モノクロの世界から抜け出して
──8曲目の「Monochrome Syndrome」でまたダンスミュージックに戻ってきますね。こちらも飛内さんの作曲ですが、個人的にめちゃくちゃ刺さりました。
ホントですか?
──はい。ひと言で言えばディスコナンバーですよね。
そうです。これも、さっきも言ったように「soleil et pluie」のツアーで歌うアップテンポなナンバーが足りないから作った曲なんですけど、ちょっと大人っぽい雰囲気もあって。しかもわりと全体のピッチが低いんですよ。だから、自分の声のおいしいところを思い切り生かせるなあと思いながら歌った覚えがあります。
──歌詞も素敵ですよね。「ONE」以降のAimerさん自身のことを歌われているようで。
うれしいです。そう、ベスト盤の「blanc」と「noir」を経て「ONE」を作ったときに、この曲は白と黒のどちらにもハマらないというか、もっとカラフルな感じがしたんです。つまりモノクロじゃなくて色が付いてる。そこでぼんやりと、今の自分は「白と黒」という軸から先に進んでいるんだなっていうのを感じて。
──例えば「六等星の夜 Magic Blue ver.」や「After Rain -Scarlet ver.-」(シングル「Ref:rain / 眩いばかり」のカップリング曲)のように、「ONE」以降のシングルに収められたセルフカバーのタイトルにそれぞれ色を付けているのもその流れですよね。
その通りです。だから「白と黒」に代わる分け方を新しく作りたいと思っていて、そういう意味でも今回のアルバムのコンセプトである「太陽と雨」がすごくしっくりきたんです。その中で「Monochrome Syndrome」は、まさにモノクロの世界から抜け出して、今はこうしてカラフルな歌を歌っているということを言えたらいいなって。ただ、作詞自体はかなり悩んだんです。モノクロだった頃の自分と今の自分に何かを絡めたくて。
──歌詞のストーリー自体からは、ちょっと不良っぽい青春映画のような印象を受けました。
あ、それは当たってるかも。実はレオス・カラックス監督の「ボーイ・ミーツ・ガール」というモノクロ映画があって、私自身、背伸びしてそういう映画を観ていた時期があるんです。それを思い出しながら、「コイワズライ」ほどピュアなものではないにせよ、ちょっと恋愛要素を絡めてみました。自由奔放な恋をして、モノクロの世界に色を付けるみたいな。
──なるほど。しかも、そこでAimerさんが付けた4つの色が心憎い。
あはは(笑)。そうですね、これからもいろんな色を歌っていくんだよっていう意味も込めて。
「太陽」のアルバムの中で一番眩しい曲
──続く「SUN DANCE」は百田留衣さん作曲の、ウエストコーストサウンドを思わせるミディアムテンポのロックナンバーです。
アルバムの最後をどういう形で締めたらいいか考えたときに、アルバムタイトルを冠した曲を持ってきたらいいんじゃないかと思ったんです。そうしたら、この曲のことを思い出して。曲のデモ自体はアルバムの制作前からあったんですけど、サビに「SUN DANCE」というワードがぴったりハマったんです。だから曲自体もすごく好きだったし、申し分ないなと。
──「SUN DANCE」と言えば、サンダンス映画祭ってありますよね。アメリカのサンダンスで毎年行われている、インディーズ映画の映画祭が。
そう! そうなんです。「Sun Dance」も「Penny Rain」も、もともと地名から付けてるんです。ただ「Penny Rain」は、The Beatlesでおなじみのイギリス・リバプールにあるペニー・レイン(Penny Lane)の綴りを変えているんですけど。一方の「Sun Dance」は今おっしゃったサンダンス映画祭で有名なアメリカのユタ州と、もう1つワイオミング州にも同じくサンダンスという地名があって。調べてみたら「サンダンス」というのはネイティブアメリカンが自然と対話するために行う儀式の名前でもあったんです。だから私の中でこの言葉はすごくポジティブなものの象徴でもあって、それが「SUN DANCE」の歌詞にも表れていますね。
──希望的で、まさにアルバムジャケットのように一切の日陰がない。
ホントに、「SUN DANCE」はアルバム収録曲の中で一番眩しい曲ですね。ここからもっと先へ進んでいくんだっていう、ある種の決意表明でもありますし。ほかの曲は、眩しさの中にもちょっとした陰が見え隠れしているんですけど。だからこそ、ボーカルに感情を込めすぎるとどこか説教臭く、あるいはわざとらしく聞こえてしまうのですごくラフに歌いました。
──かつて夜の歌ばかり歌っていた人が、これでもかというくらい陽の下にいるという。
昔の自分が聴いたら間違いなくびっくりするでしょうね。でも、このアルバムを作ったことでたくさん学ぶこともあったし、これからの自分の可能性を広げるためにも、こういうアルバムを作ることが必要だったんじゃないかなって。実際、私自身もポップなダンスミュージックにシンガーとして、歌詞を書く人として向き合ってみてすごく楽しかったし、こういう歌をもっと歌いたいという気持ちが、このアルバムを作ってより確かなものになりました。そこにたどり着けたのは、みんながいてくれたから。
「ONE」で始まって、「ONE」で終わりたい
──Aimerさんはもちろん、agehaspringsの作家さんもよくぞここまで振り切ってくださったなと。
ありがたいです。このアルバム自体が、先ほども触れたように80年代的な音作りを参考にしているところもあるし、私も今まで踊れるポップスというものを歌ってこなかった分、ルーツとなる音楽をたどって、それを今の歌として表現していくことが本当に大事なんだなって、体感しました。だから今は、そういう音楽的な歌をちゃんと歌えるシンガーでいたいという気持ちがすごく強いです。
──「音楽的な歌」とは?
うーん……例えば「We Two」のレコーディングで「さらっと歌わない」ようにすることに悩んだという話をしましたけど、決まったメロディの中で自分がどう動くか。その動き方次第でトラックを生かすことも殺すこともできるということが、玉井さんとやりとりしながらレコーディングしていく中で改めてわかったんです。そうやってメロディラインを自分でプロデュースして、しかもそこにちゃんと音楽的な根拠があるということが大事なのかなって。
──逆に言えば表層的な歌にしないということ?
はい、ノリやフィーリングで曲に寄り添うのではなくて。それこそ昔のソウルやR&Bをちゃんと咀嚼したうえで歌うとか、ルーツが見える歌い方をすることがこの先も歌い続けていくために必要なことだと感じています。
──今すごくいいまとめのコメントをいただいたんですけど、「ONE -epilogue-」のお話もお聞きしていいですか?
もちろんです。まだ1曲残ってましたね(笑)。
──「ONE -epilogue-」は原曲のアレンジを変えるだけでなく、ボーカルも録り直していますよね?
はい。このアルバムは「SUN DANCE」で終わらせることも考えたし、終わらせてもよかったんですけど、やっぱり「ONE」という曲にすごく思い入れがあって。最初のほうでお話しした通り、「太陽」の原点だし「zero」からの一歩でもあるし。なので「Sun Dance」という太陽の物語は、「ONE」で始まって「ONE」で終わりたいなとエピローグバージョンを作っていただきました。
──歌詞の一部をオミットして、なおかつ原曲のダンス要素をあえて抜いていますね。
そうなんです。エピローグとしてクドくなりすぎないように、原曲よりもシンプルな構成にしてもらいました。アレンジもちょっと切なくて、それでいてみんなで一緒に歌ってるような感じを出したくて。やっぱり最後はしんみり終わりたくなっちゃったというか、物語が終わるのが寂しくなるような雰囲気に。
──そこでまた始まりの「ONE」に戻る、つまり2周目に行きたくなる感じもあります。
それはとてもうれしい感想ですね。でも、このまま「Penny Rain」に行くのもいいんですよ。
- Aimer「Sun Dance & Penny Rain」
- 2019年4月10日発売 / SME Records
-
完全生産限定盤
[CD2枚組+Blu-ray2枚組]
9720円 / SECL-2409~13 -
初回限定盤A
[CD2枚組+Blu-ray]
5184円 / SECL-2414~6 -
初回限定盤B
[CD2枚組+DVD]
4752円 / SECL-2417~9 -
配信
- 「Sun Dance」収録曲
-
- soleil
- ONE
- We Two
- 3min
- コイワズライ
- 花びらたちのマーチ
- 思い出は奇麗で
- Monochrome Syndrome
- SUN DANCE
- One -epilogue-
- 「Penny Rain」収録曲
-
- pluie
- I beg you
- Black Bird
- Sailing
- 眩いばかり
- Stand By You
- Ref:rain
- i-mage <in/AR>
- 花の唄
- April Showers
- 完全生産限定盤 Blu-ray 収録内容
-
DISC 1
- I beg you
- Black Bird(Movie ver.)
- zero
- ONE
- 眩いばかり
- 思い出は奇麗で(Father's day edit)
- Ref:rain
- 花びらたちのマーチ
- 歌鳥風月
- 花の唄
DISC 2
- soleil(soleil et pluie)
- ONE(soleil et pluie)
- Monochrome Syndrome(soleil et pluie)
- Believe Be:leave(soleil et pluie)
- 3min(soleil et pluie)
- あなたに出会わなければ~夏雪冬花~(soleil et pluie)
- 今日から思い出 Evergreen ver.(soleil et pluie)
- カタオモイ(soleil et pluie)
- 思い出は奇麗で(soleil et pluie)
- Ref:rain(soleil et pluie)
- 眩いばかり(soleil et pluie)
- 花の唄(soleil et pluie)
- Black Bird(soleil et pluie)
- After Rain -Scarlet ver.-(soleil et pluie)
- Hz(soleil et pluie)
- 蝶々結び(soleil et pluie)
- 初回限定盤A Blu-ray / 初回限定盤B DVD 収録内容
-
- I beg you
- Black Bird(Movie ver.)
- zero
- ONE
- 眩いばかり
- 思い出は奇麗で(Father's day edit)
- Ref:rain
- 花びらたちのマーチ
- 歌鳥風月
- 花の唄
- Aimer「Sun Dance」
- 2019年4月10日発売 / SME Records
-
通常盤 [CD]
2160円 / SECL-2420
- 収録曲
-
- soleil
- ONE
- We Two
- 3min
- コイワズライ
- 花びらたちのマーチ
- 思い出は奇麗で
- Monochrome Syndrome
- SUN DANCE
- One -epilogue-
- Aimer「Penny Rain」
- 2019年4月10日発売 / SME Records
-
通常盤 [CD]
2160円 / SECL-2421
- 収録曲
-
- pluie
- I beg you
- Black Bird
- Sailing
- 眩いばかり
- Stand By You
- Ref:rain
- i-mage
- 花の唄
- April Showers
- Aimer(エメ)
- 女性シンガーソングライター。幼少期よりピアノやギターでの作曲や英語での作詞を始め、15歳のとき声が一切出なくなるというアクシデントを経験し、それがきっかけとなり独特の歌声を獲得する。2011年から音楽活動を本格化させ、同年9月にシングル「六等星の夜 / 悲しみはオーロラに / TWINKLE TWINKLE LITTLE STAR」でメジャーデビューを果たした。2014年6月に2ndアルバム「Midnight Sun」と、澤野弘之とのコラボレーションアルバム「UnChild」を同時発売し、同年9月には菅野よう子、青葉市子らが参加する新作「誰か、海を。」を発表した。2016年7月にONE OK ROCKのTaka(Vo)と凛として時雨のTK(Vo, G)が提供およびプロデュースした楽曲を収めた両A面シングル「insane dream / us」、8月にRADWIMPSの野田洋次郎(Vo, G)制作の「蝶々結び」を収めたシングルをリリース。9月にTaka、野田のほか、andropの内澤崇仁(Vo, G)、スキマスイッチが楽曲提供およびプロデュースをした新曲を含むアルバム「daydream」を発表し話題を集める。2017年5月にベストアルバム「BEST SELECTION "blanc"」と「BEST SELECTION "noir"」を同時リリース。8月に初の東京・日本武道館単独公演を行い、13000人を動員した。2018年2月にCocco提供の「眩いばかり」を含むニューシングル「Ref:rain / 眩いばかり」を、9月に映画「累-かさね-」の主題歌「Black Bird」を収録したシングルをリリース。2019年1月に劇場版「『Fate/stay night[Heaven's Feel]』II.lost butterfly」の主題歌「I beg you」を収めたトリプルA面シングルを発表した。4月に2年半ぶりとなるオリジナルアルバム「Sun Dance」「Penny Rain」を2枚同時リリース。
2019年4月10日更新