ナタリー PowerPush - aiko

「君の隣」で歌うということ

お客さんがいろんな会場に私を連れていってくれていた

──そしてツアーが終盤に差し掛かった頃、体調を崩して10月4日に行われる予定だったNHKホールでの公演を延期するという出来事がありました(参考:aiko、体調不良のため本日のNHKホール公演延期)。あのときはどういう状況でしたか?

aiko

前日の10月3日、NHKホールの1日目に、すでに喉の調子が悪い状態でライブをやったんです。本当に声が出なくて。スタッフの人たちにも「できればやめさせたかった。途中でやめようと思ってた」って言われたんですけど、でももうここまできたら「今日のライブはこういうライブだった」って、自分の中でちゃんと終わらせたいと思って、わざわざ来てくれた人たちにちゃんと今日のライブを伝えようと思ってやってました。でもやっぱりもう、本当に話す声すら出ない状態で、ガッサガサで。「ああ、やばいな」って思ってて。そんな状況でもお客さんが一生懸命ライブを盛り上げようとしてくれてて……。もう、あのときのお客さん1人ひとりが一生懸命ライブを作ろうとしてくれてるあの空気は本当に忘れないです。そして次の日、ライブの延期を発表したあと、会場に来てくれた人たちがアンケートを書いていってくれてて。「ちゃんとゆっくり休んで」ってみんなが書いてくれていたんです。いつも思っていたことだけど「ああ、この人たちがいろんな会場に私を連れていってくれてたんやな」って改めてすごい思いました。

──aikoさんがライブの延期を決めるということは、本当に厳しい状態なんだろうと思っていました。

あのときは本当にまったく声が出なくて、お医者さんに行ったら「ライブをやるのもやらないのもあなたにとっては地獄です」って言われました。「だから自分で決めなさい」って。なんかもうしょんぼりでしたね。

──ライブの延期を発表したとき、ファンの人たちも「aikoが休むなんてよっぽどのことだ」と延期したことを責めるでもなくひたすら心配している様子が印象的でした。

やっぱり4つのツアーを同時にやったりしていると、ファンの人からの手紙とかでも「もう休んでいいよ」とか「しんどくない?」とか心配されていたりして、心配させてしまって逆に申し訳ないなって思ってたんですけど、でもそれ以上に会いたいですからね、本当に。会いたくて仕方がないから。もうライブと歌さえあればいいって思って私はこれまでずっとやってきたので。だから延期にしたときも、本当に申し訳ないし本当に悔しかったけど、もう前向きにひたすら治すことだけ考えようと思いました。みんなの言葉をちゃんと素直に受け止めようって。家でひたすら加湿してじっとして過ごしましたね。あのときの気持ちは二度と忘れないです。

──そのあとにもライブがまだ控えていましたしね。

そうなんです。その後すぐに武道館も控えていて。武道館までに5日ぐらいしかなかったんですけど、お医者さんには治るまでには2週間ぐらいかかるって言われていました。でもいろんなことを考えると、やっぱりやるしかないんです。お客さんもわざわざその日を空けて来てくれるわけだし、楽しみにしてくれてる人がたくさんいるわけで。そして、あのセットで、あのスタッフの皆さんとバンドメンバーの皆さんと一緒に、やっぱり私は歌いたかったしライブがやりたかった。だから全快ではなかったですけど、本当にやれてよかったって思っています。

リハーサルまでまったく声が出なかった武道館公演

──そんな状況で迎えた武道館のライブはどんなライブでしたか?

あのときも実はリハーサルまでまったく声が出なかったんです。リハでは1フレーズ歌って、休んで、を繰り返す感じで。でもその1フレーズを歌う声もガラッガラで全然出なくって。スタッフの皆さんも、戦ったら絶対負けるっていうことがわかってるけど何も言えない、でも仕事として自分たちがやらなくちゃいけないことをやるっていう空気の中、隙があるとみんなaikoのほうを見て心配してくれてるっていう感じでした。

──それは大変ですね……。でも本番はその状況をまったく感じさせないステージだったと思います。

本番になったらリハのときと全然違う声が出たんです。本調子ではなかったんですけど。スタッフの皆さんも初めの3曲ぐらいでみんなガッツポーズをしてくれてたらしくって。それで最後の「ありがとうございましたー!」っていうところだけは、何も考えずに、もう思いっきり声を出そうと思って叫びました。

──あの日の武道館はお客さんも一丸となってライブを盛り上げようという空気がすごくありましたよね。

本当にキツかったけど、あのときのライブは忘れられないですし、お客さんにも本当に感謝しかないです。私、MCもやっぱり自分の中ではライブの大切なところだって思ってるから、そのおしゃべりがちゃんとテンポよくできなかったりとか、きっといつもとは違ったと思うし、申し訳ないなと思いながら話していて。でもお客さんも一生懸命反応してくれて、話しかけてくれて。本当に助けられたし、あのときに来てくれたお客さんがあのときのみんなでよかったなあって思いました。武道館でも「君の隣」を歌えたことはそう考えると本当に意味がありましたね。あの状態だったからこそ余計に、この曲の気持ちになっていたから。

今年も変わらず制作したい

──さて、2014年がスタートしていますが、まだaikoさんの15周年イヤーは続いています。今年はどんなことをしていく予定ですか?

今年もライブをやりたいですね。あとはやっぱり曲を作りたいです。最近もずっと変わらず歌詞は書き続けているので、曲がついてない歌詞もたくさんあるからそれを形にしたいし。だからやっぱり今年も変わらず制作したいです。楽しく、真剣に遊んで、面白いことやりたいですね。

aiko(あいこ)

1975年大阪出身の女性シンガーソングライター。1998年にシングル「あした」でメジャーデビュー。その後「花火」「桜の時」「ボーイフレンド」などのシングルがヒットを記録し、2000年に「NHK紅白歌合戦」初出場を果たすなど、トップアーティストとしての人気を不動のものとする。2011年には初のベストアルバム「まとめI」「まとめII」を2枚同時発売し、2012年6月に10thオリジナルアルバム「時のシルエット」をリリース。2013年春にはライブ映像作品集「15」、同年7月にシングル「Loveletter / 4月の雨」を発表し、2014年1月に通算31枚目となるシングル「君の隣」をリリース。女性の恋心を綴った歌詞とユニークかつポップなメロディで幅広いファンを獲得し続けている。