「ランサム 非公式作戦」の痛快アクションに振り落とされるな!“戦場記者”須賀川拓の証言で知るレバノンのリアル / ハ・ジョンウとチュ・ジフンへの独占Q&Aも!

韓国をはじめ世界的ヒットを記録したファンタジー大作「神と共に」シリーズのハ・ジョンウとチュ・ジフンが再び共演した、映画「ランサム 非公式作戦」が9月6日に全国公開される。

本作は行方不明になった同僚を救うためレバノンに発った外交官と、現地で働く韓国人タクシー運転手が手を組み、人質救出作戦に乗り出すポリティカルアクション。1980年代のレバノン内戦下を舞台に、ユーモアと緊張感の交差する予測不能なドラマが展開される。韓国人外交官が誘拐された実在の事件をモチーフに、日本でもリメイクされた「最後まで行く」の監督キム・ソンフンが熱いバディムービーとして仕立て上げた。

本特集では、「クレイジージャーニー」への出演で知られるTBSテレビ特派員・須賀川拓によるレビューを掲載。ドキュメンタリー「戦場記者」を手がけるなど、世界の紛争地を飛び回る須賀川が現場での体験談を交えて映画の感想をつづった。ハ・ジョンウとチュ・ジフンに映画ナタリーからの質問に答えてもらった一問一答も要チェック!

レビュー / 須賀川拓文 / 金須晶子

映画「ランサム 非公式作戦」予告編公開中

“戦場記者”須賀川拓レビュー

現実世界と地続きのリアリティ

パスポートを渡す瞬間、ジロリと見定められるかのような視線が刺さる。奥では、銃を持った治安部隊が不穏な動きを見せる。紛争中の国の空港でよく遭遇する瞬間だ。私の場合、そこからのドラマはない。しかし、この映画は違う。「次に何が起きるか分からない感」がそこかしこにちりばめられている。

舞台は、内戦中のレバノン。キリスト教の過激な宗派とイスラム教徒などが対立し、戦闘が拡大するなか、韓国大使館のオ書記官が行方不明になり、出世欲があるにもかかわらずキャリア不足でもがく外交官のミンジュンが、救出のため一人で乗り込む。

照りつける太陽に、レバノン特有の乾燥と湿気が混ざった埃っぽい空気。物語の冒頭から、紛争中の時代背景が細やかに描写される。暴力が蔓延する場所では、人々は疑心暗鬼になり、不穏な欲望をギラつかせて集まってくる。フィクションでありながら、紛争地の混沌とした雰囲気がしっかりと物語のベースを成している。だからこそ、そこで繰り広げられる裏切りや友情、笑いのシーンがスッと入ってくるのだろう。

全編通して緊迫してばかりでは、見ているほうも疲れてしまう。しかし本作では張りつめた緊張の糸が絶妙なタイミングで緩まるので、あっという間に2時間を見終わってしまった。それがゆえに、少しばかり場面転換が多いのが気になったが、それもご愛敬か。

外交官のミンジュン(奥 / ハ・ジョンウ)は、レバノンに到着して早々に武装組織の襲撃に巻き込まれる。

外交官のミンジュン(奥 / ハ・ジョンウ)は、レバノンに到着して早々に武装組織の襲撃に巻き込まれる。

主人公のミンジュンの成長も、見ていてとても共感が持てる。後輩に出世の道を奪われ、やけくそになっていたところ、突然降ってきた偶然によって、挽回のチャンスを手にする。当初の動機は、極めて不純だ。「救出ミッションを達成したら、アメリカ大使館に赴任させてほしい」。上司から「人命が懸かっていることで取引を?」と怪訝な顔をされても、動じない。後輩に後塵を喫したのだから、プライドもクソもないのだ。見え隠れする男の幼稚なプライド、どこかで見たことがあるような気もする。

しかしこの男、当初は出世のために名乗りを上げたはずなのに、いつの間にか命を懸けて同胞を救おうとする漢の顔になっていく。ところどころで脇が甘いところも、とても人間臭い。いや、本当に甘くて、見ていてイライラするところもある。でもそれが人間だ。韓国映画界を代表する名俳優が、わずか2時間で人間が成長する過程を表現するところも、本作の大きな見どころだ。苦楽を共にするタクシー運転手のパンスも、物語にスパイスを加える良い役回りを演じている。中東の辺境になぜ韓国人が2人もいるのか、という当初の設定も、それほど違和感なく受け入れられた。

ハ・ジョンウ演じる外交官ミンジュン。

ハ・ジョンウ演じる外交官ミンジュン。

チュ・ジフン演じるタクシー運転手パンス。

チュ・ジフン演じるタクシー運転手パンス。

アクションも見ごたえがある。特に武装勢力が支配する地域に入る時の張りつめた空気と、いつ自動車爆弾がさく裂するか分からない緊張感の演出はさすがだった。いや、実際にそうした場面に遭遇すると、本当に体が強張る。私も過去、ある武装勢力が支配する村を離れた直後、運転手が車の下に潜り込んで爆弾が仕込まれていないか確認したことがあった。背筋がヒヤリとする、あの感じ。中東では何が起きるか分からない。突然暴力に飲み込まれることもあるし、権力者と通じたとたんに道が開けることもある。映画のなかでも、あまりに簡単に道が開けるシーンがあるのだが、本当にそんな感じなのである。

同時進行で進む、韓国政治のドロドロとした権力闘争も見逃せない。外務部と安全企画部(当時の大統領直属の情報機関。現・国家情報院)が手柄を奪い合う。そして、現場は取り残されていく。死に物狂いで脱出をしようとしている現場は、支配欲にまみれた無能な指導部によってトラブルに巻き込まれ、物語は最悪の展開になっていく。どの世界でも、背広を着た権力者と最前線は、心が離れていくものだ。「事件は現場で……」というやつである。でも救いもある。ハリウッドのCIAモノ映画とはひと味違う、いかにもアジアの国らしい熱い展開が待っている。

本作は、ドラマそのものはフィクションではあるものの、レバノンで実際に起きた韓国人外交官誘拐事件をモデルにしている。当時の日本外務省の中近東第一課長の印が押された内部文書にも、しっかりと記述が残されている。

「1月31日、西ベイルートにて韓国大使館二等書記官が4~5名のグループにより誘拐(中略)また、書記官の安否等は一切不明である」

世界ではいまも、紛争地に赴任している外交官が命の危険を顧みず、職務を果たそうとしている。そんな現実世界の出来事も頭の片隅にいれてこの作品を見ることも、お勧めしたい。

2021年、ガザ空爆現場を取材する須賀川拓。

2021年、ガザ空爆現場を取材する須賀川拓。

プロフィール

須賀川拓(スカガワヒロシ)

1983年3月21日生まれ。東京都出身、オーストラリア育ち。2006年にTBS入社。2010年に報道局へ所属し、社会部の原発担当、警視庁担当、「Nスタ」を経て、外信部中東支局長として紛争地を多数取材。現在はTBSの「news23」専属ジャーナリスト。担当した主な作品は「大麻と金と宗教~レバノンの“ドラッグ王”を追う」「天井のない監獄に“灯り”を ~パレスチナ暫定自治区ガザ 2019」など。2022年、国際報道で優れた業績をあげたジャーナリストに贈られる「ボーン・上田記念国際記者賞」を受賞。同年、紛争地帯の現状を伝えるドキュメンタリー映画「戦場記者」が劇場公開された。TBSの紀行バラエティ「クレイジージャーニー」にも不定期で出演。テレビでは伝えきれない紛争地の現状をYouTubeやSNSを通じて発信している。

ここにも注目!
「ランサム 非公式作戦」胸熱ポイント

ベイルートの街を爆走!手に汗握る133分の大活劇

外交官とタクシー運転手。決してスーパーヒーローではない2人の男が、どういうわけか異国の地で「ミッション:インポッシブル」さながらの世界に放り込まれてしまう。絶えず銃声が鳴り響く内戦下のレバノン・ベイルートを舞台に、人質救出ミッションが展開される本作は、痛快なアクションシーンが大きな見どころ。緊迫感みなぎる狭い路地でのカーチェイス、戦争映画のようなスペクタクルな爆破、一瞬たりとも気を緩められない銃撃戦……とにかくド派手なシーンが次々と繰り出される。

それもそのはず、製作費は約200億ウォン(約20億円)とされ、ハ・ジョンウも「ワイヤー、射撃、カーチェイスといったシーンが満載で“ハリウッド級のアクション映画”だと感じながら撮影しました」と語るほどの規模で制作されたのだ。主要ロケ地となったモロッコのエキゾチックな風景とハードなアクションのコントラストも趣深い。息もつかせぬジェットコースターのような展開に揺さぶられ、振り落とされないようご注意を!

パンスの愛車であるタクシーに乗り、猛スピードで駆け抜ける!

パンスの愛車であるタクシーに乗り、猛スピードで駆け抜ける!

命懸けのミッションとなることを暗示するような爆破。

命懸けのミッションとなることを暗示するような爆破。

勝手知ったる仲、ハ・ジョンウとチュ・ジフンのコンビネーション

2017年に韓国で封切られたファンタジー大作「神と共に」シリーズで初共演を果たしたハ・ジョンウとチュ・ジフン。意気投合した2人は公私にわたり親交を深め、ハワイ旅行でも合流するなど、仲の良さは世間でもすっかりおなじみに。次なる共演作が期待される中、「神と共に」で“冥界の使者”を演じた2人が、今度は“生命力たぎる人間”の姿で再会した。

孤軍奮闘する状況下の芝居で右に出る者はおらず、窮地にこそ輝く俳優ハ・ジョンウは、失踪した同僚を救いにレバノンへ飛ぶ外交官ミンジュン役で、またしても泥臭く困難に見舞われる。一方のチュ・ジフンは、ちゃっかり者だが心根は温かいタクシー運転手パンスを軽やかに、かつ艶やかに演じた。2人とも俳優としてのパブリックイメージに近い役柄ゆえ、ハマり役であることは言うまでもない。さらにこれまで育んできた信頼や自然体な関係性がキャラクターに乗っかり、バディ像に説得力をもたらしている。監督のキム・ソンフンも「トンネル 闇に鎖された男」でハ・ジョンウ、Netflixシリーズ「キングダム」でチュ・ジフンと組んだ経験から、双方の持ち味を存分に引き出した。

「ランサム 非公式作戦」撮影現場にて、ハ・ジョンウ(中央左)とキム・ソンフン(中央右)。

「ランサム 非公式作戦」撮影現場にて、ハ・ジョンウ(中央左)とキム・ソンフン(中央右)。

「ランサム 非公式作戦」撮影現場にて、チュ・ジフン(奥)とキム・ソンフン(前)。

「ランサム 非公式作戦」撮影現場にて、チュ・ジフン(奥)とキム・ソンフン(前)。

命からがらの状況で育まれる熱い友情

紛争地を舞台にした実話ベースの韓国映画では「モガディシュ 脱出までの14日間」や「極限境界線 救出までの18日間」が記憶に新しく、「ランサム 非公式作戦」もその系譜に連なる1本だ。中でも本作は拉致事件というシリアスな題材を扱いながら、娯楽性の高い冒険活劇に振り切っており、凸凹バディの波瀾万丈な旅路が笑いあり涙ありで描かれる。

やむを得ず手を組むことになり、反発し合いながら、武装組織との追いつ追われつの危険な任務をともにするミンジュン&パンス(時に仲間割れしてお互いを追い詰めることも……)。初めは相手を信用していなかった2人だが、政府からの支援もなしに“非公式作戦”を遂行していくうち、「信じられるのはお前だけ!」とでも言うような絆が芽生えていく。命懸けのドラマから紡ぎ出されるのは、信頼や勇気といった普遍的なメッセージ。次第にズタボロになっていく2人の姿につい笑ってしまいながらも、胸打たれること間違いなし。

果たして2人は捕らわれた外交官を無事に救出できるのか?

果たして2人は捕らわれた外交官を無事に救出できるのか?

ハ・ジョンウ&チュ・ジフン 一問一答!

──演じた役とご自身の共通点はありますか?

ハ・ジョンウ ミンジュンというキャラクターは、私と大きく似ている部分はないと思います。観客の皆さんにぜひ比較してみてほしいですね。

チュ・ジフン パンスは本当に一生懸命生きています。派手な服を着て、現地人も使わない伝統的な帽子を被るのは、客引きの際に少しでも目立つためのパンスの戦略であり努力です。私もキャラクターに対するアプローチを多角的に一生懸命に行う点で、似ているのではないかと思います。

──高所でのアクションやカーチェイスなど体を張った撮影はいかがでしたか?

ハ・ジョンウ 実は遊園地の乗り物が好きではなくて。撮影のときはもちろん安全に配慮されてますが、心の中ではあまり楽しくなかったです(笑)。

──どんな役作りをしましたか?

チュ・ジフン キム・パンスは内戦で韓国人が全員撤退したあと、唯一レバノンに残った韓国人タクシー運転手です。客引きをするために目立つ必要があったので、12kgも体重を増やしました。派手な衣装で外見にも気を配り、一生懸命に生きるキャラクターを作り上げました。

ハ・ジョンウ

ハ・ジョンウ

チュ・ジフン

チュ・ジフン

──犬たちとの共演はいかがでしたか? 劇中では凶暴な設定でしたが。

ハ・ジョンウ 訓練を受けた犬たちですが、撮影に入ると恐怖感を感じました。シーンそのままに、ミンジュンの気持ちのように緊張感を持って撮影しました。

──本作では九死に一生を得る展開がたくさんありました。ご自身が人生の中で“死ぬかと思った”エピソードがあれば教えてください。

チュ・ジフン 「キングダム」の撮影中に水中撮影がありました。もともと泳ぎは得意ですが、撮影シーンのために体に装備を着けたので、自分の体をコントロールできませんでした。あのときは精神的に参ってしまいました。

──次はお互いどんな役で共演してみたいですか?

ハ・ジョンウ もっと悪ガキっぽい感じが生きているキャラクターを一緒にやってみたいです。

チュ・ジフン バディケミ(ケミストリー、相性)を二度お見せしたので、今度は対立する役をやってみたら、どんなことになるのか期待しています。

──韓国でのプロモーション期間中、お二人でたびたびインスタライブをしていました。今後ソロ配信も挑戦してみませんか?

ハ・ジョンウ 最近、デビュー以来初めてInstagramアカウントを作り、ファンと楽しくコミュニケーションを取っています。ライブ配信も一度試してみようかと考えています。

チュ・ジフン 残念ながら、個人的にInstagramをうまく活用できていないんです。ファンと交流する機会ができたら、周りの助けを借りて一度挑戦してみようと思います。

ハ・ジョンウ

ハ・ジョンウ

チュ・ジフン

チュ・ジフン

──好きな日本の俳優は?

ハ・ジョンウ 映画「ノーボーイズ,ノークライ」で一緒に仕事をした妻夫木聡さんと、もう一度一緒に仕事をしてみたい。今でも連絡を取り合っていて、実際にとても好きな俳優です。

──最近観て面白かった作品は?

チュ・ジフン 「サンズ・オブ・アナーキー」です。

──2024年上半期に自分に起きた、もっとも大きな出来事は?

ハ・ジョンウ 上半期には、自分が演出した映画「ロビー(原題)」の後半作業がもっとも重要な仕事になりそうです。

チュ・ジフン ディズニープラスのドラマシリーズ「支配種」を通じて視聴者とグローバルに交流しました。そして映画「脱出:PROJECT SILENCE(原題)」も韓国で公開されました。現在はドラマ「사랑은 외나무다리에서(原題)」を撮影しています。

──コロナ禍やOTT(オーバー・ザ・トップ。インターネットを通じてコンテンツを提供するサービス)の普及により、転換期を迎えている映画界ですが、映画館が特別な場所であることには変わりありません。本作も映画館で観るべき作品と言えますが、改めてご自身にとって映画館とはどんな存在ですか?

ハ・ジョンウ 現実を離れることができる安息の場所ではないでしょうか。休息を与えてくれる空間が劇場だと思います。

チュ・ジフン OTTを通じて家庭でも世界中のコンテンツに簡単にアクセスできるようになりましたが、劇場でしか感じられない経験と思い出があります。単に技術の話ではなく、劇場には観客の人生の中に思い出を残す力があると思うんです。そのためには、観客が劇場に足を運ぶ価値があるような高いクオリティの作品を作り続ける必要があります。

ハ・ジョンウ

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チュ・ジフン

チュ・ジフン

プロフィール

ハ・ジョンウ

1978年3月11日生まれ、韓国ソウル出身。主な出演作に「チェイサー」「哀しき獣」「悪いやつら」「ベルリンファイル」「暗殺」「お嬢さん」「トンネル 闇に鎖された男」「神と共に 第一章:罪と罰」「神と共に 第二章:因と縁」「1987、ある闘いの真実」「白頭山大噴火」、Netflixシリーズ「ナルコの神」など。映画「ローラーコースター」「いつか家族に」では監督・脚本を担当した。

チュ・ジフン

1982年5月16日生まれ、韓国ソウル出身。モデルとして活動後、ドラマ「宮(クン)~Love in Palace」でブレイク。主な出演作に「アンティーク ~西洋骨董洋菓子店~」「キッチン~3人のレシピ~」「アシュラ」「工作 黒金星と呼ばれた男」「暗数殺人」「ジェントルマン」、ドラマ「魔王」「仮面」「ハイエナ -弁護士たちの生存ゲーム-」「支配種」、Netflix「キングダム」シリーズなど。