ハリウッド版「ゴジラ」シリーズと「キングコング:髑髏島の巨神」の世界観がクロスオーバーする「モンスター・ヴァース」シリーズ最新作「ゴジラxコング 新たなる帝国」が、4月26日に封切られる。ゴジラ70周年と「モンスター・ヴァース」シリーズ10周年が重なるアニバーサリーイヤーに公開される本作では、前作「ゴジラvsコング」で激突した2大怪獣が共闘し、新たな脅威と対峙する姿が描かれる。
映画ナタリーでは、ゴジラファンとして知られるミュージシャンのタカハシヒョウリ(オワリカラ、科楽特奏隊)に本作の見どころ解説を依頼。過去の「ゴジラ」シリーズとの比較や、監督であるアダム・ウィンガードの言葉を交えながら「アツすぎる5大ポイント」を解説してもらった。そのほか今作に登場する怪獣(タイタン)・人間の相関図も掲載しているので、鑑賞前の手助けとしてほしい。
なお、映画ナタリーでは特設サイト「ゴジラナタリー」を展開中。「ゴジラxコング 新たなる帝国」やシリーズにまつわる特集、コラム、ニュースを掲載しているので、あわせて楽しんでほしい。
文 / タカハシヒョウリ相関図作成 / 松本真一
映画「ゴジラxコング 新たなる帝国」予告編公開中
「ゴジラxコング 新たなる帝国」相関図
①今度は怪獣バトルだ!「バトルエンターテインメントゴジラ映画」上陸がアツい!
ゴジラといえば、昨年11月3日に公開された山崎貴監督作品「ゴジラ-1.0」が世界中でヒットを記録し、地球規模のゴジラフィーバーを巻き起こしている真っ最中。日本アカデミー賞で最優秀作品賞含む8冠を、米アカデミー賞ではアジア映画初となる視覚効果賞を受賞し大きな話題を呼んだ。「ゴジラ-1.0」では、戦後まもない日本に未知の巨大生物・ゴジラが出現し、「無」からの復興に向けて歩き始めていた人々をさらなる「マイナス」へと叩き落としてゆく。単独で出現するゴジラの脅威と、それに立ち向かう人類の戦いを描くスタイルは、1954年に公開された第一作目「ゴジラ」や、2016年に公開された庵野秀明監督作品「シン・ゴジラ」と同じ系譜にある。劇場の大スクリーンに白組による見事なVFXで映し出されるゴジラの脅威に、恐怖を感じた人も多いんじゃないだろうか。
そんな「ゴジラ-1.0」フィーバーの最中に、いよいよアメリカから「ゴジラxコング 新たなる帝国」が上陸してくる。果たして、レジェンダリー・ピクチャーズが示した次なるゴジラ映画の方向性は……、
ヒャッハーー!! とんでもない「怪獣バトルエンターテイメント映画」の登場だ!!
「今度は怪獣バトルの出番だ!」と誰かが言ったかはわからないが、「ゴジラ-1.0」とは真逆と言っても良いくらい毛色の違うゴジラ映画が爆誕だ。だが、ゴジラ映画に「正解」は無い。核の恐怖を具現化させ人類への警鐘を鳴らす「ゴジラ」のわずか半年後に公開された第二作「ゴジラの逆襲」では、ゴジラとアンギラスの怪獣バトルが映画の目玉になっているのだ。それ以来、個性的な対戦怪獣たちが王者・ゴジラに挑戦し、お互いが死力を尽くしてぶつかり合う「怪獣バトル」のカタルシスも怪獣映画の欠かせない魅力となった。「ゴジラxコング 新たなる帝国」が全力でそっちの魅力をぶつけてきてくれたことで、対照的なスタイルのゴジラ映画の新作がこの世界に同時に2本存在しているのだ。この状況、「寿司とピザを同時に口いっぱいに頬張っている」ようだ。これこそ「怪獣王(キング・オブ・モンスターズ)」ゴジラの懐の広さ!
②日米スター共演、ゴジラとコングが共闘!?がアツい!
ゴジラと共に「モンスター・ヴァース」シリーズのもう一柱の主人公を務めるのが、髑髏島の巨神として崇められる巨猿・コングである。「キング・コング」(1933)で初登場して以来、幾度となく続編やリメイクが発表されているアメリカを代表するスターモンスターだ。芸歴的には、日本代表怪獣のゴジラよりも先輩ということになる。ゴジラとコングの因縁は、1962年に東宝がキングコングのライセンスを借り受けて制作した「キングコング対ゴジラ」から始まった。ゴジラの対戦相手としてアメリカを代表する怪獣・コングをゲストに迎えた「キングコング対ゴジラ」は、当時の邦画動員歴代2位という国民的な大ヒットを記録した。死闘を繰り広げた2体だったが、映画内では戦いの勝敗は描かれることはなく、以来60年にわたって日米の代表怪獣がスクリーンで相まみえることは無かった。まさに地上と地下にそれぞれの縄張りを持ち、お互いに侵犯しないことを選んだ「モンスター・ヴァース」のゴジラとコングのように。やはり真の強者同士が出会ってしまうと、その戦いは並大抵の規模では収まらないのだ……。
その均衡が崩れたのが、2021年公開の「モンスター・ヴァース」第4作「ゴジラvsコング」。ここで約60年ぶりに出会ってしまったゴジラとコングは、王者としての誇りを懸け激突した。メカゴジラという思わぬ乱入者の登場により、一時的な休戦を迎えたわけだが、「ゴジラxコング 新たなる帝国」ではいよいよ本格的な共闘が見られるのでは……!?と話題騒然。ポスターや予告では、完全にバディ感全開で一緒に駆け出すゴジラとコングが見られる。アダム・ウィンガード監督は
「『ゴジラvsコング』で究極の戦いを繰り広げた後、次に進む道は明確でした。それは協力です。前作の制作が終了した時点で、このテーマが私の心に深く刻まれました」
と語る。果たしてその共闘がどのように実現するのか、その部分も今作のポイントになってくる。とにかく60年の時を経て、ゴジラとコングの本格的な共闘が実現するならば、こんなにアツいことはない!
③ピンクのゴジラに、右腕強化コング!?ゴジラとコング、超強化がアツい!
「ゴジラxコング 新たなる帝国」では、ゴジラとコングそれぞれが新たな力を獲得し、今までにない姿への「進化」を見せてくれる。すでにビジュアルが公開されているように、今作のゴジラはこれまでの青い光を纏った姿から、ピンクの光を纏った新形態へと変貌している。この色が変わるスタイル、鳥山明テイストだ。さらにコングに至っては……、なんだ!? その、サノスのインフィニティ・ガントレットみたいな装備は!? コングの右腕には、メカニカルな金属製のガントレットが装着されているのだ。しかも、その装備で挑戦者を殴り飛ばす。理屈も同時に殴り飛ばされたようだ。アダム・ウィンガード監督は語る。
「私はこのキャラクターに新しい外観を与え、アップデートする機会を楽しみにしていました」
「私の好きな色はピンクです。ピンクと青は私の好きな色なので、ゴジラをその方向に押し出すのは自然なことでした」
言われてみれば前作「ゴジラvsコング」でも、もはや都市というよりも1980年代のダンスホールのような夜の高層ビル群は、ブルーとピンクの鮮やかなライトに彩られていた。今作でもアダム・ウィンガード監督の80sディスコ・センスは、ピンクのゴジラをはじめ各所にいかんなく発揮されている。自然な彩りの和菓子も良いが、着色料ギンギンのアメリカのお菓子が俺たちをハイにしてくれることもある。このアツいアップデートを、舌を真っピンクにして味わいたい!
④今回は敵もタッグ!?謎の新怪獣がアツい!
ゴジラとコングにアップデートが用意されている、ということは、それだけの強敵が控えているということだ。今作のヴィランとして登場するのは、地上進出を企む巨猿族の邪悪なる王・スカーキングと、謎に包まれた冷気を操る新怪獣・シーモ。こっちが2体なら、相手も2体。そうなればこれは、狡猾さと圧倒的な暴力を兼ね備えた強敵とのタッグマッチが避けられないじゃないか。ゴジラでタッグマッチといえば、「チャンピオンまつり」だ。1970年代に子供向けアニメや映画をまとめて上映する「チャンピオンまつり」の1作品として公開されたゴジラ作品は、完全なヒーロー役に転じたゴジラと悪の怪獣のバトルに全振りのシリーズで、低予算ながらも独特の味わいを持っていて我々のキッズな部分を刺激してやまない。そのチャンピオンまつり期の「地球攻撃命令 ゴジラ対ガイガン」(1972)、「ゴジラ対メガロ」(1973)では、ゴジラ&アンギラス、ゴジラ&ジェットジャガーというゴジラチームと、ガイガン&キングギドラ、メガロ&ガイガンという悪いヤツらチームがタッグマッチを繰り広げる。バディが羽交締めにした敵怪獣にゴジラがドロップキックを決める様はまさに「怪獣プロレス」のカタルシスだが、そうなると「ゴジラxコング 新たなる帝国」はもはや「新時代のチャンピオンまつり」なのか…!? ここでアダム・ウィンガード監督の言葉を引用しよう。
「ゴジラが飛び回ったり、ドロップキックを決めたり、さらには踊ったりするのが大好きでした。ゴジラがダンスを始めたら少し反発を受けると思いますが、あの昭和の狂気に影響を受けたものです」
やっぱり「ゴジラ対メガロ」が好きじゃん!! 信じられないほどお金のかかったチャンピオンまつり開幕!!
⑤ついに本格参戦、モスラ登場がアツい!
今作の予告には、もう1体の怪獣の登場を告げるサプライズがあった。そう、モスラである。「モスラ」(1961)で初登場して以来、他の東宝怪獣たちとは一線を画す「善玉怪獣」のポジションで、時にゴジラのライバルとして、時に仲間として活躍してきた。シリーズに登場した回数で言うとゴジラに次ぐ頻度であり、のちに平成モスラシリーズとしてモスラを主役にしたシリーズが3作制作されるほどの人気怪獣だ。なんとなくチョココロネに似ている幼虫時代の健気な姿、そして成虫時代の美しくカラフルな姿も印象的で、女性人気が高い怪獣としても知られる。なんとなく優しい怪獣のイメージがあるモスラだが、実はその戦闘力は高く、ゴジラを打ち破ったこともある。それほどの人気と実力を兼ね備えた存在であるため、2019年の「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」で「モンスター・ヴァース」シリーズに初参戦した際は、あくまでサポート役に徹して退場してしまったのはちょっと残念なところだった。今作に登場するモスラは、さらなるモスラらしさを魅せてくれるはずだ。
らしさ、と言えば、「怪獣映画の怪獣映画らしさ」とは何だろうか。それぞれが思う「怪獣映画の怪獣映画らしさ」は、人によって違うだろう。だが、アダム・ウィンガード監督が今作を「怪獣映画の驚きの瞬間にしたかった。怪獣に関しては、この映画で全てを語りたいし、すべてをやり尽くした」と自負しているように、「ゴジラxコング 新たなる帝国」は怪獣映画の一つの根源的な魅力に振り切った作品となっている。
それは、怪獣がいっぱい出てきて、画面狭しと大暴れして、人間たちはその足元でワイワイしているってことだ! そこでは難しいことを考える必要はない。でっかい画面の前で、ただ驚き、受け取るんだ。怪獣たちの波動を!
プロフィール
タカハシヒョウリ
ミュージシャン・作家。4人組ロックバンド「オワリカラ」のボーカル・ギター、ソロ、楽曲提供、プロデュースなど様々なスタイルで活動する。また、様々なカルチャーへの深い偏愛と造詣から、コラム執筆、番組出演など多数。自身の「特撮愛」が高じて、特撮音楽をバンドサウンドで表現する「科楽特奏隊」を仲間たちと結成。ミュージックビデオではウルトラセブンと共演し、テレビ東京の「おはスタ」にも出演した。2024年の寄稿書籍に「ガメラ監督日記 完全版」(小学館クリエイティブ)、「ガンヘッドコンプリーション」(ホビージャパン)がある。
※記事初出時より、一部キャラクター名を修正しました。