Aimer「鬼滅の刃」シリーズとのタッグ再び──鬼殺隊の思いを宿した「太陽が昇らない世界」 (2/2)

鬼殺隊の心情をより増幅して伝えなければいけない

──「太陽が昇らない世界」は、「元凶」から始まる歌詞も勇ましいですね。「今から鬼舞辻無惨をぶっ倒しにいくぞ!」という感じで。

まさに。実はオンラインのミーティングで、近藤さんが「Aimerさんには、この曲がこのタイミングで流れることに意味を与えてほしい」とおっしゃってくださって。だから、なんて言ったらいいんでしょう……決起集会みたいな?

──そういうテンションの曲だというのはわかります。

鬼殺隊の隊士たちの心情を表現している歌詞ですし、私はボーカリストとして、その心情をより増幅してお客さんに伝えるという役割を果たさなければいけない。「劇中歌の要素」とはそういう意味合いも含んでいて、レコーディング中に流していただいた映像の情景描写も、本能的に従いつつ、歌で補強するような心持ちで歌っていますね。

──作詞の近藤さんは「鬼滅の刃」シリーズのプロデューサーでもあり、過去には「Fate/stay night [Unlimited Blade Works]」や「劇場版 Fate/stay night [Heaven's Feel]」3部作などもプロデュースしているので、Aimerさんとはそこそこ長い付き合いになる?

最初にお会いしたのは「Brave Shine」(2015年6月発売の8thシングル表題曲)のときだったと思います。ディレクションしていただくのは今回が初めてだったんですが、「Aimerさんの歌いやすいように歌ってください」という感じで委ねてくださって。そのうえで、私が「こういう表現もできるんですけど、どちらが曲に、作品に合っていますか?」といった質問を投げかけると、椎名さんたちと適切な方向に導いてくださったので、とても心強かったです。

──完成形が見えていたから、適切なディレクションができたのかも。

すごいですよね。私は全然見えていなかったです。もう、選択肢がありすぎるので。でも、事前にそうした選択肢を1つひとつシミュレーションして、いろんな歌い方を用意していたこともあってか、その場のライブ感で引き出される歌もあったりして、自分でも面白かったです。

──「選択肢がありすぎる」と思えるのも、すごいことなのでは? それだけ多様な歌唱表現の引き出しを持っているということなので。

そう考えると、今、こういう曲を歌えて本当によかったですね。今までの自分が得意としてきた表現も、あえて削ってきた表現も、この曲の中に全部出し切ったという感覚があるし、そんな曲を近藤さんと椎名さんが託してくださったのは、今の自分にとってとてもありがたく、光栄なことです。

Aimer「太陽が昇らない世界」通常盤ジャケット

Aimer「太陽が昇らない世界」通常盤ジャケット

あえてしゃくり上げない選択肢

──「あえて削ってきた表現」とは、具体的には?

私はライブだと、自分の感情や温度が歌に乗ることを自分で許してしまうというか、許容範囲が広くなるんです。でも、レコーディングで感情に振り切りすぎると、曲としてのバランスを欠いてしまったりする。だからある程度は制御する必要があるんですが、今回はライブの許容範囲のままレコーディングしたような感じで。具体的に言うと、ちょっとマニアックだけど、先ほど触れた「元凶」や「妖々」の2番目の音はどちらもフォールしているんですよ。「げんきょう→」じゃなくて「げんきょう↓」というふうに。そうやってボーカル表現でステイせずあえて下げる、あえてしゃくり上げないみたいな選択肢は、今までだったらこの部分で選ばなかったかもしれません。それは、感情がそうさせたとも言えますし、そのほうがこの曲に合うと自分でも思えたんですよね。

──「元凶」以外にも、そういう表現が?

いっぱいあります。例えば「荒々しい潮騒が」から始まる落ちサビのブロックの、「迷いはない」の「ま」とか。

──「迷いはない」の「ま」。

ここは「まぁよいはない」と歌っているんですけど、これもいつもだったら避けていた表現ですね。そういう細かな選択が随所にあって、中でもこの「迷いはない」の「ま」は、椎名さんが「こっちのほうが好き」と言ってくださったのでよく覚えています。大雑把に言えば、「胸に残る 苦い記憶」のブロックとか、平歌に相当するパートはけっこうセオリー通りに歌っていて。一方、サビではイレギュラーな表現を、別の言い方をすればインパクトのある表現を多用している感じですね。それでいて、吐息の使い方やビブラートのかけ方に関しては自分でも「自分っぽいな」と思える表現ができたかなと。

──「太陽が昇らない世界」を聴いたとき「Aimerさんはどういうテンションでブースに入ったんだろう?」と思ってしまったんです。「いきなりこの『元凶』が出せるの?」と。

いきなりは出せませんね。ちゃんとウォーミングアップしないと、喉に負担がかかるので。この曲も、最初はすごく弱々しく歌ってから徐々にギアを上げていったんです。

──例えば「Life is a song」(2023年5月発売の22ndシングル「あてもなく」収録曲)や「遥か」(2024年6月発売のEP「遥か / 800 / End of All / Ref:rain -3 nuits ver.-」収録曲)のような、声を張らないタイプの曲でもウォーミングアップを?

どんな曲でもしますね。ピッチやテンポ、エモーショナルさの度合いにかかわらず、いきなり全力で歌うと空回りしちゃいます。デビュー当初は本当に、レコーディングでもライブのリハでも空回りばかりしていて。それを繰り返しているうちに、自分に合ったギアの入れ方がだいぶつかめてきたような気がしますね。どうでもいい話かもしれませんが、頭サビの「元凶」は一番喉が温まった、最高の状態で歌いました。

──Aimerさんが「鬼滅の刃」シリーズの主題歌を歌うのは、「残響散歌」「朝が来る」に続いて3曲目になります。最初にするべき質問だったかもしれませんが、どういう気持ちで臨まれたんですか?

まず、私は「遊郭編」で初めて「鬼滅の刃」シリーズに関わらせてもらって、そのとき「残響散歌」という曲が、作品に導かれて生まれたんです。私の場合、タイアップによって新しい扉が開かれることが多いんですけど、「残響散歌」も間違いなくそういう曲の1つであり、「残響散歌」で開けた扉が、ひいてはこの間の「lune blanche」ツアーにもつながっていて。そういう曲を作る機会をくれた大事な作品にまた関わることができたのは、シンプルにうれしかったです。そして今回は、「残響散歌」のようにクリエイターと一緒に作り上げるのではなく、近藤さんと椎名さんのお二人が作られた曲を、いちボーカリストとして表現するという腹積もりだったので、すごく楽しみでもありました。そこで自分の役割を全うするためには、自分にしかできない表現をするしかないし、「太陽が昇らない世界」ではそれができたんじゃないかなと思っています。

Aimer

プロフィール

Aimer(エメ)

幼少期の頃にピアノやギターでの作曲や英語での作詞を始め、15歳のとき声が一切出なくなるというアクシデントを経験し、それがきっかけとなり独特の歌声を獲得する。2011年から音楽活動を本格化させ、同年9月にシングル「六等星の夜 / 悲しみはオーロラに / TWINKLE TWINKLE LITTLE STAR」でメジャーデビューを果たした。2021年よりSACRA MUSICに所属。2022年1月にテレビアニメ「鬼滅の刃」遊郭編のオープニングテーマおよびエンディングテーマを収録したシングル「残響散歌 / 朝が来る」をリリース。同年末には「第73回NHK紅白歌合戦」に出場し、「残響散歌」を披露した。2023年7月に7thアルバム「Open α Door」を発表し、2024年に5年ぶりの海外ツアーと、国内10都市19公演のホールツアーを開催。2025年2月にアニメ「天久鷹央の推理カルテ」のオープニングテーマを表題曲としたシングルをリリースした。7月に「劇場版『鬼滅の刃』無限城編 第一章 猗窩座再来」の主題歌を表題曲としたシングル「太陽が昇らない世界」をリリースした。