ずっと敗者復活をやっているような感覚だった(小田)
──若者と戦うベテランマフィアたちが、追い詰められたときに見せる必死さも見どころでしたね。
こがけん マシュー・マコノヒー演じるミッキーというマフィアは、自分が持っている利権を手放してカタギになろうとしている人間じゃないですか。でもマフィア映画で「足を洗う」ほどわかりやすい死亡フラグってないですから。
小田 (笑)
こがけん そんな人物が平穏に足を洗えた試しはなくて。でもこれは言ってしまえば中年の危機のような話で、ガイ・リッチーはミッキーに自分を重ねているのかなと思ったんですよね。実際、監督とマシュー・マコノヒーは51、52歳と年齢も近いですし。ミッキーは過去に手荒なことをして自分の地位を築き上げた設定ですが、ガイ・リッチーが「ロック、ストック」なんかでやった“仕組みで笑いを取る”ってやり方も禁じ手と言えば禁じ手で、何回も使えるものではないですから。そうして中年になった男が、どんな態度を示して、未来にどう向き合っていくのかという部分で、ミッキーとガイ・リッチーにすごく重なるものを感じたんです。
──なるほど。
こがけん ピン芸人として長くやってきた自分たちも、今までのネタのイメージがあって、人から「こういう芸をする人」「きっとこれしかできないだろ」という目で見られることは事実で……このまま続けていていいのかという気持ちは常にあります。たまたま今注目してもらっている自分たちは、第7世代と一緒くたにまとめてもらうこともありますが、いつかその魔法も解けると思うと、この映画が他人事とは思えませんでした。
──ベテランピン芸人であるお二人は、第7世代をはじめとする若手をどうご覧になっているんですか?
小田 ほんまのことを言ったら、僕ら対第7世代じゃなくて、芸人対ほかのジャンルのミュージシャンや役者さんたちなんです。僕らみたいなのばっかりでも、第7世代みたいなのばっかりでも駄目やし。それぞれの役割と個性があったほうがええんかなとは思いますね。「第7世代、この野郎!」とかはまったく思わないです。
──“若手”といった見方はしていないんですね。
小田 まあカメラが回ってたら、「おい、こらあ! 俺の出るとこないやないかい!」って言いますけどね(笑)。けど僕、ほんまに第7世代って尊敬しているんですよ。僕もこがけんも20代の頃に成功するつもりでやってきたのに、できなかったわけで。いつ辞めてもおかしくない、ずっと敗者復活をやっているような感覚だったんです。今こうなれてよかったですけど、どう考えても若くして一発で売れる形が最高やから、心からうらやましいです。ただ僕のことを言うと、この歳になってやっと芸風に年齢が追い付いたんかなという気はしています。最近は“おじさんが怒る”みたいな形のオファーをいっぱいいただくんですが、若い頃はもっと怖がられていたので。やってることは10年以上変わらないんですが、口うるさい上司みたいなキャラで世の中にハマりやすい年齢になってきたんかなと思います。
ガイ・リッチーの所信表明のように思える(こがけん)
──こがけんさんは洋画をもとに、小田さんは人間観察をもとにピンのネタを作られていますよね。衣装やセリフなど、ガイ・リッチーの細かいこだわりが詰まったこの映画に、ネタになりそうな人物はいましたか?
小田 それこそ、さっきこがけんが話した“YouTuberにボコボコにされるおじさん”には笑いましたね。偉そうに出てきた直後にけがをしていて(笑)。結局、そういうふうに行ききった人間が面白いんですよね。あれこそお笑いというか、やっぱりみじめな人が吠えているほうが面白いし、災難を笑いにできるのがお笑いのいいところなので。かっこいい人や加害者側から笑いを生むってなかなか難しくて、有利なほうが吠えていたらただの怖いクレーマーみたいになりますから。まあクレーマーはクレーマーで面白いので、ややこしいですけど(笑)。だからこそお笑いって、どこか弱者のものみたいなイメージはありますね。
こがけん 僕はチャーリー・ハナム演じるレイの立場が一番面白いと思いました。普段ミッキーからは右腕として扱われていて、厄介者の探偵フレッチャーに面倒な話を聞かされて、みんなが嫌がるような仕事もやらされる。さらにやんちゃな若者たちをうまく制圧したと思ったら、次の瞬間に最悪なことが起こる。あの、目だけで表現する「オーマイガー」が最高でした。
──こがけんさんの「細かすぎて伝わらないモノマネ」には「オーマイガー」が頻出しますよね(笑)。
こがけん そうなんですよ(笑)。ミッキーにそれを報告しに行って「任務は終えましたが実は……」みたく口ごもるところなんか、コメディとしてすごく面白かったです。一番立ち回りが難しくて人間臭いのはレイなのかなと。
──相手によってレイの振る舞いや立場が一変し、いろいろな種類の笑いが生まれていました。お二人はユニットとして活動する中で、お互いが相手だからこそ生まれるよさや、強みは感じていますか?
こがけん ネタ的なことで言うと、僕が歌でボケて、小田さんがツッコみますよね。でも小田さんが、みんなの予想をはるかに超える大声でツッコむことで、ツッコミの役割をしながらボケに転じてくれる。それがすごいインパクトだと思うんです。普通の漫才の仕組みとはひと味違いますし、お互い得意な部分の異なるピン芸人同士が組む強みだと思います。
小田 ユニットとしてはまだ結成2年目なので、新鮮味があるのは大きいと思いますね。周りのどのコンビよりも、ネタをやっていて楽しいですし。ナイツの塙(宣之)さんが「M-1」で言ってくれましたけど、芸歴の長い人間にはできないようなことにも、グッとアクセルを踏み込めるのはユニットの強みやなと。これだけ芸歴のある人たちが、お互い歌って、怒鳴って……って普通恥ずかしいと思うんですよ(笑)。もし思い付いても「まあ歳も歳やし」とあきらめてしまう。そんなことを僕らは新鮮な気持ちのままできているし、褒めてもらえることによって「ああこれでええねや」と思えています。
──ありがとうございます。では最後に、この映画をどんな人にお薦めしたいですか?
こがけん さっき中年の危機という話をしましたが、それくらいの世代の人には刺さるんじゃないかなと。単純にたくさんの人物が複雑に絡み合うクライムコメディとして見事ですし、説教臭い部分もないので、若い人にも響くはずです。あとはやっぱり「ロック、ストック」や「スナッチ」を観た人には、ぜひ観てほしい。キレ味がいいしスタイリッシュだし「ガイ・リッチーっぽいな、さすがだな」と思うんですが、実は中身は変わっているんです。ラーメンのおいしい店が、「味が変わった」とは思われないようにしつつ、現代人の舌に合わせてちょっとずつレシピを変えているみたいな。ガイ・リッチーらしさを感じさせながら中の仕組みは更新されていて、「ここから俺の映画はまた面白くなっていくぞ」という、監督の所信表明のように思えるんです。
小田 そんなん言われたらもう……。僕が言おうと思ったことと、まったく一緒っすね。
こがけん (笑)
小田 怖い。こんな偶然あるんか。
こがけん 見た目も一緒なのに、考えてることも一緒!
小田 これはシンクロしてますね。1文字違わず、自分が言うたんかと思うくらい一緒でした、ほんまに。
こがけん 僕が巨大化して小田さんがエントリーしたら、完璧なエヴァンゲリオンができますよ。
小田 ははは、それくらいのシンクロ率。でも、監督の過去作を知らない僕でも楽しめたのはほんまです! 映像美も楽しめる、万人にとって面白い映画だと思います。
こがけん そうですね、ドエンタメ作品ですよね!