angela|オリジナルアルバムだからこそ伝えられるメッセージがある

KATSUの師匠は「ポニーテールはふり向かない」の伊藤かずえ

──次の新曲「Do it!」は、「乙女のルートはひとつじゃない!」の路線を引き継ぐようなポップ属性の曲ですね。

atsuko 束の間のパーティタイムです(笑)。たぶんバトル属性の曲ばっかり作っていたので、明るい曲を作りたくなったんですよね。アレンジ的にも80年代のポップスを意識して。

KATSU 今回のジャケットの雰囲気に一番合っている曲ですね。80年代サウンドを今のコンセプトと今の環境で録るとどうなるかっていうのにチャレンジした曲で。僕、もともと80年代のサウンドが好きなんですよ。いい意味で遠慮のないダサいフレーズとか。

atsuko 遠慮のないダサいフレーズ(笑)。

KATSU 「なんでここにこんなフレーズが?」みたいな曲だらけだし。実は「Do it!」を作るにあたってシンディ・ローパーの曲とかを参考にしたんですけど、音のバランスは変なのに楽曲の世界観としてはすごく完成されている。なおかつその違和感がインパクトにもなっていて、音楽的にはそういうものを目指しました。

──アルバムジャケットのatsukoさんもシンディ・ローパー感がありますね。

atsuko ありますあります。でも、KATSUさんに言わせれば「ポニーテールはふり向かない」の伊藤かずえさんなんだよね。

KATSU(G, Key)

KATSU 「ポニーテールはふり向かない」は1985年から1986年にかけて放送された大映ドラマで、僕が小学生の頃に母がよく観ていたんです。伊藤かずえさん演じる主人公は「ミッキー」という愛称のドラマーで、父親の形見のドラムスティックを常に携帯していて、そのスティックで不良とケンカするっていう。ミッキーはロックバンドを結成するんですけど、それがきっかけで幼い僕はバンドに興味を持って。地元のお祭りに出てたバンドのドラマーを見て「あ、ミッキーだ」とか思ってたんです。

──KATSUさんがドラマー出身なのはそういう背景が。

KATSU そう。だから僕の師匠は伊藤かずえさんなんです。

atsuko アルバムの歌詞カードの中に、私がなぜかドラムスティックを持って映画を観てる写真とかがあるんですよ。どう考えても不自然ですよね?

KATSU ミッキーなので、父親の形見は常に持ってなきゃいけない。

atsuko しかもそのスティックは、一昨年の12月に亡くなったドラマーのmasshoi(山内優)くんが使っていたものなんです。KATSUさんが「俺のスティックを持たせてもしょうがない」と言い出し、masshoiくんの弟子に電話して、撮影の前日に家まで取りに行ってたよね?

KATSU こんなことに使われて、masshoiくんはどう思ってるんだろう?

atsuko masshoiくんが叩いてくれた曲も入ってるし、きっと面白がってるよ。

ありそうでなかった純粋なメッセージソング

──そんな1980年代ポップス的な「Do it!」から、「夢と希望に殺される」という、曲名からして絶望的な……。

atsuko ひどい落差ですよね。

──これは、どうかされたんですか?

KATSU どうかしちゃってますよね。

atsuko プロデューサーの中西(豪)さんから「ものすごい暗い曲を作ってみてはどうでしょう?」と言われたんですけど、そういうのって言葉の力があってこそだと思うんですよ。そこで、私はどんなことで打ちのめされただろうと過去を振り返ってみて、「歌手になりたい」とか「ステージに立ちたい」とか、そういう夢を抱かなければ傷付かなくて済んだことっていっぱいあるなと。そんな思いをより卑屈に、幼い目線で書きました。

──なるほど。

atsuko たぶん今の目線だと、一応は大人なので受け入れたり飲み込んだりできるんですけど、幼いと親とか社会のせいにして「自分は悪くない!」みたいに捉えがちじゃないですか。私もそうだったし、そんな“ダークみ”が炸裂してます。

──でも、歌詞の最後は「夢と希望は生きている」で終わっていますよね。これは「夢と希望」に何度殺されても、あるいはこの先も殺され続けるかもしれないけど、「夢と希望」はあり続けるみたいな話なのかなと。要は最後にメッセージが反転していると言いますか。

atsuko 実は最後の歌詞も「夢と希望に殺される」にしてたんですよ。でも、中西さんが「やはり希望は必要だと思います」って(笑)。

──勝手だ(笑)。

atsuko でも、ずっと卑屈で何もかも他人のせいにしていた人が、急に「やっぱり希望は必要だよね」なんて言い出したら歌詞として破綻するじゃないですか。なので、おっしゃる通り最後の1文だけ「夢と希望は生きている」にすることで、いろんな解釈が可能になるんじゃないかと。私はこうすることでしか希望を示せなかった(笑)。

KATSU そこは聴く人に委ねているというか、どんな解釈も正解だと思う。

──アレンジも、atsukoさんの歌詞および歌を生かすものになっていますよね。

KATSU angelaはデビューして18年、ずっとアニソン屋だったし、これからもアニソンを書かせると何かしら爪痕を残して帰っていく存在でありたいんですよ。そんなアニソン屋が、アニメじゃなくて自分たちのためにメッセージを発信したのがこの曲なんです。だから、今までありそうでなかったangelaの純粋なメッセージソングですね。

atsukoが歌うと普通に民謡になっちゃった

──最後の新曲「君想う」は和テイストのバラードですが、二胡の音色も入っていますよね?

KATSU はい。だからちょっと中華寄りなんですよね。

atsuko 「君想う」は後半に作った曲なんですけど、アルバムにはシングル曲も入ってるし「ヴァルヴレイヴ」の曲とかもこってりしているので、もうちょっとあっさりした、箸休め的な曲が欲しくなって。もともと和テイストの曲は好きでアルバムでは毎回やっているんですけど、「君想う」は私の声質とか歌い方とあまりにも合いすぎて……。

KATSU 普通に民謡になっちゃったんだよね。

atsuko 「じゃあどうしよう? 何か面白いことがしたいな」と、声を重ねる手法を採ったんです。メインの歌だけで10本重ねていて、それプラス上と下のハモリがそれぞれ8本ずつだから、計26本。

KATSU でも、26本重ねているようには聞こえないと思います。

atsuko 声自体が弦楽器みたいな。何人もいるストリングスセクションが同じフレーズを弾いているような感じなので。

KATSU 単に重ねるだけだと微妙なズレが出てくるので、4日ぐらいかけてタイミングとかを合わせる地味な作業を手動でやりました。機械を使えば一発でできるんですけど、そうすると機械的になっちゃうんですよね。

atsuko レコーディングでもブレスの位置とかこぶしを回す長さがズレないように、歌詞カードに細かく書き込んで録ったんですよ。それでも人間なのでズレてしまうんですけど、そこをきれいに直しすぎてボーカロイドみたいになってもしょうがないので、絶妙なラインを狙った曲です。

──「君想う」の歌詞は、会えない人を思うという点で「I'll be...」に通じるところもあるのかなと。

atsuko やっぱり時期的に、思い通りにいかなかったり会いたい人に会えなかったりすることが多かったので。あと、ちょうど日本の若者が平安時代にタイムスリップする小説を読んでいたので、言葉選びはそれに引っ張られてるかも。どうでもいい話ですねこれ(笑)。

KATSU そんな本読んでたんだ?

atsuko 読んでた。まあインプットは大事だよ。

KATSU 「君想う」の編集とかアレンジをしていた時期にジャケットの撮影があったんですけど、ずっとこの、会いたいけど会えない人のことを思う曲を聴いてたら「これはmasshoiくんのスティックが必要だな」と。

atsuko そこにつながるんだ(笑)。

──改めてジャケ写に触れますが、砕けた感じがとてもいいですね。

atsuko アルバム10枚目にして、ビジュアルでもカッコつけなくてよくなったという、また新たな自由を手に入れた気がします。

KATSU このアルバムを作りながら「Beyond」(2017年12月発売の9thアルバム)とか「LOVE & CARNIVAL」(2016年8月発売の8thアルバム)とか過去作をいろいろ聴いてたんですけど、ジャケットも含めて今回やっと“angela劇場”が完成したという手応えを感じているんです。つまり曲単位でも、1枚のアルバムとしてもまとまっていない、「angelaならそういうことやるよね」っていう見せ方ができたんじゃないかなって。

配信ライブでしか見せられない演出を

──アルバムリリース後、5月23日に東京・日清食品 POWER STATION[REBOOT]にて配信ライブ「angela Debut 18th Anniversary Online Live -Battle & Message-」が予定されています。前回のインタビューでKATSUさんは、「大サーカス」に関しては「生じゃないと伝えられないことが多すぎる」とおっしゃっていましたが、今回、配信ライブを開催するにあたって何かしら心境の変化が?(参照:angela「叫べ」インタビュー

KATSU 日清パワステって、バンドマンにとって一種の登竜門だったんですよ。バンドブームの頃はキャパ350人のEgg-man(現shibuya eggman)を埋めてから、700人のパワステを経て、2000人の渋谷公会堂(現LINE CUBE SHIBUYA)というルートがあって。「BANDやろうぜ」とか「ロッキンf」とか、当時の音楽雑誌の広告ページにパワステのスケジュールも載っていたので、僕らみたいな田舎のキッズはそれを見て「ユニコーンの次の日がZIGGYで、その翌週はPERSONZって、なんなんだこのライブハウスは!」と。

atsuko 憧れたよね。

KATSU 上京したら真っ先に行きたいライブハウスがパワステだったんですよね。

atsuko そんなパワステが昨年11月に配信専用のライブハウスとしてオープンして、「出演しませんか?」というお話をいただいたんですよ。今のパワステは床や壁に映像が出せたりするので、新しい形のライブができるかもしれないという期待感と、個人的には、20代前半のときに観客として入ったパワステに出演者として入ってみたいというのもあります。

KATSU やっぱり配信に特化したライブハウスというのが一番のポイントで、まず映像が乱れたりボーカルだけ浮いて聞こえたりするようなことはない。もちろん配信である以上、生のライブと同じライブ感は味わえないけれど、今atsukoが言ったように普通のライブハウスやホールでは見せられない演出を見せるというエンタテインメントとしてはアリなのかなと。だからangelaのライブ映像をただ配信するのとは意味合いが違うんですけど、とにかく面白いものにしたいですね。

angela

angela、かるたを作ってプレゼントする

──その翌月、6月13日には「Battle & Message」発売記念特番「Telephone & Present」もあります。

atsuko 対象店舗でアルバムを買って応募してくださった方の中から抽選で60名にかるたをプレゼントするんですけど、そのうち30名には私たちが直接「当たったよー」って電話します。このかるたがすごいんですよ。キングレコードの販売促進の担当者が、ほかの仕事をほぼせずに作ったという(笑)。

KATSU 20代の男の子なんですけど、「彼にしか作れないから」ってみんな放置してたらしいです。

atsuko 会社としてよくゴーサインを出したよね。

KATSU できあがった現物も、競技かるたで使えるガチ仕様で。本当はもっと作りたかったけど、ガチで作ったらコストがかかりすぎて60セットしかできなかったという。

atsuko 読み札にはangelaの楽曲の歌詞が書かれていて、取り札に曲名の最初の文字とジャケット写真が印刷されているんですよ。だから読み手が「ちょっと想像ナナメ上 真っ直ぐススメ」と読んだら……。

──取り手は「乙女のルートはひとつじゃない!」の「お」の札を取りにいく。

atsuko そうそう。こんなご時世じゃなかったら、ファンの皆さんを集めてかるた大会みたいなイベントもやりたかったんですよ。私が読み手で、私の生歌でみんなが札を取り合うっていう。でも、いつかできると信じています。

KATSU かるただけじゃなくて、いろんな遊び方ができるんですよ。坊主めくりとか。

atsuko 坊主めくりってどうやるんだっけ?

KATSU 札の山を作って、2人以上の取り手が順番に札を取っていくの。普通の坊主めくりは一番多く札を集めた人が勝ちなんだけど、angelaのかるたには“atsuko姫”と“かつ丸”っていう2枚の特殊札があって、どっちかを引くと札を多く持ってる人が勝ちで、どっちかを引くと札が少ない人が勝ちになる。

──どっちがどっちかまでは覚えていないんですね(笑)。

KATSU 要はルールが途中で決まるんですよ。だからこの特殊札が勝負の鍵を握ってる。

atsuko あと「ファフナー」絵柄の札が出たら持ってる札を全部捨てるとか、そういうルールもあったよね。たぶんそのうちルールブックができるので。

KATSU 詳しい遊び方は後日YouTubeチャンネルで紹介する予定です。これね、かるたを作った子がめちゃくちゃ頭よくて、10種類ぐらい遊び方を考えていたんですよ。

atsuko でもね、我々がバカだから「このルール難しくてわかんない」って(笑)。

KATSU 坊主めくりが面白いことだけはわかった(笑)。