「初恋の悪魔」プロデューサー次屋尚が振り返る、坂元裕二と5作目のタッグ | 林遣都・仲野太賀・松岡茉優・柄本佑もロスに陥った“奇跡の作品” (2/2)

遣都くんは芝居に夢中、太賀くんはかわいいやつ

──今回の皆さんの演技は脚本に準じているんですか? アドリブもあるのでしょうか?

基本、脚本通りですね。メインキャスト4人は坂元裕二フリークで、坂元ドラマが設計図だと思っているので、脚本を読めば坂元さんが何を求めているかわかるんですよ。あとは水田監督をはじめ演出家たちが、その度合いを調整しています。

「初恋の悪魔」場面写真

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──メインキャスト4人のお芝居について、印象に残っていることを教えてください。

遣都くんは本当に今、お芝居に夢中。人生の中での生き様として演技することに夢中で、本物の役者を目指して発射台に乗っている感じ。それでいて、あんなにかっこいい顔しているのに、ちっともかっこつけない。そこがいい。演技することが彼を支配していて、タレント性や人気にほぼ興味がない。もしかしたらあるのかもしれないけど、それよりも役者人生への思いのほうが強い。それがまた愛おしいんですよ。遣都くんのお芝居で印象に残っているのは、5話。彼が演じる鹿浜の過去が少しだけ垣間見える。彼にしかできない表現方法で、彼にしかできない声音で演技しています。100%の力を使って、ヘトヘトになっていましたけどね。

──仲野太賀さんはいかがですか?

太賀くんは2話の、もうここで?という段階で泣いちゃって驚きました。彼は相手の出方で自分の芝居を変えていく、その対応力が素晴らしいんです。それでいて、シーン替わりなどに「今のシーンって、ここまでやっちゃってよかったんですかね」とか「こういうテンションでいいんですかね」と聞いてくる。とにかく役者をやっていることに一直線だと感じさせますね。それに現場での立ち居振る舞いがかわいい。今、ものすごく上り調子の俳優なのに、それをまったく鼻に掛けていないし、周りにも気を使う。どうやったらこんな大人ができるのかと思うぐらい、人懐っこくて後輩の面倒見もいいし、先輩への忠誠心も強い。かわいいやつですよ。ちょっと褒めすぎかな(笑)。

「初恋の悪魔」場面写真

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「初恋の悪魔」場面写真

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──松岡茉優さんは?

松岡さんは何せ頭の回転がびっくりするぐらい速い。そして、彼女も坂元ドラマのフリークなので、台本を読むだけで何を求められているかわかる。彼女が演じた星砂は二重人格のうえに、大きな過去を抱えていて、さらに満島ひかりさんとの芝居もあるなど大変だったと思います。でも、しっかり脚本を読み込んだんでしょうね、難しいシーンもサラッとやっていました。名シーンとしては最終話、星砂が鹿浜のところに戻って、もう自分は鹿浜と付き合っていた星砂ではないんだけど「もう1回デートしようか」と言うところ。ロケ地は小田原の夜景が見える丘で、予想以上にいいものを見せてもらって、素晴らしくよかったですね。

──柄本佑さんは?

柄本さんはおそらくこの数年の中で、こんな役者がいるのかと思うぐらいの怪物ですね。日本の役者で5本の指に入るんじゃないか……言いすぎかな(笑)。でも、太賀くんも遣都くんも言っていました。「すごいですわー」って。佑くんはみんなよりちょっと歳上なんですが、太賀くんや遣都くんがどんな球を投げてもちゃんと受けるし、それを返してくる。すごいんですよ。間近で彼らの演技を見られて、本当に幸せでしたね。毎日いい舞台を見せてもらっているみたいな。

──最初におっしゃっていましたが、もしも太賀さんが参加できず、ほかのキャストになっていたら全然違うものになっていたと。本当に最高の4人がそろいましたね。

運が味方しました。手前味噌ですが、この4人でなかったら、きっと成立していない。彼らの掛け合いやシチュエーション、お芝居のやり取りを楽しんでもらいたいです。

次屋尚

次屋尚

ロス状態の4人、また集まる作品を実現させなきゃ

──2月1日にBlu-ray / DVD BOXがリリースされますが、プロデューサーの視点から、より深く楽しめるポイントを教えてください。

先にも言いましたが、僕は坂元ドラマの名言にはあまり興味はないんです。それよりも注目したいのは掛け合い。4人がどんなふうに掛け合わさって、どんな世界が描かれているか。非常に忙しい4人だから、今後彼らがそろっての芝居はないと思うんです。だからこそ、彼らの掛け合いは見ものですし、そこにアドリブ的なものがない。坂元ドラマとしての完成度は高いと思います。それから、今回は新しいものを作りたかった。日テレの坂元ドラマはどっちかというと暗く重く社会性のある作品が多かったので、今回はコメディチックで、サスペンス+警察という設定にしました。こういう坂元作品は今までなかったので、新しいものとしてブームになるんじゃないかと思っていて。実際にはそこまでにはならなかったですけど(笑)、坂元ドラマとしては新しいジャンルに挑みました。「Mother」「Woman」が好きな人でも、「大豆田とわ子と三人の元夫」や「それでも、生きてゆく」が好きな人でも興味を持ってもらえる要素があります。とても欲張りな企画なので。そのあたりを楽しんでもらえればと思います。

「初恋の悪魔」場面写真

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──ほかにパッケージならではの魅力はありますか?

監督がほんの少し第1話に手を入れているので、きっちり尺が決められたオンエア版とはまた違う発見があるかも。ちょっとだけ見え隠れするものもあるので、お楽しみに。

──最後に……この4人がそろうことは本当にもうないのでしょうか? クランクアップのときに「次はスペシャルでお会いしましょう!」と冗談を言い合っていましたが、そんな構想は?(参照:林遣都、仲野太賀、松岡茉優、柄本佑「初恋の悪魔」完走で「幸せな3カ月でした!」

みんな本当に楽しかったらしくて「初恋の悪魔」ロス状態になっているようです。いまだに4人で会っているようで、僕もたまに呼び出されます。「初恋の悪魔」のスペシャルもそうですし、この4人でまったく違うドラマをやりたいという話にもなっていますね。僕は実現させなきゃと思っています。坂元さんが書いてくれれば一番いいですけどね。とにかく、それほど奇跡的な作品なので、何回でも楽しんでいただければ幸いです。

プロフィール

次屋尚(ツギヤヒサシ)

1965年生まれ、愛媛県出身。日本テレビ コンテンツ制作局の統括プロデューサー。脚本家・坂元裕二と演出家・水田伸生のチームで連続ドラマ「Mother」「Woman」「anone」、単発ドラマ「さよならぼくたちのようちえん」を手がけた。そのほか「先に生まれただけの僕」「ドロ刑 ー警視庁捜査三課ー」「ネメシス」「二月の勝者-絶対合格の教室-」などのドラマに参加している。2019年に大山勝美賞を受賞した。