要人警護スペシャリストの奮闘を描く映画「コウイン ~光陰~」 | 警備会社の代表である監督・柿崎ゆうじにインタビュー

映画「コウイン ~光陰~」が4月12日より全国で順次公開される。

監督である柿崎ゆうじは民間警備会社を経営しており、本作は自身の実体験をもとに制作した映画「第二警備隊」の続編。隊員の殉職を経験した要人警護のスペシャリスト集団・警備会社エステックが、再び大きな試練に立ち向かっていくさまが描かれる。エステックの一員・高城役で出合正幸、佐野役で竹島由夏が出演した。

今回、映画ナタリーでは柿崎にインタビューを実施。彼がタイトルに込めた思いや、本作を通して世に伝えたいことを語ってもらった。

取材・文 / 前田かおり

映画「コウイン ~光陰~」予告編公開中

アップデートしたものを作ろうと思い立った

──映画のお話を聞く前に、柿崎さんは身辺警護会社のオーナーだと伺いました。作品作りにもそういう経歴が関係しているそうですね。

はい。実は若い頃、格闘技バカみたいになっていた時期がありました。私の世代だと、ちょうどブルース・リーに憧れて(笑)。それでアクション俳優を目指していたのですが、アクションをやるなら本当にできないと恥ずかしいじゃないですか。だから、空手やキックボクシングを徹底的にやって。自分で道場も始めたんです。でも、あまりに(指導が)厳しいのでどんどん会員が辞めていく。当時のオーナーから「こんなことだと道場がやっていけない。何か仕事を考えろ」と言われて、「じゃあ、ボディガードなんてどうでしょうか」と平成元年にボディガード会社を作ったんです。当時はけっこう話題になりました。その一方で、仕事で知り合った俳優仲間たちを集めて事務所を作り、芝居を始めて。演劇だけでなく、短編の映画を撮ったり……。作品を残しておきたいという気持ちがあったんです。

──二足のわらじですね。この「コウイン ~光陰~」は、ご自身の体験をもとに民間警備会社の身辺警護員たちの姿を描いた「第二警備隊」の続編と聞いていますが。

はい。「第二警備隊」は1999年、当時私が経営していた警備会社で実際に起きた事件の真実を、世間にきちんと伝えたいと思って作ったものでした。当時、新聞、テレビ、週刊誌などからずいぶん取材されたのですが、興味本位だったり、真実が書かれていなかった。まず、それをきちんと残したいと「第二警備隊」を作りました。事件からもずいぶん時間が経ち、会社を取り巻く環境も様変わりしました。そこでアップデートしたものを作ろうと思い立ちました。

映画「コウイン ~光陰~」より、高城役の出合正幸。

映画「コウイン ~光陰~」より、高城役の出合正幸。

──そんなに状況が変わったのですか?

「第二警備隊」で描いた事件当時は、日本企業のトップを警護するのが普通でした。それが2001年にアメリカで起きた9.11の同時多発テロ以降、日本に来日するハリウッドスターや、アメリカの元大統領などの警護をかなりの割合でやっていました。うちもアジアの中でちょっと有名な会社になり、中東から入社を希望するメールが届くようになったんです。要するに、我々の警備会社に入って、アメリカに対する情報を取るというのが目的で。

──そうなんですか?

それが、最近は中国からの入社希望者が増えているんです。そして、日本では中国の工作員が非常に増えている。そういった話を総合して、映画にしてみたいなと思いました。

高城と佐野はリアルにうちにいた社員をモデルにしています

──今回の作品もそんな実際の話が下敷きになっているわけですね。キャンプ場で警備するところもですか?

本当にそういうことをやったこともありました。要するに、すべての情報を遮断して安全に依頼人を守るためには、衛星も届かない森の中であればいいんです。上空に衛星が来ても地上を撮影することはできないので。そういうことを全部考えて、今回のようなキャンプ場に行ったことは何回かあります。もっとも、日本は非常に安全性の高い国なんです。国土も狭いですし、ああいう僻地で狙われたところで、警察を呼べば大概30分以内でどこでも来る。むしろ犯行は都市部の方がやりやすいんですよ、紛れますからね。

映画「コウイン ~光陰~」場面写真

映画「コウイン ~光陰~」場面写真

──俳優の方たちのお話も伺いたいのですが、前作に続いて高城役の出合正幸さん、佐野役の竹島由夏さんらが続投しています。新たなメンバーも入り、今作ではチームを引っ張る立場になっていますが、登場人物の描き方でこだわったところはありますか?

高城と佐野はリアルにうちにいた社員をモデルにしています。ただ、若手の2人はいろんなタイプの人間を混ぜて、キャラクターを作り上げました。1人は高城と同じく自衛隊出身で、立場も同じような後輩という存在で。もう1人は腕っぷしは弱いけれど、機械いじりが得意。作戦を立てたり、情報を取ったりするのを得意とする。

──実際にモデルがいらっしゃったというお話ですが、役者さんも似た方を起用されているんですか?

いえいえ(笑)。ただ、元自衛隊や元警察の人間が多いというのは、まあ事実です。半分ぐらいですね。

映画「コウイン ~光陰~」より、佐野役の竹島由夏。

映画「コウイン ~光陰~」より、佐野役の竹島由夏。

職務として命懸けでつないできたものを守っている

──ところで、本作の準備期間はどのぐらい掛かっていますか?

ほぼ10カ月ぐらいです。前作「シグナチャー~日本を世界の銘醸地に~」を2021年の8月頃に撮り終えた直後からですね。実はその作品を山梨で撮ったとき、たまたま通りかかったキャンプ場がいいなと感じて。2021年9月頃から企画を考え始めて、2022年の夏に撮りました。期間は2週間ぐらいです。

──撮影現場では、ご自身で警護の方法やアクションシーンの指導をされたそうですね。

はい。全体的にそうなんですが、アクションはあっても我々は相手を殴り倒すとか蹴り倒すということはなくて、相手の動きを制圧しようとするんです。首を絞めて気絶させて、体を拘束するというのが関の山です。佐野は女性ですが、女性相手でも警棒を出して制圧している。こうしたやり方も実は法律で決まっていて、それに準じた形のことを劇中でもやっています。

映画「コウイン ~光陰~」メイキング写真

映画「コウイン ~光陰~」メイキング写真

映画「コウイン ~光陰~」メイキング写真

映画「コウイン ~光陰~」メイキング写真

──今回、撮影時に苦労したところを教えてください。

撮影時、ちょっと雨が多かったんです。標高1100mぐらいのところだったし、しかもかなり深い山でしたから。毎日のように天候が変わる。今までこんなに天候で苦労したことはなかったですね。それに、人が登って行けないような急な斜面に全部レールを引いたり、イントレ(カメラ台の一種)を組んだりしました。すごく狭いんですよ。そのセッティングに3時間も掛かったり、大変でした(笑)。

──思い入れのあるシーンはどこでしょう?

やはり冒頭の、車に警護する女性を乗せて、山の中に入ってきて到着して、配置に着くところは、我々が職務として命懸けでつないできたものを守っているということを表現しているので、すごくこだわりました。それから、非常に殺伐とした感じの作品であっても、自分はちょっと色気を入れたかったので、女性を匿う部屋のカーテンを赤にしてみました。

映画「コウイン ~光陰~」より、早乙女役の山崎真実。

映画「コウイン ~光陰~」より、早乙女役の山崎真実。

陰でいられるほうが幸せ

──「コウイン ~光陰~」というタイトルの意味を教えてください。

これはパッとひらめいたんですが……。やっぱり自分たちはいざというときは光のように表に出て行かなきゃいけないんですけど、普段、何もないときはもう陰に徹しなければいけない。常に表なのか陰なのかを意識しながら動いてますし、自分たちが光にならないほうがいいんですね。自分たちが脚光を浴びるということは、とてつもないことが起きたときですから。常に陰でいられるほうが幸せだと表現したくて、付けました。

──最後に今回の作品をどういう方に、どんなふうに楽しんでもらいたいでしょうか。メッセージをいただけますか?

今、ウクライナ戦争があったり、中東で戦闘があったり、世界中どこでも不穏で、そして身近にも事件がいっぱいありますよね。簡単に人が殺されたり、社会的にものすごく不安な世の中になってきている。そんな中で、日本では警察や自衛隊、外国では軍隊が人の命や安全を守るということを誰もが認識しています。そういった仕事に就いている人たちは、当然みんな、覚悟を持っているでしょうが、民間にも警護を職業にしている人間がいることを知っていてもらいたいんです。そして、日本は本当に“スパイ天国”で、なんの警戒感もなくみんな情報提供をしているという現実があります。この作品で、できればちょっとそういう啓発もしたいなと考えました。ですから、できるだけ実話をベースにして作り、観てくださった方にもう少し警戒感を持って生きるきっかけになってほしいと思います。昔からよく“水と安全はタダ”と言われてますけど、今や日本も実はそんなに安全な状況じゃないですよ、ということを肝に銘じてほしいなと思います。

映画「コウイン ~光陰~」より、高城役の出合正幸(左)と中本役の野村宏伸(右)。

映画「コウイン ~光陰~」より、高城役の出合正幸(左)と中本役の野村宏伸(右)。

プロフィール

柿崎ゆうじ(カキザキユウジ)

1968年11月20日生まれ、山形県出身。ビーテックインターナショナルの代表取締役会長、カートプロモーション代表取締役会長兼社長、カートエンターテイメントの代表取締役社長を務める。舞台「帰って来た蛍」シリーズでは製作総指揮・脚本・演出を担当。そのほかの監督作に映画「第二警備隊」「ウスケボーイズ」「夢幻」「シグナチャー~日本を世界の銘醸地に~」などがある。