「メタモルフォーゼの縁側」特集 | 人気マンガを実写化、あたたかい手触りを感じる友情の物語

映画「メタモルフォーゼの縁側」のBlu-ray / DVDが12月14日に発売される。

本作は、鶴谷香央理の同名マンガを実写映画化したヒューマンドラマ。書店でアルバイトをする17歳の女子高校生・佐山うららと、ボーイズラブ作品に出会った75歳の老婦人・市野井雪が、同じものを好きという気持ちでつながるさまが切り取られる。芦田愛菜がうらら、宮本信子が雪を演じ、高橋恭平(なにわ男子)、古川琴音、生田智子、光石研らもキャストに名を連ねた。

映画ナタリーではソフトのリリースを記念して、ライター・青柳美帆子によるレビューをお届け。歳の差58歳の2人が友情を育んでいく様子を丁寧に描き出した、本作の魅力を紹介する。

文 / 青柳美帆子

お互いの存在が、新しい何かに向かう力になる

この映画、大好きだ……! 2022年夏、映画館で「メタモルフォーゼの縁側」を見たときに心から思った。笑えて、和んで、胸が痛んで、気づいたら泣かされて、ちょっと切ないけどさわやかな気持ちでスタッフロールにたどり着く。

「メタモルフォーゼの縁側」は、17歳の女子高校生・佐山うららと、75歳の老婦人・市野井雪が、ボーイズラブ(BL)マンガという趣味をきっかけに友人になっていく物語。原作は鶴谷香央理によるマンガで、2019年「このマンガがすごい!」オンナ編1位、第22回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞を受賞している。

「メタモルフォーゼの縁側」より、芦田愛菜演じる佐山うらら(左)と宮本信子演じる市野井雪(右)。

「メタモルフォーゼの縁側」より、芦田愛菜演じる佐山うらら(左)と宮本信子演じる市野井雪(右)。

うららと雪の出会いは書店だった。雪は、久しぶりに出向いた書店の1コーナーで、“綺麗な絵”のマンガに出会う。それこそが、コメダ優によるBLマンガ「君のことだけ見ていたい」だった。うららはその店でバイトしており、レジを通しながら“おばあちゃん”がBLマンガを買っていくことに驚く。雪もまた、家に帰ってマンガを読み、その本が男性同士の恋愛を描いていることに驚くのだった。

鶴谷香央理の絵は、キャラクターの表情がいい。ほのぼのとしていて優しいタッチなのだが、時折ぐぐっとキャラの感情に引きずり込まれる。うららは内向的な自分のことを好きになれないでいる。雪は思い出の店が閉店したり、周囲がだんだん終活を始めたりと、少しずつできることが少なくなっていく日々に漠然とした寂しさを感じている。

「メタモルフォーゼの縁側」

「メタモルフォーゼの縁側」

「メタモルフォーゼの縁側」

「メタモルフォーゼの縁側」

けれど彼女たちの閉塞感は変わっていく。雪の家(そこには大きな縁側がある)や喫茶店でBLマンガについて語り合う時間、イベントやサイン会への“冒険”……ふたりで過ごした時間が積み重なって、お互いの存在が新しい何かに向かっていく力になる。

マンガのコマから抜け出してきたかのよう

今年6月に公開された実写版は、原作5巻ぶんの物語をまるっと辿り、118分のキュートな映画として作り上げた。うららと雪を演じるのは芦田愛菜と宮本信子だ。

芦田愛菜といえば、思わず「さん」付けしたくなるような俳優。ネット上では彼女の落ち着きと多才ぶりに「人生二回目なのでは」なんて声が上がるくらいだ。そんな彼女が「自分にコンプレックスを持っている」「自信がなくて踏み出せない」といううららを演じるわけだが、これがまあびっくりするほどうららなのである! これまで私たちはうららが動いているところを見たことはなかったはずなのに、「うわっ、筋肉の動きがうららだ!」という感想を抱かされてしまう。言いよどんだり早口になったりする声も、泳ぐ目も、萌え語りができてはにかむ表情も、やや前屈みで走っていく姿も、完全にうららだ。

「メタモルフォーゼの縁側」

「メタモルフォーゼの縁側」

「メタモルフォーゼの縁側」

「メタモルフォーゼの縁側」

雪を演じる宮本信子もまた、完全に雪さんの空気を出している。歳の離れた友人であるうららに対する、包容力と天真爛漫さ。恋にも似ているわくわく感。ふたりが会話しているシーンは、マンガのコマから抜け出してきたかのようだ。

ほかにも、ふたりが憧れるBLマンガ家のコメダ優(古川琴音)や、うららの幼馴染の河村紡(なにわ男子・高橋恭平)など、「この役者さん、もっと見たいな~」と他の出演作も調べたくなるような好演が見られる。

「メタモルフォーゼの縁側」より、古川琴音演じるコメダ優。

「メタモルフォーゼの縁側」より、古川琴音演じるコメダ優。

「メタモルフォーゼの縁側」より、高橋恭平演じる河村紡(左)、芦田愛菜演じる佐山うらら(右)。

「メタモルフォーゼの縁側」より、高橋恭平演じる河村紡(左)、芦田愛菜演じる佐山うらら(右)。

脚本は大ベテランの岡田惠和(「ちゅらさん」「いま、会いにゆきます」)。原作のエピソードをていねいに拾い上げながら、“うららが描いた初めてのマンガ”のエピソードを軸にして映画として楽しいテンポに仕立てている。

監督の狩山俊輔は「きょうは会社休みます。」「青くて痛くて脆い」など、マンガや小説原作の映像化を多数手がけている。うららと雪がハマるマンガ「君のことだけ見ていたい」は、現役のBLマンガ家じゃのめが担当し、まるでふたりと一緒に読んでいるような気持ちで楽しめる。

鶴谷の作り出した世界がこの形で実写映画になったことで、どこかにうららと雪さんが存在していて、今日もおしゃべりをしているんじゃないか……そんなあたたかい手触りを感じるのがこの映画なのだ。

「メタモルフォーゼの縁側」

「メタモルフォーゼの縁側」

コミックスの横に並べたくなる

12月14日には、Blu-rayとDVDが発売される。Blu-rayはコレクターズ・エディションとして、メイキングや舞台挨拶などを収録した映像特典ディスクのほか、さまざまな特典がついている。

「メタモルフォーゼの縁側」コレクターズ・エディションの展開図。

「メタモルフォーゼの縁側」コレクターズ・エディションの展開図。

中でも目を引くのは、原作者・鶴谷香央理による描き下ろし特製スリーブケース! 原作でも映画でも印象的な、コメダ先生のサイン本を見せあって写真を撮りあうふたりのシーンが描かれている。

「メタモルフォーゼの縁側」コレクターズ・エディションに付属する、鶴谷香央理描き下ろし特製スリーブケースのビジュアル。

「メタモルフォーゼの縁側」コレクターズ・エディションに付属する、鶴谷香央理描き下ろし特製スリーブケースのビジュアル。

原作のファンの人なら、この絵にはっと反応するかもしれない。原作マンガのコミックスの表紙は、今回のスリーブケースのように、ふたりが過ごす日常のシーンが描かれている。つまりこの特典スリーブ、すごく原作らしいデザインなのだ(デザインを担当したのは、原作コミックスの装丁も手がけている名和田耕平デザイン事務所)。

もともと原作が好きな人なら、さながら「6巻」のようにコミックスの横に並べたくなる。映画をきっかけにこの作品を知った人なら、Blu-rayからさかのぼるように原作を買いたくなる。そんな気持ちになるアイテムだ。