ドラマキャスト×DREAMS COME TRUE中村正人
座談会
映像化の志を理解したときは、すごく興奮しました(中村)
──DREAMS COME TRUEの楽曲の歌詩からインスパイアされて、新たなドラマを紡ぐ「5つの歌詩(うた)」プロジェクト。皆さん、出演オファーを受けたときの率直な気持ちから教えてください。
貫地谷しほり シンプルに、とても素敵な脚本だなと思いました。冒頭、けっこう長めのモノローグがあるんですね。それがすごく心に響いて、この女性をぜひ演じてみたいなと。個人的に共感するところも多く、後半は演じながらもグッとくるシーンがたくさんありました。ただ、13年前の回想シーンを演じるのは、ちょっと気恥ずかしくて大変だったかな(笑)。
高梨臨 私は脚本の読後感がすごく印象的でした。今回演じたキャラクターは、いわゆる“いい子”とは違う。友だちをねたむ気持ちだったり、年齢を重ねても自分が好きになれないこじらせ感だったり。ある種、リアルで等身大の人物像なんですね。でも読み終えたあとに初めて「マスカラまつげ」という曲を聴いて、イメージががらっと変わった。なるほど、こういうお話だったんだなと、心の深いところでストンと納得できました。
新川優愛 私はもともとドリカムさんの大ファンで。今回の「TRUE, BABY TRUE.」は脚本段階から大号泣でした(笑)。タイムスリップというSF的な設定のもと、大切なことを息子に伝えていく母親という役柄で。はたして自分にこの感動を表現できるのかと不安でしたが、撮影現場ではスタッフや共演者の方々に本当に助けていただきました。無事に撮り終えられて、今はほっとしています。
吉沢悠 僕は、うれしさとプレッシャーが同時に襲ってくる感覚でしたね。すでに有名なドラマに用いられている曲ですし、それ以上に「何度でも」って、日本人全体にとって大事な曲ですよね。医療関係の仕事をしている友人からも、コロナ禍でこの曲に励まされた現場の方々がいかに多かったかを聞いていましたし。そこに新しい価値を付け加えることができるか。やりがいと同じくらい重責も感じたというのが、正直なところです。
──中村さんは当初、企画に対してどのように思われましたか?
中村正人 率直にお話しすると、最初は乗り気じゃなかったんです。よくある歌詩の再現ドラマじゃ意味がない気がして。「うーん」という低めのテンションでした(笑)。でも、よくよく話を伺ってみると、楽曲はあくまで発想の種であって、むしろ吉田美和の歌詩を出発点に自由にイマジネーションを広げて、まったく新しい物語を作りたいと。そのコンセプトというか志を理解したときは、すごく興奮しました。実際、仕上がったドラマはどれも素晴らしかったです。
──楽曲提供側として、満足度は高かったと。
中村 もう泣きましたね(笑)。今回、選曲は岡田惠和さんたち脚本家チームに100%お任せで。最初にラインナップを見たときは内心、「なんて商売っ気のない人たちだろう」と思いましたけど(笑)。仕上がりを拝見すると、どの物語にも新鮮な驚きがあった。吉田の書く歌詩が本質的に持っているどうしようもない切なさ、悲しみ、苦悩。そういう要素はちゃんと捉えつつ、でも決してバッドエンドではない。唸りました。
こういう情景って、誰の日常にもきっとあるなあって(貫地谷)
──出演者の皆さん、それぞれドラマのもとになったドリカムの楽曲については、どういうところに惹かれますか? まずは「空を読む」に主演された貫地谷さん。
貫地谷 私は、歌詩に出てくる「月の裏側」というフレーズにグッときちゃいます。大好きなのにどうしてもわかり合えない相手の心を、吉田さんはそんなふうに表現されていて。すべて見渡せる「ロケットがあればいいのに」と歌う。それがあの切ないメロディに乗ると、やっぱり共感しますよね。
──そういう個人的なシンパシーは、お芝居にも影響しましたか?
貫地谷 はい、あると思います。今回のドラマ「空を読む」はまさに、互いの気持ちが見えなくなっちゃった夫婦の話じゃないですか。もちろん現実はドリカムさんの歌みたいにドラマチックではないけれど(笑)。こういう情景って、誰の日常にもきっとあるなあって。そう思いながら演じていた気がします。
──中村さんは俳優陣の演技をご覧になっていかがでしたか?
中村 うーん……今、こうやって皆さんと並んでお話ししているだけで、ちょっと泣けてきちゃいます。
貫地谷 はははは(笑)。
中村 貫地谷さんの「空を読む」は、先ほどご自身でもおっしゃっていたけれど、冒頭のモノローグがすごくよかった。結婚して10年以上になる夫を、背中から眺めながら、どうしてこんなにも気持ちが離れちゃったんだろうと、ぼんやり考えているシーン。貫地谷さん、ピスタチオの皮を剥いて、次から次へと口に運ぶでしょう。
貫地谷 はい、はい。
中村 あの無表情な目のアップが、めちゃ印象的で(笑)。要はパートナーが、「そこにいるのに、いない人」になってしまっているわけですよね。なんだったら、向こうの家具が透けて見えている(笑)。この淡々とした導入と「空を読む」がいったいどうつながっていくんだろうって、最初から一気に引きこまれました。登場人物のドキュメンタリーを観ているような感覚もあったりして。
貫地谷 そう言っていただけるとうれしいなあ。ただ、表情にリアルさを感じていただけたのだとしたら、それは渡邉真子さんが書かれた脚本の力が大きいと思います。楢木野礼さんの演出も素晴らしくて。あのシーンも細かく話し合いながらお芝居を作っていけました。夫役の三浦貴大さんも本当に素敵で。誰の心にもすっと入っていける、不思議な空気感をお持ちなんですよね。
中村 2人で空を見上げるシーンもよかったですよね。
貫地谷 それも監督が、すごくこだわって撮ってくださいました。残念ながら、撮影日の天気は曇りだったんですけど。それもまた、作品の世界観にとってはよかったのかなと。
中村 そうですね。それはそれで1つの空、ですもんね。
「自分は特別じゃない」という切なさをすごく大事にしていました(高梨)
──次は高梨さん、「マスカラまつげ」という失恋ソングのどこが好きですか?
高梨 私は歌い出しの部分が大好きです。イントロがなくて、いきなりサビのメロディからズバッと入るところが、潔くて素敵だなって。さっきもお話ししましたが、今回私が演じたのは、自分を「主人公になれない人生」だと思い込んでいる女性なんですね。だけど脚本を読んだあと、エンドロールでこの曲が流れるのを想像したら、印象が全然変わりました。甘酸っぱいメロディと軽快なリズムもあって、彼女の人生がちゃんと先に進めた気がしたんです。
──ドラマ終盤には、まさに「マスカラのまつげに ぽろりグレーの涙」というサビのフレーズと響き合うお芝居もありますね。
高梨 あそこは本当に大事なシーンで。歌詩の世界観をどこまでストレートに表現するのがいいのか、監督さんと何度も話し合いました。
中村 あそこは僕も感動しました! 泣きたいんだけど、無理やり笑う。でもやっぱり涙がにじんでしまうという、行ったり来たりの表情。今回、高梨さんが演じた結婚式のドレスコーディネーター役って、普段はちょっとヘラヘラしたところがあるじゃないですか。
高梨 そこはけっこう、素の自分に近いかもしれません(笑)。完成版を見せていただいたときは、ちょっと気恥ずかしかった。
中村 でもその明るさの裏側には、根深い悲しみとか落胆があるんですよね。多くの人は遅かれ早かれ「あ、自分は特別じゃなかったんだ」と気付く瞬間があって。それって、誰にとってもしんどいプロセスだと思うんですよ。SNSがこれだけ短期間で浸透したのも、たぶんそういう人間の本質と無関係ではない。みんな、人の「いいね」で自分の存在を確認しようと必死なんですよね。今回のドラマ「マスカラまつげ」には、そういう時代の空気感もちゃんと出ていた。それこそ冒頭の打ち合わせシーンから、高梨さんの全力の笑顔の奥に、どこか切なさがにじんでいて。その演技に僕は、じーんときました。
──高校時代からの親友との関係性が、また重要な要素になっていて。
中村 そうそう、彼女の方がずっと“モテ女”でね。ちなみに僕、今63歳なんですが、このドラマは現在進行形で共感しますよ。
高梨 へええ。
中村 小学校の頃、勉強も運動も全部“中くらい”で。優等生にも不良にもなれなかった自分が、僕の出発点なんです。ドリカムとして活動を始めてからは「ひょっとして自分は、すごいんじゃないの?」と勘違いした時期もあったけれど。でもやっぱり60歳を越えると、素の自分を改めて突き付けられたりする。僕の場合、横に吉田美和という天才がいるので、余計そうなんですが(笑)。
高梨 中村さんがおっしゃる「自分は特別じゃない」という切なさは、演じるうえでもすごく大事にしていました。だけど最後に彼女は、親友への劣等感やトラウマなども全部引っくるめたうえで、自分らしい前の向き方を自分で見つけていく。そのお芝居はやっぱり、ラストで流れる「マスカラまつげ」とセットで初めて完成するものだったんじゃないかなと思います。
楽曲の持つ大きさ、包容感みたいなものがお芝居のベースに(新川)
──次は「TRUE, BABY TRUE.」。新川さんは曲のどこが心に残りましたか?
新川 恋愛とか友達関係についての歌は、ドリカムさんに限らず世の中にたくさんあって、きっとそれぞれ共感できる部分があると思うんですね。でも「TRUE, BABY TRUE.」という曲は、私の中で少し印象が違うというのかな。歌詩に出てくる「泣きなさい」とか「泣かせてもらいなさい」という言い方が、すごく新鮮に響いたんですね。
──今回の脚本の核にもなっているフレーズですね。
新川 そうなんです。「~~しなさい」って、文字で読むとちょっとキツい印象かもしれないけど、吉田美和さんが歌うと全然そうじゃない。むしろ聴き手の存在を丸ごと包んでくれている優しい感じがするんですよね。今回私が演じたのは、タイムスリップして成長した息子に会う母親役でした。守るべき人との向き合い方という部分では、この楽曲の持つ大きさ、包容感みたいなものがお芝居のベースになってくれました。
中村 ぶっちゃけ、難しい役だったと思うんです。幼い息子と成長した息子の両方を抱きしめるキャラクターなのに、自分は変わらない。タイムスリップという設定上、ヒロインが歳を重ねる描写がまるっとないわけですから。
新川 そうですね(笑)。
中村 逆に言うと、作り手がそのギャップに自覚的だったところが、僕は好きでした。このヒロインはいったい、タイムスリップという現象にどう対処するのか。その日常描写が丁寧だから、観る人が彼女の内面を想像できる。演出に余白があるんですよね。これって日本のドラマでは貴重だと思うんですよ。
新川 私の中では、けっこうすぐ状況になじんじゃう人って言うのかな(笑)。どこか楽観的で芯の強い母親像はイメージしていましたね。なので撮影でも、ストーリーに沿ってなるべく一喜一憂するようにして。細かい理由付けより、自分が素直に、作品の世界観に振り回されようと思っていました。それにより視聴者の方々も一緒に迷子になっていただけたらうれしいなと。
ただ「変わるかもしれない」という可能性を歌っているところが大好き(吉沢)
──最後は「何度でも」。DREAMS COME TRUEを代表する国民的ナンバーですが、吉沢さんご自身はどんなメッセージを受け取りますか?
吉沢 僕はシンプルに、「10001回目は 何か 変わるかもしれない」というサビの1行に惹かれます。当たり前だけどこれって、10001回トライすればきっとよくなるとか励ます歌じゃない。ただ「変わるかもしれない」という可能性を歌っているところが大好きで。今回のドラマで言うと、僕が演じた保険会社の営業マンは、子供の頃に父親が失踪しているんですね。たぶん彼は、何度も「お父さん、お父さん」って呼んだと思うんですよ。
──そのしこりが心にずっと残っていて、病で余命いくばくもない父親の居場所が数10年ぶりにわかっても会いに行く決断ができない。
吉沢 はい。大人になってから、その「10001回目」がなかなか踏めない男の話だと、僕には思えました。そのドラマの展開と歌詩とがすごく深いところでリンクしていて、個人的にはそこが一番、心に響いたかな。
中村 僕には娘が1人いるんですけど、最近は息子もかわいいだろうなって、しみじみ思うことが増えたんですよ。
吉沢 そうなんですね。
中村 親父って基本、息子が苦手だと思うんですよね。やっぱり男同士、面倒くさい部分やバカなところがわかっちゃうし。「あ、これって自分がたどったのと同じ道じゃん」なんて思うと、ちょっとウンザリした気分になっちゃったりして(笑)。でも父親と自分、自分と息子の関係性というのは、やっぱりループなんですよね。その輪はなかなか断ち切れない。でも努力とか向き合い方によって、ループの次元を高めることはできる。
吉沢 ループを高める。はい、すごくわかる気がします。
中村 今回の「何度でも」というドラマには、まさにそれが描かれていました。ループを受け入れつつ、新しい次元に移そうともがく父子の物語。吉沢さんのお芝居はもちろん、周囲の支えによってそれが実現していく様子が丁寧に描かれていて。感動しました。
吉沢 それで言うと今回、物語の中盤で、夜の公園のシーンがあるんですね。仕事で追い詰められた主人公が帰宅後、小さい息子につい声を荒げてしまう。ブランコに腰かけて奥さんと電話で話しながら、自分が父親と同じことをしているのに気付く。父親に対する憧れと反発の入り混じった感情は、僕も男なのですごくリアルでした。
中村 そのループを変えるのが、「ごめんね」の一言だったりするんですよね。
吉沢 はい。シンプルだけど、すごく重みのあるセリフだった気がします。
──こうやって観ていくと、どのストーリーも、吉田美和さんの歌詩を単純に映像化しているのではない。脚本家、演出家、俳優という作り手が楽曲の核にあるエッセンスを抽出して、新しい物語を紡いでいる。そこが「5つの歌詩」というプロジェクトの面白さかもしれません。
中村 僕自身、観ていていろいろな発見がありました。それこそ今、皆さんが挙げてくださった細やかなお芝居の端々に、「ああ、この曲のこの部分をこんなふうに具現化してくれたんだ」という驚きを感じた。この企画が魅力的なのは、ドラマ本編に楽曲のメロディ要素が一切出てこないところ。ポップスにおいて、歌詩とサウンドは切り離せません。2つの要素が渾然一体になって、トータルで曲の世界観が生まれてくる。
──そうですね。
中村 でも「5つの歌詩」は、あえて吉田美和が書いた文字列だけに注目しています。そこから物語を紡ぎ、ラストカット後にようやく楽曲が流れる。要は、最後の最後にメロディが追い付く構造なんですよ。大切なのはその時点で、楽曲もまた生まれ変わっているということなんです。ドラマパートによって世界観が深まり、新しい命を授かっている。そこが僕としては、一番うれしかった。
──そしてシリーズ最終話では、書き下ろしの新曲が披露されます。
中村 はい。これに関しては、岡田さんの脚本と我々の楽曲制作が完全に同時進行で。まず最初に吉田があるキーワードを考え、双方がそこから自由に発想を広げていきました。そうやって別々に走りだした物語と音楽が、非常に面白い効果を生んだと思います。まあドリカム的にはね、ヒットチャートには絶対入らなそうな、クセが強めの仕上がりになってますので(笑)。ぜひぜひ、こちらも楽しみにしてください。
プロフィール
中村正人(ナカムラマサト)
1958年10月1日生まれ、東京都出身。DREAMS COME TRUEのベーシストでありコンポーザー、アレンジャー。7月7日“ドリカムの日”にシングル「羽を持つ恋人」、LIVE Blu-ray&DVD「DREAMS COME TRUE ACOUSTIC風味LIVE 総仕上げの夕べ 2021 / 2022 ~仕上がりがよろしいようで~」をリリース。8月公開作「ソニック・ザ・ムービー/ソニック VS ナックルズ」の日本版主題歌を担当することも決定した。来年2023年には、4年に1度のグレイティストヒッツライヴ「史上最強の移動遊園地DREAMS COME TRUE WONDERLAND 2023」の開催を予定している。
中村正人(ドリカム)公式 (@DCT_MASATO) | Twitter
貫地谷しほり(カンジヤシホリ)
1985年12月12日生まれ、東京都出身。2002年にスクリーンデビューを果たし、2004年の「スウィングガールズ」で大きく注目される。2007年度後期の連続テレビ小説「ちりとてちん」ではヒロインに抜擢され、「望郷」「夕陽のあと」やドラマ「リピート ~運命を変える10か月~」「ディア・ペイシェント~絆のカルテ~」などでは主演を務めた。出演作「サバカン SABAKAN」は8月19日より全国ロードショー。
貫地谷しほり (@shihori_kanjiya) | Instagram
高梨臨(タカナシリン)
1988年12月17日生まれ、千葉県出身。2008年公開作「GOTH」で主演を務め、銀幕デビュー。主な出演作に2012年カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式招待作「ライク・サムワン・イン・ラブ」や「生きてるものはいないのか」、ドラマ「放課後グルーヴ」「花子とアン」「恋がヘタでも生きてます」がある。日英合作映画「Cottontail(原題)」は2022年公開予定。
高梨臨 (@RinTakanashi_official) | Instagram
新川優愛(シンカワユア)
1993年12月28日生まれ、埼玉県出身。幼少より、ドラマ・映画・CMなどで活躍。ミスマガジン2010グランプリを受賞後、ミスセブンティーン2011に選ばれ、専属モデルとして活動。2015年より務めたnon-no専属モデルを経て、現在は雑誌MORE、BAILAのモデルとしても活躍している。近年では、主演ドラマ「ギルティ~この恋は罪ですか?~」が話題に。2021年度後期の連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」や「愛しい嘘~優しい闇~」といったドラマのほか、「アオハライド」「めがみさま」「老後の資金がありません!」などの映画にも出演している。
新川優愛 staff (@yua_staff) | Twitter
吉沢悠(ヨシザワヒサシ)
1978年8月30日生まれ、東京都出身。「青の時代」でドラマデビュー。その後「動物のお医者さん」で初主演を務める。以降、映画、テレビ、舞台などで多岐にわたり活躍中。近年では「連続ドラマW トッカイ ~不良債権特別回収部~」、「WOWOW×東海テレビ共同製作連続ドラマ 准教授・高槻彰良の推察」シリーズなどに出演。役者としての幅を広げ、人間味あふれる演技で年代を問わず支持される。7月9日より映画「幻の蛍」が公開中。