音楽ナタリー Power Push - Aimer

彼女が“夜明け”に描いた 物語の終わりと始まり

「DAWN」が照らす、それぞれの夜明けの風景

──もう1つの夜明けの曲「DAWN」はAimerさんの作詞です。

この曲も以前からあった曲、デモとして存在していた曲ではあるんです。

──では以前から、いずれは「嵐の夜」や「勇敢な想いがつまづいた夜」を乗り越えて「手を伸ばせば 朝は来るよ」と歌おうと思っていた?

ツアー「Maiden Voyage」東京・渋谷公会堂公演でのAimer。

いえ。デモ段階では「ラララ」で歌っていて、歌詞は今回アルバムを作るにあたって書きました。「『DAWN』というタイトルのアルバムを作ろう」「そのタイトル曲になる夜明けの歌はアルバムの終盤に入れよう」と考えたとき「以前プリプロしたあの曲がピッタリなんじゃないか」と思って、今回こういう色付けにしてみた感じですね。ただ、この曲に関しては、これまでの眠れない夜についての曲を思い返しながら、その先に私が見たものを書いただけ、としか言いたくないんです(笑)。あくまで私にはこういう風景が見えたというだけのこと、というか。

──その夜明けの風景や思いを分かち合うための詞ではないということ?

聴いてくださる方に委ねたいな、と思っています。今までの私の曲を聴いていてくれた方であれば、その曲たちを思い返しながら皆さんなりに解釈してみてもらいたいですし、このアルバムで初めてAimerの曲に触れる方には、ここまでアルバムの11曲を聴いた上で、この曲が流れてきたとき何を思うのか、ということを楽しんでいただきたいですね。

“夜明け”の意味を変える「MOON RIVER」

──先ほどAimerさんも少し言っていた通り、「DAWN」にはこれまでのアルバム同様、プロローグとエピローグとしてスタンダードナンバーのカバーが収録されています。で、今回のカバー曲は「MOON RIVER」です。

「DAWN」というタイトルのアルバムが、一見素直な歌詞の「DAWN」で終わらずに「MOON RIVER」で終わるのは私らしいなと思っています(笑)。

──まさにそれが気になったんです。なんで夜明けのあとに“MOON”が出てきたんだろう?って(笑)。

ふふふふふ(笑)。一番の理由は最初に言ったことと同じ。やっぱり「ここで終わりじゃないんだよ」という意思表示のつもりなんです。もしすべての眠れない夜にピリオドを打って「もう夜を歌わない」と表明するつもりだったら「DAWN」が最後の曲になっていたはずですし。

──「夜明けを迎えて、めでたしめでたし」というお話になっていたはずですよね。

でもやっぱり「DAWN」は1つの物語の終焉でしかなくて。私はきっとまた新しい夜を歌うはずなんです。それともう1つ、「MOON RIVER」は旅立ちを歌った曲でもあって。だからこの曲で「DAWN」というアルバム全体を包み込んだら、“夜明け”の持つ意味自体が少し変わる気もしています。

──夜明けの意味が変わる?

これまでお話してきた通り「DAWN」は夜の物語にとっての“夜明け”、終わりを告げる幕引き的なアルバムではあるんですけど、その最後に旅立ちの曲を歌ってみたら、また新しい物語の“夜明け”、始まりも感じていただけるんじゃないか、って。

夜と相反したものを歌いたい気持ちは変わらない

──最後に7曲目の「AM04:00」についても聞かせてください。「Sleepless Night」には「AM02:00」、「Midnight Sun」には「AM03:00」という時刻をタイトルにしたダンスチューンがアルバムの折り返し地点に収録されていて、今回もやはり折り返し地点にダンスチューンの「AM04:00」がある。明らかに何か意図はありますよね?

Aimer

言ってしまえば自然な流れだったというか、2時、3時と来たから次は4時かなと思ったので(笑)。最初の「AM02:00」は「Sleepless Night」を作っているときに「アルバムに少しくらいグルーヴ感のある曲があっても素敵だな」と思い立って作ったんですが、リスナーの方からすごくいい反応をいただけたんです。それで「3時の曲も作ろう」ということになって「Midnight Sun」には「AM03:00」を収録して、その2ndアルバムのツアーのときにこの2曲をやってみたら、すごくいいライブのスパイスになってくれて。

──確かにAimerさんのライブって、基本的に皆さんイスに座って歌声に聴き入ってるんだけど、「AM~」シリーズのときは立ち上がってハンドクラップしながら踊ってますもんね(参照:Aimer、緩急自在のステージ魅せた初ワンマン)。

そうやってファンの方との距離を縮められる曲だし、きっと続編を期待してくれている方もいるだろうな、ということで「Sleepless Night」「Midnight Sun」と続いてきた物語の最終章である「DAWN」にも入れてみました。

──しかも「AM04:00」って、「AM02:00」「AM03:00」よりアタックが強いですよね。

この曲のすぐあとに夜明け前の一番暗い時間を迎えるとはいっても、2時、3時よりも朝が近いことだし、失速させるのではなく少し派手めにグルーヴを効かせたいなとは思っていました。ただ、たぶんこの曲が「AM~」シリーズの最後の曲になるんだろうなとも思っています(笑)。

──さらにド派手なダンスナンバー「AM05:00」「AM06:00」は出てこない?

はい。もう夜が明けてしまってますから(笑)。

──はははは(笑)。では1つの夜の物語を完結させた今、何をしましょう?

9月からツアーをやることは決まっているんですけど(参照:Aimer「DAWN」ツアーで美術館、教会、能楽殿ライブを展開)、その後はスケジュールも頭も真っ白というか(笑)。1つの物語を夜明けへと導いた今、何をするべきか考えている状態ですね。

──また夜を歌うけど、はてさて……という状態?

そうですね。夜を歌いたい、相反したものを歌いたいという気持ちはこれからも変わることはないので、その思いを昇華させた新しい物語をまたお見せできたらな、と思っています。

ニューアルバム「DAWN」 / 2015年7月29日発売 / SME Records
ニューアルバム「DAWN」
初回限定盤A [CD+Blu-ray] / 3980円 / DFCL-2150~1
初回限定盤B [CD+DVD] / 3650円 / DFCL-2152~3
通常盤 [CD] / 3218円 / DFCL-2154
CD収録曲
  1. MOON RIVER -prologue-
  2. Believe Be:leave
  3. 君を待つ
  4. broKen NIGHT
  5. Noir! Noir!
  6. Re:far
  7. AM04:00
  8. 誰か、海を。
  9. LAST STARDUST
  10. Brave Shine
  11. キズナ
  12. DAWN
  13. MOON RIVER
初回限定盤Blu-ray / DVD収録内容
  1. Believe Be:leave
  2. 君を待つ
  3. broKen NIGHT
  4. 誰か、海を。
  5. Brave Shine
  6. 星の消えた夜に from Live at anywhere vol.23
Aimer(エメ)

女性シンガーソングライター。幼少期よりピアノやギターでの作曲や英語での作詞を始め、15歳のとき声が一切出なくなるアクシデントの末に独特の歌声を獲得。2011年から音楽活動を本格化し、同年9月にシングル「六等星の夜 / 悲しみはオーロラに / TWINKLE TWINKLE LITTLE STAR」でメジャーデビューを果たす。以来「あなたに出会わなければ ~夏雪冬花~」がテレビアニメ「夏雪ランデブー」のエンディングテーマに、2013年のシングル「RE:I AM」がアニメ「機動戦士ガンダムUC episode 6 ~宇宙と地球と~」の主題歌に採用されるなど、各方面から大きな注目を集める存在に。そして2013年11月にはスタジオ収録の新曲とライブ音源をパッケージしたアルバム「After Dark」を、2014年5月、表題曲が「機動戦士ガンダムUC」シリーズ最終章となる「episode 7 ~虹の彼方に~」の主題歌に採用されたシングル「StarRingChild」を発表。さらに6月には2ndソロアルバム「Midnight Sun」と、作曲家・澤野弘之らとのコラボレーションアルバム「UnChild」を同時リリースした。同年9月、菅野よう子、青葉市子らが参加する新作「誰か、海を。」を発表。2015年6月にアニメ「Fate/stay night [Unlimited Blade Works]」2ndシーズンのオープニングテーマ「Brave Shine」をシングルリリースし、7月にはこの曲を含む3rdフルアルバム「DAWN」を発売する。