a子「GENE」インタビュー|自分だけの“新しい音楽”を追い求めて

a子の1stフルアルバム「GENE」が、ポニーキャニオン内のレーベル・IRORI Recordsからリリースされた。

3月にアメリカ・テキサス州オースティンで開催された複合イベント「SXSW」に初出演し、6月には韓国インディーズの雄・dosiiとツーマンライブを行うなど、着実に活動規模を広げるa子。彼女にとって初めてのアルバム「GENE」には、クリエイティブチーム・londogとのパートナーシップはそのままに、外部クリエイター陣の力も借りたことで以前に増して幅広い音楽性の楽曲が並んでいる。

音楽ナタリーでは、多くの音楽ファンに広く愛されるであろうポップさと唯一無二の個性とのバランスへのこだわりをさらに“進化=深化”させた「GENE」についてa子にたっぷり語ってもらった。

取材・文 / 高岡洋詞

「GENE」に込めた意気込み

──「Steal your heart」(2023年12月発表の3rd EP)のインタビューで、自分が好きな音とポップスのバランスについて「今は6対4で、目標は2対8」だとおっしゃっていましたよね(参照:a子「Steal your heart」インタビュー)。「GENE」はそのバランスに近付いたというか、よりポップになった印象を受けました。

本当ですか? 私としてはポップ7割くらいのつもりで進めていたんですけど、全然ポップじゃない曲もできちゃって(笑)。例えば「天使」はやりたいことが7、8割、ポップ要素が2、3割という感じになったと思います。全体的には5対5くらいにはなったのかな。

──確かに曲ごとにその割合は違いますよね。

長い歴史の中で音楽のジャンルは出尽くしているけど、私は組み合わせ次第で「全然違うジャンルに聞こえる」とか「a子にしか出せない音楽性だ」と言ってもらえるような曲を作りたいんです。それは今回のアルバムでは実現できなかったんですけど、今の自分が最大限、妥協せずに制作に打ち込んだ成果は表れていると思います。

──「Steal your heart」リリース前に作っていた曲も入っているんですか?

はい。「つまらん」は私が音楽を始めてから最初に作った曲なんです。サビの歌詞はほとんど変えましたけど、ほかのだいたいの歌詞とメロディは小学6年生か中学1年生の頃に作ったもので。それ以外は、去年の12月ぐらいからバーッと一気に作って仕上げた曲ばかりですね。

a子

──「ポップスとご自身好きな音楽のバランス」という命題が明確になってから、ということですね。

メジャーに行ったことで、音楽を作るうえで「いろんな人に聴いてもらえるように」という意識は強くなりました。「GENE」はそういった意識の中で、自分たちの目標である“新しい音楽性”を表現できたらいいなという挑戦のアルバムですね。先ほどお話ししたように目標を達成することはできなかったんですけど、トラックメーカーの中村(エイジ)と「その意気込みを感じ取ってもらえたらうれしいね」って話をしていました。何年後か何十年後かわからないけど、いつか1曲ぐらい、a子にしか出せない音楽性の曲を作ることができたらうれしいですね。

──ご自身の理想通りではないにせよ、a子という音楽家の個性は徐々に確立されてきているように感じます。ちなみに「これはがんばったな」と手応えを感じる曲はありますか?

「samurai」ですね。この曲は自分の個性を出すという目標にほんのちょっとだけ近付けた気がしています。ほかにもエンジニアの浦本雅史さんと初めてご一緒できたり、私が大好きな竹村仁くんというめちゃくちゃうまいドラマーに叩いてもらったり、斎藤ネコさんにストリングスを入れていただいたりして。本当にお気に入りなんです。

a子

シンプルを意識した「ボーダーライン」

──周囲の人から評判がいい曲は?

「ボーダーライン」です。さわやかなポップスを作ってみたくて、聴きやすいトラックとメロディを目標にがんばりました。私と中村は足し算は得意なんですけど、引き算がめちゃくちゃ苦手なんですよ。「ボーダーライン」のトラックを作るときはシンプルにすることを意識して、中村と「引き算ができないんだから足すときから気を付けよう」と話しながらすごく慎重に作りました。あとAメロとBメロはウィスパーを使ってないから、それも新鮮に感じてもらえたのかも。

──この曲はどこから作っていったんですか?

最初の「チャーチャチャッチャッチャ」っていうギターです。あのフレーズは以前londogに所属していたギターの齊藤真純くんと一緒に考えて。あとは「samurai」で叩いてもらった仁くんに、「さわやかなポップスにしたい」というイメージを伝えてドラムを入れてもらいました。

──制作はトラック先行で始まることが多い?

その場のノリと雰囲気で決まってくるというか。「この曲は絶対メロディを際立たせたいのでメロディから」みたいなときと、そのときハマっている曲があって「こういうのが作りたいから」とトラックから始めるときと、完全にその日の気分ですね。気ままにやってます。

a子

──それは仲間と一緒に作っているのが大きいんでしょうか。

そうですね。中村さんやほかのメンバーが「この曲いいよ」って教えてくれたりもするので。それで気に入ったら「じゃあ、このビートとテンポから作ってみましょうか」という感じで進めています。

a子サウンドを構成する雑多な音楽

──今回、仲間との会話の中でアイデアが生まれた曲はほかにありますか?

「LAZY」は、Two Door Cinema Clubの「I Can Talk」とBloc Partyの「Banquet」からヒントをもらってトラックから作りました。アレンジやギターの入れ方はJ-ROCKを意識しつつ、音作りはめちゃくちゃヨーロッパに寄せて、テンポはTwo Door Cinema Clubぐらい速く、みたいな。

──a子さんのリファレンスは具体的で面白いですね。

(笑)。「miss u」もトラックから作ってます。1990年代から2000年代初期の感じを表現したくて、JUDY AND MARYの「そばかす」をイメージしながら制作しました。ちょうどその頃にオリヴィア・ロドリゴのアルバム「Guts」を聴いたから、途中で「bad idea right?」がリファレンスに加わったりもしましたけど。あとはエンジニアのテルさん(照内紀雄)がすごく向き合ってくれて、ドラムのサウンドを私の提案したリファレンスに近付けていただけてうれしかったです。でも「オリヴィアのこの感じ」とか言いつつ、全然違うアーティストの曲を聴いて「これも合いそう」「これ好き」ってどんどん引っ張ってくるから、結果的にごちゃごちゃしちゃうんです(笑)。

──いろんな音楽を混ぜた結果、a子サウンドになるんですね。

リファレンスがはっきりしてるのも、たぶん中村さんと2人でやってるからなんですよ。自分1人なら「こんな感じの音を探そう」って1つずつシンセで音色を探ったりできますけど、人と一緒に作る場合「ふわふわした音」とか「あの年代のシンセ」みたいな抽象的な言い方だとなかなか伝わらない。なので自分が「いいな。いつか使いたい」と思ったサウンドはメモしたり、覚えるようにしています。

a子

──「ふわふわした音」と言っても、イメージしているものが各々違ったりしますものね。

そうなんですよね。何年も一緒にやってるのに全然通じなくてケンカになることも多いです(笑)。この前も中村さんに「いつものあの感じの音を入れたいです」と伝えたら「え? 何それ」と言われて(笑)。ミュージックビデオの監督やスタイリストやヘアメイクと話すときも、内容をしっかり詰めて細かく具体的に言わないと、自分がやりたいイメージは伝わらない。それはチームで物作りをする中で強く実感することですね。

──ずっと一緒にやっていても齟齬があるなら、外部の人相手だともっと大変ですね。

本当に。MVはメジャーに入ってからShun Takedaくんという監督に撮ってもらっているんですけど、彼は私のイメージを細かく聞いて作品に落とし込んでくれるんです。「a子がめっちゃ反応いいときってないから、いつか飛び跳ねて喜ぶくらいいい作品を作る」と言ってくれていて、そういう意識で制作に臨んでくれているのはうれしいですね。