり。すごいスケジュールの中でよくやったなって思うし、もちろんですが、適当な曲は1つもない。胸を張って「このアルバム聴いてほしいな」って言えます。
──1stアルバム「猫猫吐吐」はソロ活動を始めてからの数年間を全部詰め込んだ集大成的な内容でしたが、それと比べると今回は、なんとなくアルバム全体としてのまとまりを感じました。既発曲も多いですが、のちのちこのアルバムに入れることを見据えて作っていたのかなという気がして。
そうですね。コンスタントに曲を出してきたけど、アルバムを作るとなったときに、そこに入っても恥じないような、ふさわしい曲にしようと思って1曲1曲に向き合ってました。伝えたいことはどの曲も一緒だなと思いながら。
──ソロ活動を始めたばかりの頃は、「みんなに聴いてもらうことを考えて曲を作っていなかった」という話をしていたと思うんですが、「伝えたいこと」を意識していたということは、曲作りに対する向き合い方が変わったんですかね。
結果論だけど、そうですね。僕は感情を吐き出す手段が音楽しかないので、曲を作ると自分自身も救われるし、それによって聴いてくれた人の心が軽くなるきっかけになるといいなとも思ってて。「デリート」(2020年発売の1stシングル)の頃は誰かが聴くとか本当に何も考えずに歌詞を書いてたけど、この数年で使命感みたいなものをめちゃくちゃ感じてるんです。
──使命というのは?
言葉にするのは難しいけど、自分に嘘をつかず、自分自身にも誰かにとっても絶対的な存在でいること。別にそこまで思い詰めなくていいよって言う人がほとんどだと思うけど、自分に正直になることが結果的にみんなにとってもプラスになるのかなって。
──「デリート」の頃のあのさんからは「たとえ誰であっても迎合しない」みたいな空気を感じていたので、たぶん「みんなにとってプラスに」という言葉は当時は出てこなかったんじゃないかなと思いました。何かそう思えるきっかけがあったんですかね?
前に、僕自身がものすごく追い詰められちゃった時期があって、がんばって音楽で自分のことを救おうとしてたんですよ。その頃から自分に対しての思いがどんどん強くなってきて……だから「みんなのために」っていうより、自分への執着なんです。
──執着?
僕は生きてるだけで膨大に批判され続けてるから、それに対して「うるせえよ」「黙れ」みたいな気持ちがすごくあって。そういう感情が増せば増すほど「自分はこうでありたい」「こうあるべき」「これが自分だ」っていうことへの執着が強くなっていく。たぶん、それが曲に出るようになったのかなと思います。
自分や音楽に対して諦めてる感じが嫌だった
──音楽に対する思いは、以前と比べてどうでしょう?
「好き」って気持ちが前より強くなってますね。ポップな色も入れられるようになったし。やりたいことができているから。
──「やりたいことができている」というのは確かに感じます。あのさんが2021年にI'sを結成したときに、僕は「anoでできないことをI'sでやろうとしてるのかな?」と思ったんですよ。でもたぶん今、anoでできないことって何もないじゃないですか。
うん。もともとクリエイティブなことをイチからやりたいと思ってたんだけど、最初はanoでの活動が純度100%の自分かって言われたら、まあそうじゃなかったから。ソロに対してマイナスな気持ちが正直大きくて、anoでできないことをI'sでやろうと思ってたところはあった。でもそれってなんか、自分や音楽に対してあきらめてる感じがすごくして。自分で限界を決めてるなっていうのがすごく嫌で、「いや、もっとできるんじゃない?」みたいな気持ちにどんどんなってった。
──なるほど。
「ソロでできないことをバンドで」って言っても結局、僕はメンバーとコミュニケーションが取れなくてどんどんすれ違っていくし、誰かが「こうしよう」って言ったときに、自分にやりたいことがほかにあっても圧に負けて「うんいいよ」って答えちゃってた。ソロでやる自信もないしバンドもうまくやれないから、「じゃあ、根本的に音楽向いてないんじゃないか?」って悩んだりもして。でも「何をやってもダメって勝手に自分で決めつけてないで、そんな自分をブチ破んないと無理じゃない?」と思って、わがままでいいから音楽をやろうって覚悟を決めたんです。今回のアルバムの最後に入ってる「Past die Future」はもともとI'sのラストシングルだけど、もう完全に、そういう“限界を決めつけていた自分”が嫌いで殺したいという気持ちで作った曲。だから作ってる段階から「ソロでも歌いたいな」と思ってたんです。
──ああ、そういう曲だったんですね。
この曲はかなり自分と向き合って、アレンジとかもメンバーには「ここはこうやって叩いてほしい」とか「ここはコーラス入れたい」とか細かく言って一緒に再現してもらいました。メンバーからも意見を言われたりメロディが送られてきたりしていつもみたいに譲りそうになったけど、それでは今までと同じ、そんな自分を殺さないとこの曲は完成しないと思って、責任を持ってこのメロディと歌詞でいかせてほしい旨を伝えました。なのでこの曲は自分の意思の純度がかなり高いです。だから胸を張ってソロで歌える。あと、「Past die Future」はドラマ「【推しの子】」第4話の主題歌として書いているし、これは僕がMEMちょ役を演じてたから歌えた曲なんです。
──とはいえ、I'sは本当にいいバンドだったと思いますし、あのさんにとってその経験は糧になっているんだろうなと、端から見て感じていました。
そうですね、変われなかったり周りのことが理解できなかったり理解されなかったりというのは、僕に問題があると思うし、やっぱり自分には集団行動は難易度が高いなってわかったけど、だからこそ「バンドのよさ」はすごく感じました。本当にやってよかったなって思います。I'sを。
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世間からナメられてることへの抵抗