A9|ヴィジュアル系シーンの異端児、15年間の変遷と変わらないもの

今年結成15周年を迎えたA9が、4月24日に再録ベストアルバム「花鳥ノ調」「風月ノ詩」をリリースした。バンドが結成された2004年から現在までの楽曲の中からメンバー自身がセレクトし、リアレンジ&再レコーディングを行った本作は、A9のキャリアと現在のスタイルを同時に体感できる作品と言えるだろう。音楽ナタリーではメンバー全員にインタビューし、再録ベストの制作を軸に、アリス九號.、Alice Nine、A9とバンド名を変えながら独自のエンタテインメントを提示し続けてきたバンドのスタンスについて話を聞いた。

取材・文 / 森朋之

ギターに関してはほぼ新曲です

──まず、これまでの楽曲を再レコーディングした作品を発表することになった理由を教えてもらえますか?

将(Vo)

沙我(B) 2018年4月に「PLANET NINE」というアルバムを出して、それを引っさげたツアーをガッツリ回って。アルバム自体、ダンス曲「CASTLE OF THE NINE」やL'Arc-en-CielのKenさんにプロデュースしていただいた「UNREAL」があったり、新しい要素を含んだアルバムだったし、やり切った感覚もあったんですよね。そのこともあって、すぐに新しい曲を作るテンションにはならなくて。でも、バンドは動いているわけで、次の作品を世に出したいという気持ちはあったので、15周年というタイミング的にも、過去の曲にもう一度向き合うのはいいんじゃないかなと。ただの再録ではなく、新曲の制作と変わらない勢いでレコーディングしました。

(Vo) 選曲にはメンバーの希望も反映されていますが、沙我が「この曲はいい感じで変化させられる」というポイントで選んだところもあって。

沙我 商業的な要素は薄いかもしれません(笑)。もちろん、“これだけは”という代表曲も入れましたけどね。15年やっているとは言え、SNSを見ていると「A9を初めて知りました」という方もけっこういらっしゃるし、入門編としても楽しめて、ずっと付いて来てくれるファンの皆さんにも満足してもらえる作品にしたいなと。

──なるほど。実際、原曲とはかなり違うアレンジ、サウンドになっていますが、制作はどうでした?

(G) 沙我さんから新たにアレンジされた音源が1曲ずつ送られてきて、そのたびにじっくり聴いて、レコーディングして。確かにけっこう変わってるかもしれないです。

沙我 変わってるどころじゃないですね。竿モノ(ギター、ベース)は原曲と同じフレーズはほとんどないので。

 聞こえ方は同じ曲ですけど、ギターに関してはほぼ新曲です(笑)。

ヒロト(G) ただ、ライブでもアレンジを変え続けてますからね、自分たちは。ソフトウェアの更新に例えると、15年かけてマイナーアップデートを続けてきて、今回、メジャーアップデートしたという感じかなと。原曲だけをずっと聴き続けている人にとっては「変わった」という印象かもしれないけど、ライブに足を運んで途中経過を知っている人にとってはそんなに違和感がないと思います。

Nao(Dr) 今回はそれぞれのパートを各々で録るスタイルだったんですよ。じっくりレコーディングに向き合えたし、スケジュールはタイトだったけど、贅沢に時間を使って制作できたと思います。今のプレイを現代の機材で録音してるわけだから、自ずと今のA9の音になっているし、それは今後の活動にもつながってくるでしょうね。

いきなり年間計画を立てられたデビュー当時

──将さんは新しくアレンジされたサウンドで歌ってみて、どのように感じましたか?

 原曲に関しては、メンバーが作ってくれたデモを聴いて、音楽的な理屈もわからないまま、メロディを無理やり乗せていたこともあって。今振り返ってみると「不十分だった」と思う曲もあるし、今回はそれを沙我くんが整理整頓してくれた感じですね。制作の序盤は「こういうアレンジにしようと思う」という確認のための音源を送ってくれていたんですが、途中からはその手順を飛ばして「こういうアレンジになりました」というデモがどんどん送られてきて。「もっとやれるだろ」「これはどうだ」とノックを受けてるような感じもあったし、スキルアップの機会になりました。

沙我(B)

沙我 特に「花鳥ノ調」のほうは結成1、2年目の頃に録音した曲もありますからね。アリス九號.は結成してすぐにお客さんが入るようになって、気が付けば事務所に入っていて、メジャーデビューして。とにかく環境の変化がすごかったんですよ。いきなり年間計画を立てられて、制作とライブが続いて。何もわかってなくて、勢いだけだったのにすごく売れてるアーティストみたいなスケジュールを当てはめられたというか。もちろんありがたいことなんですけど、めちゃくちゃ大変だったんです。

Nao うん。

沙我 どうやって作ったか記憶になくて、これと言って思い出もない曲もけっこうあるんですよ(笑)。レコーディングにしても「とにかく今日中に終えなくちゃいけない」みたいな感じだったし、悔いが残っている曲もあったんですけど、今回はそれをしっかり表現できたかなと。メインは歌ですね。サウンドをカッコよくしたい、オシャレにしたいということではなく、歌をどう聴かせるか、歌詞をどう伝えるかを意識していたので。

──特に初期の楽曲に関しては、リアレンジすることで楽曲本来のポテンシャルを引き出したのかも。それにしてもバンド結成当初の状況はとんでもないですね……。

沙我 まあ、事務所もすごくプッシュしてくれましたからね。虎がライブで泣いていたり……。

 ライブを乗り切ったことで泣いてしまうくらい、エモーショナルな状況だったということですね。

 あまり覚えてないですけどね。ヒロトが10代だったことは覚えてますけど。

ヒロト (笑)。免許取りたてで、レコーディングスタジオと実家を往復して、メンバーを家まで送ったりしてました。大変だったんですけど、ホントに何も知らなかったから「バンドってこんな感じなんだろうな」と思ってたんですよ。ちゃんとしたレコーディングも初めてでした。「うまい寿司を握るぞ!」という気持ちだけで、修行もしないで、いきなり寿司屋を開いたようなものですね(笑)。

沙我 はははは(笑)。