「この小さな手」武田航平インタビュー、“娘に関心がなかった”主人公の姿から伝えたいこと (2/2)

目をそらしがちなことに向き合っていく物語

──完成した作品を初めてご覧になったときの感想を教えてください。

ものすごく重いテーマではあるんですけど、やっぱり実は誰にでもあるようなことだなと感じました。逃げてしまうような、目をそらしがちなことに向き合っていく物語だなと。それと、子供ではなく父親の和真が成長していると思って。和真は子供に「父親」にさせてもらえたんだな……と。

武田航平

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──松下由樹さん扮する児童相談所の職員に、ひなちゃんを自宅に連れて帰ることを許されないというシーンがありましたね。

当たり前のように「ひなを早く返してください」と言ってしまう世間知らずな和真に対して、松下(由樹)さんはセリフの言い方を監督と相談されていました。和真に理想と現実を突きつけるため、試行錯誤しながら演じてくださいました。このシーンは、すごく大切な瞬間じゃないですか。現場にもいい影響を与えくださいました。

「この小さな手」場面写真

「この小さな手」場面写真

「この小さな手」場面写真

「この小さな手」場面写真

──武田さんが特に好きなシーンはありますか?

一生懸命自身のイラストをプレゼンするも、なかなかうまくいかなかった和真が、津田さん扮する「週刊人間」の編集長・東堂忠宏と出会って、“やっとここで活躍できるかも!”と調子よく飲みに行くシーンですかね。そこでまた酔い潰れるじゃないですか(笑)。バカだなあと思うけど好きですね。和真って、がんばろうと思って失敗、またがんばろうと思って失敗……を繰り返すんですよ。でも僕は和真のすぐ調子に乗るところが好きです(笑)。そのせいでもう大変なことになりますが……人間らしいです。

身近な人に目を向けてほしい

──劇中では児童養護施設で生活する子供や、さまざまな事情で子供と一緒に暮らすことができない親の姿が描かれています。このような描写から、武田さんが感じたことはありますか?

みんな意外と、このような現実があることを知らないじゃないですか。どんな問題もそうですが、他人事にするのはよくないと思っています。自分にも起こりうることだと思わないといけないなと。身の回りにこのような問題を抱える人がいたら、目を背けるのではなくて、手を差し伸べることができるんじゃないかなと考えました。でも、実際に何ができるかはわからないですし、簡単にできることではないので複雑な気持ちになりました。

武田航平

武田航平

──和真は、小百合に任せきりで子育てに関わってこなかったゆえに、すぐにひなを児童養護施設から引き取ることが許されませんでした。

そうですね。大切な人って、いなくなってから気付いたり、あとから振り返ったときに「あの人ってこうだったな、いいこと言ってくれていたな」って思ったりしますよね。この映画を観た方には、身近にいる人たちを大切にしたり、自分の心と向き合っていただくといいなと思いますね。

──この映画では、和真が周囲に助けを求められるようになる過程もつづられています。武田さんご自身が、周りの助けによって気付きを得た経験はありますか?

そんなことばっかりの繰り返しです。僕もがんばらないといけないと思うと、思い詰めてしまいがちなんですよ。今回で言うと、津田さんが思いっきり“芝居っぽくない芝居”をナチュラルにされていて、それに乗っかって演じてみたり。周りの人に甘えるじゃないけど、そういう瞬間はどの現場にもありますね。

「この小さな手」場面写真

「この小さな手」場面写真

──最後に、この映画を通して伝えたいことを教えてください。

もちろん感動してもらえたらうれしいですが、目を背けたいものに対して、ちゃんと問題を解決していく1人の人間の話だと思って観ていただけたらうれしいです。和真も、助けてくれる人が身近にいたり、娘からたくさん成長するためのエネルギーをもらうわけじゃないですか。映画を観たあとに、身近な人に目を向けてほしいです。もし2回、3回と観る機会があったら、性別や立場に関係なく和真に自己投影して「自分にもそういうところがないかな?」と向き合うきっかけにしてくれたらなと思います。

武田航平

プロフィール

武田航平(タケダコウヘイ)

1986年1月14日生まれ、東京都出身。2008年に「仮面ライダーキバ」で紅音也 / 仮面ライダーイクサを、2017年に「仮面ライダービルド」で猿渡一海 / 仮面ライダーグリスを演じた。そのほか主な出演作は連続テレビ小説「ウェルかめ」、ドラマ「戦国BASARA -MOONLIGHT PARTY-」「オールドファッションカップケーキ」、大河ドラマ「軍師官兵衛」、「HiGH&LOW」シリーズ、映画「星くず兄弟の新たな伝説」「てぃだ ~いつか太陽の下を歩きたい~」などがある。現在は連続ドラマW-30「ウツボラ」「ながたんと青と -いちかの料理帖-」に出演中。