amazarashi|令和二年、コロナ禍中に問う「秋田ひろむとポエトリー」

新作は「令和二年の日記」

──ここからは“令和二年”の秋田さんと新作について話を聞かせてください。いまだ収束が見えないコロナ禍ですが、秋田さんはどんなことを考えながら過ごしていましたか? ステイホーム期間をどう過ごされていたかも気になります。

何もやることがなかったので曲ばっかり作ってました。あとは新しい音楽機材を買ったり、やらなきゃと思ってやってなかった機材の勉強したり、わりとのんびり過ごしてました。おかげで今回の歌録りは全部自宅で済ませることができました。

──ライブが延期になるなど、アーティストとしての活動がままならない状況をどう受け止めていましたか?

こういう状況で立ち行かなくなることがあるんだーと思いました。でもオンラインライブ配信とか、業界全体が新しいフォーマットを推し進める状況になって、いいこともあったのかなって思います。

──その中で曲作りをはじめとするクリエイティブな動きをスタートさせたのはいつくらいのタイミングだったのでしょうか? そこには何かきっかけはありましたか?

夏前くらいだったと思います。ツアーも延期になって、デビュー10周年記念の企画もあったんですけど、それもできなくなりそうだということで、じゃあ音源作るしかないかって感じでしたね。

──コロナ禍を経験したことで、ソングライティングや作詞に何か変化はありましたか?

「amazarashi Online Live 末法独唱 雨天決行」の様子。(写真提供:ソニー・ミュージック・レーベルズ)

この先ずっと続く変化かはわかりませんが、今回のEPは今年のコロナ禍を強く意識して歌を書き下ろしました。こういう状況でなければ生まれなかった曲たちです。だから普段より優しい部分もあれば、赤裸々な部分や直接的な部分もあります。

──6月の「朗読演奏実験空間 新言語秩序 ver1.01」において、新曲「令和二年」が弾き語りで披露されました。今回リリースされるEPを象徴するこの曲は、いつ頃、どんな思いから生み出されたものなのでしょうか?

「令和二年」は4月頃作ったと思います。別にリリースする予定もなく、何気なく作った歌です。そのときの日常と気持ちをそのまま歌にしました。

──EP収録の「令和二年」は、どこか温かさを感じさせるメロディをさらにふくよかに感じさせる、美しい光の見えるようなアレンジが印象的でした。いまだ悶々とした気持ちを抱えている人が多い中、それらを浄化してくれる力を持った曲だと思います。秋田さんの中で、アレンジも含めた楽曲の着地点として意識したことを教えてください。

この曲もそうですけど、EP全体を通して僕の今年の日記、みたいな側面が強いので「令和二年」に関しては何気ない日常の中に微かな不安がうかがい知れるみたいな、そういうイメージです。また、このEPの収録曲は制作順に並べています。ただインタルード的な「太陽の羽化」は最後に作って、それが秋口のことでした。令和2年の日記みたいに聴いてもらうのを意図して作りました。

──「令和二年」を作った段階で、EPを制作すること、そしてその内容に関しては思い描いていましたか?

まったく考えてなかったですね。本当にやることがなくて、焦りだけはあるけど何もできなかったので、曲だけは作っとこうと思ってた気がします。

内なる思いをさまざまな手法で表現

──2曲目「世界の解像度」は一転、歪んだギターからスタートするロックチューンです。力強いサビで問題を提起しながら“個々の視点”を持つことの大切さを歌うこの曲は、どんな“視点”で歌詞を紡ぎましたか? またそれをどうサウンドに落とし込んでいきましたか?

「amazarashi Online Live 末法独唱 雨天決行」の様子。(写真提供:ソニー・ミュージック・レーベルズ)

この曲で重要なのはそれぞれの視点をつなぐべきじゃないか?ということです。僕は僕の視点でしか歌を作れないし、このEP全体を通して僕の視点でしかないんですけど、僕の視点でしっかり見て描写して。それがこの作品なんですが、それを他者の視点と照らし合わせることでもっと鮮明に見えてくるものもあるんじゃないか、だからそっちもそっちの視点でしっかり見ていてね、という歌です。サウンドアレンジ的には僕のデモを反映してもらって、よりクオリティを上げてもらった感じです。「令和二年」がわりと穏やかな印象だったので、2曲目はガツンと来るものにしたかったんです。

──3曲目のポエトリーリーディング曲「太陽の羽化」にはどんなイメージが投影されているのでしょうか? またこの曲をポエトリーにした意図を教えてください。

当たり前のように続いてる日常の中で、無視しようとしてるけど確実に不安はあって、それが季節の変わり目の日差しの変化で露になる、みたいな心境を描いた詩です。「世界の解像度」と「馬鹿騒ぎはもう終わり」をつなげるインタルードですが、ちょっと心に引っかかる曲になるように意識しました。

──アコースティックなサウンド感とコーラスが印象的な4曲目「馬鹿騒ぎはもう終わり」は、コロナ禍に生まれたことを考えると、何度も繰り返される「馬鹿騒ぎはもう終わり」のフレーズが意味深に響いてきます。どんな思いで書かれた曲なのでしょうか?

どちらかというと自分の内面の歌です。メンタルのバランスを崩した時期があって、そのときの心境を曲にしました。自分から少しずつ何かが失われてゆくような感覚があって、それがたまらなく悲しいっていう歌です。それでも「それぞれの人生に戻るの」というフレーズが書けたことで、自分の中で落としどころを見つけられたというか、希望を持てた感じはあります。説明が難しい歌です。

──5曲目「曇天」は、圧倒的な文字量でコロナ禍の令和2年を描いたポエトリー曲です。ここには秋田さんのリアルな感情があふれ出しているように感じました。サビで歌メロを盛り込むことなく、ポエトリーだけで全編を貫いた本作へ込めた思いを聞かせてください。

この曲ができたことで、このEPを作ってよかったなと思いました。淡々と令和2年の日常を描いただけの曲ですが、希望も絶望も手にしていて、その中でもやるべきことをやって生きてゆくっていう決意みたいなものを込めました。

“令和三年”に向けて

──初回限定盤には「令和二年」と未発表曲「積み木」、インディーズ時代の楽曲「東京」がそれぞれ弾き語りのアコースティックバージョンで収録されています。「積み木」「東京」に関してはどんな思いで作られ、ご自身にとってどんな思い入れがありますか?

本当であれば10周年記念ライブで弾き語りでもできればなと思って練習していた曲たちです。「積み木」は東京で挫折して地元の青森に帰ってきたときの心境を描いた歌です。「東京」は前のバンドの歌で、失恋の歌です。「東京」に関しては完全に僕が歌いたかっただけでamazarashiのリスナーは興味ないかもしれませんが、思い入れがある曲なので音源に入れておきたかったです。

──最後に。“令和三年”に向けた今の思いを聞かせてください。

何より延期になった「ボイコット」ツアーは成功させたいです。早くバンドで演奏がしたいです。あとはできなかった10年記念的な企画の埋め合わせもできたらなと思って考えてます。

「amazarashi Online Live 末法独唱 雨天決行」の様子。(写真提供:ソニー・ミュージック・レーベルズ)