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佐々木亮介独占インタビュー ギタリスト失踪、そして2ndアルバム緊急リリースの心中を明かす

ギタリストがツアーファイナル直前に失踪。重要なライブや夏フェス出演を控え、予想しなかった窮地にバンドは一時錯乱状態に陥るが、直ちにサポートメンバーを加え、残った3人を中心にさらに活動のペースを上げていく。順風満帆に見えたロックバンド、a flood of circleに起きた大きな転機。その顛末のすべてをフロントマン佐々木亮介(Vo,G)が語ってくれた。

取材・文/大山卓也 撮影/中西求

河口湖のスタジオに集合したときに岡庭がいなかった

インタビュー写真

──ギターの岡庭さんがいなくなった件については、オフィシャルサイトでの発表と、あとはライブのときにMCで伝えたんですよね?

ステージで長々としゃべりましたね。

──ただ、それを聞いていたファンの人も、細かい経緯についてはわからない点が多いと思うので、今日はそういうところも含めて順を追ってお話を伺っていきたいと思うんですが。

はい。

──そもそも最初に異変を感じたのは?

7月6日です。ちょうど曲作りのための合宿をすることになってたんですけど、河口湖のスタジオに朝集合したときに岡庭がいなかった。

──メンバーはみんなスタジオに現地集合で?

そうです。岡庭は電車で来る予定だったのに来なくて。最初は寝坊かなと思ったんです。でも電話しても出なくて、それが途中から「この番号は使われておりません」っていうアナウンスに変わってしまって。そこで初めて「これはヤバいんじゃないか」ってことになって、スタッフと相談して、いろいろ連絡してみたんですけど、結局全然連絡がとれなくて。ある意味それがすべてというか、そこから現在まで状況は変わってないですね。

──じゃあ岡庭さんが自分の意志でいなくなったのか、それとも何か事件や事故に巻き込まれてしまったのか、そのあたりもわからない?

いや、一応ですね、ほんと最近なんですけど、まあメンバーの友人の友人みたいな、遠いつながりに岡庭の知り合いがいることがわかって、で、彼は連絡が取れてるっていうことがわかったんです。なので、生存確認だけは取れて、やっと最近ちょっと笑って話せるようになってきてる。それまでは、もう生きてるか死んでるかも正直わかんなかったので。

──なるほど。

だからその合宿では、曲作りのために集まってはいたけど、まあ曲を作ろうってモードにはなれなかったですよね。ただ、そのときはツアーファイナルがすごく近くて。その直前の7月4日に千葉でライブをして、7月12日がファイナルだったんですよ。だからまずはそのライブをなんとかしなきゃならなくて。スタッフに連絡したときは、俺らもうひたすら困ってましたよ。口をついて出る言葉は「どうしよう」だけ(笑)。

スタッフ いなくなった6日の朝にメンバーから連絡をもらって、そこから僕たちも岡庭の両親のところに行ったり友人に会いに行ったりしたんですけど、結局行方はわかりませんでしたね。

──でもその時点で、ギタリスト不在の状態でツアーファイナルまであと6日しかないわけですよね。

そうです。ただ、最初のうちは、岡庭は結構そういう奴って言ったら雑な言い方になっちゃうんですけど、まあ不思議っちゃ不思議なところがある奴だったので、この合宿に来なくても、ふと現れるんじゃないかなって思ったり、ライブ当日にいきなり来るんじゃないの? なんて話したりしてたんですけど。でも結局合宿2日目の時点で「やっぱりサポートメンバー入れないとダメなんじゃないか」って話をして。合宿3日目にはもう(奥村)大さんに来てもらってました。

──素早い決断でしたね。

大さんはwash?っていうバンドをやってるんですけど、もともとa flood of circleの音作りを手伝ってくれてた人なんですよ。その信頼関係もあってお願いして、スケジュールも調整してもらえたので、急いで来てもらったんです。だから曲作りの合宿のはずが急にライブに向けた練習になって、そこからはあと4日間で何ができるかって、それだけを集中して考えてました。

──じゃあ「どうしよう」と迷っていたのが、そこでもう「やるしかない」と腹をくくったわけですね。

まあ強がってたところはあると思いますけど。やっぱりそのときは、生きてるか死んでるかわかんなかったから、それが一番怖かったんで。ただある意味、彼と俺らの状況っていうのはそのときから実は変わってないんです。俺ら3人が常に変わり続けて、この2カ月を過ごしてきたっていう感じですね。

1日考えて、どうしてもライブをやりたいと思った

──岡庭さんがいなくなる前に予兆みたいなものはあったんでしょうか?

俺らは大学のときにバンドを始めて、ちょうどこの春大学卒業のタイミングでメジャーからデビューしたんです。平たく言うとみんなが就活とかやってる時期に、俺らはインディーズでCDを出し始めたので、だからたぶんそういう悩みはきっとあったと思うんですよね。このままバンドやってていいのか、やっていけるのか、みたいな。でもそれはメンバー4人全員が共通して感じていたことだし、ある意味ではすべてのバンドマンが恐れてることなので。彼はそれを特に強く感じてたのかなあとは少し思ったりしますけど。

──最初は、佐々木さんと岡庭さんはバンド結成以前に友人として出会ってるわけですよね。

はい、大学で出席番号が隣で、誕生日もまったく一緒で。俺は彼にすごくシンパシーを感じてたんです。彼とバンドをやることになって、なんか空寒いですけどそういう運命的なものがロックバンドにあるのは素敵だなと思ってたし。でも結局こんな形になっちゃいましたけどね(笑)。

──今回はライブの直前でギタリストがいなくなったということで、ライブ自体をキャンセルするという発想もあったと思うんですが、そのあたりはどうでしたか?

インタビュー写真

それも正直、選択肢のひとつにはありました。サポートメンバーが決まる前は、1時間半のステージを3人でどうするんだっていう単純な問題があったし。でも、1日考えてすぐにその選択肢はなくなりましたね。どうしてもやりたいと思った。

──そう思えたのはなぜですか?

仮に岡庭が帰ってこなくても、俺と石井と渡邊のこの情熱は消えないと思ったし、大さんが手伝ってくれることが決まって、その思いがすごく加速したんですよね。絶対いけると思った。チケットを買ってくれた人とか、22本のツアーを終える俺達の姿を楽しみにしてくれてる人たちを裏切るのは絶対にイヤだった。それはお客さんに対してもそうだし、結局自分自身への裏切りにもなると思ったので。

──なるほど。そうした思いでやり遂げた7月12日のツアーファイナルですが、実際やってみてどうでしたか?

うーん、どうかな。でも正直ちょっと楽しかったですよ(笑)。お客さんの中にはやっぱり泣いてる人もいたけど、でもすごく温かかったんです。もしかしたら俺らがすごく脆く見えたのかもしれないですけど、支えられてる感覚はありました。そのおかげでいい空気を共有できたし、今は楽しかったって言えますね。そのときはいっぱいいっぱいでしたけど。

──やってる最中はそれどころじゃなかった?

実際、泣いてる人と笑ってる人が半分ずつぐらいだったので。ありがとうっていう気持ちと申し訳ないっていう気持ちと、どっちもありましたよね。

a flood of circle presents “What's Going On Tour '09”

10月14日(水)名古屋CLUB QUATTRO
18:00開場 / 19:00開演
前売:2800円 / 当日:3300円
出演:LUNKHEAD / serial TV drama
10月15日(木)心斎橋CLUB QUATTRO
18:00開場 / 19:00開演
前売:2800円 / 当日:3300円
出演:LUNKHEAD / serial TV drama
10月27日(火)渋谷CLUB QUATTRO
18:00開場 / 19:00開演
前売:2800円 / 当日:3300円
出演:LUNKHEAD / TRICERATOPS
a flood of circle(あふらっどおぶさーくる)

2006年、佐々木亮介(Vo,G)、岡庭匡志(G)、石井康崇(B)、渡邊一丘(Dr)の4人で結成。ブルースや70年代ロックをベースにしたフリーキーなサウンド、ボーカル佐々木の強烈な歌声と、観る者を圧倒するライブパフォーマンスで話題を集める。結成当初は下北沢・渋谷界隈を中心にライブを行い、次第に活動地域を拡大。2007年7月に初音源となるミニアルバム「a flood of circle」をリリース。同時期に新人バンドの登竜門「FUJI ROCK FESTIVAL '07」のROOKIE A GO-GOステージに出演し反響を呼ぶ。2009年4月、1stフルアルバム「BUFFALO SOUL」でメジャーデビューを果たすが、その後全国ツアー中の7月にギターの岡庭が突然の失踪。だがバンドは活動を止めることなく、現在はサポートメンバーを加え、精力的にライブ活動を継続している。