窪田正孝×宮沢りえ インタビュー
選挙カーってなかなか乗らないですよね(宮沢)
──窪田さんは粛々と任務に勤しむ議員秘書・谷村勉、宮沢さんは熱意はあるけれど世間知らずな候補者・川島有美を演じられました。窪田さんはご自身のマネージャーさんを役作りの参考にされたそうですね?
窪田正孝 常に誰かのことを中心に考えて動く“現場マネージャー”という立ち位置が、秘書のイメージに一番近い存在だったので。俳優部から見る現場と演出部から見る現場って全然違うんですけど、マネージャーから見る現場もまた違うんですよね。きっとマネージャーだったらこう動くなとか考えながら、いろいろと機転を利かせるイメージで演じました。
宮沢りえ そうだったんだ。確かに、車に乗るシーンは特にそんな感じだったかも。
窪田 そうそう、僕らはあまり運転席に乗らないですもんね? 遅刻してきた有美さんが平然と乗ってきて、反省の色も見せず「じゃあ今日もがんばりましょうね!」と言うシーンは、車内が完全に有美さんの色で染まりました。一瞬で支配するというか、空気の色を変えてしまう。そんな魅力が有美さんにはあるので、決して谷村のシーンではありませんでした。谷村にとって有美さんは異色すぎるから、きっと車の窓を全開にして空気を入れ替えたかったと思う(笑)。
宮沢 車と言えば、私は選挙カーに乗るシーンが面白かった! 選挙カーってなかなか乗らないですよね。なんだかミッキーマウスになったような気分で(笑)。パレードを見ている人たちってこんな顔をしているのかな、と思いながら車の中から眺めていました。
──宮沢さんは誰かを参考にするというより、その状況を楽しむ感覚で演じられたんですか?
宮沢 参考にした部分もあります。女性政治家のインタビューの受け答えを見て、自分が考える有美の人物像にエッセンスとして取り入れたりはしました。特に謝罪会見のときの表情は、実際の映像を参考にしていました(笑)。
狙ってない面白さが生まれた(窪田)
──今回お二人は初共演、そして宮沢さんは本格コメディに初挑戦されました。一緒に撮影してみていかがでしたか?
窪田 現場で「ああしよう」「こうしよう」と話し合うことはほぼなかったです。まず監督がまったくそういうタイプではないので(笑)。段取りを1回やったら「じゃあそんな感じで」となって、すぐに長回し撮影が始まる、みたいな。その1回でしか生まれない化学反応を楽しむというか、一発録りのセッションみたいな感覚でした。
宮沢 私もそんな感覚。だから窪田くんのことは、すごく信頼していました。
窪田 いやいや、こちらこそです。
宮沢 お芝居ってお互い目と目を見て演じるじゃないですか。窪田くんは目の奥の奥まで見ても、ちゃんと役をまとっていて。演じるということは嘘の行為なんですけど、その中で“本当”の空気感を出せるところが信頼できます。おかげで私も、自分のやりたいことをオープンにしてぶつかって大丈夫なんだという安心感がありました。谷村と有美が階段で思いをぶつけ合うシーンをふと思い出したんですけど、あの場面では特に感じました。
窪田 いやあ……ありがとうございます。
宮沢 あとさ、おいしいものの話をよくしたよね。おいしいものってこんなにわかり合えるんだ!って(笑)。
窪田 しましたねー! 「これがおいしかった」とか「あの店がおいしかった」とか。あと、りえさんに自家製のレモンをいただいたり。
宮沢 うちで作ったのを渡して、その次は窪田くんが「これどうぞ」と別の物をくださって。いろいろ物々交換していたよね。
──そんな裏話もあったんですね。本作はコメディ映画ですが、皆さんが普通に会話しているだけなのにすごく笑えて。カメラの外で行われていたコミュニケーションが地続きとなって、お芝居にも表れていたのでしょうか。
宮沢 そうかもしれません。いい空気を生み出すエネルギーを持った人たちが集まった現場でした。
窪田 誰一人として笑わそうと思ってないんですよね。1人ひとりが真面目にやっていて、なのに言動が滑稽に見えてしまう。だから狙ってない面白さが生まれたんだと思います。
宮沢 有美が屋上から演説するシーン、面白かったなあ。
窪田 あのシーンはすごかったですね!
宮沢 有美は間違っていると思ったら、それに対して「間違っている!」とはっきり言える人。本人は「もう辞めてやる!」と憤っているのに、周りからは逆に「(議員に)向いてるんじゃない?」と感心されてしまって(笑)。私がムキになればなるほど、みんなはクールであればあるほど、その温度差に笑えてくる。コメディというものをたくさん学んだ現場でした。
プロフィール
窪田正孝(クボタマサタカ)
1988年8月6日生まれ、神奈川県出身。2006年にドラマ「チェケラッチョ!! in TOKYO」で連続ドラマ初出演にして初主演を飾る。2012年公開作「ふがいない僕は空を見た」で第34回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞、第27回高崎映画祭最優秀助演男優賞を受賞。2020年公開の主演作「初恋」は第72回カンヌ国際映画祭の監督週間に出品された。主な出演作に映画「ガチバン」シリーズ、「東京喰種 トーキョーグール」シリーズや「Diner ダイナー」「ファンシー」、ドラマ「アンナチュラル」や「ラジエーションハウス~放射線科の診断レポート~」シリーズ、連続テレビ小説「エール」など。2022年には「劇場版ラジエーションハウス」「ある男」の公開を控える。
ヘアメイク / 糟谷美紀スタイリング / 菊池陽之介
宮沢りえ(ミヤザワリエ)
1973年4月6日生まれ、東京都出身。11歳でモデルデビューし、1988年公開の初主演映画「ぼくらの七日間戦争」で日本アカデミー賞新人賞に輝く。2002年「たそがれ清兵衛」、2014年「紙の月」、2016年「湯を沸かすほどの熱い愛」で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞するなど、数々の映画賞を獲得している。近年の出演映画に「トイレのピエタ」「TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ」「人間失格 太宰治と3人の女たち」など。日本テレビ系の2021年10月期・2022年1月期ドラマ「真犯人フラグ」に出演中のほか、2022年放送の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で牧の方を演じる。
メイク / 早坂香須子ヘア / Dai Michishita(Sun and Soil)スタイリング / 佐々木敬子(AGENCE HIRATA)