少年時代にデビュー当時……過去をたどって現在につながる楽曲群
──情景が浮かぶ歌詞とどこかノスタルジックで柔らかなサウンドが特徴的な「ロストボーイズ」。アルバムタイトルにも引用された“ロストボーイズ”というワードに込めた思いとともに、楽曲の成り立ちを教えてください。
これは少年時代を思い出しながら作った曲です。最初に「少年は闇の中」っていうフレーズができて、それがサビだったんですけど、そこから歌詞を膨らませていったらこんな形になりました。結局は大人に向けた曲になったんですけど、このアルバムの中ではわりと普遍的で多くの人に伝わりやすい曲だと思います。
──「かつて焼け落ちた町」「戸山団地のレインボー」「アオモリオルタナティブ」と、アルバム後半には生まれ育った場所とそこでの思い出を顧みる楽曲がまとめられています。これまでにも“地元”を歌った曲はあったかと思いますが、本作においてはどんな意図を持ってそういった楽曲を紡いでいったのでしょうか?
「戸山団地のレインボー」はデビュー当時の事を歌ってます。その時期の曲って意外となかったんで作ってみました。「かつて焼け落ちた町」もその時期に青森市へと引っ越してきたとき、自分が住む場所のことを色々調べてたら、青森空襲のことを知りました。さらに調べて曲にしました。今作は、なぜ現在の自分になったのか?っていう思いのもと、1つ1つの過去をたどるようなイメージで曲を並べました。
──ある種、自らのルーツを楽曲という形で丁寧になぞっていったことで感じた秋田さんの“現在地”とはどんなものですか?
現在地は明確で、今の自分のことだからわかるんですけど、ぼーっとして生きてると、はじめからこんな自分でこんなamazarashiで、これからもこんな感じで生きてゆくんだろうなって勘違いしてしまいそうな気がするんです。なんかそれが怖かったからこんなアルバムになったのかもしれません。
──「1.0」は魚豊氏のマンガ「チ。」とのコラボ楽曲として、魚豊氏の描き下ろしイラストを用いたミュージックビデオが制作されています。ご自身の楽曲とマンガとのコラボはいかがでしたか? また「チ。」という作品についての感想も聞かせてください。
「1.0」はとても個人的な曲で、「チ。」のために書き下ろしたわけではないので、どのようにMVで手をつなぎ合わせるか難しいだろうなと思ってました。リスペクトしてるだけに心配もあったんですけど、amazarashiと「チ。」の共通する世界を漫画の印象的なコマを借りながらうまく表現できたと思います。挫折による痛みとか、それでもあきらめきれない意志とか、共通する部分は多いとは思うのですが、「チ。」の物語としての厚みには完全に太刀打ちできないので、今度書き下ろす楽曲では物語の背後で鳴っているような、通奏低音みたいなものを表現できたらと思っています。
──インディーズ時代の「0.」から「0.6」を経て、今回の「1.0」へと至る流れ。そこには秋田さんの音楽家としてのどんな変遷が詰まっていると思いますか?
「1.0」は作ろうと思って作った曲じゃなくて、できてしまった曲です。「0.」とか「0.6」とかはじめはあまり思い入れなく使ってました(もちろん0から始まったっていう意味はあるんですけど)。だけどこの曲ができて、しかも「1.0」っていうタイトルがぴったりだったのでラッキーくらいの感じです。昔からのリスナーはタイトルを見て大仰に思うかもしれないけど、気軽に聴いてほしいです。
来たるツアーに向けて「自分自身が熱くなれるものを」
──アルバムのラストを飾る「空白の車窓から」は、amazarashiとしての歩みを総括したうえで、この先への思いも垣間見える楽曲だと感じました。どんな思いでこの曲を書き上げたのでしょうか? アルバムの最後に配置した意味とともに教えてください。
これはツアー中に新幹線に乗りながら思ったことを曲にしました。全国各地でライブするのはもう何度も体験して当たり前になってしまったけど、ちゃんと一瞬一瞬を噛みしめて生きなきゃなっていう思いを込めました。始めは1曲目にしようと思ったんですが、最後のほうが次に向けての希望が見えていいかなと思い最後にしました。
──サウンド感、メロディ、譜割り、歌のアプローチなど、今作にはこれまでにない感触が注がれた楽曲が多数収録されている印象を受けました。秋田さんがご自身として意識的にトライしたことを楽曲単位で教えてください。また、前作から約2年を経たことで感じる、今作におけるボーカル面での変化、進化についても聞かせてください。
もう十数年もやってると、制作も過去の轍をどうやって踏まないか?みたいになってきましたね。わい自身は踏んだほうがいいときは踏んでやれって思いでやってますが、自分が飽きてきたら終わりですからね。どんどん音楽的に面白いほう、楽しいほうを目指してやってます。「感情道路七号線」とかは最近のヒップホップの影響もあるし、「アダプテッド」とかは僕が聴いてた頃のJ-ROCK的かなと思います。いろいろ考えながらやってますが、基本はいい歌ありきなので、そこはぶれないようにしてます。ボーカルは相変わらずそのまんまって感じです。技術論とかは嫌いです。ただ声は変わってきたかなって感じます。
──本作を作り終えたことで見えたものはありましたか? 秋田さんは“何者”でしたか?
僕はamazarashiのボーカルでしかないです。今はただ完成したことにほっとしてます。
──限定盤には2020年に開催された「ボイコット」ツアーのライブ映像を収めたBlu-ray / DVDが同梱されます。改めて、あのライブは秋田さんにとってどんなものになりましたか?
ひさびさの有観客ライブでしたからね。メンバーみんな噛みしめながらプレイしてます。普段は吐き出すような感覚でライブしてたんですが、このボイコットツアーばかりはやれて本当によかったっていう感情が強かったです。
──5月からは本作を携えた全6公演のホールツアー「amazarashi Live Tour 2022『ロストボーイズ』」が開催されます。どんな内容のライブにしようと思っていますか? 意気込みを聞かせてください。
今現在、構成を考え中です。大分いい内容になってきました。自分自身が相当熱くなれるものをやろうと思っています。
──最後に。2022年の春に何を期待しますか? そして今年1年をどう過ごしていこうと思っていますか?
ちょっと休みたいですね。雪も融けてきたんで外で遊びたいです。
ライブ情報
amazarashi Live Tour 2022「ロストボーイズ」
- 2022年5月3日(火・祝)北海道 カナモトホール(札幌市民ホール)
- 2022年5月21日(土)青森県 リンクステーションホール青森(青森市文化会館)
- 2022年6月7日(火)福岡県 福岡サンパレス ホテル&ホール
- 2022年6月9日(木)大阪府 グランキューブ大阪(大阪府立国際会議場)
- 2022年6月24日(金)東京都 東京ガーデンシアター
- 2022年6月26日(日)愛知県 愛知県芸術劇場 大ホール
プロフィール
amazarashi(アマザラシ)
青森県むつ市在住の秋田ひろむを中心としたバンド。ステージとフロアの間に紗幕を張ったままタイポグラフィや映像を投影するというスタイルのライブを展開している。2009年12月に青森県内500枚限定の詩集付きミニアルバム「0.」を、翌2010年2月にその全国盤となる「0.6」をリリースした。その後2010年6月に「爆弾の作り方」をSony Music Associated Recordsから発表。2017年3月に初のベストアルバム「メッセージボトル」をリリースし、12月に4thアルバム「地方都市のメメント・モリ」を発表した。2018年11月に初の日本武道館公演「朗読演奏実験空間“新言語秩序”」を開催し、観客の持つスマートフォンと連動したライブを展開。2020年3月にアルバム「ボイコット」を発売し、4月からリリースツアーを開催予定だったが新型コロナウイルス感染拡大の影響で全公演が延期となった。6月に2018年11月に行った東京・日本武道館公演「朗読演奏実験空間“新言語秩序”」のライブ映像をYouTubeで無料公開。この配信のエンディングで初披露した「令和二年」を含む、音源「令和二年、雨天決行」を12月にリリースした。同月には自身初の配信ライブ「amazarashi Online Live 末法独唱 雨天決行」を開催。北海道札幌市にある建築家の安藤忠雄の設計による「頭大仏」にプロジェクションマッピングを施し、一夜限りの“雨曝大仏”を舞台にしたライブの模様を国内外のファンに向けて配信した。2022年4月に約2年ぶりとなるオリジナルアルバム「七号線ロストボーイズ」をリリース。5月から6月にかけてホールツアー「amazarashi Live Tour 2022 『ロストボーイズ』」を開催する。
チ。 × amazarashi 往復書簡プロジェクト「共通言語」
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