「ガンパウダー・ミルクシェイク」N・パプシャドVS「ベイビーわるきゅーれ」阪元裕吾!新鋭監督が対談 (2/2)

男とか女っていう枕詞が必要ない肉体と肉体のぶつかり合い(阪元)

──「ガンパウダー・ミルクシェイク」と「ベイビーわるきゅーれ」はどちらも女性が主体のアクション映画ですが、従来のアクション映画との差別化についてどうアプローチされたんでしょう?

パプシャド ユウゴ、お先にどうぞ(笑)。

阪元 (笑)。女性がアクションするときに、可憐、華麗、妖美とか女性らしさにまつわる枕詞がよく使われてきたと思うんです。特に往年の女性アクションスパイものだったりすると肌の露出がやたらと多い。そういうものを排していくことをテーマにやってました。足し算というより引き算がテーマで、男とか女っていう枕詞が必要ない肉体と肉体のぶつかり合いを、試合のように見せたいというのはありました。

主演の伊澤彩織さんは本物のスタントパフォーマーで「John Wick: Chapter 4(原題)」とかにも参加してるんですけど、彼女がよく言ってたのは生足とかパンチラとかを意識した女子高生の制服を着る仕事が多くて、でもスカートでアクションしてたらひざにパッドを入れられないと。アクションは危険と隣り合わせの仕事やから、そういうことを衣装から考えてアクションを作るっていうのも1つのテーマでした。

あと、女性だから受ける社会からの抑圧みたいなものを、逆に主人公たちから遠ざけてあげることを目指したっていうか、あえてそういう抑圧と対峙しないでいい世界を映画の中では構築しようという考え方をしていました。

「ベイビーわるきゅーれ」 ©2021「ベイビーわるきゅーれ」製作委員会

「ベイビーわるきゅーれ」 ©2021「ベイビーわるきゅーれ」製作委員会

パプシャド よくわかります。「ガンパウダー」でも、こんなルックスにしろとプロデューサーから要求されることは一切なかったし、脚本の時点から肌の露出がまったくない作品になることは明らかでした。僕からすれば彼女たちはプロの殺し屋なわけで、女の殺し屋がレザーパンツとかハイヒールをはいてる状況って全然理解できないです(笑)。任務の邪魔になるだけだし、プロなんだから効率のいい格好をするはずです。

アメリカのアクション映画に出てくる女暗殺者って、クールでイケてればいいみたいなイメージがありませんか? みんな女バットマンみたいに寡黙でかっこいい。他人の作品の悪口を言いたいわけじゃないですけど、僕は画一的な殺し屋像とは違うんだっていう思いを「ベイビーわるきゅーれ」に感じたし、「ガンパウダー」でも同じです。

僕もユウゴと一緒で、女性のアクションに短いスカートは不要だと思ってます。もう古くないですか? 今回、最初から話していたのが、とにかく誰もがアクションシークエンスを快適にできる環境にしようってことでした。筋肉とか体作りとかそういう話は一切なし。ありのままの自分で、一番快適な状況でアクションしてくださいと言ったんです。

「ガンパウダー・ミルクシェイク」メイキング写真

「ガンパウダー・ミルクシェイク」メイキング写真

「ガンパウダー」「ベイビーわるきゅーれ」は2本立て上映をやるべき(パプシャド)

──「ガンパウダー・ミルクシェイク」では明確に男性優位社会を敵と見なしていますよね?

パプシャド 女性の社会的抑圧に関しては、阪元監督の完全に排除するアプローチも面白いんですが、僕の映画ではお気付きのように真逆のことをやりました。すごくわかりやすい形で、悪いやつは全員男ですからね。まあ女性たちも殺し屋なので、ある意味、悪者VSもっとどうしようもない悪者と言えるのかも知れません(笑)。

でも自分は男性なので、女性のキャラクターについては女性のキャストにたくさん助けてもらいました。そもそも映画作りだってミシェルにアンジェラ・バセット、カーラ・グギノ、カレン・ギランは自分よりも経験があるわけで、こっちが学ぶことばかりでしたよ。

「ガンパウダー・ミルクシェイク」

「ガンパウダー・ミルクシェイク」

阪元 「ベイビーわるきゅーれ」とは真逆のアプローチやけど、伝えたいことは一緒っていうのはすごく感じました。特に物語を動かしたりキャラクターとして突き進んだり、映画を進めていく主軸が必ず女性になっていて、抑圧されてる世界を描きつつもちゃんとカタルシスを生んでくれるのが素晴らしいって思いましたね。

パプシャド 「ガンパウダー」と「ベイビーわるきゅーれ」は2本立て上映をやるべきだよね!

阪元 ぜひやりたいです!(笑)

阪元裕吾

阪元裕吾

自分が一番好きなこと、やりたいことを(パプシャド)

──海外と日本の映画事情の違いといえば、阪元監督は「ベイビーわるきゅーれ」を6日半という短期間で撮影したんですよね?

阪元 そうですね。6日間と追加撮影が半日ですね。

「ベイビーわるきゅーれ」 ©2021「ベイビーわるきゅーれ」製作委員会

「ベイビーわるきゅーれ」 ©2021「ベイビーわるきゅーれ」製作委員会

パプシャド 本当に……!? (両手を挙げて)それはすごいよ! ユウゴは長編作品は何本目になるの?

阪元 大学生のときにスマートフォンで撮ったようなものも合わせると、7本くらいは作ってると思います。

パプシャド iPhoneで撮ったものだって映画だから、ちゃんとカウントしないとね。僕もイスラエルという小さな国の出身で、1作目の製作費はわずかで撮影日数は15日でした。インディーズ出身者としてその状況はわかる気がします。

ただ、ユウゴは聞きたくないかも知れないけど、撮影日数に関しては結局どれだけあっても絶対に足りないんだよね(笑)。6日って言われても足りないし、50日って言われたって足りないのが映画監督なんじゃないかと思います。ただ6日半でこれだけのものを作れるんだから、もっと適した日数、適した製作費をもらえればどんな作品ができるのかすごく楽しみだし、僕にできることがあったらなんでもするよ!

「ガンパウダー・ミルクシェイク」メイキング写真

「ガンパウダー・ミルクシェイク」メイキング写真

阪元 ははは、ありがとうございます! 最後に質問したいことがあります。さっきもオリジナル作品を売り込む話がありましたけど、プレゼンテーションするときに大切なことを、日本の若い監督にアドバイスをいただけたらうれしいです。

パプシャド 難しい質問だね。正直まだ人にアドバイスできるほどの経験値があるとは思ってないんだけど、どんなプレゼンをするかより、自分が一番好きなこと、やりたいことをやるべきだってことですね。

僕の長編1作目はイスラエル初のホラー映画だったんですが、特に興行成績がよかったわけじゃなくて、いろんな映画祭に出品することができたおかげで、目に止めてくれる人がいて、2本目の「オオカミは嘘をつく」につながったんです。すごくバイオレントな内容なのにイスラエルのアカデミー賞にあたるオフィール賞でいくつか賞をもらったんですけど、それをたまたま観てくれた(クエンティン・)タランティーノが「今年一番だ」って言ってくれたことがきっかけになって、多くの人の評価を得ることができました。

ただ僕自身も「ガンパウダー」を作るまでに6年くらい掛かっていて、その間にいろんなミーティングを体験しました。ブルース・ウィリス主演の「デス・ウィッシュ」とか、もうちょっとで監督できそうだった企画もたくさんありました。でもここまでたどり着けたのは、やっぱり自分がやりたいプロジェクトをこつこつとやってきたことで、ほかの機会やチャンスが生まれたおかげかなって思いますね。

もしアドバイスするとすれば、製作費がなくても6日半で撮影すれば、作品自体は未来永劫存在していくし、新しいドアが開くこともある。それが重要なんじゃないかな。でも誰もが「ベイビーわるきゅーれ」みたいな作品を6日半で作れるわけじゃないからね。世界レベルでもそんなことができる監督はめったにいないし、ユウゴはもう自分の道を進んでいるから大丈夫だよ。

阪元 素敵な言葉をありがとうございます。自分のキャリアにとっても忘れられない対談になりました。ほんまにうれしいです。ありがとう!

左から阪元裕吾、ナヴォット・パプシャド。

左から阪元裕吾、ナヴォット・パプシャド。

プロフィール

ナヴォット・パプシャド

1980年3月4日生まれ、イスラエル出身。アハロン・ケシャレスと共同で監督した2010年製作の「ザ・マッドネス 狂乱の森」でデビューを果たす。再びケシャレスと共同で監督した2013年製作の「オオカミは嘘をつく」はクエンティン・タランティーノから絶賛され、イスラエルのアカデミー賞にあたるオフィール賞で5冠に輝いた。「ガンパウダー・ミルクシェイク」が初の単独監督作となる。次回作は1946年のイギリス統治下のパレスチナを舞台にしたサスペンス「Once Upon a Time in Palestine(原題)」となる予定。「ガンパウダー・ミルクシェイク」の続編の脚本も執筆中。

阪元裕吾(サカモトユウゴ)

1996年1月18日生まれ、京都府出身。「べー。」で残酷学生映画祭2016グランプリ、「ハングマンズノット」でカナザワ映画祭2017の期待の新人監督賞を受賞する。2021年には福士誠治、芋生悠らをキャストに迎えた「ある用務員」が公開。同作に出演していた髙石あかり、伊澤彩織のダブル主演作「ベイビーわるきゅーれ」が口コミで評判を呼び、ロングランヒットを記録した。「ミスマガジン、全員殺し屋」が2022年夏に公開。「ベイビーわるきゅーれ」の続編制作も予定されている。