Kroi / a子|IRORI Recordsの気鋭2組が振り返る初の「SXSW」

IRORI Records所属のKroiとa子が、3月にアメリカ・テキサス州オースティンで開催された複合イベント「SXSW 2024」に出演した。

IRORI Recordsは2020年6月にポニーキャニオン内に設立された音楽レーベル。急速に流行が変化する音楽シーンの中で色褪せない音楽を追求し、音楽が持つ本質を的確に多くのリスナーに発信することを目的に立ち上げられた。Official髭男dismやスカート、TOMOOなど近年の音楽シーンにおける重要アーティストが多数所属するこのレーベルは常に良質なポップミュージックを発信し、昨年12月には今や日本屈指のロックバンドとなったgo!go!vanillasを迎え入れた。音楽レーベルとしての軸がぶれない中で、変化を繰り返しながら成長を続けている。

そんなIRORI Recordsの中で、タイプは違えど、さまざまなジャンルの音楽を独自の解釈で昇華するスタイルで、海外も視野に入れた活動を展開するKroiとa子。2組の音楽は海外のミュージックラバーにどのように響いたのだろうか。この特集では音楽ライター・黒田隆太朗による「SXSW 2024」のライブレポートと、関将典(Kroi)とa子へのメールインタビューを通して、その手応えと可能性について探る。

文 / 黒田隆太朗

IRORI Records所属アーティスト

Official髭男dism / スカート / Homecomings / Kroi / SOMETIME'S / TOMOO / Bialystocks / a子 / go!go!vanillas

KAGAYAKI RECORDS ※提携レーベル
阿部真央

音楽ライター黒田隆太朗による、Kroi / a子「SXSW 2024」レポート

初のアメリカライブでも“Kroiらしさ”は忘れない

1987年に始まり、今年で38年目の開催を迎えた「SXSW」。世界最大級のコンバージェンスカンファレンス&フェスティバルであり、今年も3月8日から16日までの9日間にわたりアメリカ・テキサス州オースティンにて大規模に開かれた。毎年日本からも多くのアーティストがエントリーしている中、今年はa子、Kroi、ドミコ、東京初期衝動、眉村ちあきらが参加。本稿ではKroiとa子のステージの模様をレポートする。

今年1月に東京・日本武道館でのワンマン公演を成功させるなど、国内ではひと際伸長著しいバンドとなったKroi。以前から海外シーンへの憧憬を語ってきた彼らは、昨年台湾のフェスに出演するなど着実にステップアップを果たしており、今回は初のアメリカでのライブとなった。Red Hot Chili PeppersやRage Against the Machineがメンバーのルーツであることから、「SXSW」には気合十分で臨んだことだろう(そう言えば益田英知[Dr]がタトゥーを入れるほどリスペクトするジョニー・ウィンターはテキサス州出身である)。

3月に会ったときには「MCで何をしゃべればいいんだろう?」と口にしていた内田怜央(Vo)だが、1曲目の「Juden」を歌ったところで「My English is no good!」と言い放っていておかしかった。緊張感を持ちつつも、くだけた雰囲気を失わないところがKroiの魅力である。シリアスに音楽と向き合いながら、同時にラフで自然体な姿も忘れない。そうした5人のパーソナリティこそが、この音楽の底にある強さなのだと思う。とは言え、国内のライブではほとんど例外なく雑談MCが挟まれるのに対し、今回は英語圏でのライブとあって、次々と楽曲を畳みかけていた。

Kroi
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内田が映画「ジャンゴ 繋がれざる者」に触発され“西部劇ファンク”をイメージして制作したという「Funky GUNSLINGER」では、ウエスタンハットを被りギターソロを弾く長谷部悠生(G)の姿がピタリとハマっている。メジャー2ndシングル「Sesame」のインタビューでメンバーが「『SXSW』で演奏したい」と語っていた「Page」は、小気味よく色気のあるファンクナンバー。気持ちよさそうに体を揺らすオーディエンスの姿が印象的だった(参照:Kroi「Sesame」インタビュー)。バンドの地力の強さがうかがえるライブに、きっとメンバー自身も手応えをつかんでいたのではないだろうか。日本語詞を跳ねるようなリズムでつなぎ合わせて歌う独特なボーカルも、楽曲の魅力を引き上げている。もともとはドラマーであり、現在もパーカッションを担当する内田の言葉は、歌であると同時に時折打楽器のようにリズミカルなのである。

左から関将典(B)、内田怜央(Vo)、益田英知(Dr)。

左から関将典(B)、内田怜央(Vo)、益田英知(Dr)。

「Monster Play」は、ライブで演奏するたびに進化している生き物のような楽曲。間奏で聴かせる長尺のアンサンブルは、このステージのハイライトだろう。この曲を終えたところで内田が軽いMCを挟み、その間に長谷部がシャツを脱ぎ始めると、背中に亀の文字が書かれたオレンジ色のトップスが現れる。「ドラゴンボール」のネタを仕込んでくるとは驚きだが、遊び心とサービス精神、そしてこのライブの1週間前に死去した鳥山明へのリスペクトからだろうか。なお「SXSW」から数日後、鳥山の名作マンガ「SAND LAND」を原作としたアニメシリーズ「SAND LAND: THE SERIES」のオープニングテーマを彼らが担当することが発表された。

最後は粘り気のあるファンクナンバーから、突如として狂騒的なラストへと突き抜けていく「Fire Brain」で終演。去り際にかめはめ波を撃つことも忘れない、初の英語圏でのライブでも“Kroiらしさ”を存分に発揮するステージになったのではないだろうか。

関将典(B)と内田怜央(Vo)。

関将典(B)と内田怜央(Vo)。

Kroi

Kroi

a子が「SXSW」で見せた独自のクリエイティブ

東京都内を中心に活動するa子は、今年2月にメジャーデビューを果たした新進気鋭のアーティストだ。ミステリアスなビジュアルイメージ、仄暗いメロディに物憂げなウィスパーボイスを乗せた楽曲は早くから話題を集めていたが、とりわけ昨年リリースした「Steal your heart」がキャリア最初の転換点と言えるだろう(参照:a子「Steal your heart」インタビュー)。セルフプロデュースだった制作環境から一転、Official髭男dismや米津玄師の楽曲を手がける小森雅仁と、サカナクションやDaokoの作品を手がける浦本雅史という2名のエンジニアを招き、サウンド全体をブラッシュアップ。本人曰く「ポップスを意識し始めた作品」であり、今年に入ってからも「惑星」「LAZY」と開けたサウンドの楽曲をテンポよくリリースしている。夏のアルバム発表に向けてぐんと間口を広げた創作を見せており、今後はポップスへのアプローチを強めつつ、持ち前のエッジィな音楽性をバランスよく同居させていくのではないだろうか。

a子
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また名義としては“ソロのシンガーソングライター”だが、楽曲制作からMV制作、ライブのメンバーまでも含めたすべてのクリエイティブをlondogというチームで手がけているのも、a子の活動における重要なファクターだろう。ミュージシャンはもちろん、カメラマン、スタイリスト、ヘアメイクまでさまざまな肩書きのメンバーが所属するlondogは、a子を中心としたコレクティブに近いグループと言えるだろうか。いずれにせよそこで交わされるスムースなコミュニケーションが、彼女のクリエイティブの根幹である。無論、a子は「SXSW」のステージにもlondogのメンバーからなるバンドを従えて登場。ギター2本にベース、キーボード、ドラムス、そしてa子という6人編成だ(※2ndギターの中田海都はサポートメンバー)。

ファットなベースリフが曲のムードを決定付ける「太陽」で始まり、ボトムを強調したダンサブルなナンバー「シニスター」を挟んで、原曲よりもずっと華やかに感じる四つ打ちナンバー「天使」、それからオリエンタルなフレーズを含んだ同じく四つ打ちの「racy」へとつないでいく。「天使」と「racy」はどちらもロックを土台にハウスへとアプローチした楽曲であり、前半はグルーヴィで体を揺らすようなセットリストが組まれた。心なしかベースの音を強調したアレンジになっているのも、この日のステージを踏まえたものであるはずだ。

a子

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甘くポップなメロディとともに踊らせる「愛はいつも」で歓声が上がると、次の「bye」からライブのモードが変わっていったように思う。アンニュイな歌が怪しく響く「bye」、不穏なベースが引っ張っていくダークな音色の「肺」、メランコリックな心象が浮かぶ「trank」と、後半はa子の世界観を如実に反映した楽曲が並ぶ。曲調には歪さと親しみやすさが同居しており、a子のひんやりとした声が重なることで、蠱惑的な響きが生まれているように思う。最後はフライング・ロータスの楽曲をリファレンスにして生まれた「samurai」で終演。原曲でもスリリングなこの曲は、ライブで一層切れ味を増していたように思う。MCのたどたどしさはありつつも、a子が「SXSW」のステージで得た手応えは十分にあったのではないだろうか。6月に出演が決定している台湾のフェスを含め、今後の活躍がますます楽しみである。

a子
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ファンクやソウル、ロックやヒップホップをベースにしつつ、さまざまな音楽を貪欲に吸収し、キャッチーなフレーズを伴いながら強烈な毒気と刺激を放つ楽曲をリリースし続けているKroiは、すでにシーンの中でも特異な存在感を放っていると言えるだろう。一方、Men I TrustやSoft Machineをルーツに持ち、ポップな曲調とオルタナティブなサウンドを結び合わせながら、心の暗部を歌詞にしていくa子もさらなる飛躍を遂げるはず。両者とも国内での認知を拡大しつつ、海外シーンを視野に入れた活動が増えていけば面白いだろう。