飽きたらつまらないですから
──amazarashiらしい切ない美しさを加味したロックンロールナンバー「抒情死」を筆頭に、本作には新たな聴き心地のサウンド的なトライアルが散りばめられているように感じました。作品を重ね、amazarashiの色が固まっていく中、新しいものを飲み込んでいきたい、そしてそれを明確に提示していきたいという思いは強いですか? またそういった思いがあるならば、その裏にはどんな狙いや理由があるのでしょうか?
この曲もテーマの核心に近い曲です。フラストレーションと拒絶の歌です。アレンジはミドルテンポ、ハードで、とアレンジャーの出羽(良彰)くんにお願いしました。僕が新曲のデモを作るときはどうしてもギターロック的になりすぎるので、そういうところをより豊かに、カラフルにしてくれるのが出羽くんの才能だと思います。僕自身、新しいことをどんどんやろうっていうタイプではないんですが、もうそろそろ10年になろうかってところだし、今までのスタイルに飽きはあります。そういうものが漠然と共通認識みたいに僕にもamazarashiチームの中にもあると思います。飽きたらつまらないですからね。毎回アップデートはされてるんですけど、今作はそれが今までで一番、色濃く出てると思います。
──「死んでるみたいに眠ってる」では、“死”という言葉を使いながらしっかりと前を向いた力強い意志が描かれているよう感じました。この言葉はどんな気持ちを乗せて書き上げましたか?
この曲が僕の今の気持ちに一番近い曲です。ずっと1曲目にしようと思ってたんですけど、わかりやすさと伝わりやすさを選択してこの位置になりました。説明しづらい曲なんですけど、一番精神的に新しくて、一番気に入ってる曲で、一番伝わりづらくて、一番パワーがある曲だと思います。創作と日常生活の齟齬とかジレンマとか、それに対する怒りとか、未来に対しての希望とか、ごちゃまぜになった曲です。
狭量になる世間へのフラストレーション
──「リビングデッド」「独白」の2曲は日本武道館公演「朗読演奏実験空間 新言語秩序」の肝となるナンバーでした。今回の「独白」は“検閲解除”の状態で収録されています。この2曲と武道館公演で問いかけた言葉の距離、秋田さんの中では決着が付いたところはありましたか? そして、そのことがそれ以降の歌詞に影響を及ぼしているところはあるのでしょうか?
あのライブはどんどん狭量になる世間に「もっと自由でもいいじゃないか」っていうフラストレーションをぶつけたものだったんですけど、それは社会が変わらなければ変わらないことなので、決着どうこうっていう感じはないです。ただちょっとベクトルが外に向きすぎたなと思って、僕は僕の日常からちゃんと歌を始めなくちゃなって最近は考えてます。毎回毎作そうなんですけど。行きすぎて、あとで冷静になって軌道修正、みたいな繰り返しです。
──本作における最重要楽曲は「未来になれなかったあの夜に」だと思います。「色々あったな」の“色々”をつまびらかにしようと思えたのは、amazarashiとしての輝かしい10年があったからなのではないでしょうか。無数の「未来になれなかったあの夜」の合間に、確実に「未来になったあの夜」の存在を感じ取れたからなのではないでしょうか? この曲を生み出した背景、秋田さんの思いをぜひ聞きたいです。
この曲はライブで初披露することを始めから意識していて、僕からリスナーへの手紙みたいなものなので、語りかけるようなつもりで書き始めました。僕としては武道館やったら成功なのか、もっとキャパが増えたら成功なのか、音源が一番売れたら成功なのか、そういうのはもうわからないです。これ以上も一切望んでません。ただ周りの人間が喜んでくれたらそれはうれしいし、自分が想像したものを作れたらうれしいです。未だにうまくいってる実感はないし、つらいことはざらにあるし、でも今ここで、昔の自分みたいに死にたいほど苦しんでる人に向かってこういう歌を歌うべきだと思いました。
──アルバムのエンディングを飾るのは、柔らかで温かいサウンドに乗せて、理想の自分の姿を歌った「そういう人になりたいぜ」です。秋田さんは否定されるかもしれないですが、この曲の“君”にはファンやリスナーの存在が込められているように感じました。実際、そういった対象が浮かんだりはしませんでしたか? また、ここで高らかに歌われた「そういう人」に秋田さんはなれそうですか?
この曲はラブソングです。ファンの人は想定してなかったです。自分が出会った人の中で尊敬する人たちを思い出しながら、いろんな思い出をコラージュしながらラブソング風に作りました。いい歌です。「そういう人」にはなれそうにないですね。もう諦めています。だからこそのラブソングだと思います。優しい人であろうとは努めてます。
ホールツアーに向けて
──本作の初回限定盤に同梱される小説も読ませていただきました。これまでも断片的に楽曲として過去のことを吐露されてきたとは思いますが、ここまで赤裸々にこれまでの軌跡をつづることに対して戸惑いはありませんでしたか? そして、そもそもなぜ今、こういった小説を書こうと思ったのでしょうか?
この小説はコアなリスナーに向けたサービスです。amazarashiの曲をよく聴いてる人が、あの曲はひょっとしたらああいうことかも、っていう違う視点で楽しめるかなと思って書きました。全部は音楽を楽しんでもらうためのものです。
──これまでとこれからが垣間見えるアルバムを聴くとライブがやはり楽しみになります。4月からスタートする初のホールツアー「amazarashi Live Tour 2020『ボイコット』」はどんなものにしたいですか?
楽しみですね。あまり言いすぎるともったいないので言いませんが、去年以上に尖がったものになると思います。楽しみにしててください。
──最後に、改めてメジャーデビューからの10年に対する気持ち、そしてここから先に抱いている思いを聞かせてください。
駆け足の10年だったので、ここから先はマイペースで行きたいです。がんばりすぎるとどこかで歪みが起こるとこの10年で学びました。どうなるかわからないですが、目の前のことを1つずつ夢中になってやっていけたらなと思います。
ツアー情報
- amazarashi Live Tour 2020「ボイコット」
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- 2020年4月28日(火)大阪府 グランキューブ大阪(大阪府立国際会議場)OPEN 18:00 / START 19:00
- 2020年4月29日(水・祝)大阪府 グランキューブ大阪(大阪府立国際会議場)OPEN 15:00 / START 16:00
- 2020年5月4日(月・祝)福岡県 福岡サンパレスOPEN 16:00 / START 17:00
- 2020年5月6日(水・振休)愛知県 日本特殊陶業市民会館 フォレストホールOPEN 16:00 / START 17:00
- 2020年5月10日(日)北海道 カナモトホール(札幌市民ホール)OPEN 16:00 / START 17:00
- 2020年5月19日(火)東京都 東京国際フォーラム ホールAOPEN 18:00 / START 19:00
- 2020年5月20日(水)東京都 東京国際フォーラム ホールAOPEN 18:00 / START 19:00
- 2020年5月24日(日)青森県 リンクステーションホール青森(青森市文化会館)OPEN 16:00 / START 17:00