音楽ナタリー Power Push - 天月-あまつき-
仲間と紡いだ箱庭の中身
天月-あまつき- ソロインタビュー
リアリティを追求した「箱庭ドラマチック」
──ソロインタビューではアルバム全体のことや、天月さんの自作曲についてなどのお話を伺えればと思います。そもそも今回のアルバム制作に当たって、どういう作品を作ろうと考えたのですか?
1stアルバムの「Hello, World!」は物語性があってファンタジックな内容だったので、今回はもうちょっとリアリティを追求して、聴き手が共感してくれるもの、人の心に刺さる歌詞の曲を歌いたかったんです。「Hello, World!」発表後に出したシングルで、ありがたいことにドラマや舞台のテーマソングのタイアップをいただいて、そのときにけっこうドラマチックな歌詞を意識して書いたんです。なので自然と僕の中で2ndアルバムはリアリティがあって、ドラマチックな内容のものを届けようっていうコンセプトが固まっていたんですよね。
──収録曲のうち「LIFE!!」は東北復興をテーマに作られた曲です。まさにリアルなテーマが題材になっていますね。
この曲は僕も作詞で参加させていただいたんですけど、曲の制作に取りかかる前に最初に「立ち上がれ」とか「がんばれ」みたいなメッセージはすでに求められていないって話を伺ったんです。それに僕自身が震災で被災した身ではないので、悲しみを分かち合おうみたいな曲は歌えないなあと思っていて。東北だけに限らず、聴いた人みんなが歩いていけるような曲を作りたいですっていう話を、一緒に作詞をしてくれたプリンセス プリンセスの富田(京子)さんにしたんです。富田さんは被災地で実際に復興支援をされている方ですから、今の現状や、被災地で音楽をやってみて感じたなどをお話いただいて。それを踏まえて僕の思ったことを素直に書いてみました。「LIFE」ってものすごく大きな意味を持つ言葉だけど、そこにエクスクラメーションマークを2つ付けて「LIFE!!」にすることで、すごく明るく前向きでキャッチーな言葉になるんです。このタイトルが付けられてようやくできあがった曲ですね。
「月が綺麗」に込める思い
──「LIFE!!」に限らず、アルバム全体を通して聴くと、前向きな気持ちになる作品だなという印象を持ちました。
ありがとうございます。すべての曲が明るい曲というわけではないんですけど、音楽で気持ちを前に向かせたり、聴いてくれた人の力になりたいっていう思いを常に持ってアルバムを作りました。
──アルバムの最後に収録されている「グッバイドラマチック」は作詞作曲を天月さん自身が手がけています。天月さんの自作曲がアルバムに収録されるのは、今回が初めてですよね?
はい。初めてです。この曲は失恋ソングというか、ロックバラードみたいな曲なんですけど、実は「月が綺麗だね」という歌詞にいろんな意味を込めているんです。「月が綺麗」という表現は告白を意味する慣用句として使われたり、僕自身が「天月」という名前ですから、僕のことを見つけてくれた人たちとの関係性を意味する言葉としても考えていて。皆さんの「月が綺麗だね」という言葉が積み重なって僕の今の活動があるわけで、僕はその言葉に感謝しているし、あなたたちがもし僕の歌を聴かなくなったとしても、今この場で聴いてくれてるあなたに向けて僕は歌を歌い続けるよって思いを込めています。
──天月さんの音楽に今、向き合ってくれている人に対して歌った曲なんですね。
もちろん今まで聴いてくれていた人たちのことを忘れたわけではないんです。でもアルバムで曲を届けるならやっぱり僕の歌を待っててくれてる人たちのことを一番に考えて曲を作りたかったから。直接感謝の気持ちを伝えたいなって思って作ったのが「グッバイドラマチック」です。
──座談会で、はしやんさんはアルバムの中で特に「気まぐれメリーゴーランド」がいいと話していましたが、天月さん自身が考える推しの1曲はありますか?
今回のアルバムも僕は皆さんの力を借りて作り上げたわけですから、本当にどれも大事に聴いてほしいんです。ただやっぱり自分で作詞作曲した「グッバイドラマチック」は推しというわけではないんですけど、ちょっと恥ずかしいながらも聴いてほしい気持ちがあります(笑)。
野垂れ死んでいると思っていた数年前
──アルバムの通常盤には天月さんからのボイスレターが入っています。その中で「数年前の自分からは考えられないほど、自分の人生は変わった」と話していたのが印象的だったんです。ちなみに、“数年前の自分”は将来どうなると思っていたのですか?
うーん……。きっとどこかで野垂れ死んでるんじゃないかなって思ってた気がしますね。
──それはなぜ?
特に夢も希望もなくて、当時はやりたいこともなかったし。友達もほとんどいなかったので。
──そうは言っても今はボーカリストとして活動をしているわけですから、やりたいことが見つかったんですよね?
歌うことを仕事にしたいという感覚が強くあるわけではなかったんです。趣味で好きなことを始めたらたまたま聴いてくれる人が増えていって、評価してくださる事も多くなってきた感じなので。これから先も好きなことがやれたらいいなとは思いますけど、仕事としてやり続けることができるのかどうかは今でもわからないですね。
──では今の天月さんが思い描く数年後の自分ってどうなってると思いますか?
難しいですね。でもやっぱり野垂れ死んでる可能性はあると思います(笑)。
──数年前の自分が思い描くビジョンと変わっていないんですね。
もっと明確に夢を持ったほうがいいんだろうなって、いつも思うんですよ。でもこれからも好きなことが続けられればなって感じなんです。ただやりたいことは増えてる気がしますね。曲作りもそうですし、ピアノ、ギター、ダンス、演技のほかにもっとできることが広がってたら面白いだろうなって。
──ご自身の書き下ろし曲がアルバムには収録されていますが、例えば今後自分でどんどん曲を作っていきたいという思いは強いですか?
そこまで強くはなくて、ちょいちょいやっていけたらいいなあくらいなんです(笑)。僕はもともと“歌ってみた”というカバーをきっかけにここまで来たわけですし、もともとある曲を歌ったり、誰かと一緒に作ったりするのがけっこう好きなんですよね。全部自分で作れるっていうのはカッコいいことだと思うんですけど、イコール自分がそれをやって楽しいかはわからないなって思ってて。
──ということは今回の「箱庭ドラマチック」は自作曲に挑戦しながらもいろんな人と作品作りをするという、まさに天月さんがやりたいことが実現した作品なんですね。
そうなんです。みんなと一緒に作品を作るのは本当に楽しかったですし、これをまたライブでやったり、皆さんの反応があるのが楽しみで仕方ないんですよね。これから先もまたこうやってみんなでアルバムを作れたらいいなって思うし、今はいろんな人と作品を作り続けていることが幸せなんです。
- ニューアルバム「箱庭ドラマチック」 / 2016年7月27日発売 / キングレコード
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 2900円 / KICS-93374
- 通常盤 [CD] / 2200円 / KICS-3375
CD収録曲
- シューティングスター
[作詞・作曲:レフティモンスター / リアレンジ:沼能友樹、棚橋UNA信仁] - 虹の向こうへ
[作詞:天月-あまつき-、タルタノリキ / 作曲:タルタノリキ / 編曲:佐々木裕] - LIFE!!
[作詞:富田京子、天月-あまつき- / 作・編曲:ゆりん] - 流れ星
[作詞:佐香智久、天月-あまつき- / 作曲:佐香智久 / 編曲:堀江晶太] - ナノレンズ
[作詞:渡辺翔 / ラップ作詞:はしやん / 作曲:渡辺翔 / 編曲:中山真斗] - ミカヅキリサイズ
[作詞・作曲・編曲:まふまふ] - 星月夜
[作詞:長谷川澪奈、天月-あまつき- / 作曲:KoTa、原田雄一 / 編曲:佐々木裕] - 愛鍵
[作詞・作曲・編曲:まふまふ] - 地球最後の告白を
[作詞・作曲:kemu / リアレンジ:佐々木裕] - お邪魔チックLover
[作詞・作曲・編曲:TOKOTOKO(西沢さんP)] - はじまりのうた
[作詞:天月-あまつき- / 作曲:伊東歌詞太郎 / 編曲:棚橋UNA信仁] - 気まぐれメリーゴーランド
[作詞:佐香智久、天月-あまつき- / 作曲:佐香智久 / 編曲:Saku] - White Line
[作詞・作曲・編曲:halyosy] - サマータイムレコード(カバー ※通常盤のみ収録)
[作詞・作曲:じん / リアレンジ:棚橋UNA信仁] - グッバイドラマチック
[作詞・作曲:天月-あまつき- / 編曲:佐々木裕]
初回限定盤DVD収録内容
- 流れ星Music Video+メイキング映像
天月-あまつき-(アマツキ)
ネットを中心に活動する男性ボーカリスト。2010年初頭より、ニコニコ動画「歌ってみた」カテゴリーにボーカロイドナンバーをカバーした楽曲の投稿を開始する。力強くもどこか少年らしさを感じさせるハイトーンのボーカルを武器に、ネット上での活動はもちろん、ライブイベントや演劇などでも活躍。2012年6月リリースの1stアルバム「Melodic note.」はオリコン週間インディーズアルバムチャートで1位を獲得した。2014年7月にKING RECORDSからアルバム「Hello, World!」を発表し、メジャーデビュー。2015年2月には、はしやんとのユニット・melostとしてアルバム「Melody Stock」をリリースした。同年6月に発表した天月-あまつき-名義でのライブDVD「Hello, World! TOUR 2015~春、君と見つける扉の向こうのお伽話~ FINAL LIVE at Zepp Tokyo」がDVDのオリコンウィークリーチャートで1位を獲得するなど注目を集める。2016年7月、メジャー2ndアルバム「箱庭ドラマチック」を発表した。