「ガンパウダー・ミルクシェイク」N・パプシャドVS「ベイビーわるきゅーれ」阪元裕吾!新鋭監督が対談

「ガンパウダー・ミルクシェイク」が3月18日に公開される。本作は腕利きの殺し屋サムをはじめとする女たちが悪を蹴散らす“シスター・ハードボイルド・アクション”。「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」シリーズのネビュラ役で知られるカレン・ギランがサムを演じ、「オオカミは嘘をつく」のナヴォット・パプシャドが監督を務めた。

映画ナタリーでは、「ガンパウダー・ミルクシェイク」と同じく女殺し屋が登場する「ベイビーわるきゅーれ」でスマッシュヒットを飛ばした映画監督・阪元裕吾とパプシャドのオンライン対談をセッティング。「2本立て上映をやりたい」という言葉も飛び出すほど意気投合した2人の、海を越えた熱い映画談義をお届けする。

取材・文 / 村山章撮影 / 小原泰広

エンタテインメントとしての強度がすごい(阪元)

──パプシャド監督は今日の対談のために阪元監督の「ベイビーわるきゅーれ」をご覧いただいたということですが。

ナヴォット・パプシャド そうなんですけど、実は今ロサンゼルスで仮住まいをしていて、アパートのネット環境がいまいちで最後まで観ることができてないんです。完全にこっちの環境のせいなんですが、それでもめちゃくちゃよかった。本当に楽しくて、この作品が大好きです。ユウゴ、グレイトジョブ!

阪元裕吾 ありがとう!

左からナヴォット・パプシャド、阪元裕吾。

左からナヴォット・パプシャド、阪元裕吾。

──どういうところが気に入りましたか?

パプシャド まずメインキャラクターの2人がそれぞれに小さな世界を持っていて、周囲のカオスやバイオレンスをあまり気にしてないような感じも好きだし、2人の関係性もいいですよね。カジュアルな雰囲気も面白いアプローチだし、ユーモアも最高でした。もちろん多くの部分は日本文化に根差してると思うんだけど、ちょっとモンティ・パイソンのドライなユーモアに近いものを感じました。あと最高だったのは、どのシーンもどんなふうに展開するかまったく読めなかったことです。I Love It!

でも残り15分くらいで何度も止まっちゃって……。この映画を細切れで観るなんて絶対にもったいないから、明日、制作会社に行けばネット環境が整っているはずなんで、絶対に続きを観て必ず感想をメールします!

──阪元監督は「ガンパウダー・ミルクシェイク」はいかがでしたか?

阪元 とにかくエンタテインメントとしての強度がすごい。日本で根付いているマンガチックと言われるようなものとはまた違った、ハリウッドというかアメリカ映画に根付いた歴史を感じるアクション映画やと思いました。色彩構成だったり、最後の横スクロールでのアクションであったり、全員のキャラクターの作り方であったり。今までの映画のいいところをミックスしつつも、さらなる一歩でちゃんと新しいテーマを扱ってる。懐古主義だけじゃない新しくも古き良き映画ができている。できているって言い方は失礼ですけど(笑)。

主人公の腕がまひしていたり、敵が松葉杖やったり、小さい女の子に車の運転をさせないといけなかったり、とにかくハンデを生かしたアクションがうまくて、でも最後にはオーソドックスな大立ち回りを見せてくれる。アクションの流れの組み立て方って、日本映画やったら縦は縦みたいな感じで作ってしまいがちというか、俺とかはそういう作り方してしまうんですけど、最後まで細部にわたって監督のディレクションが行き渡ってるのがすごくいいなと思いました。

「ガンパウダー・ミルクシェイク」

「ガンパウダー・ミルクシェイク」

阪元裕吾

阪元裕吾

パプシャド 本当にありがとう! 今言ってくれたことがすべてって感じです(笑)。まさにレトロなノスタルジーから新しいものまで、すべてを混合したような映画を目指していました。肝心なのは伝統にリスペクトを払いつつ、いかに自分のオリジナルを出すかですよね。僕自身、アジア映画からの影響は大きいですね。特に日本や香港や韓国の映画作家は、西洋の作品にインスピレーションを受けつつも自分の表現に落とし込んでいる。自分はイスラエル出身ですが、アメリカ映画からインスピレーションを受けながらもコピペに陥らないためにはどうすればいいか、アジアの映画にヒントをもらったと思っています。映像でもストーリーの作り方でもメンタル面でもね。

阪元 ミシェル・ヨー演じるフローレンスが鎖を使って敵を首吊りにするシーンがありますよね。あれってもしかして日本の「必殺仕事人」シリーズに影響を受けてます?

パプシャド 「必殺仕事人」は観たことがないんです。あのムーブは、ミシェルをキャスティングできたことで生まれました。ミシェルが運よく興味を持ってくれて、パリまで彼女に会いに行ったんですが、その時点の脚本に書かれていたアクションが彼女には不足であることはわかっていました。だってミシェル・ヨーといえばアクションの女神ですから! あくまでも脚本は青写真だとはいえ、二丁拳銃くらいでは誰も満足しないでしょう(笑)。

ミシェルの出演が決まり、改めてスタントコーディネーターのローラン・デミアノフを交えて鎖のアイデアを思い付いたんですけど、ある日スタントとコレオグラフィーを担当しているセバスチャン・ペレとローランがやってきて「メリー・ポピンズ・ムーブだ!」って言うんです。だから傘を持ったメリー・ポピンズが空から降りてくるみたいに鎖を使って降りてくるのは、彼らのアイデアですね。

「ガンパウダー・ミルクシェイク」

「ガンパウダー・ミルクシェイク」

ミシェル・ヨー演じるフローレンス。

ミシェル・ヨー演じるフローレンス。

阪元 なるほど。「必殺仕事人」にも三味線の糸を使った同じような動きがあるので、ぜひ何かで観ていただけたらうれしいです。

パプシャド それはぜひ観てみたいです! 面白いことに、実は5年、10年前に観たものからアイデアをもらっていたんだって、あとから気付くことってありませんか? 例えば今回も、「ビッグ・リボウスキ」を観直して「あっ、これに影響受けてたのか!」って気付いたんです。「必殺仕事人」も、もしかしたらどこかで気付かず観ていたのかもしれませんね(笑)。

現実世界とファンタジーの境目をあいまいに(パプシャド)

パプシャド 「ベイビーわるきゅーれ」を観ていたばかりなのですぐそっちに考えが行ってしまうんだけど、日常とアクション、現実世界とファンタジーの境目をあいまいにしているところが僕の映画と似てませんか? そこから生まれるユーモアや、「これからは女性の時代だ!」みたいな視点にも共通するものを感じました。

阪元 ありがとうございます、うれしいです。日本の映画の市場規模や予算だとオリジナルのアクション映画ってなかなか作られないんです。アメリカでもやっぱりブロックバスター的な大作やコミック原作がヒットする時代なんで、オリジナルで監督が思う「これが面白いやろ!」みたいなのを突き詰めて、現代的なアクションや殺し屋ものをやってるところにすごくシンパシーを覚えました。「ベイビーわるきゅーれ」もとにかくそういうところでがんばっていこうと思ってやった作品ですし、「ガンパウダー」はこれからも作家性を極めながらオリジナルで映画を作っていこうと思える希望になりました。

「ガンパウダー・ミルクシェイク」

「ガンパウダー・ミルクシェイク」

パプシャド それは本当にうれしいです。ここ10年の映画業界でいいなと思うのは、インターナショナルな映画作りが増えていることなんです。「ガンパウダー」もプロデューサーはアメリカ人だけど、メインの出資はフランスのスタジオ(スタジオカナル)で、キャストはインターナショナル。でもみんなに共通してるのは、映画が大好きだということでした。当初はアメリカでの配給も決まってなかったので、大きなマーケットを意識してあれこれリクエストされなかったのもよかったです(笑)。

最終的には、インディーズにおけるブロックバスター的な位置付けの作品になったのかなと思います。いろんなお父さんお母さんがいて、ハリウッドとは違う独自の道を歩んだ作品になったんじゃないかな。

阪元 すごいですね。そういう作り方もあるんだなと、普通に勉強になってます(笑)。日本も見習うべきというか、いろんな国籍を前提としてやっていくべきやと思いました。「インディーズのブロックバスター」っていうのはすごい素敵な言葉で、ハリウッドの大作は小ぎれいにまとまってしまうこともあると思うんですけど、自分はまとまりよりも、監督がこれが一番やりたいんやなっていうのが伝わってくる映画が何より好きなんで、「ガンパウダー」でパプシャド監督は本当に素敵な仕事をされたなと思いました。