アジカンを撮るのが人生の目標みたいなものだった

──「Right Now」のMVは行定監督がメガホンを取られてますが、どういった経緯で取ることになったんですか？

行定　アジカン側からオファーをいただいてですね。アジカンのMVを撮るのが人生の目標みたいなものだったので光栄でした。

後藤　それは言い過ぎですよ（笑）。

行定　でも撮ってみたいとは思ってた。「Right Now」は映画と小説を基に作ってもらったけど、今度は逆で。僕にとって「Right Now」が原作のようなものになる。さてどうしようと。さらにアジカンが海外ツアーを控えていたから、その前に撮らなきゃいけないというタイトな状況で。

後藤　すみません（笑）。

行定　いろいろ考える中で「ドロドロになって 境目が曖昧になって」っていう歌詞が僕の中で核になったんですね。映画の中でもそういったシーンが出てくるんで。でもそれだけじゃなくて、「もう彼女は暗闇を抜け出したんだ」「さあ、今 今、ここから」っていうところを夏帆ちゃんを通して表現したくて。あとは、映画を観た人がニヤっとするような仕掛けを用意したかった。それと後藤さんには演技にも挑戦してもらって。

後藤　いやあ、行定監督は厳しかったですよー。

行定　そんなことないでしょう（笑）。

山田　楽器隊は演奏シーンだけだったんで、特に苦労はなかったんですけどね（笑）。

後藤　豊田さんは、ほとんどチェックもなくワンテイクでしたから。僕らが演技し始めたらやめるとも言ってたんで、真逆で面白かったです。

行定　僕、役者に無理させるのが好きなんですよ。後藤さんって笑わないイメージがあるでしょ？ だからこそ、そういう顔を見たいなあと思って。ライブ映像とか観てても、インタビューでの発言を読んでも、どこか神秘的で。そういったイメージを壊しちゃいけないのかなと思ってた。でも、それが映像のフィールドになったら踏み込めるかな？ どうだろうって。

後藤　なるほど。

行定　昔の後藤さんだと「ちょっと待ってよ」ってなったかもしれないですけど、今回は演技することを受けてくれた。来た球を全部打つわけじゃないけど、今まで打たなかった球も打つようになったのかなと。自分もそうだけど、何をやってもASIAN KUNG-FU GENERATIONらしさがなくなるわけじゃないことを自覚しているというか。

後藤　それはありますね。

やめろって言われても絶対やる

──今年アジカンは結成20年を迎えますね。アジカンも行定監督も1つのことを長年にわたって続けられてますが、その原動力はなんでしょうか？

後藤　若い頃は「好きだからやってるんです」って言ってたと思うし、言いがちだと思うんですよ。でも、最近はっきりした理由はないってことに気付いたんですよね。やらされている感覚というか。

──やらされている？

後藤　「お前は音楽をやりなさい」っていう使命というか、音楽に呼ばれているというか。そもそも、まじまじと音楽が好きか嫌いかとか考えたことないんですよ。リスナーとして聴いているときは「音楽好きだな」って思いますけど、作ってるときは回路が違うんですよね。作り終えたあとにはもちろん達成感はありますけど。前に僕の知り合いの作家が、先輩の著名な作家の方に「小説を書き続けるか続けないかは君ごときには決められないんだ」って言われたって話してて。もはや自分の意思とは違う、大きな流れの中にいるんじゃないかと。

山田　もはや離れられないものになっちゃってるんですよね。「好きだからやってる」というだけでは片付けられない。大学生から社会人になって一度バンドをやめて、それでもやめきれなくて再開したときがターニングポイントでしたね。

後藤　でも、アルバム作ったあとは毎回、もうアジカンやめようって思うんですよ。なのに、また作るんですよね。おからみたいにカッスカスになりながら（笑）。

行定　それは理解できますね。っていうか、もうこれしかできないんですよね。僕、実家が阿蘇にあって、両親が自分の畑で作ったものを食べて自給自足してて幸せそうなんですよ。そういう生活もあるんだなと思うし、阿蘇に帰って仕事をすることも考えるんですよ。で、両親と同じように自給自足をしながら何をするかって考えたら、自分が撮りたい映画を撮ろうってなる。結局俺、映画撮るのかって思って（笑）。あと以前は撮るたびに映画やめようと思ってたんですけど、ここ3、4年はやめようとは思わなくなったんですよ。やっと楽しくなってきたというのもあるし、どんなに失敗しても「一緒に映画作りませんか？」って声をかけてくる人がいる。もはや自分1人で決められるものじゃないんだなって。それに映画を作る中で、毎回自分が思いもしなかった感情に触れることができるから。もうやめられないんですよね。

後藤　すごいわかります（笑）。僕らも音楽をやめろって言われても絶対やめられない。もう抗えないんです。