映画「プロジェクト・ヘイル・メアリー」特集 | 「一緒に宇宙を旅できる!」原作ファン・岸井ゆきの、“最高の映画体験”に大満足 (2/2)

何もかも違うけれど、手を取り合える

──映画では、原作よりもグレースとロッキーのバディものの要素に比重を置いて物語が描かれています。2人が育んでいく友情や、自分たちの星を救うため闘うあたりについては、どう感じましたか?

グレースとロッキーは、言語、文化など何もかもが違うけれど、対話を重ねながらお互いの文化を受け入れ合うし、「こういう洋服を着るんだ」「こういう帽子をかぶるんだ」「そうなんだ、OK、グッド」「しあわせ、しあわせ」と理解し合っていく。実際は2人とも、もう生きるか死ぬかのところにいるという前提はありますが、それでも手を取り合えると見せてくれる。しかも「君はそれができないからダメ」じゃなくて、「僕はこれができる。君はこれができるよね。じゃあこれは君に任せて、僕はこっちをやるよ」という力の合わせ方もすごくて。“究極の多様化社会”に心が躍りました。

「プロジェクト・ヘイル・メアリー」より、ライアン・ゴズリング演じる主人公ライランド・グレース(右)と、岩のような見た目で勇敢な異星人ロッキー(左)

「プロジェクト・ヘイル・メアリー」より、ライアン・ゴズリング演じる主人公ライランド・グレース(右)と、岩のような見た目で勇敢な異星人ロッキー(左)

──なるほど。

それに、今まさに自分たちの星が消滅しようとしているときでも、話がシリアスにならないんです。例えばロッキーは何十年も何百年も生きてきて、人間も同じだと思っているけれど、人間は寿命がある。だけど、グレースはそれを明かさずに、問題解決のために前向きにがんばっていく。「シリアスな状況にいるけれど、どうせ同じところに向かうならユーモアがあるほうがいいよね」という描写も素敵です。ロッキーが倒れてしまうシーンもありますが、グレースは希望を絶対に捨てない。自分だったら「もう1人ではできない」とあきらめてしまいそうなのに、立ち止まらずに仕事を続ける姿にはしびれましたね。

ロッキーがまさかあんなにしゃべるとは

──グレースを演じたライアン・ゴズリングについてはどうでしたか?

最高でした! 初めて原作を読んだときは、同じアンディ・ウィアーの小説を映画化した「オデッセイ」を重ねながら、主演のマット・デイモンの顔でグレースを想像していたんです。でも、2回目は最初からライアン・ゴズリングで脳内変換したら、ユーモアあふれる描写も違った印象になりました。映画で観たときは、それをさらに強く感じましたね。ユニコーン色で、パチパチするキャンディが入ったアイスクリームがあるじゃないですか? ゴズリングにはそういうポップさがあります。なんか、こちらにスキップしてやって来る、みたいな……。

岸井ゆきの

岸井ゆきの

──ああ、なんかわかる気がします。

それを一番感じたのが、グレースがロッキーと出会った場面。本当なら恐ろしくて、引き返してしまうかもしれないのに、ああやってコミュニケーションを取りに行って踊り出す。それが“ユニコーン色”の内面が輝くときのようで。

──役者としてもすごいですよね。ほぼ一人芝居で、ロッキーのパペットを相手に演じたとか。

それでも演技をきちんと成立させる、ゴズリングの役者としてのすごさを感じました。それは、本当にハリウッドの俳優皆さんに言えることだなと思います。ハリウッド映画のメイキング映像を観ると、俳優がテニスボールに向かって演じていたりするじゃないですか。私はグリーンバックで演技をしたことはありますが、テニスボールが相手は無理だ……!と思います。

「プロジェクト・ヘイル・メアリー」より、ライアン・ゴズリング演じる主人公ライランド・グレース

「プロジェクト・ヘイル・メアリー」より、ライアン・ゴズリング演じる主人公ライランド・グレース

──そんなゴズリングの演技の中で、もっとも印象的だった場面は?

やっぱりラストシーンですね。「ああ、グレースはこの人生を選んだんだ」と感じさせる顔をするんです。そのときの決めポーズと表情といったら! エンドロールに入って、遅れて涙が出てきました。どんな顔なのかは、ぜひ本編を観て確かめてほしいですね。

──ロッキーに関してももう少し聞かせてください。実写化された姿はどう映りましたか。

ロッキーがまさかあんなにしゃべるとは。先ほども話しましたが、原作ではにぎやかな文字だったのが、映画では彼が動く音や声がそのまま出るようになって、ちゃんと英語のセリフが聞こえてくる。映像だから余計に饒舌なんだなと思いました。原作を読んでいたときは、もう少し機械的な音をイメージしていたので、意外性があってすごく楽しくて。

──ロッキーに、いろいろなタイプの声を当てるシーンも面白かったですよね。

そうそう、あるオスカー俳優の声も出てきて。たった一言なのにあまりにも彼女らしく、素晴らしくて笑ってしまいました。劇場で答え合わせしてみてください。

──ストラット博士を演じたザンドラ・ヒュラーの印象も伺いたいです。

「ありがとう、トニ・エルドマン」「落下の解剖学」に出ていた俳優さんですよね。どの作品も魅力的ですが、今回は特に私がイメージしていた通りのストラット博士だったので、驚きました。ストラットは普段はすごくクールな仕事人だけれど、歌うシーンでは本来の姿が垣間見える。彼女もグレースも、それぞれの信念に沿って仕事をしている感じがよく出ていて素晴らしかったです。

「プロジェクト・ヘイル・メアリー」より、ザンドラ・ヒュラー演じるエヴァ・ストラット

「プロジェクト・ヘイル・メアリー」より、ザンドラ・ヒュラー演じるエヴァ・ストラット

宇宙船の一員のような気分を味わえる!

──原作が世界的なベストセラー小説だけに公開前から期待も大きいようです。その一方で「SF映画は難しいのでは」という声も。原作の大ファンの岸井さんが、そんな人たちの背中を押すとしたら?

原作を読んでいても読んでいなくても楽しめるし、宇宙を題材にした映画の中ではわかりやすい作品です。知識を持たずに観ても、宇宙船の一員のような気分を味わえると思います。それに、宇宙のことがわからなくても一緒に学べる。なんなら、中学教師であるグレースが教えてくれます。学びながら一緒に宇宙を旅できる映画なので、ぜひ大きなスクリーンで観てほしいです。

──大人も子供も関係なく楽しめますよね。

そう思います。“何もかも違うのに唯一無二の友情を結ぶグレースとロッキーの冒険もの”と考えたら、ドラえもんとのび太の関係にも似ている。あの宇宙船はまさに四次元ポケットみたいなものですしね。

──それでいて、ちゃんとSF映画好きも満足できる作品ですよね。

もちろんです。例えば、グレースがロッキーと出会い、試行錯誤しながらコミュニケーションを重ねていくところ。その描写にはドゥニ・ヴィルヌーヴの「メッセージ」やダニー・ボイルの「サンシャイン 2057」の要素を感じました。それからロッキーが乗っている宇宙船は弦のようで、クリストファー・ノーランの「インターステラー」に出てくる“テサラクト”っぽさがあって。でも細かい表現が1つひとつ新鮮で、どの宇宙映画とも違う新しい画を観ることができました。

──いろいろな楽しみを網羅していると言っていい感じですか?

はい。本当にお薦めです。「最高の映画体験をするはずだ!」と、あのライアン・ゴズリングも言っています。私の言葉じゃなくて、世界のライアン・ゴズリングですから。

岸井ゆきの

岸井ゆきの

プロフィール

岸井ゆきの(キシイユキノ)

1992年2月11日生まれ、神奈川県出身。2009年にドラマで俳優デビュー。2017年に映画初主演作「おじいちゃん、死んじゃったって。」で第39回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞、2019年公開の主演作「愛がなんだ」で第43回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。聴覚障害を持つプロボクサーに扮した2022年公開の映画「ケイコ 目を澄ませて」では、第46回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞、第77回毎日映画コンクール女優主演賞ほか数々の賞に輝いた。近年の主な出演作に映画「やがて海へと届く」「神は見返りを求める」「犬も食わねどチャーリーは笑う」「若き見知らぬ者たち」「佐藤さんと佐藤さん」、ドラマ「お別れホスピタル」「恋せぬふたり」「恋は闇」「火星の女王」などがある。2026年は主演を務めたドラマ「お別れホスピタル2」が4月に放送され、映画「すべて真夜中の恋人たち」が公開されるなど、待機作が多数控える。