音楽ナタリー Power Push - Aimer

彼女が“夜明け”に描いた 物語の終わりと始まり

1曲の中に調和しない何かを混在させる

──物語の中の時間的には8曲目の「誰か、海を。」あたりからが夜明け前ですよね?

2014年9月リリースの「誰か、海を。」ジャケット。「ミュージックジャケット大賞2015」準大賞を受賞。

そうですね。以前もお話させていただいたんですけど(参照:Aimer「誰か、海を。」インタビュー)、(青葉)市子さんの歌詞と菅野(よう子)さんのメロディが本当に一番深い海の底のような暗さ、不穏さを持っていたので、この曲を夜明け前の入り口、アルバムのアクセントにしてみました。

──なんでこんなことを聞いたかというと、アルバムを聴いていて、その“夜明け前”の前、夜の時間帯を歌った曲の詞がすごく気になったからなんです。特に「Noir! Noir!」と「Re:far」の詞なんですけど……。

ああ(笑)。

──Aimerさんにとって夜はすべてを包み込む優しい存在だから、アルバム前半には温かい印象を受けるメロディやアレンジの曲が並んでいるんですけど……。

歌詞は暗いですね(笑)。今回は「Noir! Noir!」や「Re:far」に限らず、歌声やメロディとのバランスを特に考えて作詞をするようにしていて。メロディが優しかったり温かかったりするなら、歌詞はそちら側には寄せない。そしてその優しくはないかもしれない歌詞を優しく歌うというように、1曲の中に調和しない何かをあえて混在させたかったんです。

手にした力強さを手懐ける

──それは以前からおっしゃっているように、沈黙と喧噪、怒りと喜びのように相反する何かを歌いたいから?

「ONE OK ROCK 2015 "35xxxv" JAPAN TOUR」にサポートゲストとして出演時のAimer。

そういう面もありますし、今、自分で自分の声を一番コントロールできている気がしているんです。1stアルバムはすごく個人的なアルバム。1人きりの世界というか、儚さや弱さと、あと少しの優しさを歌ったアルバムだと思っていて。そして澤野(弘之)さんと出会って「RE: I AM」と「StarRingChild」という2枚のシングルを作ったあとにリリースした2ndアルバムは、シングルで手に入れた力強い歌声を閉じ込めたアルバムになったんですけど、今思うと、あの頃はその力強さを完全にはコントロールできてはいなかったんです。

──力強さをコントロールできなかった?

澤野さんと出会うまで力強い曲と真っ向から向き合ったことがなかったこともあって、その力強さを手懐けられていなかったんです。優しい曲を歌うときもどこか力が入ってしまったりしていましたし。静かな曲を歌っていた頃の感覚がわからなくなってしまったんだけど、だからといって力強い歌い方を完全にモノにできたわけでもない。一時期ではあるんですが、元いた場所に帰ることができなければ、今いるところも不確かという状況に置かれている感じがしていたんです。

──では今はその力強さを手懐けられている?

2ndアルバムを出して、ワンマンライブであったりイベントであったり、たくさんのステージに立たせてもらったこともそのきっかけになりましたし、あとは声を取り戻すという意味でも「Brave Shine」の存在は大きかったのかもしれないです。あの曲は私にとってはデビュー前後からご一緒している、ある意味ホームともいえるagehaspringsの皆さんと作った曲だったから、少し精神的に余裕があったというか、制作期間中に改めて自分の声というものに向き合うことができて。自分なりの力強さと優しさについてもう一度考えることができたから「Noir! Noir!」や「Re:far」を曲調に合った優しい声で歌うことができるし、歌声とはある種の不調和を起こす歌詞を書けるとも思った。新しい表現に挑戦できると思えたんです。

ツアーファイナルで感じたリスナーとの「キズナ」

──夜明けの曲、つまり「Brave Shine」より後ろに置かれた楽曲である「キズナ」と「DAWN」の詞も新機軸ですよね。「Noir! Noir!」とは逆に詞がメロディと歌声と不調和を起こしていない。優しいメロディに乗せて、優しい歌声で優しい言葉を歌っています。むしろAimerさんのキャリアを考えるとこの2曲のほうがより大胆な挑戦というか。

確かにそう思います(笑)。ただ、一度自分の声と向き合えたから歌えたという意味では「Noir! Noir!」や「Re:far」と同じなんです。「キズナ」はデビュー前に田中秀典さんに歌詞を書いていただいて、レコーディングもしてみた曲だったんですけど、結局「自分の納得のいく優しさを表現できるまで歌いたくない」ということで一度封印していて。そのくらい思い入れの強い曲なんですけど、今年の2月、渋谷公会堂でのツアーファイナルのアンコールで歌ってみたらすごく運命的なものを感じてしまって……。

──運命的なもの?

ツアー「Maiden Voyage」東京・渋谷公会堂公演でのAimer。

あのライブは「Brave Shine」のレコーディングを終えたばかりの頃のもの、つまり挫折を乗り越えた上で迎えたのがあのツアーファイナルのステージだったんです。挫折を乗り越えられた理由にはデビューしてからこの4年間で出会ってきたファンの方やスタッフの方の温かさや、そういう方々との“絆”を感じられたからというのもあって。そういうことを再確認できた時期に、その皆さんの前で「ひとりきりじゃない みんなそばにいるから…」と歌えたことで「キズナ」に対する思いがさらに深まった気がしたんです。

──しかも「Brave Shine」の制作期間というのはご自身の歌い方について改めて考える時期、「納得のいく優しさを表現できる」ようになった頃でもあった。

だからちょうどいいタイミングだったというか、力強さを手懐けた上で優しさを表現できる今だからこそ、改めて「キズナ」を歌ってみたかったんです。

ニューアルバム「DAWN」 / 2015年7月29日発売 / SME Records
ニューアルバム「DAWN」
初回限定盤A [CD+Blu-ray] / 3980円 / DFCL-2150~1
初回限定盤B [CD+DVD] / 3650円 / DFCL-2152~3
通常盤 [CD] / 3218円 / DFCL-2154
CD収録曲
  1. MOON RIVER -prologue-
  2. Believe Be:leave
  3. 君を待つ
  4. broKen NIGHT
  5. Noir! Noir!
  6. Re:far
  7. AM04:00
  8. 誰か、海を。
  9. LAST STARDUST
  10. Brave Shine
  11. キズナ
  12. DAWN
  13. MOON RIVER
初回限定盤Blu-ray / DVD収録内容
  1. Believe Be:leave
  2. 君を待つ
  3. broKen NIGHT
  4. 誰か、海を。
  5. Brave Shine
  6. 星の消えた夜に from Live at anywhere vol.23
Aimer(エメ)

女性シンガーソングライター。幼少期よりピアノやギターでの作曲や英語での作詞を始め、15歳のとき声が一切出なくなるアクシデントの末に独特の歌声を獲得。2011年から音楽活動を本格化し、同年9月にシングル「六等星の夜 / 悲しみはオーロラに / TWINKLE TWINKLE LITTLE STAR」でメジャーデビューを果たす。以来「あなたに出会わなければ ~夏雪冬花~」がテレビアニメ「夏雪ランデブー」のエンディングテーマに、2013年のシングル「RE:I AM」がアニメ「機動戦士ガンダムUC episode 6 ~宇宙と地球と~」の主題歌に採用されるなど、各方面から大きな注目を集める存在に。そして2013年11月にはスタジオ収録の新曲とライブ音源をパッケージしたアルバム「After Dark」を、2014年5月、表題曲が「機動戦士ガンダムUC」シリーズ最終章となる「episode 7 ~虹の彼方に~」の主題歌に採用されたシングル「StarRingChild」を発表。さらに6月には2ndソロアルバム「Midnight Sun」と、作曲家・澤野弘之らとのコラボレーションアルバム「UnChild」を同時リリースした。同年9月、菅野よう子、青葉市子らが参加する新作「誰か、海を。」を発表。2015年6月にアニメ「Fate/stay night [Unlimited Blade Works]」2ndシーズンのオープニングテーマ「Brave Shine」をシングルリリースし、7月にはこの曲を含む3rdフルアルバム「DAWN」を発売する。