「名も無い日」|永瀬正敏×オダギリジョー×金子ノブアキ 名古屋から生まれた“弔いの映画”

地元の協力によって完成した「名も無い日」が、撮影から3年の月日を経て5月28日より愛知、三重、岐阜で先行公開中。6月11日に全国公開を迎える。

「健さん」「エリカ38」で知られる日比遊一が監督を務めた本作。名古屋に生まれ育った小野家の3兄弟を軸に、弟の訃報を受けて帰郷した写真家の長男・達也の姿を描く。兄弟に扮したのは永瀬正敏、オダギリジョー、金子ノブアキという初共演の3人だ。試写会で寄せられた感想と監督・キャストのコメントを紹介しながら、人が生きること、死ぬことを真摯に見つめた人間ドラマの魅力に迫る。

文 / 奥富敏晴

監督自身も経験した弟の死

「名も無い日」(ロケ地:名古屋市熱田区・神宮前駅商店街)

名古屋に初夏の訪れを告げる祭りの季節、1人のカメラマンがアメリカから帰郷する。自ら破滅へ向かっていく生活を選んだ弟・章人の訃報。弟が1人で死んでいった実家からは、決してシャッターを切ることができない生々しい現実がのぞいていた。夢を追って地元を飛び出し、自由奔放に生きてきた主人公・小野達也には、弟が死んだ理由がわからない。彼はただのぞくしかできないカメラを手に、過去の記憶を探るように名古屋を巡っていく。20歳で渡米後、ニューヨークにて写真家として活動した監督・日比遊一の実体験が反映された本作。「世界をファインダーを通して見つめてきたはずなのに、やりたいこと、やるべきこと、人間として大切な何かを見失ってしまった」。実の弟の死に向き合った日比が故郷・名古屋を舞台に、生と死の計り知れない深い溝に迫った繊細でストイックな1作だ。

永瀬正敏×オダギリジョー×金子ノブアキ

「名も無い日」 「名も無い日」

日比が自身の分身とも言える達也の役を託したのは、河瀨直美、ジム・ジャームッシュ、林海象ら数々の名匠に愛されてきた永瀬正敏。自身も写真家として活躍する永瀬が、後悔の念をにじませながら故郷で自問する写真家の達也を体現した。その演技を、映画監督アレックス・コックスは「永瀬さんは最高峰のパフォーマンスを私の記憶に焼き付けた」と称賛。そしてオダギリジョーが孤独で壊れやすい弟・章人役で永瀬と初共演を果たした。そのほか達也と同じように現実を受け取めきれずにいた三男・隆史役で金子ノブアキ、級友の事故から時間が止まったまま生きる達也の同級生・明美役で今井美樹、隆史の妻・真希役で真木よう子が出演。名古屋の地に集った豪華キャストたちを、ヴィム・ヴェンダースも「日本の巨匠監督たちが遺した至芸のように実に優れた作品だ。演技も非の打ちどころがなく素晴らしい。私は深く心を動かされた」と絶賛している。

名古屋から生まれた珠玉のドラマ

「名も無い日」より、熱田まつりの風景。

国の重要文化財である名古屋市役所でのロケなど、映画の撮影も多く行われている名古屋。地元出身の日比が「喪の仕事」「今を生きる決意そのもの」と語る珠玉のドラマが生まれた。自分はなぜここにいるのか、なぜ生かされているのかを問いかける。舞台となるのは、名古屋市の中心部から南に位置する熱田区。日比が生まれ育った同区は約25万もの市民が訪れる熱田まつり(尚武祭)が催される熱田神宮をはじめ歴史文化遺産が多数点在する街として知られる。現在もニューヨークを拠点に活動する日比にとって、熱田は原風景となる場所。劇中でも熱田まつりのシンボル、白ちょうちんが半円形に飾られる献灯まきわらが印象的に差し込まれた。無論キャストがしゃべるのも名古屋弁。中でも日比は、より名古屋弁の濃い芝居を見せたオダギリジョーについて「彼のもともとの性格や優しいトーンの話し方が弟と重なった」と証言している。

それでも生きてゆく それぞれの「名も無い日」

2021年5月中旬に行われた試写会では号泣する人が続出。
ひと足先に鑑賞した映画ファンたちの感想をお届けする。

胃がえぐられるように辛かったです。
あなたのすぐ近くに、家族や友人の中に、“章人”がいるかもしれない。
多くの人に観ていただきたい。そう思いました。

(三重県 / 50代女性)

心に重く響いた作品でした。「死」を受け入れることとは、残されたものが「生きていく」ことなんだろうな。

(東京都 / 50代女性)
「名も無い日」(ロケ地:名古屋市熱田区・名鉄神宮前駅周辺)
「名も無い日」

自然災害、新型コロナウイルス、死を身近に感じることの多い世の中で人を思いやって生きていきたいと思いました。

(神奈川県 / 40代男性)

とても悲しくも、兄弟愛が感じられる映画でした。コロナで連絡を控えている人へも、連絡を取りたい気持ちになりました。

(東京都 / 40代男性)

切なすぎる。でも美しい。胸を掴まれました。
兄弟愛、家族愛、友情、たくさん涙が出ました。
すべてのシーンを切り取りたくなる、写真のような映像。
いつかロケ地を訪れてみたいです。

(東京都 / 40代女性)

今まで孤独死について考える機会はありませんでしたが、この映画をきっかけに考えることができました。私にも兄弟がいるのでこれから先も大切に仲良くしていきたいです。

(愛知県 / 10代女性)
「名も無い日」(ロケ地:三重県四日市・四日市コンビナート)
「名も無い日」(ロケ地:名古屋市熱田区・神宮小路)

名古屋生まれ名古屋在住の私としては、
熱田界隈のなんでもない街並みが嬉しかったです。

(愛知県 / 50代女性)

誰にも起り得る悲しい現実を見て、私の大切な人たちは今本当に幸せなのか、何かできることはあるのかと考えさせてくれました。また劇場で観たい作品です。

(埼玉県 / 50代女性)

最後は涙が止まりませんでした。
人を孤独にしてはいけない、どこかで繋がっていなくてはいけない。

(愛知県 / 40代女性)

悲しくて苦しくて終始泣きながら観ていましたが、最後は、穏やかな気持ちでした。苦しいけど、後悔もいっぱいだけど、乗り越えて生きていかなければ。

(千葉県 / 40代女性)
「名も無い日」
「名も無い日」「名も無い日」

Message

様々な想いが交錯し、ぶつかり混じり合い、
そして一つになって作品が完成しました。
沢山の皆さんに届きます様に…天国のあの方にも

──永瀬正敏

コロナは我々に色んなことを考えさせた。
今まで重要だと思っていたものは、いざという時には意外と必要なかった。
本当に必要なもの、大切なものは、案外、少ない事に気が付いた。
この映画を観た時、まさに同じ事を感じた。

──オダギリジョー

今も事ある毎に今作と向き合っていた時間を思い起こします。
重大な命の記録に携わらせて頂けた事を忘れません。
監督の芯から溢れ出る愛情、葛藤、現場での涙を忘れません。
人生は讃えられるべきものなのだと改めて教えて頂きました。
皆様の平穏を願っています。心より感謝を込めて。

──金子ノブアキ

弟の死と向き合った際、ある種の答えが浮かんだ。
今の時代に合わせた作品を創るのではなく、次世代のために伝えることがある。
それは、祖父母や両親や兄弟や生まれ育った故郷が私にしてくれたこと、教えてくれたことだった。

コロナという困難な時代にこそ、今作品を観る一人一人が、本当に大切なこととは何かを自問していただけるきっかけになればと願っている。

──日比遊一(監督)
「名も無い日」「名も無い日」(ロケ地:名古屋市熱田区・宮の渡し公園)