angela|エンタテイナーが本気で作る一夜限りの「大サーカス」

記録に残せない日と記録に残したい日

──その武道館での「特大サーカス」の2年後にLINE CUBE SHIBUYAで行われた「angelaのミュージック・ワンダー★大サーカス 2019」がこのたびBlu-rayとしてリリースされました。こちらも、武道館とは方向性は違うものの、やはりangela流のエンタテインメントとして成立していますね。

angela「angelaのミュージック・ワンダー★大サーカス 2019」の様子。

atsuko 「大サーカス」という演目に関しては今までずっと、どうにかしてストーリー性のあるものにしているんです。武道館だったら、かつて新宿で路上ライブをしていたangelaを拾ってくださったキングレコードの中西豪プロデューサーが、主題歌タイアップの目録を持って新宿アルタ前から武道館まで走ってくるとか。で、2019年の大サーカスでは、ステージセットに象がいるんですけど、その象が突然しゃべりだして、象とangelaとの掛け合いで進めていくみたいな大雑把な構想を練って。

──象ありきだったんですか?

atsuko 象ありきです。本当に象を中心に回っていたので。

KATSU あれ原寸大なんですよ。

atsuko あるとき舞台のスタッフさんが「象とかありますけど、どうですか?」と提案してくださって、私たちも「え、象あるんですか? 象があるならぜひ!」みたいな。

KATSU 今回は12月30日と31日の2DAYSだったので、30日を“記録に残せない日”にして、31日を“記録に残したい日”にするというのがテーマとしてあって。

atsuko これはangelaの悪い癖でもあるんですけど、2DAYSの初日と2日目で同じことをやらないんです。だからストーリーもセットリストも違うし、私たちも初日は象にまったく触れなかったんです。要は、両日観に来てくださったお客さんに対して、初日はただのセットだった象が、2日目に突然しゃべり出すというサプライズを与えたくて。ただ、ぢぇらっ子と呼ばれるangelaファンの人たちも先回りして考えるんですよ。「あんなに目立つ象がいるのに、angelaが触れないのはおかしい」「あの象にはきっと何かある」って(笑)。

KATSU 触れなさすぎて逆にバレるっていう(笑)。

atsuko そこは反省したよね。

左からatsuko(Vo)、KATSU(G, Key)。

KATSU あと、今回は2DAYSのうち初日しか来られない人と2日目しか来られない人の割合が半々くらいじゃないかなと勝手に思っていて。実際それに近かったんですけど、その初日組と2日目組の話が噛み合わないようにしたかったんですよ。お客さん同士で「え、どういうこと?」みたいな。なので選曲も含めて同じステージでも全然違う見せ方をしたくて、とにかく記録に残せないくらいとことん攻めたのが初日だったんですよね。

──記録に残せないって、具体的にはどんなことをしたんですか?

atsuko 例えば、1人紅白歌合戦とか。つまり紅白でよく歌われている有名な曲をメドレーにして私が歌ったんですけど、そんなもの収録も販売もできませんよね(笑)。

──武道館での特大サーカスでも、某チャリティー番組でおなじみの曲を歌ったと思しきところで、音声がカットされていました。

atsuko そうそう。そんな30日の模様は、当日現場に来てくださった方々の心のハードディスクに保存していただいて。

KATSU メイキング映像にちょろっと映ってますけどね。

スクリーンの後ろで人が反り返ってるのを見てほしい

──先ほど「象ありき」とおっしゃいましたが、atsukoさんが「ぱぉちゃん」と命名されたその象は、存在感がありましたね。

atsuko 空気を入れて膨らませて天井からワイヤーで吊るっていう、めちゃめちゃアナログの象なんですけどね。でも近年のライブって、会場が大きくなればなるほど、LEDの大画面にいろんな映像を流すのが主流じゃないですか。それも素敵なんですけど、自分としては、モノとしての存在感にこだわりたいというか。ライブを観終わった人たちに「なんかでかい象がいたよね」みたいに話してもらいたくて。

KATSU 劇団かかし座さんのハンド・シャドウ・パフォーマンスもそうだよね。

ライブでのハンド・シャドウ・パフォーマンスの様子。

atsuko そう。かかし座さんには「君を許すように」の演出としてハンド・シャドウ・パフォーマンスをしていただいたんですけど、最初に編集してもらった映像だと私が歌っているカットが多めだったんです。だから「いや、私よりもかかし座さんにフォーカスしてください」「手影絵にしても、スクリーンに寄りすぎるとただ映像を流してるだけみたいに見えちゃうので、スクリーンの後ろで人が反り返っているのがわかるカットをたくさん使ってください」とお願いしたんですよ。

KATSU 初日のハンド・シャドウ・パフォーマンスのときは、スクリーンを目立たせるためにかなり照明を落としてたんです。でも、むしろ背後でかかし座の皆さんが忙しく動いてる足下がよく見えたほうが面白いと思って、2日目は新たに別の照明も入れてもらってね。

atsuko 自己満足かもしれないけど、そういうアナログ感は大事にしたいですね。

──ぱぉちゃんも、途中で空気が抜けてペラッペラになったりしますけど、仮にあれがCGだったら面白くもなんともないですもんね。

atsuko そうそう(笑)。CGだったらね、ダンボみたいに飛び回ったりできたかもしれないけど、あの空気の入った、上下にしか動けないぱぉちゃんにしかとれない笑いもあるんです。

ダイアナさんをなんとかして出演させたい

──個人的な感想を申し上げると、僕は、オープニングでクラウンのダイアナさんの人形がレバーを引くことで舞台の幕が上がり、1曲目が「LOVE★CIRCUS」というところからグッときてしまって。

angela「angelaのミュージック・ワンダー★大サーカス 2019」の様子。

atsuko ありがとうございます。

──というのも、僕が初めてangelaのインタビューをしたのが、その「LOVE★CIRCUS」が収録された9thアルバム「Beyond」リリース時だったんです(参照:angela「Beyond」インタビュー)。当時、僕は不勉強でダイアナさんのことを存じ上げなかったので、同曲の背景をお聞きしたことが印象に残っていて。

KATSU 2017年の武道館公演が、ダイアナさんにとっては最後のステージになってしまったんですよね。大サーカスは2005年からほぼ毎年開催しているんですけど、1回目の大サーカスからずっと出演してくださっている3人のクラウンさんがいて、そのうちの1人がダイアナさんなんです。クラウンって、人を楽しませるのが仕事じゃないですか。だから僕らが悲しむことをきっとダイアナさんは望んでいない。でも、彼女のことを忘れちゃいけないし忘れたくない。そういう思いからできたのが「LOVE★CIRCUS」だし、今回の大サーカスでも必ずやると決めてました。そのうえで、ダイアナさんをなんとかして出演させたくて。

atsuko ただ、特にこの大サーカスが初めてのangelaのライブになるお客さんは、そういう背景まではご存じない方も多いと思うんです。それにもかかわらず、特に説明もなくライブを進行させてしまったんですけど、そこはなんとなく感じ取っていただけるんじゃないかなって。いつもはね、曲の前に振り付けの練習をしたりスクリーンに歌詞を映し出したり、初めての人にも優しいangelaのライブですけど(笑)、今回はあえて説明を省きました。それでよかったのか悪かったのかはわからないけど、それが私たちの見せ方かなと思って。

KATSU この大サーカス自体、会場と日付が決まってから最初にスケジュールを押さえるのが、ミュージシャンじゃなくてクラウンさんなんですよ。そういう中で今回の1曲目が「LOVE★CIRCUS」でいいのか、最後の最後までみんなで話し合ったんですよね。正直、曲がちょっと暗いんでどうなるかわからない部分もあったんですけど、蓋を開けてみたらすごく華やかで、ショーの始まりっていう感じが出てよかったなって。

atsuko ちなみに、Blu-rayのパッケージにもダイアナさんの帽子をあしらっているんですけど、これはダイアナさん本人が被っていた実物を、KATSUさんが写真に撮ってデザイナーさんに送ったんだよね。

KATSU 副音声のオーディオコメンタリーでも熱く語っちゃってるんですけど、ダイアナさんのご実家にお線香をあげに伺ったときに、ご家族の方が「帽子ありますよ」と言ってくださったんですよ。聞けば、ダイアナさんをお送りするときにクラウンの衣装を着せてあげたそうなんですけど、棺の中に帽子だけ入れ忘れてしまったらしくて。それを僕は「次の大サーカスにも私を出せ」というダイアナさんからのメッセージかなとずっと思っていたんですよ。だから、今回の大サーカスでその帽子をある曲で大事に使わせてもらっているんですけど、ステージ上でそれ見たときに今までに味わったことのない、言葉にできない感情が湧き上がってきて。とにかく「大サーカスやってよかった!」と思いましたね。