映画「数分間のエールを」ぽぷりか×花田十輝が語る、最後まで信念を貫き情熱を込めた制作の裏側 (2/2)

モノづくりは「次にやったらもっとよくなるはず」の繰り返し

──本作はモノづくりの面白さを描きながらも、残酷な現実もしっかり描いている作品です。お二人はキャリアを築き上げていく中で「もうやめたい」などネガティブになる瞬間はございますか?

ぽぷりか やめようと思ったことはないですね。もともと高校生のときに美大に憧れがあり、自分には才能がないから無理だろうと思っていました。その後、引きこもり気味になった時期があって、そのときに「1回だけ本気でやってみて、やっぱりダメならあきらめよう」と思って受験して入学し、そこからずっと続けて今に至るという形なんです。幸いにもMV制作を続けていて「ダメだな」みたいに思うことは1回もない。もちろん苦しかったときはありますけど、夕みたいに、もうどこにも希望はないという感じではなくて、「これが解消されたらうまくいくはずだ」と前向きに思い続けたことでここまで来られています。

「数分間のエールを」場面カット

「数分間のエールを」場面カット

花田 僕は年中「もう終わりだ」と思っていますよ(笑)。

ぽぷりか そうなんですか!?

花田 シナリオライターはそういうタイプの人が多いかもしれません。「面白い作品が書けた」と思えるのはたぶん書き終わってから1時間までで、「ここはもうちょっとよくできたんじゃないのかな」という思いが圧倒的。でもずっと続けられている理由は「次にやったらもうちょっとだけよくなるのかな」っていう思いだけですね。そういう意味では、この作品にはポジティブ側とネガティブ側の思いがうまい具合に反映されていましたね。

ぽぷりか 僕もベクトルは少し違うんですけど、同じようなことは思っていましたよ。「今回はこれだけよくできて、次が悪くなる道理はないからもっとよくなるだろう!」みたいなポジティブな変換をして次に進んでいました。

花田 監督だとそういう思考の方が圧倒的に多いですね。仕事の違いなのかもしれない(笑)。そういう思いを持った監督が周囲を引っ張ることはすごく重要なことだと思います。

ぽぷりか この考え方、大切にします!

「数分間のエールを」場面カット

「数分間のエールを」場面カット

──花田さんは普段原作をもとにテレビアニメの脚本を手がけられる中でも、本作のように「いい作品を応援したい」という思いはお持ちなんでしょうか?

花田 それは難しい質問ですね(笑)。応援したいという気持ちは当然ありますが、あんまり強く出しすぎちゃうと、監督のイメージとは別の味付けを乗せてしまうことになりかねない。特に原作や原案をいただいているときは、それをいかに観客に伝えやすくするかに力を入れるのが脚本家の仕事だと思っています。「応援」というよりは気持ちを入れすぎず一歩引いた目で見ること、客観的に判断することが重要ですね。

未来のクリエイターへ「やりたいことがあったらすぐに始めよう」

──映画という枠組みですと、ここ数年では自主映画やショートムービーをYouTubeなどで発信するという動きも多く見られます。手軽に映像制作ができるようになったことについてどのように思われますか?

ぽぷりか ツールが手軽にそろうこと自体はすごくいいことだと思っています。でも“映像編集ができる”という技術的な価値はどんどん薄くなっていく。当たり前ですが、ボタン1つで「数分間のエールを」が完成するようになったら価値はなくなりますよね。簡単になればなるほど自分が身に付けてきた技術の価値はどんどん失われていく。高いお金で取引されるものではなくなると思います。簡単に作れるようになること自体は歓迎すべきですが、必ずしもハッピーとは言い切れなくて「自分はこの先どうしていこうかな」と考えることもありますね。

花田 それは非常に感じます。また、表現の幅が広がっていくので観客の側に固定観念がなくなっていくんだろうなとも思います。内容が面白ければよくて「こういうものだから面白くないだろう」とか「こういうものは観ない」という先入観がどんどんなくなっていく時代になるのではと感じますね。今まであった表現と新しい表現を組み合わせて面白い作品が出てくればいいなと思いますし、それに対して「こういうものはダメ」と歯止めをかけないでほしいなと。そういう意味では、この作品のようにMVを作っていた監督が新たに映画を作るというのは意味のあることではないかと。

「数分間のエールを」場面カット

「数分間のエールを」場面カット

──この映画を観て、何かしらのモノづくりに関わりたいと思う人もいるかもしれません。最後に、そんな未来のクリエイターやこれから何かを目指す方々に向けてエールを送っていただけますでしょうか。

ぽぷりか 映像だけではなくて音楽でも絵でもなんでもいいんですけど「やってみたいな」と思ったら、もうその日のうちから始めてほしいです。「いつかやろう」と言ってもたぶん始まらないから。絵なら紙とペンがあればできるし、音楽や映像もスマホのアプリがあるので、どういった形でも始めることはできる。とにかくすぐに始めてみてほしいなと思います。

花田 「どうすればシナリオライターになれますか」と質問をいただくこともありますが、その質問をしている時点ですでに数歩遅れている自覚を持ってほしいとよく言うんですよ。考えるよりも先に動いている人、何かを始めている人が次々に経験を積んでいきます。それが重要になってくるので、とにかく作り続けていくことは大事ですね。「自分にできるのか」「面白いものを作れるか」という迷いは結局、半永久的に続いていくものですから、「作るしかない」という思考に傾いていくほうがいいのではと思います。

プロフィール

ぽぷりか

2011年から映像制作を始め、2016年におはじき、まごつきと映像制作チームHurray!を結成。思春期、青春感のあるモチーフを好み、手描きアニメーションや3DCGを併用したモーショングラフィックを手がける。主な作品はヨルシカ「だから僕は音楽を辞めた」「雨とカプチーノ」MVや、テレビアニメ「可愛いだけじゃない式守さん」エンディング映像、夏代孝明「ニア」MVなど。

花田十輝(ハナダジュッキ)

1969年生まれ、宮城県出身。シナリオライター。大学卒業と同時にシナリオライターを志し、サンライズ、京都アニメーション等のアニメ作品のシナリオを数多く手がける。代表作に「宇宙よりも遠い場所」「響け!ユーフォニアム」。最新作に「ガールズバンドクライ」など。