「レイニーデイ・イン・ニューヨーク」特集|ファンが推薦!“こじらせ男子”なティモシー・シャラメを見逃すな / 松本花奈が観たウディ・アレンの王道ラブコメ

レビュー

雨なんてクソくらえ、と思いながら生きてきた

文 / 松本花奈

6月に入り、今年も梅雨入りした。
ちょうどこの映画を観た日も朝から家の窓には雨粒が滴り、外には傘をさして歩く人の姿が多くあった。ふと気になり携帯の天気予報アプリを開くとどうやらしばらくこの天気が続くようだった。

雨の中会話するチャン(写真左 / セレーナ・ゴメス)とギャツビー(写真右 / ティモシー・シャラメ)。

「雨の日に告白すると、成功率が上がるらしいよ」と高校生の時に同級生に言われたことがある。そんなバカな、と思ったが彼曰く、雨の音には人の気持ちを焦らせる効果があり、またエンドルフィンという幸福ホルモンが雨の日には分泌されやすいそうだ。その言葉を信じて半年後、梅雨入り真っ只中の土砂降りの日に彼を呼び出し、私は告白をした。「ごめん」の一言であっけなく玉砕し、それから雨なんてクソくらえ、と思いながら生きてきた。

恋愛はつくづく難しい。
何が難しいって、やはり相手を完全に知り尽くすことは出来ないからだろう。

この作品ではティモシー・シャラメ演じるギャツビーと、エル・ファニング演じるアシュレーのすれ違いが巧妙に描かれている。その中で有名映画監督・ポラード氏に新作映画の試写に呼ばれ舞い上がりひょんなことに巻き込まれていくアシュレーと、ギャツビーが電話をするシーンが何度かある。その度に、「予期せぬ展開で取り込み中なの」「今すごく忙しいの」などとあしらうアシュレーが(実際にアシュレーは、新作映画の出来に納得できず逃げ出したポラード氏を、脚本家のダヴィドフと追うことになり“予期せぬ展開で取り込み中”“忙しい”状況であるのだが)何をしているのかギャツビーは知らず、ギャツビーが何をしているのかはアシュレーもまた知らないのだ。
情報化が進み、実際に会わずとも他者が何をしているのか随分と把握出来るようになった近年であれど、お互いがお互いを完全に知ることはきっとこの先もずっと出来ない。
しかし、だからこその面白さもある。物語の中盤で、こちらもひょんなことからセレーナ・ゴメス演じる元カノの妹、チャンと美術館へ行くことになったギャツビーが、チャンの気持ちを知るシーンがあるが、きっとこれまでチャンの気持ちをギャツビーが知らなかったからこそ、このタイミングで知ったからこそのゆくゆくの結末があるのだと思う。

タイミングの話でいうともう一つ、ギャツビーが、今までずっと文化人気取りで毛嫌いしていた母のルーツを知るシーンがある。「可愛い息子に大人向けの話を聞かせたのは、いいタイミングだから」と母は言い、これがきっかけとなりギャツビーは自分の本心に気づき始めるのだが、恋愛であれ何であれ、“いつ”“どこで”“誰に”“何の”話をするのかが非常に大切だということを改めて私たちに気づかせてくれた。ギャツビーが今より小さかったら理解に苦しんだであろうし、逆に今より大人になっていたら心動かされなかったかもしれない。今、でなければならなかったのだ。

雨なんてクソくらえ、と思っていたが、雨の降るニューヨークへはいつか行ってみたいと思った。セントラルパークも、アッパー・イーストサイドも、メトロポリタン美術館もピエールホテルも、バワリーホテルもきっととても美しいのだろうなあ。
ああ、こんな簡単に心変わりしてしまうとはなんて自分は単純なのだ、と思うが、反面そう思わせてくれるところが映画の良さなのだ、とも思うのだ。

松本花奈(マツモトハナ)
松本花奈
1998年1月24日生まれ、大阪府出身。幼い頃に俳優としてキャリアをスタートさせ、ドラマ・映画「鈴木先生」、映画「恋につきもの」などに出演した。2016年には映画「脱脱脱脱17」でゆうばり国際ファンタスティック映画祭の審査員特別賞と観客賞に輝いた。主な監督作は「過ぎて行け、延滞10代」や、オムニバス映画「21世紀の女の子」の1本「愛はどこにも消えない」、ドラマ「平成物語」「ランウェイ24」など。監督最新作は「キスカム!~COME ON,KISS ME AGAIN!~」。