直近シングルに見る、a子の成長
──前回僕がお話を聞いたのが1stアルバム「GENE」の特集なのでちょうど1年ぶりなんですけど、「MOVE MOVE」までの間にリリースしたシングル3作を聴くと、アーティストとしてさらに成長しているなと感じました(参照:a子「GENE」インタビュー)。
「ときめき」(2024年11月リリース)は「明るい曲を作ってみよう」と提案されて作ったんです。キメやフィルの使い方を意識しつつ、歌詞もディレクターさんのOKが出るまで何回も作り直しました。「愛はいつも」の進化バージョンのようなイメージで、トラックも歌詞もすごくがんばって作った思い出があります。「朝が近い夜」(2025年1月リリース)は「ベージュと桃色」と同じようなイメージで作ったので、最初はかなり歌謡曲寄りの曲だったんです。そのときに「今っぽくて新しく聞こえる音楽を作るためには、同じジャンルを重ねるとよくない」ってことに気付きました。要はドラムが歌謡曲のパターンのところ、ベースやほかの楽器も歌謡曲のアプローチをすると、そのジャンルの色は強くなるけど、新鮮には聴こえないんですよね。
──ああ、なるほど。
音色、フレーズ、リズムの3つに分けて、それぞれジャンル感と年代感を細かく吟味しなきゃいけない。おそらく私がリファレンスにするようなアーティストはみんなそうして作ってるんだと気付きました。ベースひとつ取っても「あ、この人、リズムはあの年代だけど、フレーズは別の年代のファンクから持ってきてる。で、音色はロックだな」って細かく分かれていて、1つのジャンルの色が強くなりすぎないようにしてるんですね。だから曲のパーツを細かくメモするところから始めました。「朝が近い夜」はネイサン・バディという、ピンクパンサレスやNewJeansを手がけるエンジニアさんがミックスしてくださることが決まっていたので、ネイサンの得意な感じを意識して作ったんですけど、ちょっと音数が多すぎたな、という反省はありますね。この曲は形にするのが本当に難しくて、レコーディングのギリギリまでアレンジを詰めていた思い出があります。
──「PAPER MOON」(2025年4月リリース)はいかがですか?
この曲を作ってるときはタイラー・ザ・クリエイターにハマってて、彼のアルバム「IGOR」をリファレンスにしてました。あとオリヴィア・ロドリゴの感じというか、ちょうどロックがすごくやりたかったんです。その2組をリファレンスに、自分としてはちょっと明るい曲を意識して作りました。
a子のジャンルを確立したい
──それぞれ色の違う3曲をリリースしたあと、初めてのアニソンにも挑戦して……と、ソングライターとしての手数が増えているんじゃないですか?
J-POPはいろんなジャンルを混ぜるのが面白い文化なので、別にいいんですけど、あまりに手を広げすぎると、アルバムとしてまとめたときに聴きにくいかなと思うんです。だから「GENE」の反省点を挙げるとしたら、飛び散りすぎたというか、やりたいジャンルがちょっと多かったなと。今は指針を決めて、あんまり取り入れるジャンルが増えすぎないように意識しながらやってるつもりなんですけど、手数が増えたと感じられたということはやり方を間違えているのかもしれない(笑)。
──そんなことないでしょう。a子さんはご自分のやっていることだから当然すごく細かく見ているでしょうけど、リスナーはというか、少なくとも僕はもっとざっくり、楽しみながら聴いていますよ。
ホントですか? 同じ人が歌ってたらジャンルは気にならないですかね。
──声や歌い方やメロディのクセでa子さんの個性は充分出てるから、サウンドの色合いはそこまで統一感を気にしなくてもいいような気がしますけどね。
ビーバドゥービーとかのアルバムを聴くと憧れちゃうんですよ。ロックというジャンルが大きく根っこにあって、全体にまとまり感あっていいな、みたいな。私みたいにハウスがきたり、ロックがきたり、シンセポップがきたりみたいなバラバラなのは、ちょっとヤバいぞと。次回もしアルバムを出すとしたら、ちゃんとまとめられたらうれしいなと思ってます。
──次のアルバムを聴くときは、a子さんのチームがどれくらいまとめることができたかを……。
点数つけてください(笑)。
──点数はつけませんが(笑)、気にしながら聴いてみたいと思います。
気を抜くとすぐあっちゃこっちゃに行っちゃうんです。好きな音楽がころころ変わるので、スタジオの壁に「今回の曲はこのジャンルで」と書いた紙をバーン!っと貼りました(笑)。
──ところでa子チームの制作は、バンドというよりヒップホップアーティストと近い作り方なんですかね? 生演奏は素材として使って、最終的に中村さんとa子さんが2人で切り貼りして完成させていくような。
使う音色は曲ごとに判断してて、生で録ったものをトリガーするときもあれば、しないときもあるし、優しい音が欲しいときは生音をそのまま使ったりもします。この前、クレイロの1枚目のアルバム(「Immunity」)を聴き直してたら、「意外とドラムが思い切りのいいことやってるな」と思ったんです。「この曲でこのジャンルだったら、このキックとこのスネアの音だろう」という“当たり前”をあえて外しているというか、楽曲ごとに楽器のキャラクターをめっちゃ分けてることに気付いて、最近ちょっとそれを意識しながらやってます。
──その気付きを経て生まれる新曲も楽しみにしています。10月にはa子さんにとって過去最大規模のワンマンライブが東京と大阪でありますね。
ヤバいです! どちらの会場もめっちゃデカいんですよ。いいライブになると思うので、チケットぜひ買ってください。お願いします!
公演情報
a子 LIVE TOUR 2025 "Odyssey"
- 2025年10月19日(日)大阪府 なんばHatch
- 2025年10月24日(金)東京都 Zepp DiverCity(TOKYO)
プロフィール
a子(エーコ)
2020年に本格的にアーティスト活動を開始させたシンガーソングライター。情緒的な楽曲の数々はa子自身がプロデュースしながら制作しており、ミュージックビデオなども自身が率いるクリエイティブチーム・londogが手がけている。2020年9月に1st EP「潜在的MISTY」、2021年1月に2nd EP「ANTI BLUE」を自主レーベルからリリース。2023年1月放送のテレビ朝日系「関ジャム完全燃SHOW」では、「プロが選ぶ年間マイベスト10曲」のコーナーで佐藤千亜紀より2022年8月発表の「太陽」が選出された。2024年7月にポニーキャニオン内のIRORI Recordsからメジャー1stフルアルバム「GENE」を発表。2025年7月には初のアニメタイアップ曲として、アニメ「宇宙人ムームー」のオープニング主題歌「MOVE MOVE」を配信リリースした。10月には自身最大規模のツアー「a子 LIVE TOUR 2025 "Odyssey"」の開催を控えている。